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6話

 「起きろ!」

 突然の光が注ぎ込む。

まぶしい……。

 もぞもぞと布団の中に潜り込むと、布団を引き剥がされた。

「起・き・ろ!」


 むぅ……ズリズリと移動し隠れられそうな場所を探そうとするがない。

というか。

 なんか床がフヨフヨする! 

……と思って目をパチッと開いたらそこはあの大きなベッドの上。何これ! 凄い、凄いフヨフヨする!

ベッド柔らかい! 不思議! そういえばさっきの布団も妙に軽くてフヨフヨしてた!


 一通り感動したところでまた眠気が襲ってきたのでパタリとベッドの上に倒れ込む。ぐぅ。

 「寝るなー! く……ッ、なんて寝起きの悪い生き物なんだ……」


 突然体がゆらゆらと揺れたかと思うとドスリと降ろされた。

降ろされた? 気づくと私は椅子に座っていて目の前にはステーキと赤い飲み物。

 「目が覚めたんなら食え」

 ステーキの匂いに食欲をそそられ、言われるまでもなく大きくかぶりつく。うん、おいひい!

ガツガツとステーキを平らげると一気に赤い物を飲み干そうとして……


 ――ゲフッ!


 「うぉい! どした! なんだ! 何があった!?」

 シャツにべっとりと赤い染みができ、手も……


 ――血……こんなにも血が……ッ!


 「いや……なにその小芝居、それ野菜ジュースだから。血じゃないから」

 リューイは素早く雑巾で床を拭きとると、汚れた私のシャツを脱がそうと一番上のボタンを外し……ピタリと手を止める。

 「汚れたしシャワーでも浴びてこい。また着替えだしといてやるから」

 

 べっとりと汚れて気持ち悪かったので素直にお風呂場に向かう。

あの大きな窓からは太陽の光が差し込んでいる。この窓どうにかならないものだろうか。

 軽くシャワーを浴びるとそそくさとお風呂場をでた。

着替えに置かれたのは薄いブルーのワンピース。そしてお揃いのリボンが置かれている。

 とりあえずワンピースは自分で着るもののリボンは自分で結んだことがない。


 居間に向かうとスーツ姿のリューイが新聞を広げていた。

てふてふとリューイに近づくとリボンを渡す。

 「ん? ……なに?」

 「結んで」

 「は? 俺こんなん出来ないけど?」

 「私も出来ない」


 「んー……、よし! ちょっとここ座れ。で、そっち向いてろ」

 リューイに促され隣に座り、頭をリューイに向ける。

リューイの手が私の髪に優しく触れる。

 唸ったり、こうでもないあーでもないと呟いたり、思い通りにいかないようだけど。


 「って! うああああああ! やべえ! 俺仕事いかないと! リボンは帰ってから結んでやるから!」

 玄関に急ぎ足で向かいリューイ、ふと足を止めて私をみる。

 「いいか、外には絶対でるなよ。人間には危険なんだ。わかるだろ?」


 コクリと頷く私の頭をポンッと軽く叩くリューイ。

「よし。じゃあ行ってくる。あと誰が来てもドア開けるな。それと野菜ジュースいれなおしたから飲んどけ」

 

 野菜ジュースは私の体に合わないと思う。

というか何あれ。飲み物じゃないと思う。

「……何その顔。野菜ジュース苦手なのか? でも野菜は人間には必要らしいから飲んどけよ、絶対!」

 念を押された。飲まないけど。


 扉を開け、出て行こうとするリューイ。


 「リューイ」


 リューイが振り向く。


 「気を付けて」


 リューイがフッと笑った気がした。

……とはいっても、蜥蜴人の表情わかりづらい。よくわからない。気のせいかも。

 兎にも角にもリューイは行ってしまった。


 しかし、これでいいのだろうか。

私、ケージに入れていかなくていいの?

首輪は? 鎖は?

 外出るな、とは言われたけど全然外出れちゃうんだけど。逃げ出せちゃえるんだけど。

出ないけどね、怖いから。


 私の部屋、だと言われた部屋に移動してベッドに横たわる。

やっぱりフヨフヨする! 気持ちいい。

 おかしいよね、これ。何で私こんな自由なんだろう?

夢でも見てるのかな?

 目が覚めたらまたあの狭いケージの中にいるのかな。

誰かに買われるのを怯えながら待ってる日々なのかな。


 怖い、これが夢ならなんて怖い夢なんだろう。

 自由な夢なんて見たくない。

怖い、怖いよ……。


 目覚めるのが怖いから、夢なんて見たくない……。



 

 「お前、ほんっとよく寝るよなあ……」

ベッドが軋み、リューイの声で目が覚めた。

 いつの間にか帰ってきたリューイがベッドの端に座っている。


 「真っ暗だったぞ。電気ぐらいつけとけよ」


 カーテンの隙間から見える窓の外、真っ暗になっている。

あれ? 夜? ぐっすり眠ってしまったようだ。

「悪かったな、昼飯の用意してなかったわ。腹減っただろ? 夕飯買ってきたから飯にしよう」


 朝ごはんを食べたと思ったら晩ごはんか。

ぐーすか寝てただけなので全くお腹すいてないんだけどー、と思った途端お腹が『ぐぎゅるるるる』と奇妙な音をたてる。

 ……どうやらお腹はすいてたらしい。



 リューイが買ってきたものはお肉だった。なんかまん丸い変なお肉。お団子みたいなの。

私のはよく焼けてるけど、相変わらずリューイのはほとんど生、そしてどでかい。

 フォークで勢いよく突くと思いのほかすんなりと奥に刺さり、肉汁が溢れ出す。

何なんだこれは。見た目『肉』なのになんか違う。

 

 「ハンバーグ……食った事ねぇか。食えよ、美味いから」


 はんばーぐ。聞いたことあるようなないような、ハンバーグ!

ガブリ! と大きく一口食べて見る。


 おぉぉぉ! おいしい! 柔らかい! 肉なのになんか違う! でも美味しい!

勢いよく一気に平らげると目の前に赤い液体が注がれたコップが置かれた。


 「お前、朝飲んでなかったな!? 野菜ジュースちゃんと飲め!」


 ……野菜ジュースはきっと人間の飲み物じゃないと思うの。

大体飲み物が赤いっておかしくない? 飲み物の色じゃなくない? ジュースの色じゃなくない?

 そんな思いを込めてジッとリューイを見つめる。


 「ぐ……ッ、人間には必要な栄養が野菜にはだな……」


 ジッと見つめる。

 ジッと。

 ジーッと。


 「くぅ! もういい! 明日サプリ買ってくるから! それは絶対飲んでもらうからな!」


 コクリと頷く。

サプリメントは今までも飲んでたから平気。

 

 「ああ、そうだ」


 リューイが朝のリボンを取り出した。

 「アグリに結び方聞いてきた。ちょっと髪かしてみ」


 私はリューイの方に頭を向ける。

優しく髪を触るリューイ。ちょっとくすぐったいぐらい。

 それにしても……アグリ、か……。

私に背をむけたアグリを思い出し、複雑な思いを巡らせる。


私はもうあそこには帰れない。

 帰りたいのだろうか?


 ――わからない。


 「よしっ! 俺、割と手先器用なんだよなあ」

そう言うと私を洗面台の方に連れて行った。

 大きな鏡には、薄いブルーのリボンを大きく結わえた私の姿が映っている。

 「どうよ? って、もう寝るだけだからリボン意味ないけどな」

そう言ってハハハと笑うリューイに何故か心臓がざわめく。


 ざわめく?

 んんん?

 

 眉に皺を寄せて考え込む私の顔を覗き込むリューイ。

優しいような乱雑なような、そんな風に私の頭をわしゃわしゃーと撫でまわすとギュッと抱きしめた。

 「あー……うん……。よし、俺、もー寝るわ。ヒィもあんま夜更かしせずさっさと寝ろよ」


 と、言われても。

お昼寝いっぱいしたから眠くないし。

 何故かいつもより心臓の音がうるさくてどうにも眠れそうにないし。



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