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19話

 邪魔者がいなくなったところでヒィを抱きしめる。

力強く。いや、ダメだ。ヒィを抱きしめるなら優しく。


 ああ、好きだ……大好きだ。愛おしい。

こんなにも何かを愛おしいと感じた事なんて、ない。


 ヒィがいなくなったら俺は生きていける気がしない。

いや、想像するだけで気が狂いそうだ。

 

 なんだ、なんなんだこれ。


 俺、こんな弱かったか?


 抱きしめながらヒィにキスをする。髪も、耳も、瞼も頬も。

全てが愛おしい。


 服をはだけ首筋や胸にもたくさんのキスをする。

これは俺のだ。俺のなんだ。


 ヒィが小さな喘ぎ声をだす。


 「……怖い? 嫌か?」


 怖いのは俺。

ヒィを見つけた日からずっと怯えてる。拒絶される事に。


 「ごめん。ごめんな、ヒィ……でも、俺、ヒィが好きだ……大好きなんだ……」


 ヒィの唇が俺の頬を伝う。


 「しょっぱい」


 ヒィの言葉を聞いて、俺は泣いてる事に気づいた。

なんだこれ!?


 ヒィから顔をそむけようとすると、ヒィが俺の顔に手を添える。


 「リューイ悲しい? 私、リューイと一緒にいられて幸せだよ? 私の言葉信じられない? どうすれば私はリューイを幸せにできるの?」


 そんな事、決まってる。


 「ずっと傍にいてくれ……俺と一緒に生きてくれ……」


 「うん。私、リューイの傍にいる。ずっといる。リューイ大好き。リューイだけが大好きなの」


 

   ☆  ☆  ☆



 指輪は用意した。

あとは何か気の利いたプレゼントが必要だが、さて。

 『ヒューマニア』の看板が目にとまり、ふとペットをプレゼントするのもいいかもしれないと思った。

 そう言えば彼女が人間が欲しいとか言ってたような気がする。

ん? それは前の彼女だったっけ?

 

 ま、気に入らなければ喰うなりなんなりすればいいさ。


 今はまだ会社の事で頭がいっぱいだ。

幸い軌道には乗っている。今日も大口の取引を済ませたところだった。


 そろそろ年齢的に伴侶が欲しいと思い、めんどくさいが今日はプロポーズと言うものをしてみようと思う。

 妻には華やかな女を選んだ。家の事も妻らしい事もしなくていい。お飾りでいい。


 『ヒューマニア』の扉を開き、ケージに入った人間を物色する。


 つまらんな。特別人間が好きというわけでもない俺にとっては全く興味がそそられない。

どれも同じ顔に見えるし貧弱でみすぼらしい。

 ああ、肉としては柔らかそうで中々美味そうではあるが。



 ――そのケージの中を覗いた時、世界から色が消えた。


 

 いや、錯覚だ。そんなわけはない。

だが、その人間だけが妙に鮮やかに美しく俺を惹きつける。


  「いいな、これ……うん、凄くいい」


 それは俺が発した言葉なのか?

まるで夢現の中にいるような感覚。なんだこれ、おかしい、なんか変だ。

 それを購入し、彼女の待つ場所へと連れていく。


 脆弱なそれは歩くのさえ亀のように遅い。いや、まだ奴らの方が機敏だ。

チラリと人間を見やる。

 ゆっくりと歩く俺のペースにすら追いつけず小走りにすがる人間。

その所作にいちいち俺の目が釘付けになってしまうのは何故だろう。


 彼女に会い、彼女にフラれ……でもそんな事はどうでもいい。

俺の頭の中は初めて見た時からこの脆弱な生き物の事で一杯なのだから。


 ベッドは明日買いに行こう。食事は確か肉とか穀物だっけ?

トイレのしつけはしてるって話だし。


 って! 彼女へのプレゼントで買っただけだし!

 俺が飼うつもりはねーんだって! ペットなんか飼った事ねーし!


 とりあえず今日は俺のベッドに寝かせて。

明日の朝ご飯は俺と同じく肉でいいとして~……だーかーら! 飼わねえって!


 おかしいぞ? おかしい!

何か俺、凄く変だ。考えがまとまらない。そうだ、冷静になれ。

 うん、返品しよう!


 が。返品した後もつい『ヒューマニア』に通って彼女を見てしまう。

しかも、彼女に似合いそうな服を見つけるとつい買ってしまったりする。


 何故か今日ベッドの注文をしてしまった。箪笥やらドレッサーやらも。

何故か彼女用に部屋を改装した。


 そして最近の愛読書は「人間の飼育法」だ。


 あれ? 俺、何やってんだ?


 違和感を感じながらも今日も『ヒューマニア』に通う。


 目が合うとそらしていた彼女が笑顔を向けてくれた。

 それだけで気分が高揚する。

 人間は知能が高いらしいから教えれば話すらしいけど彼女も何か話す事ができるのだろうか?


 「なぁ……なんか話してみろよ?」


 期待してたわけじゃない。

彼女の話してるところを見た事がなかったし、話せるとも思ってはいなかったから。


 うつむき、困ったように目を伏せたかと思うと口を軽く開いた。


 「げ、んき、だして……ね?」


 

 ――落ちた。

 

 もうダメだ、逃げられない。目をそらす事すらできない。

 これは俺のだ。


 嫌われようが憎まれようが、これは俺のだ! 決して逃がさない! 誰にも渡さない!


 ごめん。ごめんな。人間は蜥蜴が嫌いなんだろう?

でも俺はお前が欲しい。お前の全てが欲しい。

 決して手に入らないだろう心が欲しい。



 ――やっとの事で手に入れたそれに『太陽』と名前をつけた。


 うん、ピッタリだ。

 ああ。これは俺の、俺だけの太陽だ。


 俺は君がいなければ生きていけない、それ程までに囚われてしまった……。




 


 

リューイのターン!

一話のリューイはこんな感じだったわけです。

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