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4話

 朝から無駄にアグリが話しかけてくる。おはよう~とか、今日はいい天気だねえ、とか。

期待を込めて私からの返事を待ってるけど、私何も言わない。

 そんな事よりも。アグリが私を飼うって話はどうなったんだろう?


 ――いまだ私はケージの中。


 カランカランカラン

お店のドアが開きお客さんが入ってきた。

ケージの前で足を止めてはじっくりと『人間』を物色していく。

 そして。私のケージの前で足が止まり、私はお客さんの顔を確認する。


 その射るような瞳と視線があった。

「へぇ~……これはこれは」

 その容貌に私の体は私の意志とは関係なく震えだす。

茶色く丸い瞳からは何の感情も読み取れない。肌は毛がなくピンク色の地肌が露出されている。

羽毛のない、ざらざらとしたその肌に浮いた血管、大きな嘴が彼の容貌を恐ろしく引き立たせている。


 ハゲワシ。


 確かそう呼ばれている種族であったきがする。

体の隅々まで舐めまわすような見つめられ、なんとも居心地が悪い。

私は彼から視線を外し、ケージの隅っこに丸まるように座り込んだ。

 

 ――早く行ってくれればいいのに。


 彼もまた、私の価格を見るとそのまま帰るだろう……そう思った私が甘かった。

世の中にはお金持ちというものが存在する。

『ヒューマニア』に立ち入るような人達というのがまさにそれ。

そんな人達ですら私を高いと言うのだから本当に安心してしまっていた。

そしてこのハゲワシさん、お金持ちの更に上をいく大金持ちだったらしい。

 金額も確認せずに、レジに進むとカードでパパッとお支払い完了。

 私が油断してる間にあっという間に売買契約は完了されていた。


 ケージから出されると黒の首輪をつけられる。手は後ろにロープで縛られるといつものようにアグリが血統書と売買契約書をハゲワシさんに渡す。

 「ありがとうございました~……」

いつもより覇気のないアグリの言葉。

 まって! まってまって! 嫌だ! 行きたくない! 私、アグリに飼われるんじゃないの!?

 涙が溢れてくるその瞳でアグリを見つめても、アグリはフイッと視線を避けるだけ。


 やだ! やだやだやだ!

 「……い、や……」思わず漏れたその小さな声はアグリに聞こえただろうか?

聞こえてるはず。

なのに。

アグリは私を見ようともせず、店の奥へと入っていった。


 店の前には大きな黒い車が止まっていて、ハゲワシさんが近づくとドアが開いた。

ハゲワシさんが私を抱えて車に乗り込んだので、私はハゲワシさんの膝の上に座り込んでいる。

 車が振動もなく走り出すと、ハゲワシさんは私を抱く手に力を入れた。

「随分と柔らかい、あまりきつく抱きしめると壊してしまいそうだ……おや、泣いているのか」

 指で私の涙をそっと拭きとる。


 「私はそれ程に恐ろしいかね?」

 フッと笑うと彼は私の答えを待たずに話だした。

 「私のこの醜い姿を見て顔を歪める者も多い。君からすれば化け物に見えても仕方がないだろうが、もはや恐れられるのも慣れてしまったよ」


 私はただ、あの場所に居たかっただけ。

外の……知らない世界は怖くて不安で、だから……。

 でもハゲワシさんは自分の醜さ故に私が彼を嫌っているのだと勘違いしている。私は彼を傷つけるつもりなんてなかったのに。

 彼が怖いといえば怖い。彼は死肉を食むといわれている種族なのだから。

 今はこんなに穏やかに談笑しているが、いつ気分が変わって私を食い殺そうとするかもわからない。

 

 だけど、談笑していてもその言葉からは哀しみが感じられたから。

私を抱く彼の腕を、ギュッと両手で抱きしめた。

 怖いけど! 怖いけど、私が怯えている理由は貴方のせいではないのだと伝えたくて。

いや、四分の一ぐらいはハゲワシさんのせいもあるんだけども。


 私はハゲワシさんの膝の上に座ってるので表情は見えないのだけど、ハゲワシさんはもう片方の手で頭をポンポンと軽く叩いてくれた。

 伝わったのだろうか? 


 車はその後も走り続けて、もはや街の明かりも届かない森のような場所へと入っていった。

陽も落ちて暗くなった森の中、ざわめく木々が妙に恐ろしく感じる。

 が、すぐに森は開けた。

森のその先にあったのは大豪邸。いたる処に明かりが灯り、そこだけで街のような明るさだ。

 車は大豪邸の前で音もたてず止まる。

ハゲワシさんに抱きかかえられたまま車を降りるとやっとそこで地面に降ろされた。


 大豪邸だけあって大きな扉、その扉の前で彼が何やら機械らしきものをじっと見ていると扉が開いた。

一体どういう仕組みなのか、私には見当もつかないけどなんだか凄い。

 中はもっと凄かった。

 

 入るように促され入ってみれば、そこは水族館かと思うような大きな水槽が並べられていた。

中にいるのは……魚人! とても美しい魚人が泳いでいる。

 圧倒されるその美しさに私はただただ言葉なくポカンと水槽を見つめていた。

 「美しいだろう? 見ているだけで心が安らぐ……おいで、私のコレクションを見せてあげよう」

 そう言って彼は私のリードを引っ張る。

彼について歩いていく先々には色々な者がいた。


 美しい羽根を持つ鳥人、孔雀。

 美しい模様をした獣人、豹。


 豹まで飼ってるのかと思うと感心してしまうが、まさか私は餌として購入されたのではないかと心配になってきた。

 「見てのとおり肉食種もいる。人間を飼うのは初めてだからまだ人間用の部屋は用意してないがすぐに用意させよう」

 そこで私は自分の立場を認識した。

そうか、もはや私は彼のコレクションの一部なのだと。


 「旦那様……」

 いつの間にか部屋の扉に佇む人物がいた。黒いスーツのネズミ? 執事だろうか。

ネズミの執事さんがハゲワシさんに声をかけると、二人でなにやらヒソヒソと話しだした。

 ところどころで聞こえる声はなんだか高揚していて何か良い知らせがあったのか、はたまた何らかのトラブルがあったのか分かりかねるところ。

 「ちょっと失礼するよ、大切なお客様がいらっしゃるそうだ」

 私の耳元で囁くとネズミの執事さんと一緒にさっさと部屋をでてしまった。

 

 部屋に一人残された私はどうしていいかもわからず、ぼんやりとただ立ち尽くすのみ。

大きなソファーはあるが私みたいなペットが勝手に座っていいのかすらもわからないし。

 

 ――何分……何十分たっただろうか? かなりの時間が経ったように思われる。

立っているのが辛くなり、その場に屈み込んでは見たものの、その態勢も辛くなりまた立ち上がる……というのか何度か繰り返した頃、廊下から大きな笑い声が聞こえてきた。


 そして。

 ドアからハゲワシさん……と、何故かあの蜥蜴人さんがたぶんニコヤカに談笑しながら入って来たのだった。


 「いやはや……かなり残念ではありますが、なかなかに良い取引ができて光栄ですよ」

 ハゲワシさんは蜥蜴人さんにそう言った後で私の耳元で「何かあったら私のところにおいで」と囁き私の手に何かを握らせた。

 一体どういう事だろうか? 何故ここにあの蜥蜴人がいるんだろうか?


 なにより、私、何故、蜥蜴人に手を引かれているのだろうか?


 何故か玄関にいる私と蜥蜴人、それを見送るハゲワシさん。

 「……ではこれで、失礼致します」

 「ええ、また近々お会いしましょう」

 

 蜥蜴人になんだか小さく丸っこい可愛い車の助手席に詰め込まれそのまま屋敷を後にした。

全く状況がわからないまま私は助手席に座っている。

 町に近づいてきたのか、街頭がチラホラと目につくようになった頃、突然蜥蜴人が声を荒げた。

 「……チッ、あの強欲オヤジがっ!」

 忌々し気に呟く蜥蜴人の言葉にビクリと体を震わす。


 機嫌の悪そうな蜥蜴人、怖い……。

ピリピリとした空気の中、車はゆっくりと停止した。

 なんだろう、ここ。屋内駐車場?


 「悪いけど」

 蜥蜴人がガサガサと何か書類のような物を私の目の前にかかげる。

私、字が読めないから何を書いてあるかなんてわからない、けど……これ、あれと似てる。


 「これ、血統書と売買契約書です~」

そう言いながらアグリがお客さんに愛想よくそれを渡していたのをよく見た。


 私の目の前に差し出された書類はなんとなくそれと似ているような気がする。

私の考えを後押しするように蜥蜴人は続けた。


 「……今日から俺がお前の飼い主だから」



 

ハゲワシ画像をぐぐったら思いのほかかっこよかったので困った事に。

悪人予定を変更せざる得ないかっこよさ!

いいよいいよー! ハゲワシ!

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