第32話「ローレライ」
「ありがとう……助けてくれて」
王女の護衛騎士タトスは頭を下げた。
「お礼なら、亡くなった騎士さんに言ってね」
西野綾女は悲し気な表情で微笑んだ。
タトスもうなずき、仲間の騎士に黙祷を捧げた。
彼らのおかげでエリュシオンを守れたのだ。
(悲しまないぜ? お前たちは誇り高く死んだ)
どこへ行くのか、下水道を歩きながら尋ねる。
「うん、学校へ行くの」
「学校?」
「私は食糧調達に出てたのよ。そこで騎士さんに出会ったわけ」
西野という少女に出会えたのは幸運だった。
彼らだけでは、1日も持たずに死んでいただろう。
「ところで……ここはリーネ村から近いのかい?
王都エルドランの周辺なのかな」
タトスは微かな希望にすがって西野に質問した。
十中八九、悪い答えが返ってくると予測していたが。
「知らないですね……そもそもここは……」
西野は言い淀む。
「教えてくれ。現状を知りたいんだ」
「そうですか……
あの、信じられないかもしれませんが……
ここは、あなた方のいた世界とは違う世界なんです」
タトスはポカンとする。
この少女はなにを言っているんだ……そんな表情だ。
西野はそんなタトスの表情を見て苦笑する。
「ここは、異世界です」
「……」
タトスは考え込む。
西野という少女は、印象としては利発そうな感じだ。
狂言を吐くような子には見えない。
(そもそも、違う世界、異世界とはなんだ……初めて聞くぞ)
わかるのは、ここが王都近くではなく、リーネ村の近くでもないということ。
どこか……外国にでも飛ばされてしまったのだろうか。
だが、こんな建物や地下道の存在は初めて目にする。
自分の知らない国だろうか? タトスはそう考えた。
現状を正しく把握し、なんとか王都に帰らなければとタトスは誓う。
タトスの胸で眠るエリュシオン王女のために。
しばらく下水道を歩いた後、西野は梯子を上り、マンホールの蓋を少しずらす。
外の様子をうかがい、大丈夫だと判断して外に出る。
タトスもそれに続き、地上へ出る。
西野の手招きで静かに移動する。
外はいまにも闇に包まれそうだった。
タトスたちは学校へ向かって走る。
西野の靴音だけがタッタッタと鳴り響く。
タトスは金属製の鎧靴を履いているのに、音一つ立てていない。
しかも女性まで抱えてるのにもかかわらずだ。
西野は超人的な技術を目の当たりにし、どんなテクなのよと舌を巻く。
西野が校舎の非常口を、リズムをとって軽くノックをする。
そして合言葉を口にする。
「新しい朝がきた」
扉の向こうでガタゴト音がし、扉が開けられる。
タトスたちが扉をくぐると、見慣れぬ服装の男が立っていた。
門番なのだろうとタトスは推測する。
「西野さんおかえり……って、そいつらは?」
「助けたのよ」
「こんな状況なのに、外人のコスプレ……なのか?」
「あとで説明するわ」
窓から姿が見えない様に腰を屈めて校内を移動する。
階段を3階まで上がると、西野は教室のドアをそっと開ける。
窓のない部屋で、カーテンで複数の小部屋に仕切られていた。
数十人の男女がカーテンの隙間から次々に顔を出した。
まだ十代にも満たない幼い子から老人までいた。
若い女性が西野へ安堵の声をかけ、抱きついてきた。
「アヤ姉! 無事でよかった……えっと、そっちの人は?」
「トモちゃん、私なら大丈夫って言ったでしょ?」
浦園トモコは西野の近所に住んでいる子で、西野が幼い頃から
家族ぐるみでの付き合いがある。
トモコは西野をアヤ姉と呼んでいた。
一人っ子の西野にとっては何かと慕ってくるトモコは本当の妹のような存在で、
とても可愛がっていた。
怪物の侵攻があった時、トモコは真っ先に西野の家に来たらしい。
トモコの家は両親が共働きで日中はトモコ以外に誰もおらず、
頼れる先といえば西野だけだった。
「ん、2人のことは、あとでゆっくり説明するわ。
今は一緒に来たこの女性を休ませてあげたいの」
トモコはエリュシオンの様子を見て、表情を曇らせた。
「わー、キレイな外人さんだ。
でもかなり疲れてそうだね……うん、先に休ませてあげて」
他の人々も西野に労いの声をかけている。
しかしタトスには西野以外の人々が、何を言っているのかわからなかった。
初めて聞く言語だ。
やはり外国なのだろうか……
西野には言葉が通じてよかったと思う。
(とにかく幸運だった……)
タトスは西野に呼びかける。
「すまない、アヤメ。エリュシオンを休ませてやりたい」
「え、綾女……ああ、そっか苗字と思われてるのか。
綾女・西野って言うべきだったかな……ま、いっか」
西野は今度は1階に下り、保健室へタトスたちを連れていく。
「さっきの部屋が生活する場所。
窓もないし、あそこが一番安全かしら……
プライベートのためにカーテンで仕切りをしているんだけど……
ま、気休め程度でしかないから、不満は出てるわね。
こんなときでも贅沢を言う人っているのね……
こまったもんだーってね」
西野は肩をすくめ、わざとらしくため息を大きくついた。
「同じ生活部屋がもう一つあるわ。そこもさっきの部屋と同じ感じかな。
3階が生活区なのは、屋上にすぐ避難できるようにするため。
外に逃げるよりは屋上の方が安全だしね。
各教室へは用事がない限り、行かない」
教室という単語はわからなかったが、部屋のことを指すのだろうと思う。
なるほど、屋上へすぐ逃げ込めるようにしているのは良いかもしれない。
バリケードは作らないのか? と問うと、窓の外から見られた時に
人がいますよってアピールになるので、やらないそうだ。
なるほど……とタトスは思った。隠れることだけに完全に特化しているわけだ。
「ここら辺の住民は、これで全部なのか?」
「学校にはそうだね。他の場所に隠れてる人たちもいるかもだけど……
今のところ見つけられてないわ……
私は食糧調達に出かけていたのだけど、その範囲はとても狭いわ。
なんせ、あんな化け物がうじゃうじゃいるから」
「やはりそこら中にあんな化け物がいるのか……」
西野は苦い顔でうなずく。
保健室に着くと、タトスはエリュシオンをベッドへそっと寝かせた。
かなり布団が柔らかい。これなら疲れも取れそうだとタトスはホッと息をつく。
よほど疲れているのか、あれからもエリュシオンは目を覚まさなかった。
「助かる……なにからなにまで……この恩は決して」
西野はタトスが言い終わらない内に、親指をドアの外に向かってクイクイと
動かし、部屋から出ていけとジェスチャーをする。
「え?」
「こんな綺麗な女性を汚れたままにしておくの?
彼女の体を拭いてあげるのよ。ほらほら! 出ていって!」
西野に背中をぐいぐい押され、ドアの外に追い出されてしまう。
なんともパワフルな子だとタトスは苦笑した。
☆
エリュシオンは夢を見ていた。
「ここは……
ああ、王都だ。良かった……今までのことは夢だったのか……」
王都の街中をエリュシオンは歩いていた。
あんなに恐ろしい怪物がいる世界なんて、夢でしかありえない。
心から安堵する。
タトスにはかっこわるいところを見せたなぁ……さすが夢だなぁ……と思った。
エリュシオンの方が2か月早く生まれたので、タトスの姉貴分だったのだ。
だから彼の前では常にしっかりとした人物でありたい。
ふと、タトスに守られていたことを思い出し、顔が真っ赤になってしまう。
あれはあれで悪くないと思ったが、絶対に口には出せない。
無性に会いたくなったが、タトスに今会うと何を口にしてしまうかわからない。
頭をブルブルとふるい、タトスのことを頭から追い払う。
前方から6人の冒険者が歩いてくる。
その中の一人に目を奪われる。
(なんて美しい女の子なの……)
今までに見たことがない絶世の美少女だ。
彼女もエリュシオンをじっと見ている。
しかし他の5人はエリュシオンに気を留めることすらしていない。
少女が近づいてくる。
すれ違う瞬間まで、ずっと目を奪われていた。
心臓もドキドキと高鳴っている。
振り返ると、少女と目が合った。
エリュシオンは思わず駆け寄り、声をかけようとする。
そして……
ベッドの上で目が覚めた。
陽の光が差し込んでいる。
エリュシオンは起き上がり、周りをキョロキョロと見回す。
「どこだここ?」
聞きなれた声がエリュシオンを呼んだ。
「気がついたか?」
エリュシオンは混乱していた。
なぜ寝室にタトスが……
いや、そもそもここは誰の寝室だ?
次第にエリュシオンの意識がはっきりしてくる。
「……そうか……夢じゃなかったんだな」
「まーな。だから非番の日は寝まくるに限る」
「おめぇの非番は、私の相手をするって昔から決まってるだろ」
タトスを睨みながらも微笑んだ。
「なぁ、騎士たちはどうした?」
タトスはベッドの側にあったイスに座り、エリュシオンの顔をじっと見つめ、
静かに伝える。
「キミを守るために死んだ」
エリュシオンは目を見開き、顔をうつむかせ目を伏せる。
「そうか……大儀であった……」
エリュシオンはタトスの手に自分の手をそっと重ねた。
微かに彼女の手は震えていた。
保健室にノックの音が響く。
「どうぞ」
タトスが声をかけた。
入ってきたのは西野だった。
「や、エリュシオンさんの様子はどお?」
エリュシオンが起きているのを見て、ほっとする西野。
「ほい、飲み物とパン。これだけしかないけど我慢してね」
エリュシオンはしばらく呆けていた。
「こいつは誰だ?」
「ああ、俺たちの命の恩人さ」
エリュシオンは西野を見つめ、頭を下げた。
「感謝する……」
だが、西野にはエリュシオンから微かにふぉーんと音が聞こえ、
頭を下げたように見えていた。
なんの音だろう……と頭に疑問符が浮かびまくる。
ただ、頭を下げられたので感謝されたのだと理解する。
「ああ、いえいえ……こんな状態ですし、助け合わないと……」
タトスはここまでのいきさつをエリュシオンに説明した。
エリュシオンは困惑していたが、ともかく現実である以上受け入れるしかない。
「異世界……か?」
エリュシオンにはここが外国ですらないという意味がわからなかった。
(私たちがいた世界とは別の世界……全然わからん)
西野もベッドの側にあるイスに座った。
「とりあえず食べて。力をつけないとね」
エリュシオンとタトスは顔を見合わせ、うなずいた。
パンを一口食べたエリュシオンの顔が輝く。
「うめぇ……なんだこのパン……」
彼らはあっという間にパンを食べ尽くす。
西野はそんな2人の様子を見てクスっと笑う。
「2人も見たと思うけど、今私たちの世界には、化け物があふれてるわ」
エリュシオンの脳裏に思い出したくない光景が蘇って青ざめるが、
それでも苦い薬を飲み下すようにうなずく。
「俺たちの世界にも魔物はいるが……あんなものは見たことがない。
子供がイタズラで作ったような人間モドキや、巨大なミミズ……」
「はは……あの程度はまだマシな方よ……」
「マシ……あれが……?」
2人はとんでもないことを聞いてしまったと思ったが、理解が追いつかない。
彼らが感じたこの世界、それを一言で表すなら……地獄だった。
(俺たちは死んだのだろうか……そして地獄に落ちたのだろうか……)
「に、西野さん!」
男が息を切らせ、慌てふためきながら走り込んできた。
「大きな声出さないで! どうしたの渡辺くん?」
西野が小さく、しかし鋭い声で渡辺に注意する。
「ご、ごめん。
そ……外に、ローレライが近づいてきてるんだっ」
「なんですって……ちっくしょ……
で、みんなは?」
「ああ、音楽室に退避させた。西野さんも早く!」
西野と男が聞いたことのない言葉で会話していて、
エリュシオンには理解できない。
タトスに顔を向けるも、タトスもわからないらしく、首を振る。
ふとタトスは疑問を感じる。
(アヤメがあの男としている会話は、この世界の言語なのだろう。
だが、なぜ我らの言語も喋ることができる?)
「タトスさん、エリュシオンさん、私についてきて」
西野は保健室からすばやく出ると、窓から外の様子をこっそりうかがう。
「やばい、まだ遠いけど……グラウンドにローレライが近づいてる。
皆急いで! 行くわよ!」
全員腰を屈めながら歩を進める。
エリュシオンは西野のただならぬ焦り方に不安を覚える。
だから素直に西野についていく。
「歌が聞こえたらおしまいよ」
西野は2人に耳をふさげと告げた。
エリュシオンの鼓動が早くなる。得体の知れないものが襲ってくるのを感じる。
タトスはいざという時に守れるよう、エリュシオンの後ろからついてくる。
不安になったエリュシオンが後ろを振り返る。
タトスは平然とした表情で、ニヤリと笑ってきた。
それを見て、少し落ちつきを取り戻した。
するとエリュシオンはローレライというものが気になりだす。
そして窓の外を少しだけ覗いてしまった。
数千人という行列が神輿をかつぎ、こっちに向かってきている。
神輿も1つではなく、何十という数がありそうだった。
それは人間の肉体で作られた神輿だった。
何十本もの手足を腸で結び括りつけ、担ぎ棒が作られていた。
神殿をかたどった部分は骨で作成されていて、屋根の部分はすべて
人間の頭部が瓦のように並べられている。
まだ生きているのか、頭部だけになった顔は、口をパクパクと動かしている。
その人体神輿を、皮をはがれた何十人もの人間が担いでいた。
ローレライというのがどれかはまだ見えなかっが、見える位置にいれば
歌がすでに聞こえているだろう。
グロテスクな神輿を目撃してしまったエリュシオンは、思わず絶叫を上げかけ、
理性を手放しそうになる。
あんなにおぞましく、恐ろしい仕打ちができる存在が信じられなかった。
エリュシオンの顔はたちまち涙と鼻水であふれ、足をもつれさせ倒れてしまう。
それでも耳から手を離さなかったのは、生きたいという本能からだろうか。
手を離せばあの中の一人になってしまうと瞬時に悟ったからだ。
転倒したエリュシオンを見て、西野もタトスも足を止めた。
3人を呼びに来た渡辺は気づかずに先に行ってしまった。
タトスはエリュシオンを抱えて走りたかったが、耳から手を離せない。
タトスができたのは、エリュシオンの顔をじっと見つめ、
ガンバレと口を動かし、励ますことだけだった。
エリュシオンもじっとタトスの顔を見つめ返している。
なんとか落ち着かせようとタトスは笑ってみせるが、効果がない。
あまりの恐怖で体の震えが止まらないようだ。
今にも手を離してタトスにしがみついてきそうだった。
西野は焦った。
だが、どうしようもなかった。
このままローレライが近づいてくれば、耳をふさいでいても音が聞こえてしまう。
そのとき……
タトスはエリュシオンの顔に近づき、そしてキスをした。
エリュシオンの目が見開かれる。
タトスはエリュシオンを見つめながら唇を離す。
しばらくすると、エリュシオンが深呼吸をはじめ、
落ち着きを取り戻したようだった。
西野はおもわず2人に微笑んだ。
彼らに向かってうなずくと走り出した。
タトスたちも続く。
かなり遠くに、人が立ち止まっているのが見えた。
しかも音楽室の前だ。
渡辺だろうか? と西野は思う。
彼だったとして、なぜそこで止まっているのかはわからない。
西野たちが追いつくのを待っているなら、こちらを必死に見ているはずだが、
そういう風でもなさそうだ。
あきらかにおかしい。
決定的な仕草を見て、ここのまま進んではダメだと西野は判断する。
彼の両手が耳から離れていたのだ。
西野は2人に逆方向をアゴで指し示し、3人は逆走をはじめた。
彼らが向かったのは、音楽室からかなり離れた体育館倉庫だった。
3人が中に入ると、西野は急いでドアを閉める。
西野は何重にも重なったマットの下に潜り込む。
「2人とも入って!」
2人を手招きしつつ、ティッシュを取り出して耳に詰める。
タトスたちにも同じことをさせる。
そしてティッシュの耳栓の上から両手で耳をふさいだ。
ここまでしても近くにローレライが来れば聞こえてしまう。
あとは近くに来ないことを願うだけだ。
あれから、どれだけ時間が過ぎただろうか……
3人は必死に耳を抑えている。
1時間……それとも2時間そうしていただろうか。
西野が恐る恐る手を離した。歌は聞こえない。
マットの下から這い出て、倉庫の扉を慎重に開ける。
グラウンドにはもう神輿の行列はいなかった。
2人にも出てくるように合図した。
彼らは音楽室へ急いだ。
一体なにがあったのか……
ドアが開いていた。
中を覗くと……
何十人もの人間の皮が床に散乱していた……
タトスが顔をしかめ呻く。
「いったいなぜ……」
西野は静かにつぶやいた。
「多分……渡辺くんが逃げ込むのが遅かったんでしょうね……
中に逃げ込むときに歌が聞こえてしまった」
恐らくそうなのだろう。
音楽室の入り口にも人の皮が落ちていた。
音楽室の前で立っていた彼が渡辺なのだろう。
知り合いが無残に死んだのだ。なんと声をかければ……とタトスは西野の顔を見た。
西野の顔には、なんの表情も浮かんではいなかった。
現実としてある死を受けいれた者の顔。
全てを受け入れたわけではない。ただ、感情がマヒしていくのだ。
そうでなければ、正気を保てなくなるからだ。
タトスは理解した。
知り合いや親しい者の死は、彼女にとって日常茶飯事なのだということを。
どれほどの苦難を乗り越えてきたのか、想像に難くなかった……
魔物との戦闘、訓練中の事故……タトスも仲間の死は日常にある。
しかし、これほど凄惨なものではない……
まさにここは……地獄だった。
「ローレライとはなんなのだ……」
「わからないわ……見えるほど近づいたら歌が聞こえちゃうもの。
ただ、歌が聞こえた者を引き寄せて操っているように見えたことから、
そう呼ばれてるだけ」
「歌が聞こえたら助からないのに、なぜ歌を聞くとってわかったんだ?」
西野はクスっと笑う。
「私が聞いちゃったから」
タトスたちは西野が何気なく言った言葉に驚く。
「ええ!? で、ではなぜ……」
「ある人に救ってもらったのよ」
西野が微笑んだ瞬間、遠くから爆発音が聞こえた。
全員ビクリと体が震えた。
「さあ、ここから離れましょう……」
「くそ……俺たちは逃げるしかできないのか……」
西野は険しい表情をしながら首を横に振る。
「人々も戦ってるわ。私たち一般人には逃げるしか手はないけどね……
自衛隊や世界中の軍隊も出撃して、今でも戦ってるわ。
たまに上空を戦闘機が飛んでいくのを見るし。
今の爆音も、きっとミサイルかなにかの音ね」
「よくわからないが……戦えているのか……あんな化け物と……
君たちの世界はすごいのだな……」
自分たちの世界にこんな化け物が現れたら、ひとたまりもないと思った。
1体ならともかく、タトスが目にしただけでも何種類もの化け物がいる。
ここが異世界とやらで良かった……と思わず考えてしまい、
タトスは心の中で詫びる。
だが、エリュシオンだけは帰してやりたい。
「アヤメ、俺たちは元の世界に戻りたい……
なんとか帰る方法はないのだろうか?」
そんなことを一般人の西野に聞いてどうするんだとタトスは自嘲したが、
藁にもすがる思いだった。
西野は考え込む。
「私は少ししか行けなかったけど……
元の世界に帰るというのなら、やれるのかもしれない。
勇者様も仰っていたわ……
世界が吸い寄せるのだと」
タトスもエリュシオンも同時に西野へ詰め寄った。
「「この世界にも勇者様がいらっしゃるのか!?」」
西野は2人にうなずく。
「勇者メーヤ様なら、なにか知恵か……力を貸してくれるかも」
タトスたちは驚き呆然とした。
「勇者……メーヤ様がこの世界に……」