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第25話「勇者と死者」

ボクの目の前に現れた白い光を放つ女性。リアンヌさんとファージスさんは

勇者メーヤだと言った。

勇者……ボクがずっと探していた人物。

だけど、人間を食べる……そんなことを拷問室で聞いた。

本来ボクにとって一番優先すべきなのはこの勇者と向かい合うことだ。

でも、今はそんなことより気になっていることがある……

死者の中にある人の姿を探している。


カノンだ……


カノンが死者の軍団の中にいたってダーツさんが……

いや、あれは聞き間違いだよね?

うん……そうに違いない……



ボクはカノンのことを頭から振り払うように、突如現れた女性に意識を向ける。

光り輝く白い鎧を身に(まと)った人物。

その女性が現れてから、死者たちの怨念がどんどん膨れ上がっていく。

そうか……死者が『あの女』と言ってたのは、勇者メーヤのことだったんだ。

……あの女性が死者たちの復讐相手なんだ。

その恨みの念がボクに伝わって、胸が張り裂けそうになる。


「うぅ……」


ボクはあまりの苦しさに胸を手で抑え、ローブをぎゅっと握りしめた。

カザリさんが心配そうにボクの背中をさすってくれる。


「だ、大丈夫なの? 胸が苦しいの?」

「うん……カザリさん、ありがとう……大丈夫」


心配してくれる人がいるって、それだけで幸せだ。

ボクはカザリさんに笑顔を向けた。



死者たちは次々と光の女性、勇者メーヤに襲いかかる。

メーヤは悠然と次々に死者を倒していく。

光り輝く美しい女性が死者を倒していく姿は、まるで戦乙女のようだ。

あの人が人間を……ボクを食べようとした人。

勇者なのに、あんなにたくさんの死者から恨みを受けている……

ボロボロになった服装から推測すると、死者たちは魔族じゃなく、

元はただの人間のはずだ。

彼女は一体何をしたんだ……


「死者たち……あの光の女性にすごい恨みを抱いてる……」


ボクがつぶやくと、魔法使いのお兄さんがすごい剣幕で詰め寄って来て、

胸倉をつかんできた。


「な……なんじゃと!? ……ま、まさかあの死者たちはやはり……」


魔導師ファージスさん……って紹介されたんだけど、どうやらすごい人らしい。

イケメンなのに喋り方はお爺さんっぽい。

ファージスさんは何か気がついたのか、体が少し震え、血の気が引いている。


「そうじゃったか……なんとも哀れな死者たちよ……」


「師匠、どうしたのじゃ。なにか知っておるのか?」


リアンヌ・ダークさんがジト目でファージスさんを睨む。

とんでもなく綺麗な子だ……西野さんと同じくらい……あ、西野さんごめんなさい。

別に浮気とかそんな気持ちじゃなくて……

この女の子、見た目と喋り方のギャップがすごい。

でも、この人のおかげで死にかけたところを助けられ、ダーツさんたちとも

分かり合えた。

言葉にできないほどの感謝で一杯だ。

ボクの一生の恩人だ……いつか、恩を返したい。


ボクの胸倉をつかんでいたファージスさんの肩にダーツさんが手を置き、

やんわりと引きはがす。


「じい……ファージスさん、なにか知ってるなら教えてくださいよ」


ファージスさんが苦い顔をする。


「度々じじぃって言おうとしておるところが、非常に気になるのじゃが……」


しばらく何かを考え黙り込んでいる。

何かを心の中で決めたのか、厳しい目つきになってボクたちを見つめる。


「まぁ、よいじゃろう。

 そこの少女は数奇な運命を辿(たど)り、重要な使命を背負っておる気がする。

 それに関係するお前たち冒険者……

 お前たちには教えておいてもいいのかもしれんな……」


ボクは女じゃないと抗議したかったけど、それよりいまはなにやら重大そうな

ファージスさんの話を聞くべきだと(こら)えた。



ファージスさんは、忌々しいものを思い出したように苦い顔をした。

とても疲れたような、重いため息を吐きだす。

しばらくの沈黙のあと、淡々と語りだした。

それは――――



いつから存在したのか……それはわからないが、ある日メーヤは人々の前に現れた。

彼女は多くの魔物を葬り、魔族を打ち倒し、人間を救ってくれた。

救世主と崇められ、勇者と呼ばれたメーヤだが、彼女は代償を求めた。

力を補充するために生贄を要求した。

15年に1度、10万人の血肉がいると。

各国の王は激怒した。

メーヤが要求したのは、国で最も大きな都市に匹敵する人数だ。

それだけの代償を出せば、貴重な働き手を多く失ってしまい、

国力は相当に疲弊(ひへい)する。

それでは悪魔と変わらぬとメーヤを糾弾(きゅうだん)し、その要求を無視した。

拒まれたからといって、メーヤは無理に人々を襲うことはなかった。

だが、数年後に現れた強大な魔神により、人間はまた危機にさらされた。

王たちはやむなくメーヤに助けを乞う。

当然……生贄の要求を飲むことになった。



ファージスさんの話を聞き、ボクたちは唖然としていた。

ボクだけじゃない、ダーツさんたちやリアンヌさんまで。

国の中でもごく一部の人間しか知らない機密だったのだろう。

そりゃそうだ。こんなこと、世に知られたら大パニックになる。


ファージスさんは忌々しげに口にする。


「この世界は、どこからともなく出現する魔族によって

 常に危機にさらされておる。

 メーヤ様は……生贄を要求するとはいえ、数多くの人々を

 救ってきたのもまた事実なのじゃ……

 彼女がいなければ、10万の生贄をはるかに超える人間が

 死ぬことになるからのぅ」


長く……とても長く息を吐きだすファージスさん……

目は少し虚ろで、希望をなくしたような……そんな表情をしていた。

ボクにはどっちが正しいのか……なんて言えない。

自分たちで魔族と戦っても人が死ぬ。守ってもらっても生贄で死ぬ。

為政者(いせいしゃ)ならば、大勢助かる方を選択するだろう。

ボクなら……大切な人だけは守りたいけど……

この問題の場合、解決策は一つしかない。

魔物が現れなくすること。それしかない。

でも、どうすればいいのか、ボクにはわからない……


「カケイド誕生祭……この日こそ、メーヤが生贄を要求した日だったのじゃ。

 街中で好き放題食われては大勢の人に知られることになる。

 じゃから、生贄を出すことが決まった街では街の外に巨大な穴を掘り、

 そこに住民を集めたのじゃ」


そうか……この恐ろしいほどの怨念は……

今も勇者メーヤへ猛然と襲いかかる死者たちは……

メーヤへの生贄にされた人たちだったんだ。


リアンヌさんが唇を強く噛む。口の端から血が流れている。

拳を握りしめ、メーヤを睨みつけて震えていた。

ついにはメーヤに飛び掛かっていきそうな雰囲気のリアンヌさんを、

ファージスさんが頭にチョップして止める。


「いたいっ!」


「よせ……一国が相手でも勝てぬお人だぞい……

 お前の憤りはわかる……じゃが、いかにお前でも歯向かったところであっさり……

 いや、あのお方はお前が最大限苦しむように喰らうだろうて。

 さっきも言ったじゃろう。

 あのお方が人類を守っておるのも、また真実なのじゃ」

「ぐぬぬぬ。

 く、くそじじぃ……勇者の事実を知っておりながら、

 今までワシにだまっておったのか!?」


怒りのあまり吊り上がった目でファージスさんを睨むリアンヌさん。


「お主に真実を語ったら、すぐ戦いに行ったじゃろうが……ぼけ。

 今も、お前にだけは言いたくはなかったのじゃ」

「ふん……ワシももう大人じゃ。感情を抑えることくらいできるわい」

「怒りがだだ漏れではないか……」

「しかしじゃ、10万人も一気にいなくなれば皆不審に思うじゃろう?

 よく今まで隠し通せたのぅ?」

「我々には共通の敵がおるじゃろう?」

「……なるほどのぅ。魔族の仕業にしたててきた……というわけじゃな」



ダーツさんがボクの頭に手をまわして胸に引き寄せた。


「え?」


急にな、なんだ? ……なんか恥ずかしい……


「勇者様が人を食う……信じられない話だが、それはアキラが拷問室で……」


ダーツさんが息を詰まらせたように言い(よど)む。


「拷問室で……聞いた話とも合致する。アキラを勇者様に食わせるつもりだったと……

 あまりにも信じられない話だったが……

 それがやはり真実だとわかった」


ダーツさんの手が震えている……

ボクはダーツさんの胸の中から顔を見上げた。

じっとボクを見つめる瞳はとても悲し気に、でも優しく見つめていた。

思わずボクもダーツさんを抱きしめていた。


「ダーツ! ちょっとくっつきすぎじゃないの!?

 っていうか……アキラちゃん! ローブの下……は、裸なんだから……」


滅茶苦茶嬉しそうに身もだえして叫ぶカザリさん。

ダーツさんに腕を回した時、ローブが捲れ(めくれ)てしまっていた。

ボクは真っ赤になりながら、とっさに捲れあがったローブを手で引き寄せた。

いや……その……だって……着るものが。

そういえば、ダーツさんたちと戦ってるときに、ローブ捲れまくりだった……

リアンヌさんも顔を真っ赤にしながらボクをガン見している。

……やめて。


「下に何も着てない美少年が、むさくるしい男に抱きしめられておる図

 というのは、なんとも耽美な世界じゃのぅ……」


ダーツさんが少し顔を赤らめてボクに聞いてくる。


「お前……そんな趣味あんのか?」


タイラーさんがボソっとつぶやいた。


「まぁ俺にもその趣味はわかる……」


趣味じゃないよ!

ってか、タイラーさんはなんでわかっちゃうの? 聖戦士だから!?

ネロさんは軽く引いていた……

暗く沈んでいたファージスさんが苦笑していた。


「ハハ……お主ら……大物じゃのぅ」





「ちょっと~~、そこの男ぉ~~。私のアキラくんに馴れ馴れしくしないで~」


遠くにいるはずなのに、すぐ近くで喋ってるように聞こえた。

メーヤの声……気だるげで優しい雰囲気の声だ。

声だけなら全然怖そうじゃ……

ボクはあることに気がつき、瞬時にぞっとした。

……なんで、ボクの名前知ってるの?


「はやく離れないと~、殺すわよぉ~?」


ボクは突き飛ばすようにしてダーツさんから離れた。

そんなボクを見てダーツさんたちは微笑んだ。


「アキラちゃんは、やっぱりアキラちゃんだね……」


カザリさんがボクに優しく笑ってくれる。

え? やっぱりって、なんだろ。

でも、またカザリさんに優しく笑ってもらえて嬉しい。


「なぜ勇者様がアキラのことを知ってるんだ?」


名前に関してはダーツさんも同じ疑問を抱いたみたいだ。


「アキラ、お前会ったことあるのか?」


ボクは首を横に振った。

ファージスさんがアゴを指でさすりながら唸っている。


「メーヤ様は……不思議な力を持っておられる。

 まさに神の目を持っているとしか思えぬ……

 ワシも初めて会ったとき、名前を呼ばれたわい……」


ボクは得体の知れないメーヤに身震いしてしまった。


「アキラく~ん、も~ちょっと待っててね~」


ボクはぎょっとした。

いつの間にかメーヤが近くまで来ていた。

とても美しい人だった。

アステリアにも匹敵するほどだ……

ダーツさんたちがとっさにボクを背中に庇ってくれた。

メーヤの金色の目が白い輝きを放ち、体全体がさらに光輝く。


「お前たち~アキラくんとぉ~私の仲を~邪魔するのぉ~?

 あのうっと~し~死体と同じね~。

 ちょ~いらつくぅ~~! おぼえてらっしゃ~い?」


死者たちがメーヤの元に殺到する。


「あ~ん! ほんとイライラしちゃう~!」


メーヤが振り向きざまに剣を一閃、二閃、どんどんその剣速は早くなっていき、

光の筋しか見えなくなっていく。

周囲の死者がバラバラに解体されていく。


でたらめな強さだ……


あれ……でも、なんかおかしいぞ?

一撃で死者を倒せなくなってない?

今までは一振りで倒してたのに、二撃入れても……次第に三撃入れても

倒せなくなってきている。

メーヤが弱くなってる?

動きは疲労で鈍っている様子もなく、変わってない気がする……


「ええ~い! なんなの~この腐ったゴミはぁ~~!」


皆の表情に一瞬怒りの色が見えた。

人を……死者とはいえ、人をゴミと言い放ったのだ……


仲間の死者たちが倒されるほどに、残された死者の憎悪が膨れ上がっていく。

そして渦巻く憎悪に比例するかのように、死者たちが超人的になっていってる……

そういうことか……メーヤが弱くなったんじゃなかった。

死者が強くなっているんだ。

なんで憎悪で死者が強くなっていくんだろう……?

黒い霧が関係してるとか、あるのかな。


民家の壁を苦も無く登り、そこから跳躍し、メーヤの頭上から攻撃をする。

それが目で追いきれないほどの速さで間断なく繰り返され、

メーヤの頭上からは死体の雨が降っているようだ。

地上から攻める死者は、2本足ではなく腕も使って4本足になり、

さらに速度があがってまるで蜘蛛のように走っていく。

もう、人間の動きじゃない。



メーヤは剣で一閃し薙ぎ払っていくも、一撃では倒せない。

それどころか何度斬りつけようと倒れない。

メーヤの攻撃は死者をひるませる程度になっていた。

物量の前に次第に押されていく。

ついに体に取りつかれ、噛みつかれる。

死者は力まで増したのか、メーヤの左腕が紙でも破るように簡単に

引きちぎられる。

とんでもない力だ……

メーヤは悲鳴を上げる。


「ぎょああああ~~!?

 このぉ~~死体の~分際で~~~~!」


メーヤは剣で薙ぎつつ、逃げようとジャンプしたが、幾人(いくにん)もの死者に

足をつかまれ引きずり落された。

死者はメーヤの太ももに噛みつき、肉を食いちぎる。


「あががが~~~! な、なによこれ~~!?

 なんで……この私がぁ~……!!」


メーヤがまた絶叫する。

これ、メーヤが負けるんじゃないのか……?


「ちょ……まじで~ヤバッッ!?

 リ……リアンヌちゃん、くそじじぃ! ちょっと助け~……」


死者はメーヤの首にも歯を立て、露出している肌だけではなく、

鎧の上からも喰らいつく。

力を増した死者たちは、メーヤをたやすく鎧ごとかみ砕いた。

いや、仮に鎧が攻撃を防いでいても関係なかった。

メーヤの体を力任せに引きちぎっているからだ。


「ぐあああぁぁぁ!!!!!」


足が太ももの付け根からもがれ、腰はメギメギと嫌な音を立てながら

背中側に2つに折られた。

頭を引っ張られ、首の肉がプチプチという音を立てて、体から離れていく。

引きちぎられた首から脊髄(せきずい)がブラブラと揺れている。



あまりに凄惨な状況に、全員唖然としていた。

ファージスさんもありえない光景に瞬きすら忘れ、ただ見つめている。


「バ……バカな……メーヤ様が……敗れた……?」


バラバラにされたメーヤをさらに細かく引きちぎっていく死者たち。

ひき肉……その言葉が一番しっくりくる。

憎む相手をそこまでの状態にしながらも、死者から伝わってくる怨念は

一向に晴れていない。

どれだけメーヤを細切れにしようと、死者たちはもう生き返ることはできない……

幸せだった日々に戻ることはできない。

胸を締めつけるほどの悲しみが、嘆きが……ボクに伝わってくる。


「皆……もう……いいでしょ? もう楽になって……休んでいいんだよ……」


ボクは祈るように手を組んでささやきかけた。

そんなボクをダーツさんたちは驚いたようにじっと見る。

ダーツさんはボクの肩にそっと手を置いた。


「そしたらまた……家族に、恋人に……友人に……会えるよ……」


死者たちの動きが止まる。

虚ろな目でボクを見てくる。


死者の心がボクに伝わるように、ボクの心も死者に伝わるのだろうか。

だとしたら……

目をギュっとつむり、祈る手に力を込めボクは願う。

彼らの安らぎを。



死者はメーヤの細切れになった肉をボタボタと地に落としていく。

今や、動く死者はいなくなっていた。

ただ静かに、じっと立っていた。


そのとき、メーヤが倒れていた辺りから肌色の肉の塊が現れ、

急激に膨らんでいく。

肉塊は建物の2階付近まで膨らんだ。

その表面は血管がドクドクと波打ち、

巨大な目、鼻、口が肉の中から盛り上がってくる。

それはメーヤの顔だった。

メーヤの顔の下からはウネウネと触手が生え、その先端には人の手が生えている。

まるで巨大なタコと人間を融合させたような、

メーヤの顔をしたおぞましい化け物がそこにいた。


ダーツさんたちが想像を絶する光景に呻いている。

勇者のイメージからかけ離れ過ぎだもの。さすがに驚くよ。


「な……なんだこりゃ……

 皆、退がれ!」


呆然としていたボクをダーツさんが抱えて走る。

数十メートルほど走って止まった。

メーヤは無数にある触手の手で死者を捕まえ、

洞窟のように開く口の中に放り込んでいく。


「あんなの……人間でも勇者でもねぇだろ……ただのバケモノだ」


ダーツさんがメーヤを睨んでいる。


「勇者ってのは魔族なのか!?」


どんどん食われていく死者たち。

でも……死者はもう動かなかった。

ボクのほうをじっと見つめたまま佇んでいる。

思わずボクは叫んでいた。


「やめろぉぉ! メーヤぁぁぁぁあああ!!!」


そしてボクは見つけてしまった。

メーヤの触手につかまれた……カノンの姿を。


あっ……


ウソだ。



カノン……


彼女の体はボロボロで、顔の肉も半分なくなっている。

触手に掴まれ、口に放り込まれる寸前まで、カノンはボクをじっと見つめていた。


カノンがボクに手を伸ばした……ように見えた。

それはただ、触手につかまれて持ち上げられたときに働いた

慣性で動いただけかもしれない。

でも助けを求めてるように見えたんだ。

ボクも腕を伸ばし、震える足で一歩踏み出した。

すべては一瞬の間だった。


そして……メーヤにかみ砕かれた。



「うあ……あっ……

 はぐ……あああ……っっ」



声が……出ない……

カノン! カノンっっ!!


ボクはメーヤに向かって駆けだした。


「あっ! アキラ!!」


ダーツさんの声が後ろから聞こえる。


「うああああああああああああああ!!!!!!

 このクソヤロおぉぉぉ!!!」


メーヤの触手がボクを捕えた。

カザリさんの悲鳴が聞こえた……

ボクからは見えなかったけど、ダーツさんたちがボクを追いかけ、

走ってくる足音が聞こえた。


「あ~ら~~~アキラくん……待てなかったのぉ~?

 わかったわ……すぐ食べて……あ・げ・るぅ~~」


メーヤの口の中に放り込まれる寸前、ボクは叫んだ。


「アステリア~~~~!!!」


その瞬間、天空から炎の塊が地に落ちた。

火山の爆発のような轟音が響き、石畳がはじけ飛ぶ。

ボクを捕まえていた触手も衝撃で吹き飛んだ。

炎の塊が落ちた場所には、大きなクレーターができあがっていた。

雲にまで届くオレンジ色の軌跡が揺らめている。

業火が静かに収束していき、そこから現れたのは美しき火焔(かえん)の魔神。

耳の上辺りから炎の角が立ち昇っていて、腕や足もメラメラと

激しく燃え盛っている。


「お呼びとあらば即、参上。陛下直属愛の騎士アステリア、ここに見参!」



アステリアは、ボクを抱えたまま触手の届かない安全圏まで飛び退る。

そっとボクを降ろし、ひざまずく。


「なんなりとご命令を……陛下」


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