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第24話「哀しみの拳」

今度こそ誤解を解いて信じてもらう。

ボクのその願いは、ダーツさんの放った言葉で一瞬にして瓦解していく。


ダーツさんの視線は一瞬たりともボクから外れない。

それは再会した喜びからではなく、敵を前にして油断をしない視線。

敵意に満ちた目だった。


「お前の言葉に従ったのは、人間として信じたからじゃない。

 俺たちと話をしたがっているから、今は殺す気がないと踏んだだけだ。

 お前が魔族であることは、この黒い霧の中から出てきたとき、確信に変わった。

 死者を操り、この街を襲い……」


無表情だったダーツさんの顔が、今はくしゃくしゃになっている。

眉尻は下がり、でも歯をギリリと食いしばっていて、口の端から血が流れている。

今にも泣き出しそうな表情だ……

ダーツさんの……こんな顔は初めて見た。

ネロさんやカザリさんタイラーさんもボクを凝視してる。

表情はダーツさんと同じ、今にも泣きそうな……


「ち、違う! 聞いてよ!」

「お前……この戦いで何人死んだかわかってんのか」

「……っっ!」

「それにな……お前が魔族だと言っていたカノン……」

「カ、カノン!? どこにいたの!? 今どこ!?」


ダーツさんは怒りに顔をゆがめた。

ただ淡々と感情のこもらない声でダーツさんは続けた。


「白々しい……な……

 死んでたよ……そこの死者の軍団の中にまぎれていた」


「……は?」


ダーツさんが何を言ってるのかわからなかった。


「カノンが……死ん……だ……?」


そんな……ウソだ……

ボクにウソをついてる……なんでウソを!?


ダーツさんがボクを睨みつけ、憎々しげにつぶやく。


「お前……拷問室に送られたよな……

 なんでそんな傷一つなく、綺麗なままなんだ?」


「え……?」


ざわりと心の中で何かがうごめく。

ああ、やっぱりボクがどんな目に遭ってるか、わかってたんだね……

あんなにヒドイことされるの……知ってたんだね。

それでも……ボクを引き渡した……そして助けに……来なかったんだ……

ボクの心の動きに連動するかのように、周囲から消えていた黒い霧が

また街道を覆い尽くそうと広がっていく。


ネロさんが歪んだ笑顔をボクに向け、冷ややかに問うてきた。


「なぁ、どうやって逃げたんだ?

 神殿は崩壊してたんだ……お前がやったのか?」


「違うよ! あれは……アステリアが……ま……魔族が……助けてく……」


ボクの声はだんだん小さくなっていき、最後は言葉にならなかった。

その通りだ……これで人間だって信じろってほうが無理だ。



ボクの言葉を聞いて、少し離れた場所で様子をうかがっていた

魔法使いのお兄さんが絶叫した。


「ア……アステリアじゃと!?

 あ、あの焔獄(えんごく)の悪魔のことか!?」

「師匠、落ち着け……今は我らは立ち入ってはならぬ」


カザリさんもボクに侮蔑のまなざしを向けている。

でも同時に、その目からは滝のように涙があふれていた。

胸が苦しいと言わんばかりに、両手で胸の中心を押さえている。


「私……何日も悩んだよ……ほんとは魔族じゃないかもって……

 何日も眠れなかったよ。

 後悔してた……ずっとずっと後悔してた。

 へぇ……アステリア? 悪魔が助けてくれたんだね……」


タイラーさんも……


「ここまで魔族にバカにされるとはな……

 悲しいよ……本当に心がないんだな。

 まだ人間のフリを続けて何が楽しいんだ?」



ボクの心が……砕け散り壊れそうになった……


「……は? 心がない? ボクが? ははは……」


なぜか自然と乾いた笑いが出てしまった。


西野さん、ボク………


体から力という力が全てなくなってしまったかのように、膝から崩れ落ちた。

そのままペタンと座り込む。

ボクは残った力で……声を振り絞り……


「お願い……ボクの話を、聞いて……お願い……」


息が苦しい……お腹が痛い……

西野さん、ボクどうしたらいいの。苦しい、苦しい……

拷問されていたときより、心が張り裂けそうに痛い。

ボク、心の中どこかで信じていたんだ。

絶対ダーツさんたちが助けに来てくれるって。

でも、それは違ったんだって現実を叩きつけられて……

ボクは焦点が合わなくなってきた目を必死にダーツさんに合わせた。

ダーツさんも……誰かに助けを求めるような苦しそうな顔をしていた。

胸の中心を手で鷲掴みにし、息ができないのか何度も口をパクパクさせた。

ダーツさんがその口からボクと同じく苦しそうな声を絞り出した。


「お、俺たちをもてあそぶのは……もうやめてくれ……

 殺すなら……殺せ。

 だが俺たちもただ黙ってはやられねぇ」


ダーツさんたちがボクにむき出しの敵意を向ける。


「お願い……話を……」


……気がつくと倒れていた。

右の頬がズキズキと痛い。

カラカラと目の前に白い塊が転がっていく。

ボクの……歯だ……

倒れたボクをダーツさんが蹴り上げ、体が空中に浮いた。


耐えがたい激痛がお腹のあたりを襲う。

呼吸ができない……

気がつくとカザリさんが目の前にいる。

カザリさんは一瞬ためらった後、空中でボクを蹴り飛ばした。

肩から地面に落ちて、石畳に叩きつけられる。

鎖骨が折れ、肩も脱臼してしまったようだ。


「ひ……ひいぃぃ」


悲鳴を上げるだけで激痛が走り、痛みのあまりくぐもった悲鳴になった。

ネロさんがなにかの魔法をみんなにかけている。

タイラーさんの体が淡い光に包まれた。

次の瞬間、信じられない衝撃が体を突き抜けた。

体からメキメキという音が聞こえてくるようだ。

骨が砕けていく。

拷問を受けていた時に匹敵するほどの激痛が脇腹を襲う。


ぐえええええええ!


ボクの口から大量の血が吐き出された。

骨だけじゃなく内臓まで傷ついた証拠だ。


攻撃しているはずのダーツさんが悲痛な声で叫ぶ。


「どうした! 反撃しないのか!? 本性を出せ! 俺たちを舐めてるのか!!」



涙があふれ、息ができない。

涙がとめどなくあふれるのは痛みからじゃない。

これほどの目にあっても、それでもなお信じたい。

そんな人たちからの無慈悲な攻撃に心が……

ダメだ……心が壊れる……壊れる……

なんでこんな……ひどいことするの……

ボクは……皆が……


いつも優しく撫でてくれたカザリさんが……

頭にゲンコツをして叱ってくれたダーツさんが……

一緒に悩み相談をしたタイラーさんが……

ボクが死にかけたとき必死に回復魔法をかけくれたネロさんが……

今、ボクを殺そうとしてくる。


もう嫌だ……こんなの嫌だよ。

地下で受けた拷問も耐え難い苦痛だった。

だけど、今その苦痛を与えてくるのは……ダーツさんたちだ……

その事実が体の痛み以上に、ボクへ重くのしかかる。

ダーツさんたちの優しくボクを見つめていた目を思い出す。

だけど、今はただ憎い相手を見る目になっている……


うぉええええ……


思わず吐いてしまう……だけど、胃の中がからっぽで胃液しか出ない。

もう、ダメだ……おかしくなる……

石畳の上を子供が駄々をこねるように転がりまくる。

少しでも痛みとストレスを軽減しようと、本能が体を勝手に動かす。

激痛から叫び声が漏れ出す。


「あああー! あううああー!」


ダーツさんたちの攻撃は続く。

体も……心も壊されていく。


ダーツさんがまた絶叫した。


「なんで反撃しねえ!」


「は……反撃? あはは……」


「なにが……なにがおかしい!」


鉄のブーツを履いた足で蹴り飛ばされ、ボクの大腿骨が折れる。

あまりの激痛に一瞬気を失い、口から泡が噴き出した。

カザリさんが思わずボクから目を逸らしている。



ボクはそのときようやく気がついた……

みんな……ずっと泣きながらボクを殴っていたんだ。

くやし涙……なのかな。

あれ……なんで剣で攻撃してこないんだろう。

本当に殺す気がないからなのか、それともなるべく痛めつけたいからなのか、

それはわからない……

殺すなら……剣でさっくりのほうが楽だったなぁ。

やっぱり魔族が憎くて苦痛を与えたいのかな……


ダーツさんがそばに寄って来た。

ボクの膝を踏みつぶそうと足を振り上げている。

だけどそのままの姿勢で止まっている。

ブルブルと震え、振り上げていた足をそっと降ろした。


「頼む………やり返してくれよ……」


悲痛な顔で一言ずつ区切るように訴える。

なんでこんなに悲しそうな表情のまま、ボクをひどい目に合わせるの?

いつの間にか、ダーツさんたちの目は憎い相手を見る眼差しじゃなくなっていた。

この目……覚えてる……

あの時だ……



遠くなりかける意識の中で、イービルベアーと戦ったときのことを思い出した。

ダーツさんがボクのために戦ってくれて、死にかけたボクをみんなが

心配してくれた。

ボクのためにあんなに必死になってくれた人って、今までいなかったよ。

短い時間だったけど……ボクには一生をかけても良いほどのかけがえのない時間。

ダーツさんが無茶をするなって怒ってゲンコツしてきた。

そうだ……あの時の目だ。

ボクを心配して殴ってくれた時の……あの時の目だ。


「ダーツ……さん……ボク……」


苦痛に顔がゆがみそうになるのをこらえ、ボクはダーツさんに微笑んだ。


ダーツさんの目に宿っていた、厳しくも優しい目はいっそう強くなる……

しかしダーツさんは足をふたたび振り上げ、今度はボクの膝を潰した。

声にならない絶叫がボクのノドからほとばしる。


気を失いそうになるボクの耳に、みんなの声が響く。

なにか叫んでいる……


「お願い……戦って……」


カザリさんの悲痛な叫び。


「俺たちは本気でお前を殺す! だから……かかってこいよ!」


タイラーさんの声だ……


「アキラ……次は本気で行く……」


ネロさんも……



「頼むよ……俺は………いやだ。もういやだ……お前に……こんな……

 頼むアキラ……俺を殺してくれ……

 お前が悪魔でもいいんだ。お前になら殺されてやる。

 だから、もう頼む!」


ダーツさんの悲痛な叫びが街の中にこだまする。



そうだ……ボク……いつもいつも、みんなの足手まといになってた。

今回だってそうだ。

ボクの存在がみんなを苦しめているんだ……


そうだ……

ボクがいなくなればいい。

そうだ……それがいい。

西野さんとの約束も、谷口くんを救うことも……

なにもかも頭の中から消え去っていた。

ただ、心の中に開いた穴が……苦しい。


なんとか苦痛に耐えながら、這いつくばってダーツさんたちのところまで行く。

必死に顔を上げ、焦点が定まらない目でダーツさんを見つめ、笑顔を向けた。

精一杯、明るい笑顔のつもりで笑ってみせたんだ。

みんなへの感謝の気持ちでいっぱいだったもの。

足手まといになって、みんなを苦しめることになってしまって、ごめんなさい……

だからボクにできることを。


「あはは……ダ、ダーツさん……ボク、良いこと思いついたよ。

 みんなもビックリするよー。

 それはねー……ボクが自殺するんだ」


ダーツさんたちが愕然(がくぜん)としてボクを見ている。


「ねぇ、ダーツさん、名案でしょ?

 また頭……撫でてほしいな…

 カザリさん……ネロさん……タイラーさん……

 ボクもう……ヤダ……イヤだよ……

 みんなが泣いてる姿……見たくないよ……」


「ア……アキラ……」



ボクはなんとか身を起こし、そばに落ちていた錆びた剣をまだ動く右手で拾った。

迷いなく自分のお腹を剣で刺した。


「げぶ……」


カザリさんが小さく鋭い悲鳴をあげた。


「ヒッ!」


いたい……

けど、心の中の痛みを少し忘れられる……

何度も刺す。もっと深く……心の中の穴を塞ぐように剣を体の中に埋め込んでいく。


「うぅ~~~……

 み、みんな……いまだよ。こ、殺して……

 ボク……もう……体が動かない……」


ダーツさんたちが震えながらボクを見ている。

血と一緒に体から力が流れ出していく。

気がつくとダーツさんたちが横向きになっている……

あ、ちがう。ボクが倒れたんだこれ。


大量の血がボクの目の前に流れてきた。

意識が遠くなっていく。

そうだった……

最後に言わなくちゃ。

ボクがどれだけみんなを………

でも、もう口が動かなかった。







「ネ、ネロっ!」


ダーツさんが叫んでいる。


「脈が弱い……死にかけている!」


ネロさんの声が聞こえた。

ボクの視界は真っ暗になってたけど、みんなの声はなぜかはっきり聞こえた。


「アキラちゃん!」


カザリさん……あれ……いつもの優しいカザリさんの声だ。


「アキラ!」


タイラーさんの声もする。

いつも落ち着いた感じなのに、今はなんか焦ってるみたい。


「クソバカヤロウが! またお前は勝手に……」


やっぱりいつものダーツさんだ…

ボクの頬に暖かい雫がポツポツと当たる。

ん? なんだろう?

なんだろう……でも……暖かい……


「ネロ! 治癒はどうだ!?」

「やってる! だが……ダメだ……治癒が追いつかない……」

「いやっ! アキラちゃん! ごめん……ごめんね……本当に私……バカだ……」

「アキラ! 戻って来い! 聖戦士って名前つけちまうぞ。ちくしょう……」


みんなが心配してくれている。

死にかけてるボクが望んでいる願望、幻聴だろうか?

ダメだ……みんな……ボクのために悲しまないで。


「なんで俺を殺さなかったんだ……」


ダーツさん……

仮にそんな力があっても、ボクにできるわけないよ……


「お前にひどいことをした……

 ひどく後悔したよ……だからお前を助けに行くと決めたんだ。

 お前を信じようって……

 俺は……お前が魔族だったとしても、殺されるつもりだったんだ……

 お前が魔族でもいい! 死ぬな!」



ダーツさん……

そうだったんだ……そういうことだったんだ……

ダーツさんたちなら、ボクを素手でも一撃で殺せたはずなんだ。

みんな、最初からボクに殺されるつもりだったんだ。

それがダーツさんたちの、ボクへの贖罪(しょくざい)だったんだね。

あはは……ボクが魔族確定だと思われてるのが悲しいけど。

だけど嬉しいな。

ボクが魔族だったとしても、受け入れてくれたんだ……

魔族のボクがダーツさんたちを受け入れないと思ったからこそ、

殺される選択をしたんだ……


心が暖かいもので満たされていく……

いやだ……死にたくないっ!

心が満たされていくほどに、激しい後悔がボクの中に生まれた。

お願いだ……

死ぬのなら……最後に言わせてほしい。

みんなに伝えたいんだ。

ボクは残ったわずかな命をかき集めるかのように息を吸い込み、力の限り叫んだ。



「み……んな……好き……」



微かな……あまりにも微かで、耳を澄まさないと聞こえないほどの静かな音。

叫んだはずなのに、ただの息もれのように、空気がノドを抜けただけだった。

誰かの悲鳴が聞こえた……

急速に意識が遠くなっていく。


次の瞬間、見えないボクの目に神々しい少女の姿が飛び込んでくる。


「あ、あの騎士の女の子……」

「ようがんばったな……偉いぞ……」





「えほ! げほげほっ!」


咳こむボクは目を開く……

皆の心配そうな顔が見える。

この表情、ボクに向けられてるの?

ボクがずっと望んでいたみんなの……

優しくて、それで心配そうに見つめる顔……それがいま目の前にある。


あれ、なんで目が見えるの……


「アキラ!」


ぎゅっと抱きしめられた。強く。強く。


「ダ……ダーツさん……痛い」

「うるせぇ、バカヤロウ」


ダーツさんがボクを抱きしめて号泣していた。

すすり泣く声が頭の上から聞こえてくる…


ボクは……このまま死んでもいいと思った。

これが一瞬の奇跡だったとしてもかまわない。

みんながボクを囲んで次々と抱きしめてくれていた。

二度と味わえないと思っていた温もり……

ボクは忘れないように、しっかりと抱きしめ返した。


心が……晴れていく。

ずっと暗雲が立ち込めていた心に、春のそよ風が流れ込んだように。

優しく……ボクの心が癒されていく。

きっと今のボクの顔やばいよね……とんでもなくぐちゃぐちゃだ……

涙が……止まらない。


「ひっぐ! えっぐ……ひぐぅ! ひぃいぃぃん……」







「リアンヌさん……ありがとう……」


ダーツさんがリアンヌと呼んだ女の子に頭を下げている。


「ふ、なんのなんの。神の奇跡じゃ。

 しかし神の奇跡であろうと、死人は生き返らせることはできぬがな……」


少女は周りを静かに歩く死者を悲しそうに見つめている。

この世界では、ファンタジーゲームにあるような蘇生は無いんだ……


あのとき現れた女の子…彼女がボクを死の淵から救い上げてくれたんだ。


「あ、あの……ありがとう……」


ボクがおずおずとお礼を言うと……

リアンヌさんは美しく大きな目を細め、天使のような笑顔をみせてくれた。



「しかし、もっと早く助けられたんじゃ……?」


ダーツさんが非難するようにジト目でリアンヌさんを見つめてる。


「お主らの心が真に通い合うまで待っていたのじゃ」


え……?

もしかして……リアンヌさんには、ボクが魔族じゃないってわかってた?

リアンヌさんはボクに静かにうなずく。

なにも口に出してないのに心が読まれた!?


「ワシにはそやつが人間だとわかっておった。

 魔族の体の中には、常に微量の魔力が血液のように流れておるのじゃ。

 こやつにはまったくない」


ダーツさんたちが驚愕していた。


「それなら、なぜ言ってくれなかったんですか……」


恨めしそうにリアンヌさんに文句を言うカザリさん。


「この問題、他人が口を出すものではない。

 お主ら自身が解決せねば意味がなかったじゃろう?

 互いへの真の理解は、痛みを伴うものじゃよ。

 もちろん最後まで気づけぬようであったら、ワシが出るつもりじゃったがの」


この女の子凄い……

ボクより年下に見えるのに。


「お主ら良くやったな。かけがえのないものを手に入れたぞ」


リアンヌさんの目が細められ、何かを思い出すように空を見つめた。



ボクは今までのことをみんなに話した。

拷問のことや……心の中の憎悪……

ダーツさんたちは目をつぶり、うなだれていた。

カザリさんがボクを力強く抱きしめてきた。

他の女の子がすぐそばにいるのに……照れ臭いんだけど。

そう思いながらも、カザリさんのぬくもりが今はとても嬉しい。


そしてアステリアに助けられたこと。

元の世界からきた西野さんの話。元の世界が勇者に助けられていることも。

そしてこの黒い霧の話も。

死者がなぜ動いてるか、原因はわからないけどなぜか心が伝わることも。


リアンヌさんがボクに言った。


「不思議な話じゃ。なにか……とてつもない秘密が隠されておるのぅ……」



そのとき、大地震でも起こったかのような地響きと轟音が響いた。

轟音が起こった方を皆が一斉に向いた。



光が見えた。

死者の大群が光に吸い寄せられるように群がっていく。

白い輝きが空に飛びあがった。

それは全身白く輝く鎧を(まと)った女性のようだ。

女性は空中で右手に持った剣を一閃する。

ただの剣の一振りで、大勢の死者たちが倒れ、動かなくなる。

二振りで、数十という数の死者が動かなくなった。

それでも死者は、目的のものを見つけたというように恐るべき速さで走り、

白く輝く女に突撃していく。

白い光は建物の屋根に飛び乗る。


「あ~~~ん、うっと~し~わぁ~~」


リアンヌさんがポツリとつぶやいた。


「あ、あれは……」


魔法使いのお兄さんがそれを引き継いだ。


「うむ……厄介なのが来た……」


2人そろってつぶやいた。


「勇者メーヤ……」


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