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夕闇が近づくと庭先では蛍が仄かな光を放ち出す。その幻想的な風景を眺めるよりも追いかけることの方が楽しくて、私たちは植物の葉先や自分の肩にとまったそれを握り潰さないようそっと捕まえては遊んでいた。縁側では蕗さんが朝顔の絵のついた団扇で首の辺りをゆるく扇ぎながら私たちを見守っていた。蛍は捕まえても捕まえても、後からどんどん湧いてくるかのように思えた。爪の先ほどの黒い小さな虫のお尻がじわじわと光るのは本当に不思議で面白くて、私は夢中になりながら蛍の歌を誰よりも高らかに歌っていた。
その声が届いたのか、奥から祖母がいつもの剣幕でやってきた。
「いい加減におし。蛍は死んだ人の魂や、そんな気まぐれに遊び道具にしてええもんやありません」
そしてその怒りはいつものごとく蕗さんに向けられた。雷が去っていくのを、私たちは震えながら待つしかなかった。
祖母がいなくなって、やっぱりいつも通り彰が小さな声で謝ると、蕗さんは私たちの頭を順番に撫でてくれた。彰、由希、そして私。蕗さんの手は真夏だというのにひんやりしていた。もっとそのまま置いててくれたらいいのに、と思った彼女の手が私の頭から滑り落ちたとき、蕗さんの薄い唇が小さく開いた。
「気まぐれって、そんなに悪いものやろか」
それは問いかけというより独り言に近かった。私はどうとも答えられずに彼女を見上げていた。蕗さんはすぐに笑みを結んで、「アイスクリーム食べよっか」と呟いた。
「食べる食べるっ」と由希が飛び跳ねて、私と蕗さんの間に割り込んだ。蕗さんはそっと立ち上がって「待ってて」と言いながら座敷の奥へと消えた。