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異世界はチートで大変なことになりました。シリーズ

ある女性のたった一つの祈り

作者: 黒井 陽斗
掲載日:2017/07/10

 こうして揺蕩う魂魄だけになった私の目の前には、無数の世界が、無数の可能性があるわ。


 それは大きさも形も全て違う、大いなる意志によって作られる世界、数多の感情というモノが折り重なってこの瞬間も新しい世界ができてゆくのでしょう。


 私は上を向く。


 そこにあるのは、私の大事な世界、私の愛した人私を愛してくれた人、私のすべてがあった世界。


 あの人はその世界を守りたいと願ったわ、私達を愛して、私達の未来を繋ぎたいと願ってくれたの。


 その希望、願い、祈りを、意志を大いなる意志は認めないでしょう、きっと理解しないでしょう。


 それでも私はそんな優しい彼に滅んで欲しくない、だから私は希望を必死に拾い集めるの、どんな無様でも、どんなに惨めでも、どんなに情けなくても……。


 大いなる意志の中に希望を探すの、想いを集めるわ、願いその全てを束ねてあの人に届けるの。


 それは僅かにしか無いのかもしれない、僅かにも無いのかも知れない、私のすべてを賭けた行動には全く意味が無いのかも知れないわ、でもね。


 ここで私が諦めてしまえばきっと、あの人も数多の絶望に押しつぶされてしまうわ。


「貴方に私の声は聞こえていますか?もし聞こえているのなら私の話を聞いて下さい、どうかお願いです、もし私声が届いているのならば少しだけ耳を傾けて欲しいのです」


 それなら私は、私はこんなところで諦める訳には行かない、諦めるなんて出来ないのよ。 


「貴方の世界より遥か遠くの世界の話を語ります、私は硝子の向こうに居る貴方に聞いて欲しいのです」


 光り輝く世界、楽しい世界、そんな物にしか大いなる意志は目を向けないようで、ここにある数多の意思には、私の声なんて雑音としてしか響かないと思うわ。


「私の世界は人に災いを齎す存在、のろいが降ってくる世界です、そこで起こる悪意と哀しみに満ちた多くの出来事を語ります」


 私の世界の様に絶望に沈もうとする世界に、彼らは目を向けてなんてくれない。


「それは苦難に満ちた一人の英雄の話です、彼が私の世界で見て感じ思う事、その全てをここで語ります」 

 

 そうだとしても、たった一つでもいい声を拾ってくれくれるのなら、何度でも諦めないわ。


「もしも貴方が一欠でも彼を不憫に思うなら、どうか私の話を聞いて下さい、願わくば私の願いを聞き届け、どうか私の願いを叶えて下さい」


 この世界は価値がない、そんな事はないわ絶対にそん事はない、貴方が私の世界を知らないだけよ。


「彼は私を愛してくれた唯一の殿方なのです」


 今は信じるしか無いの、未来を信じるしか無い、私の思いが愛する人が笑って暮らせる未来の素晴らしさを。


「そんな愛を与えてくれた殿方を支える事すら適わない、無力な私が願う事はただ一つだけです」


 大いなる意志はこちらを向かない、きっと楽しい世界を見るのに忙しいのね、それでも諦めないわ。


「彼の幸せ、ただそれが、私の唯一つの願いなのです」


 無数の大いなる意志に語りかけ助けを求めて弾かれる、私の魂魄は少しだけ削れてしまった、だけど構わない。


「もし、この声を聞いた貴方が気まぐれでも私の願いを聞き届けてくださるのなら、貴方の想いの力を彼に与えて下さい」


 彼は今、魂が消滅する程の痛みを感じていることが解かる、あの人の声は聞こえなくてもあの人の温もりが感じれなくとも……。


 それでもね、あの人が感じている痛みを私は感じる事は出来るのだから……、だからね……。


「暗く深い絶望で押しつぶされそうな彼の行末を、どうか優しく照らして救いを与えて下さい」


 私はそれだけは嫌、たったそれだけの事で私は全てを投げ捨てるわ、それで優しい彼が絶望に泣かなくてよくて、私の愛した世界が守れるのなら。


「私は優しく暖かなあの人が、後悔と哀しみで涙に濡れて絶望の底で生を終えずに済むように願っています」


 私はたったそれだけの事で全てを投げ捨てた莫迦な女、だけど……。 


「それだけが私の願いであり、それだけが愛した殿方に唯一無力な私が捧げられる祈りなのです」  


 側に居て支える事すら出来ないちっぽけな私が、唯一彼にしてあげられる事なのだから。

この話は異世界はチートで大変なことになりました。のスピンオフです、内容的には第二章第六話の話です。

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