劇場版 双子姉弟ウイヅキ~逆襲のノエル~
なんだあれ。触手召喚とかそっち系の能力か?
「なんか、うにょうにょしてて気色悪いわね。」
「いつまで、余裕ぶっていられるかな?」
・・・なんかさきねぇが触手に襲われてるみたいで嫌だな。
あ! ファ太郎の攻撃でさきねぇの服にちょっとずつ切れ目が!
「ちょっとファ太郎! 服、これ、どうしてくれんのよ! 誰が縫うと思ってんの!?」
「さぁな。少なくとも私では無い事は確かだ」
「てんめぇー何してくれとんじゃぁぁい!!」
この俺が触手に捕まったヒロインが『嫌ぁ!ダメぇぇぇ!』みたいなエロゲー的展開なんて許すとでも思ってるのか!
「ええい、小賢しい真似を・・・大人しく私の姉になればいいのだぁぁ!」
え、なに、このおっさん、この歳で姉がほしいとかシスコン拗らせてるの?
怖っ! 事案発生! おまわりさーん!
「あのね、ファ太郎。天然純度100%の姉である私に憧れる気持ちはわかるけど、こればっかりは持つ者と持たざる者、つまり勝ち組と負け組み・・・それは生まれながらに決まっているのよ!!」
「なん・・・だと!? ・・・では、私は一生姉が得られないというのか!!」
さきねぇのドヤ顔混じりの説得(?)に愕然とし、俯くファ太郎。
いや、姉って後から入手できるものじゃないし。人生スタートからの初期装備で一生はずせない祝いのアイテムだし。
異世界怖い。
「そんな落ち込まなくても・・・ほら、にゃんにゃん系の店にいってお金払えばそういうプレイができるかもしれないし、ドンマイ!」
おいやめろ。
「ならばもう良い!! 手に入らぬ物ならば、それは元々私には不要だったと言う事よ!」
「何そのすごいラスボス感がある台詞! ずるい! 私もなんか言いたい!」
「いや、そういう流れじゃないからね今。ちょっとタイミング考えて。」
確かに俺もラスボスっぽいと思ったけど!
「もう、遊びは終わりだ! 貴様を捩じ伏せ、姉よりも私の方が優れているという事を証明してやろう。」
「はぁぁぁぁぁ? 実姉どころか義姉もいないくせに自称姉より優れてるとかへそで玉露が美味しく蒸せちゃうわ! ちなみに60度よ!」
なぜへそで玉露を蒸す必要があるのか。
まぁさきねぇのおへそで蒸らした玉露とか有形文化遺産登録確定の国宝級アイテムだけど。
「ほざけ! 先に言っておくが、これから繰り出す技は、先程までの物とは次元が違う。負けを認めるなら、今の内だぞ?」
「煽り方が足りないんじゃないの~? もしかして~ピッチャーびびってる~?」
ばっちこーい!みたいな構えを取るさきねぇ。
いまだにファ太郎がシリアスキャラなのかギャグキャラなのかの判断が難しいので、どんな技がくるのか想像もつかん。
「親切からの忠告だ。手加減はできん、死んでも知らんぞ」
「あら、死の宣告? 残念ね、私はどっかの神様と違ってボス耐性持ってるから即死技とか効かないのよ!」
「言ったな?」
ファ太郎から嫌なオーラが漂ってくる。
あ、やばい。これあかんやつや。
『出るわ! ファ太郎様の暗黒雷迅拳! 死ぬわ! あなた死ぬわよ!』って感じ。
「臨・兵・闘・者・・・」
ファ太郎のエロ触手が合体して、ファ太郎に重なり合ってる・・・?
「皆・陣・列・在・・・」
あ、ファ太郎と影みたいのがいつのまにか黒い刀みたいなの持ってる!
なにあれかっこいい。
「・・・前!!」
―――――――――ナレーション開始―――――――――――
ムラサキの目が驚愕に開かれる。
攻撃は読めた。九方向からの同時斬撃。
しかし、読めたのと体が動けるかは別。
ムラサキは自問する。
受けきれるか?――否。恐らく全てを捌くのは不可能。
避けられるか?――否。あれは突進系攻撃。避けたほうへ追ってくる。
ムラサキの体に悪寒が走る。
まさか、負ける? この私が?
その時、ムラサキの脳裏に弟の姿が写る。
弟の笑顔、弟の困った顔、弟の泣き顔、弟の怒り顔、そして・・・
『さきねぇ!』
「死ねない!!」
ムラサキは体にあり得ないほどの力が漲るのを感じる。
生への渇望と弟への愛、それらの力全てを剣に込め、一閃!
今ここに、ムラサキ流絶技≪姉×弟の閃き≫、開眼!
―――――――――ナレーション終了―――――――――――
えっと、どうなったのか全くわからん。
なんかファ太郎がすごい速さでさきねぇに突っ込んで、なんか手元が揺らめいたと思ったら、なんか気付いたらさきねぇが左足を前にして抜刀してファ太郎をフッ飛ばしてた。
『なんか』が多いけど、よくわからんからしゃーない。
ファ太郎を吹っ飛ばしたさきねぇも、華麗に着地したファ太郎もお互いにビックリした顔してる。
俺のおいてきぼり感がすごいです。誰か説明してください。
「クックックッ・・・」
「フッ、フフフ・・・」
「フハハハハ・・・」
「フハ、フハハ・・・」
「「アーハッハッハッハ!!」」
「え、怖い。」
急に笑い出すとかやめてください。戦闘民族かよ。
「姉とは素晴らしいものだな。」
「それが分かるって事は見所あるわね。精進なさい。」
めっちゃ上からめせーん。さすがお姉さまや!
「・・・まぁよい。しかし、まさかあの伝説の技を再現するとは、恐れ入った。」
「ファ太郎こそ、あの(るろ剣の)人をリスペクトするなんてやるじゃない!」
「むっ、あの人物の事を知っているのか!?」
「え? あったり前じゃん。常識よ、じょーしき。むしろ(るろ剣を)知らない人なんているの?」
「いや、私は、擦りきれてボロボロになった書物でしか知らん。だから、所々分からない部分があるのだ」
「えっ、じゃあちゃんと(漫画を)読んだ事無いの!? 勿体無い、ファ太郎、あんた絶対、人生損してるよ!!」
なんかわかりあってる。ちょっと悔しい。
「やはり、そうか・・・」
「よし、ファ太郎、今から飯食いに行きましょ! そこで、あの人の事をみっちりと教えてあげるわ!!」
「よかろう、ならば支払いは私が持つとしよう。」
「おっ、さっすがファ太郎、話が分かるわね。朝まで語るから、覚悟しなさいよ?」
「フン、誰に物を言っている、臨む所だ!!」
「「アーハッハッハッハ!!」」
俺みたいな凡人にはわからない何かで繋がったらしい。よくわからん。
「まぁ平和的に終わりそうでよかったよかった。」
・・・と思ったら凄まじい魔力が矢のような早さでこっちに向かってきた。
あ、あの銀色に光るちっちゃいものは・・・!
「二人とも大丈夫か!?」
当然のようにノエルさんだった。
しかも右手に月光剣、左手に鮮血の月と完全武装だ。
これがかの有名な『〝破軍炎剣〟ノエル・エルメリア』モードか。
今思いついたけど。じゃあ有名じゃないじゃん。
「おっ、エルエルじゃん。どうしたの完全武装なんかしちゃって?」
「モブ顔の女を奴隷のように連れている貴族が二人を追っているらしいと聞いたのだが・・・」
「え? 何言ってるの? ファ太郎は、心の友と書いて心友よ、シンユー。つまりマブよマブ、分かる?」
モブ顔の女ってもしかして、岩場の奥でこっちの様子を伺っているギルド職員のことだろうか・・・
そんなことを考えていると、ファ太郎が困惑顔でさきねぇに話しかける。
「・・・なんだこの乳臭い幼女は?」
おい。地獄を見たいのか。
「この乳臭い幼女はおばあちゃんよ?」
おい。地獄を見たいのかパートツー。
「幼女なのに、おばあちゃんなのか?」
「そうよ、幼女なのに、おばあちゃんよ?」
「つまり乳臭いBBAか。」
「つまり乳臭いBBAね。」
いじりすぎだろ!
そんなこと言ってたら絶対・・・!
「どけ、ムラサキ、そいつぶっ殺す」
ノエルさんからとてつもない魔力が吹き荒れる。
そして・・・!
「・・・という夢を見たわ。」
いつものように三人で朝ごはんを食べながら、さきねぇの見た夢の話が終わった。
「・・・で、オチは?」
「え。ないけど?」
「ないのかよ!」
「いや、夢だし。そんなもんでしょ。」
「いや、そうだけどさ・・・」
けっこう長かったからなんかオチがあるのかと・・・
「じゃあ感想を聞きましょうか。ヒロからどうぞ!」
「えー感想? 感想ねぇ・・・さきねぇが夢の中とはいえ俺以外の男とちょっと仲良くなるとかちょっと嫌だな。」
「やーんもうヒロってばかーわーいーいー! お姉ちゃん襲っちゃうぞー!」
「きゃぁぁぁ!」
さきねぇに押し倒される俺。
ダメ、おばあちゃんが見てる!
「朝っぱらからリビングでサカるなムラサキ!」
「じゃあ真夜中にすることにするわ。場所はエルエルの部屋の前の廊下。」
「きまずいわなんの罰ゲームだ!?」
キーキー言いながら騒ぎ出す二人。
いつもどおりの平和な朝だった。
こんな日が、いつまでも続きますように。
「あ、くしゃみでそう。ハ、ハ・・・悪徳領主ルドルフの華麗なる日常好評連載中ックシュン!」
「無理があるだろ!!」
今日も平常運転な俺たち姉弟なのでした。
これにてmaster1415先生とのコラボレーション企画『あくおれ!~悪徳領主と弟の楽しい異世界生活~』完結でございます。
いかがだったでしょうか? こういったものは初めてだったので色々大変でしたが、私個人としてはとても楽しかったです(笑)
……評判がよければ第二段もある、カモ?
信じるか信じないかはあなた(とmaster1415先生)次第です……!