表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

8話

 イルクは去り際も大爆笑で「ご、ごめんね、ヒィちゃん。折角のお散歩じゃましちゃって……くっ、ふはははは!」だって。

 リューイはリューイで「さっさと会社戻れよ! 俺もヒィ連れて帰ったら行くから! 余計な事いうなよ!」なんて感じであわあわしてたし。


 結局その後すぐ帰宅して、リューイは会社に行っちゃった。

日曜日だからお休みだって言ってたのに。

 でもちょっと面白いリューイが見れたから我慢しよう。お土産も買ってきてくれるって言ってたし。


 あーあ。一気に退屈になっちゃったよー!


 自分の部屋に戻ろうとして足を止める。

そうだ、リューイの部屋に行ってみよう。

 入っちゃダメだって言われてないしいいよね?


 部屋の主はお出かけ中だってわかっているのに、そーっと部屋の扉をあけてこっそりとのぞき込む。

部屋は黒を基調とした家具でシックにまとめられていてなんとなくリューイらしいなーと思わせる部屋。

 当然ながらリューイの匂いがする部屋、なんだか自分の部屋より落ち着く。


 リューイの大きなベッドでゴロゴロ転がってみたり前転してみたり……うん、飽きた。

 リューイの机の引き出しを開けて何か面白そうなものがないか探して見たり……何もない。

 リューイの箪笥を開けてどんな服があるかチェックしてみたり……黒っぽいスーツや服ばっかりだ。


 そしてまたベッドに転がる。

早くリューイ帰ってこないかなあ。お腹もすいてきたよ……。


 バタン、と扉が開く音がしてハッと目覚める。どうやら寝てたみたい。

扉の方を見るとリューイが呆然と立っていた。

 リューイだ~。おかえりなさーい!

 私はリューイに勢いよく抱き着く。


 「ヒィ……部屋に入るなとは言わない。だがな……引き出しは開けたら閉める! 箪笥もだ!」


 開きっぱなしの引き出しやら箪笥やらを几帳面に閉めながらのお説教。

リューイ、几帳面だなあ。 

 とりあえずコクリと頷くと「本当にわかってる……?」と言わんばかりに見つめられた、気がする。わかってるもーん!


 お説教の後はお昼ご飯。

リューイが買ってきてくれたのはステーキ。

こう毎日お肉ばっかりだと飽きちゃうな……食べるけど。


 「で。これが土産。っても俺じゃなくてイルクから。人間用のお菓子なんだってよ」

 

 そう言って小さな箱をリューイから渡される。

中にはパンみたいなものに白いソースがかかったもの。なんだか甘い匂いがする。

白いソースの上には赤いイチゴが乗っていてなんだかとても可愛らしい。

 これ絶対美味しいやつだー!

 

 ワクワクしながらリューイが買ってきたステーキには目もくれず、イルクのくれた白いお菓子に手を伸ばす。

 「おいおい、それおやつだろ? 先に飯食ってからにしろ」

 がーん。箱をリューイに奪われた。

 恨みがましく見つめる私。

 ジッと見つめる。

 ジーーーッと……。

 

 「……く……ッ! サプリ買ってきといたから後で飲んどけよ!」

そう言うと箱を返してくれた。わあい。

 そのお菓子を手づかみで食べようとしたら白いソースが手についてしまった。

とても食べづらいお菓子だ。

 手についたソースを舐めとる。


 あまーーーーーい!


 食べたことのない味。甘くて、口の中でとけて口いっぱいに広がる。

世の中にこんな美味しい物があるなんて!

 リューイ! これ、凄いよ! 凄い! 甘くて凄く美味しいよ!?


 「そっかそっか、美味いか。よかったなー」


 うんうん! リューイにも一口あげるね!

私はそのパンのようなお菓子を手でちぎるとリューイの前に差し出した。

 ぐっちゃぐちゃになってちょっと汚く見えるけど本当に美味しいんだよ!


 リューイ、ちょっと躊躇してから私の手からパクリとお菓子を食べる。

リューイの赤く長い舌が私の手についたソースまで舐めとりドキリとした。

 そしてリューイの顔が青ざめた……ように見えた。


 「……あままず……っ!」


 そう言うと口を押えてトイレの方に走っていく。

あままず? あまい、まずい、って事?

 えええー? こんなに甘くて美味しいのにー?

 私はお菓子をもう一口頬張る。うーん、やっぱりおいしい~!

 人間用の食べ物ってリューイには食べられないのかもだね、大丈夫かな。お腹壊したりしてないかな。

食べさせちゃって悪い事しちゃったな。

 しばらくしてリューイは戻ってきたけど、凄く顔色が悪い。

お腹壊すぐらいだと思ってたけど……もしかして蜥蜴人にとっては毒、なんてことないよね……?

 

 「ああ、ヒィ、気にすんな。俺、甘いもん苦手なだけだから。そんな心配しなくても大丈夫だよ」

本当に本当なのかな。リューイ凄く体調悪そう。

死んだりしないよね……?

 ごめんね、ごめんなさいリューイ。

引き出し、ちゃんと閉めなくてごめんなさい。

折角買ってきてくれたステーキ食べなくてごめんなさい。

 ちゃんとするから。


 死なないで。


 リューイが私をギュッと抱きしめる。

「心配性だな、ヒィ」

 いつの間にか涙でぐしゃぐしゃになった私の顔を見て頭をポンポンと軽く叩く。

「……あ~、すっげえなごむな。癒される……ヒィ、お前、マイナスイオンでてんじゃねぇの?」

 顔色はまだ悪い気がするけど、なんだか大丈夫な気がしてきた。

マイナスイオンが何なのかわからないけど、私からそれが出てるのなら、それでリューイが癒されるなら、私はリューイの傍にいるからきっと大丈夫だよね。

 私もリューイを抱きしめる。


 私のマイナスイオンがどうかリューイを癒しますように。

 


 

パンのような物に白いソースがかかったもの……答えはショートケーキです。

ソースではなくて生クリームだったのだけどヒィは生クリームを知らないのでソースだと思ったのでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ