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20話 ――大団円?――

 「イルクさん、何泣いてるんですかぁ?」


 「な、泣いてません!」


 溢れそうな涙を目にどうにかとどめ、僕は今仕事をしている。

うう……今日こそは早く帰れると思ったのに……っ!


 なんで……


 「なんでこんなに残業ばっかなんだ……ッ!」


 「しょうがないですよ~。あの事件の時のツケが今来てるんです。まあ、こんな時こそ力を合わせて乗り越えようじゃないですか!」


 ニニギ君が珍しく毒を吐いてないのには理由がある。

僕からは馬鹿高いバッグ、先輩からは特別ボーナスを貰った彼女は最近すこぶる機嫌が良い。

 

 まさかバッグ如きがあんな恐ろしい値段だとは……。


 「イルクさん、コーヒー煎れましょうか?」


 「……濃いのお願いします」


 はぁい、と可愛らしく返事をするニニギさん。いつもああだといいのに。

 深くため息をつく。

携帯電話を取り出し涙を堪えながら自分の家にかけた。


 「……はーい? イルク?」


 「うう……っ……エリュ? ごめん、残業終わらなくて今日も遅くなるから先にご飯食べておいて」


 「……わかった~」


 「ほんっとごめんね。次の休みはどっか遊びにでも行こう! ドライブもいいよね!」


 「いかない。俺、家がいい」


 うぐっ……。さすがにエリュも怒っているのか。

最近忙しくて帰宅するのはいつも深夜。エリュの寝顔しか見れていない。


 「イルク忙しくて疲れてるでしょ? イルクにゆっくり休んでもらいたい。俺、イルクが傍にいてくれるだけでいいから無理しないで」


 「わ……わがっだ……。もう電話ぎるね、おやすみなざい」


 「? おやすみなさ~い?」 


 ――プチッ


 うわあああああ!

 エリュ、天使! うちの子、天使すぎる!

 ああああ! こんなんもう無理! 涙あふれ出るわ!


 「イルクさんコーヒー入りましたけど。何号泣してるんですか。やだキモーイ、プププッ」



 深夜、そっと家のドアを開ける。

 あんな事件があった後だからセキュリティには気を使っているとはいうものの、エリュ一人をこうも毎日留守番させるのには抵抗があった。


 寂しいだろうなあ……。


 いっそもう一匹人間を飼うべきなのだろうか。

……嫌だな、僕はエリュだけでいい。

 でもなあ。


 水を飲もうと冷蔵庫を開けると中にサラダが置いてあった。

 「イルク」と書かれたメモ付きで。


 全く人間には驚かされる。

自分の名前ぐらいは書けた方が便利だろうと「エリュ」とだけ文字を教えた。

 「イルクはどう書くの?」

 そう聞かれ、紙切れに「イルク」と一度書いて見せただけなのに。


 「凄いな……もう文字を覚えたのか……」


 このサラダは僕の為に作ってくれたのだろうか。

サラダは僕の大好物なんだ。


 モグモグとサラダを頬張りながら考える。


 エリュにはもっと文字を教えてあげよう。

 まずは「ありがとう」と読めるぐらいには。



   ☆   ☆   ☆

 

 

 窓から射す光で目が覚めた。

隣で眠っていたはずのリューイはいない。


 お仕事行っちゃってるよね。おはようって言いたかったな。


 ベッドの下に転がっていた服を頭からかぶり自分の部屋に戻ると箪笥を開き、今日着る服を探した。

 ……どれがいいかな。


 ピスタチオグリーンのワンピースを見つけ、それと下着を持ってお風呂場に向かう。


 シャワーを浴びながら昨夜の事を思い出していた。


 リューイのひんやりとした硬い手が私の体を隅々まで探るようになぞる。

もうきっと、私の体、私以上にリューイに知られてる。凄く恥ずかしいのに、もっと触ってほしいと思う。

 ……もっと、もっとずっと深いところまで。


 でもね。

 私はまだ準備しないとダメなんだって。

ゆっくりゆっくり準備しよう、ってリューイが優しく言ってくれたのが嬉しい。

 リューイ大好き。リューイも私の事大好きって言ってくれた。


 ……嬉しい。


 シャワーを終えて体をしっかり拭き、髪も乾かした。

ピスタチオグリーンのワンピースを着た自分を鏡で見つめ、満足げに微笑む。


 髪にはね、あの髪留めをつけるの。リューイの鱗の髪留め!


 うん、ワンピースとの組み合わせバッチリだよ。

緑大好き。だってリューイの色だもん。

 

 そっと髪留めに触れひんやりとした感覚を楽しむ。

 リューイが傍にいて守ってくれてるみたい。

 


   ☆   ☆   ☆

 


 「おま、何泣いてんの?」


 「な、泣いてません!」


 今日は残業がない。が、大口の取引先から連絡が入り急遽会う事になった。

なんだ、何かトラブったか? こことは上手く付き合えていたはずだが。


 「ううう……今日こそ早く帰れると思ったのに……ッ」


 うだうだ言ってるイルクがウザったいのは置いといて。

 つか。


 「俺だって早く帰りたいっての……」

 ボソリと呟く。


 クソッ!


 「おい! もっと早く歩け! さっさと仕事おわらせんぞ! いつまでも泣いてんじゃねえ!」


 とりあえず、仕事が終わったらヒィと旅行でも行きたいな。

俺は寒いところ苦手だから南国がいいけど、ヒィが望むなら北国だって行ってやる。

 ヒィに似合う服も何着か買って、そうだな……美味しい物もいっぱい食べないと。


 そう思うだけで不思議と気力が湧いてくる。

 仕事? やってやんぜ!?

 

 俺は今、無敵だ。


 なんせ俺だけを照らす太陽がついているんだから。








完結です。

最後まで読んでくださった方有難うございました。

ちょっとだけでも読んでくれた方も有難うございます。

心からの感謝とお礼を込めて。

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