表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/20

2話

 私の腕、後ろ手にロープで固く縛られた。

 買ったばかりの赤い首輪は早速私の首に巻かれリードをつけられる。


 「おお、赤似合いますねー! あ、これ、血統書と売買契約書です」

 「ああ、どうも……。じゃあ、連れて帰ります」

 「はいはい、お買い上げ有難うございました。どうか可愛がってください」


 蜥蜴人はペコリと浅く頭を下げると私を連れて店を出た。

彼にリードを引かれ、小走りに後を追う。

 この世界の人は人間よりもかなり大きい。標準的な身長が2メートルだとか。

 私はというと随分と身長を図った事がないのでわからないけど、彼とは四十~五十センチ程の身長差がありそうだ。

 つまり彼が普通に歩いていても――私がそれについていくのは中々に厳しい。


 小走りでついていくのも限界がきて、ふと足を止めるがリードに引っ張られ無理やり歩を進める。

そのリードの感触に違和感を感じたのか蜥蜴人がやっと足を止めた。

 「ん? 俺、歩くの速いのか? ……人間ってとろくせえ……」


 そうボソリと呟いて私を軽々と肩で担ぎ、彼は先程よりも早く歩きだす。

一応、気を使ってゆっくり歩いていてくれたのだと気づき驚いた。

 蜥蜴人にそんな優しさがあるとは。


 そして、しばらく歩いたところでお店に入る。

何のお店かはすぐにわかった。飲食店。肉の匂いがする。

 店員さんに「ツレが先きてると思うんで」とかなんとか話しかけると慣れたように奥へとズカズカ歩いていく。

 他の客が物珍し気に私を見ているのがわかる。

まあ人間ってそれなりに珍しいけど。


 「悪い、遅れた」


 そう言って彼は私を降ろす。

 椅子を引き私を座らせると、自分もすぐ隣の席についた。


 目の前には美しい女性の蜥蜴人が座っていた。

 蜥蜴、というようりは幾分か人間に近い。ただその皮膚はやはり鱗で覆われていて、その艶やかな鱗は紫がかっていてとても恐ろしく、美しい。

 私から見ても美しい蜥蜴人だ。


 「で。話って何? まあ、俺も大事な話があるんだけど」

 「そう? でも私の話を先に聞いた方がいいわよ? きっと驚くから」

 「なんだよ、怖いな」

 

 ハハハと笑う彼を私は複雑な気持ちで見つめる。

気づかないのかな、この嫌な空気。彼女は微笑んでいる……。

 だけど、それはとても冷たい微笑み。


 「私、結婚するの。とっても素敵な人と。もう二度と貴方と会う事もないでしょうね」


 そう言うと席を立ち私に視線を送る。


 「寂しくないでしょう? 新しいオモチャを手にいれたみいただし。可愛いオモチャね?」

クッ、と馬鹿にしたように笑うと出口へと優雅に歩いて行った。


 うわあ、悲惨。

 私なんかを連れていたせいで彼はいらぬ注目を浴びていた上に、さらなる醜態で注目を浴びている。

ポカーンと眺めている客もいればクスクス笑っている客もいる。

 ――が。

 彼は彼女を追うでもなく。


 「すみませんー! オーダーを」

まるでそんな事は意にも介していないように大きな声で店員を呼び注文を始める。

 自分はレアステーキを注文し、私にはシリアルを注文した。

 その堂々たる態度に興味深々で見ていた人達もたちまち興味を失い食事の続きを始める。

皆がみたいのはフラれた哀れな男であり、フラれたことを意にも介さないような冷血動物ではないのだ。


 ――だけどなあ……。

私は思う。

 彼は決して気にしていないわけではないと。

ぼんやりと窓の外を眺める瞳はどこか虚ろだし、ギュッと握りしめられた拳は力を入れすぎて少し変色している。

 

 料理が運ばれてくると、彼は黙々と食事を始めた。

 食べる姿を見て、彼の育ちの良さに気づく。品が良いのだ、食べ方も。

そもそも私を買えるという時点で彼はかなりのお金持ちなのかもしれない。

 

 そして私もシリアルをスプーンで自分の口に運ぶ。

初めての外食。シリアルはとても美味しかったので、私は食べる事に集中する。

 これが最初で最後の外食かもしれないのだし。

……最初で最後の食事なのかもしれないのだし。


 シリアルは思いのほか量が多くて、食べ終わるとお腹が破裂しそうなくらい苦しくなった。

お水を一口飲んで一息つくと、ふと、隣の蜥蜴人が気になり横をみる。

 彼は既に食事を終えており、私を見つめていた……ので、ガッツリ視線が合う。


 うひー! 思わず顔をそむけてしまった。

だって見てるなんて思わなかったから。

 ガタリ、と音がするのでもう一度横をみる。

彼が席を立ち、私のリードを軽く引っ張ると「いくぞ」と促した。

 私は急いで立ち、彼の後を走るように追いかける。

 支払いを済ませ、店を出ると彼は又私を肩に担いで歩き始めた。


 そして。しばらくするとまたお店に入った。

見覚えのあるお店。

 「すみません、もう閉店の時間なんです~……って、あれ?」

 聞き覚えのある声。


 蜥蜴人は私を降ろすとぐいっと押し出した。

目の前にはアグリ。


 「すみません、これ、返品できますか?」


 

補足。シリアルは人間用ではなかった為に量が多い。

この世界では人間はペットとして飼われる事が多く、人間単体での行動はしない為、飲食店等に人間用の食事が記載されている事はほぼありません。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ