表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RAID(レイド)   作者: DSパルナラ
1/1

一章 再開

「良一!あのさ明日ショッピングに付き合って欲しいの」

「なんだよ岬、一人でいきゃいいだろ」

 後ろで二つに束ねられた長く美しい黒髪が風になびいていてそれに目が奪われる。岬は前のめりに体を出すと上目遣いでこういう。

「お金かして欲しいの、金欠でさ」

「お前考えなしに金使うからな、自業自得」

「お願い!今度良一の願いなんでも一つ聞くからさ」

 建物の陰に太陽が隠れていく。世界は赤くなっていき太陽は大きくなっていく。そのせいかお互いに顔が赤くなっている気がする。

「わかった。今回だけだぞ。幼馴染のよしみだ。俺の家が隣だったことに感謝するんだな」

 なぜかいつも岬の願いを断れない。きっと僕は欲しているからだろう。彼女、幼馴染である岬の笑顔を。そしてこの言葉を。

「ありがとうね」

 照れを隠すように僕は後ろを向き手を振る。

「じゃあ明日ね」

 ふりむくとほんわか赤が残るこの世界に黒い影がどんどん小さくなっていく。それは弱弱しく今にも消えてしまいそうな点になってゆく。やがてその点は見えなくなった。街灯がない田舎町だ。夜は暗く昼の暑さが想像できないくらいに寒い。風邪をひかないように早く家へ帰ろう。



一章再会


 高校に通う毎日。もう飽きてきた。特に刺激のない毎日で同じことの繰り返しを行なってきた。今日も同じように学校を通う。

「おはよう!良一。相変わらずしけたツラしてんな!」

「栗峰うるさい!朝から騒がしいから黙って」

 ガタイのいい少年は僕の背中を叩き僕の二、三歩前に出ていく。

「宿題やってないからうつさせてね」

 そういうと歩くペースを僕に合わせた。

「絶対やだよ」

 そんな雑談をしていると学校が見えてきた。


  キンコンカンコン♪


「今日は部活の抽選会があるから山中先生はお休みです。自習しててくださいね」

 突然の自習報告にクラスは歓喜の渦に包まれた。がそれはすぐに収まった。二時間目の数学の宿題をみんなやりだしたのだ。どれだけの人間が宿題を当日にやるのか。僕は周りが必死に宿題をやっているのを眺めながら家で終わらせたものにしか味わえない優越感に浸っていた。

「良一くん!宿題うつさせて!」

 セミロングの茶髪で小さな少女が椅子を持って僕の机の前に座った。

「彩乃ちゃんか。自力でやりなよ」

 少女は問答無用で僕の机にノートと問題数を広げていた。

「おい彩乃!お前、俺がうつさせてもらう約束していたのに」

 栗峰も椅子を持って僕の机の横に座った。狭い机の上はいつのまにかごっちゃんごっちゃんになっていた。

「いいから二人とも宿題くらい自分でやれい!」

 軽くげんこつを二人に食らわせた。

「お願い!なんでも一ついうこと聞くからさ」

 彩乃の発言が僕の頭の中の記憶を蘇らせる。昔好きだった女の子、彼女ともこんな会話をした。

「どうしたんだよ良一、ぼーっとして。あ!もしかしてお前」

 栗峰がニヤニヤした顔で彩乃に目配せする。彩乃も栗峰をニヤニヤした顔で目配せし返すと二人同時にこっちを見る。

「好きな子のことでも考えてたんでしょ」

 意識をしなくても顔に熱を感じる。図星を突かれたからかな。

「そ、そんなわけないだろ」

 やってしまった。必死に否定する僕の返答は肯定していると誰でもわかってしまう。僕はうつむき目を閉じる。しばらくして顔を縦に振った。

「え、まじで。良一お前好きなやついたんだ」

 そう、いたのだ。一年前、中学生の時。僕は幼馴染の少女岬とショッピングに行く約束をした。だがその約束は果たされることはなかった。彼女は死んだらしい。らしいというのもその日の記憶が丸々残っていないからだ。理由はわからないがなぜかその日のことだけ思い出せない。僕は失って初めて気づいた。僕は岬が好きだ。だが気づくのが遅すぎた。もう彼女には二度と会えないのだから。

「うん、でもその子はもう遠くへ行っちゃったし合うことはもうないかな。」

 無意識に暗い顔になっていた僕に二人は気がついたのか話題を自然に変えてくれた。その優しさは嬉しかったが逆に岬のことが頭から離れなくなってしまった。


 学校が終わり家へ帰る道。僕の友達はみんな部活に所属していて帰宅部の僕は一人で夕暮れの街を歩いていた。と行ってもそれはいつものことで別に寂しいとか感じることはない。はずだった。大きな孤独が僕を襲っていた。まるで何か大切なものを無くしているような、そしてその孤独の中に一人の女の子の像が浮かんできた。それは僕の一番会いたい人、好きな人。

 僕はとある一日の記憶が丸々抜けている。その日何があったか、岬はなぜ死んでしまったのか。誰に聞いても自然に話をそらされ答えてくれない。もしかすると今日も好きな子の話の時に話を変えられたのはその記憶のない一日を隠すためであって優しさではなかったのではないか。そんなことを考え出してしまう。 

 人が信用できなくなっていく。僕をみんな騙している。孤独がそんな僕を人を信用できない人間に変えて行く。

 家に着くと電気をつけず風呂へ向かった。両親は海外にいてもう数年間会っておらず一人暮らしの僕にとって二階建ての家は広く感じる。風呂場は二階にあり暗い階段を登る。たかが十数段の階段だが暗い気持ちの時はそれが僕に大きな疲労を与えるのだ。

 ため息をつくと制服を脱ぎハンガーにかけた。下着は洗濯機にぶち込んでボタンは押さずそのまま風呂へ入った。

 水がお湯に変わるまでシャワーを流し続ける。このシャワーの音が孤独感を煽る。しかし暖かくなってきて体にかけた時にはそんな孤独感は吹き飛んでゆく。シャワーは素晴らしい。心を洗浄してくれる。

 風呂を沸かすのは面倒なのでシャワーだけ浴びたらタオルで体を拭きそのままベットに入り込んだ。濡れた髪の毛から滴る水がじわりじわり枕へしみてゆく。髪の毛を乾かすのをよく忘れるというか面倒になる僕の枕はいつのまにか大きな茶色いシミがついていた。

 目をつぶって手を広げて大の字になる。そしてしばらくして僕は深い眠りに落ちていた。


「ハックション!」

 体の寒気、鼻の違和感に起こされた僕は自分が風邪をひいていることに気がついた。熱を測ると37.7度と微熱があり、今日は重要な授業やテストなどは予告されていなかったためとりあえず学校を休むことにした。

 学校を休むと大量の暇な時間がやってくる。それは普段に比べて長くそして辛い時間になる。学校を休んだ罪悪感ややることのないいらだちが僕の暗い気持ちを増幅させ、それを抑えるために寝ると暗い気持ちだったせいか嫌な夢を見るのだ。目がさめるとどんな夢だったかはなんとなくしか覚えていないが学校に関する夢だった。みんなに騙されている、利用されている。空白の一日に僕を葬る作戦でも組まれていた。という馬鹿げた夢だった、そんな気がする。

 その夢は僕の中の人間不信を加速させ人が信用できなくなって行った。

 次の日も次の日も学校を休んでは寝て嫌な夢を見る。僕は人に会うのが怖くなっていきいつのまにか引きこもりになっていた。


引きこもりといっても一人暮らしをしている以上食料を調達しなくてはならない。三日も引きこもれば冷蔵庫の中はからになる。

 食材を確保するために近くのスーパーへ行くことにした僕は三日ぶりにパジャマを脱ぎ外着に着替えた。スーパーまでは歩いて数分の距離にあって遠いわけではないが引きこもりにはだるく感じる、そんな距離だった。

 ドアの鍵を開けると僕は目を疑った。というよりも自分が夢を見ているのだと思った。目の前にはすっかり大人の体になった岬の姿があったのだ。

「久しぶり!覚えている?」

 僕は口をポカンと開けその場に固まっていた。どう見てもその少女は岬でありそれはこの世にもういないはずの人間だった。そんな彼女は相変わらず後ろでツインテールにしていて笑顔が可愛かった。

「固まってないでよ良一、せっかくの再会なのに」

 僕の中では喜びと恐怖が戦っていた。会いたかった、求めていた彼女がそこにいるのだ。嬉しくないはずがない。だがそれと同時にそれはこの世の矛盾であり存在してはいけないものである。そんなものが自分の目の前にあると考えるとやはりこれは恐怖なのである。

 頭の中を駆け巡る思考から求め出された答えは「彼女は幽霊だ」というものだった。

「岬、とりあえず上がってよ」

 僕は彼女を自分の部屋へ案内すると熱いお茶を二つ用意し運ぼうとした。しかし途中で彼女が熱いものが苦手だったことを思い出し違うカップへお茶を移し温度を下げた。幽霊といえど岬に会えた。僕は無意識のうちに涙を流していたみたいだ。地面に落ちる涙の音でそのことに気がついた。こんな姿を岬に見られたら恥ずかしさで消えてしまいそう。お茶を放置し洗面所へタオルを取りに行った。涙を拭きお茶を持って岬の元へ向かった。

「遅い!何やってたの」

 岬は四つん這いになってベットの下を覗きながらそう言った。

「お前こそ何やってんの」

「宝探し」

 僕はため息をつき彼女の前にお茶を置いた。

「エロ本なんてないぞ、僕は健全なんだ」

「健全な男子高校生ならエロ本くらい読まなくてどうするの」

 そういうと彼女はお茶をぐいっと一気飲みした。

「チッチッチ、今時エロ本なんて読まん!時代はネットなのだよ」

 得意げにそう言い岬の顔を見たがその顔は険しい表情をしていた。

「ごめん岬、エロ話嫌いだったっけ?」

 岬は首を横に振り一呼吸置いて立ち上がった。

「そんなわけ、てか話振ったの私だし」

 岬は目をつぶったかと思うと勢いよく僕を指差し叫び出した。

「お茶がぬるい、ぬるすぎる!」

 僕は驚いた。確実に彼女は熱いものが苦手だったはずだ。それなのに「ぬるい」と怒られるとは。夢にも思わなかった。

「岬って熱いの苦手じゃなかったっけ?」

 彼女は少し戸惑ったのかキョトンとした目になりその後笑顔を作って見せた。

「克服しました!」

「マジか、おめでとう」

 僕と彼女はそれからしばらく身のないどうでもいい話を数時間続けた。気がつくと日が暮れていた。

 ふと僕は一年前のことを思い出した。なぜ彼女が死んでしまったのか、僕はその日の記憶がない。本人が目の前にいるのだ。聞いてみればいいのではないか。でも本人に直接聞くのは何か不謹慎な気がしてその話題を持ち出せなかった。

「どうしたの、急に黙り込んで?」

 そんなことを考えていたら僕は黙り込んでしまっていたようだ。

「い、いや、なんでもないよ」

「悩み事でもあるの?聞くよ」

 優しい声でそう囁いた彼女に僕は思わず疑問に思っていたことを口に出した。

「一年前、ショッピング行く約束してた日なんだけどさ、全く記憶になくてさ」

 彼女の顔が明らかに一瞬暗くなったがすぐに元の顔に戻った。だが表情はいつもの笑顔ではなかった。

「あぁ、その日ね。約束守れなくてごめんね。私の母イギリスでファッションの仕事してたんだけど倒れたって連絡があって、急遽イギリスへ行かなくてはならなくなってさ」

 僕はふと彼女は死んではいないのではないかと考えた。そもそもなんで死んでるなんて思っていたのだろう。葬式だってやってないではないか。自分の記憶がなかった日にいなくなったってだけでそれをイコール死と繋げたのは違っていたのだ。

「確認だけど、生きてるよね?」

「当たり前じゃん!何、一年間会えなかっただけで私死んだことになってたの!?良一ひどすぎるよ」

 僕は彼女に抱きついた。勢いよく飛びついたからか押し倒す形になった。

「なになにどうしたの」

 照れてるからか焦っているからか彼女の声は弱弱しく震えていた。

「もう離さない。僕は君を失いたくない」

 もうどうなってもいい、何があっても彼女だけは失わない。辛かったいこの一年が僕に教えてくれたこと。気持ちが一気にたかぶる。

 大事なものは失ってから気づく。

 彼女に顔を近づけた。

 彼女は目をつぶったまま全てを受け入れるかのようにしていた。それを見て我に返った。勢いでキスするのは違うと気づき彼女を解放した。

「岬が好きだ」

 僕はそういうと次の瞬間恥ずかしさがどっと僕を襲ってきた。彼女の顔を見ることができず今までなかった心のモヤモヤが心臓を強く圧迫する。好きなはずの彼女と一緒にいるのが急に怖くなって部屋か逃げ出そうとした。

「お茶、あったかいのがいいんでしょ。くんでくるね」

「これが愛ってものなの?」

 驚いているのか彼女の声はか細かった。なんて返せばわからない僕は気まずいとわかっていながらも言葉を発せられずただただフリーズしていた。

「うんん、やっぱなんでもない」

 僕は気まずさから解放されるために部屋を出た。深呼吸する。これは振られたのだろうか。急に愛について聞いてくる。少なくともOKではないのかな。

 お茶をつぎ部屋へ戻り岬に熱いお茶を渡した。岬は軽くありがとうの意を表すためか会釈をしてお茶を飲み出した。熱いからか軽く一口飲んだだけでそのカップを机に置いた。

「正直私、好きとかなんなのか全くわからないの」

 僕は軽く頷いた。

「だからさ、それがなんなのかわかりたい。」

 彼女は真剣な目をしていたが目が輝き好奇心あふれる子供のようだった。

「きっと僕を好きにしてみせる」

 僕は飽きていた日常がそれまでとは別世界。同じ見た目の違う世界に召喚されている。そういう感覚がした。これが愛というものなのだろうか。漫画とかで読んだことがある。恋をすると世界が色づきだすと。普通に恋できる幸せ。これもどれも全て彼女が持ってきてくれた。家を出て行く岬に僕は一言声をかけた。

「ありがとね」

 恋をさせてくれて、生きる希望を与えてくれて。

 彼女は美しい。たとえ彼女に何があろうとも僕は彼女を愛し続ける。二度と失わない。この夜僕はそう胸に誓った。


 四日ぶりの学校。そんな長期間休むのはインフルの時ぐらいだろうか。久しぶりというものは不思議と普段のいつも通りに緊張をもたらしてくれる。

 引きこもりが長くなると家の外へ出るのが怖くなるというのは聞いたことがたった四日間でこんなにこんなに緊張感が生まれるなんて、長期間引きこもっていたらきっと緊張感が増幅して恐怖感みたいになるのだろう。

 蝉の音が響き渡り夏ということを思い知らされる。気温的にはそんなに暑くはないのに汗がじわじわ出てきて服に染み込む。

 夏だ。夏?僕は重大な問題を思い出した。


「期末テストっていつ?」

 教室に入るとそう叫んだ。教室中が静まったと思うといきなりみんな笑い出した。

「なにそれなにそれ」

「それよりもうすぐ夏休みだぜ」

 アホヅラ下げた栗峰と彩乃がアホアホとやってきた。

「お前ら、勉強しないのか」

「久しぶりに来たと思ったら勉強の話題とか馬鹿なんじゃないの」

 ケラケラ笑いながら栗峰が腹をどついた。

「いいや、栗峰くんと彩乃さんは勉強するべきよ」

 身長の高い長い黒髪のメガネの女の子がやって来て強い口調でそういった。

「委員長!別に勉強なんていいじゃん」

 僕は栗峰の腹に軽くパンチを入れると彩乃の髪をぐちゃぐちゃっとして机の上に腰掛けた。

「このままだと君たちに夏休みは来ないよ?」

 僕は委員長に目線を送った。

「そうね、赤点三つ以上あると夏休み中は補習になるわね」

 二人の顔色が変わった。

「勉強教えて」

 泣きながら委員長にしがみついていつ二人を見て笑いが込み上げて来た。

「じゃあさ、勉強会しようぜ」

 僕は三人に提案した。栗峰と彩乃はキラキラした目で委員長を見つめた。委員長はため息をつくと自分の席へ戻りに行った。

「いいわ、付き合う。私も委員長としてクラスから補習者が減るなら嬉しいし」

「やった!」

     ガラッ!

 扉の開く音に驚くと先生が入って来た。

「席につけ、ホームルームを始めるぞ」

 すらりとしたスタイルのいい長い茶髪の綺麗な独身アラサー教師はやる気のなさそうにそういった。

「今日は転校生がいる。入れ」

 そういうと扉を開けた。教室に一人の美少女が入って来た。僕は目を見開いた。

「岬!」

 彼女は僕に手を振ると教室がざわめいた。

「城守岬です。訳あってイギリスにいましたがつい先日日本へ帰って来ました。仲良くしてくださいね」

「とりあえず空いている席に座れ。」

 岬は一番後ろの窓際の席に座った。このクラスに空き席なんてあったっけ。そんな疑問が頭に浮かんだがすぐに解決した。転校生が来るから一つ用意したのか。僕は一人で頷いていた。

 休憩時間になると僕は岬の元へ向かった。

「岬、この学校にくるなんて知らなかったよ」

「そりゃそうよ、言ってなかったもん」

 岬と会話をしていると栗峰と彩乃がやって来た。

「良一くんって彼女と知り合いなの?」

「幼馴染だよ」

 岬が返答した。

 栗峰は何かを察したかのようにニヤニヤ笑い始めた。

「なぁ彩乃、岬ちゃんも勉強会に誘おうぜ」

「いいとおもう!」

 二人は岬を見ながら「どう?」と尋ねた。岬は嬉しそうに頷いた。勉強会は楽しくなりそうだ。


 勉強会は僕の家でやることになった。それは日曜日でテストの前日だった。前日というのは合理的だと思う。勉強というものは日々積み重ねることで頭に入っていくものだがそれを僕らはして来なかった。つまり普通なら赤点量産のひどい結果になるはずだろう。ところがテスト勉強には裏技がある。それは一夜漬け。これは前日に無理やり積み込むことで約一日だけその教科だけ覚えていられるというもの。これを使えばある程度の点は取れるはずだ。

 普通の人なら。

「なんで掛け算でミスしてるかな」

「計算ミスぐらい誰にでもあるって」

「いや、多すぎだって。ああ!そこ移行したら符号変えろよ」

 栗峰と彩乃は普通じゃなかった。こいつらの赤点回避は無理そうだ。そう感じた。特に数学。一夜漬けは暗記物しかできない。明日の教科は数学と生物。どう考えても無理だ。というか僕自身もやばい。

「助けてください!委員長様!」

 僕ら三人は土下座した。

「助けてと言われてもねぇ」

「要点とかさ、教えて欲しいでござんすよ」

 委員長は困った顔を見せてからため息を着くと問題集を取り出した。黄色チャートだ。

「数学はココとココとココのページの問題解いとくといいよ。わかんなかったらどっかに解説載ってるはずだし私も教える。とりあえず赤点は逃れられると思うよ」

 僕は彼女の手を熱く握るとお礼を伝えると問題を解き始めた。

 ふと岬の学力が気になってのぞいて見た。僕は思わずペンを落とした。ノートはめちゃくちゃうまい可愛い女の子のイラストが描いてあった。

「み〜さ〜き!勉強しないの?委員長が教えてくれるぞ」

「勉強?しないよ」

「へ?明日テストだよ」

「別にいい点取る気ないしさ」

「じゃあなんで参加したんだよぉ」

「だって、みんなでワイワイ楽しそうだったんだもん」

 岬は僕のノートを覗き込んだ。

「でもさ、良一は勉強したほうがいいよね」

「なんでだよ」

「それ全部間違ってるよ」

 僕は慌ててノートを見返した。

「え?答えあってるよ?」

 岬は馬鹿にした笑いをしながらノートを指差した。

「そこmは整数って言っとかないとだめじゃん」

 そうこうしながら勉強していたらいつの間にか寝てしまった。


 視界が赤い。絶対におかしい。街が燃えてる。人の死体が大量に転がっている。

「き、きみ!助けてくれ。腹がグフゥォ!」

 中年の男性が腹を抑えながらやってきた。

「大丈夫ですか。どうしたんですか」

 男性はその場に倒れこむとうめき声をあげた。

  ドカン!

 男性は腹が急に膨れ上がり爆発した。僕は目をつぶりビルの陰に隠れた。しゃがみこみ嘔吐した。

 何がどうなっているんだ。頭がおかしくなったのか。訳が分からず走り出した。視界に入る死体の山に燃える街。数分おきに爆発の音が聞こえる。もしあれがさっきの男性みたいなものだと考えるとまた吐きそうだ。僕は発狂した。

 僕の目の前に岬が現れた。

「良一、襲撃だよ!どうしよう」

「襲撃?何が」

 僕は早口でそう叫んだ。

 岬は空を指差した。その先には小さい飛行船みたいなものが数台ふわふわと浮かんでいた。

「飛行船?」

「良一見なかったの、ついさっきあの飛行船が大量に現れて一気に爆発したの。その時から、人が、人が!」

 僕は頭がこんがらがり真っ白になった。何も頭に入ってこない。

 しばらくすると視界に二メートルはあり筋肉のすごい大きな西洋人風の男が入ってきた。岬の後ろに立つと僕は彼が敵だと察した。

「岬!逃げろ!後ろ」

 手遅れだった。岬は地面に押さえつけらていた。

「汚い手で岬に触るな!」

 叫びながら、無我夢中で男に殴りかかる。攻撃はあたりはするが効いていないようだ。筋肉が固すぎる。

「逃げて良一!」

「やだ!絶対にお前を助ける」

 何か彼女を助ける方法はないのか。


 目を開けるとそこは僕の部屋だった。悪い夢を見た。勉強しながら寝落ちしたからか。さて今日はテストだがんばらなくては。

「みんな起きろ!学校行くぞ!」



二章へ続く





 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ