プロローグ
不定期更新です
ただの『成金』ではない。
『成金』の『ナノ』という名を持つ少女の物語。
ーーーーーーーー私は壊れた携帯のバイブのように震えていた。
悲しみや怒りから来る震え・・・・・ではなく、喜び、期待、そして同等の量の不安を
胸に抱えて、自室の姿鏡の前で震えていた。
窓からは爽やかな朝日が差し込み、今日という特別な門出を美しくしてくれていた。
「ダイヤモンドが美しい光に照らされないと美しくならないように、最高の日には最高の天気が来るものね、おほほほほほほほほほほ」
少女がご機嫌の良さを象徴するように、
笑いの動きに合わせて揺れる黄水晶のような艶のある長い金色の髪が
朝日を反射して輝いていた。
「そして、最高の日となる今日の私が120%の美しさでなければ今日の主人公失格!!
人生をドブに捨てるレベルの重罪ね、ふふふ♪」
上機嫌に鼻歌を歌いながら、鏡に小さな顔を近付けて
朝早くに起きてセットした化粧の不備がないかじっくり確かめる。
その黒い瞳は無邪気な少女らしく純粋で、澄み切っていて、それでいて奥底に不屈の戦士を感じさせる
アンバランスでどこか引き寄せられる勝ち気な瞳をしていた。
「うんっ!120パー、いえ140%の仕上がりね!」
スカートの裾を持ち、ゆらりと一回転してみる。
全体的に水色で裾の部分に一本濃い栗色の線が入っている特徴的なプリーツスカートが
回転したときに優しい風で少し宙に浮く。
上の服は、全体的に水色で胴前だけ暗い栗色になっており、黒いボタンが付いている。
胸元には水色のリボンがつけてある。
時代の最先端のファッションを取り入れた特徴的すぎる学校指定の制服は、TV、雑誌などメディアにも大々的に取り上げられた。
制服を見ただけで学校を特定されるため、もしも街中で問題を起こしたら
例え学校名を名乗らずとも、すぐに学校に連絡が行くぐらいに認知度も上がった。
言い換えれば、常に世間の無数の監視の目があるということだ。
独特の配色から世間から付けられた名前の一つで印象深かったものがある。
『チョコミントアイスを制服化したもの』。
・・・・・正直、うまいと思った。アイスだけに。
・・・・うまくない。寒いわね。
まあ、色々批判を言われているが私はこの制服をとても気に入ってるし大好きだ。
自分の身支度の完璧さを確認したところで、姿鏡に背を向けると
小さな自室、木造ボロアパートの一室が全貌できる。
六個の段ボールに薄い布を巻いて作った質素なベット兼イス。小さな机。テレビ。箪笥。
モノクロ映画の中にカラフルな少女が紛れ込んでしまったような空間。
「しばらくこの部屋ともお別れになるわね・・・」
私はじっと部屋の景色を目に焼き付けた後、大きな旅行バックを肩にかけ、
外に出る。
「行ってきます。次帰ってくるとき笑ってるのか泣いてるのか分からないけど・・・」
外に出ると空は快晴。
両腕を空に思いっきり伸ばし、空気を吸い込み、
全身に爽やかな空気を充填する。
「全力で挑んできてやるわ!修学旅行!」
そうして、少女は駅へと全力で走っていくのだった。