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18話 

 え? 何これどうなってんの!?


 状況がまったく見えない。

何だよこれ……何でこんなに頑張ってる僕が蚊帳の外なんだ!?


 ヒィちゃんが僕に気づき微笑みながら手を振る。


 ――手ぇ振ってる場合じゃねぇぇぇぇぇぇ!


 更にヒィちゃんの横にはヒィちゃんと同じ年頃の人間のオスが立っている。

なんていうか……すっごい可愛い。ヒィちゃんと並んで立ってても違和感がないというかお似合いというか。


 その子もヒィちゃんと同じように僕に向かって手をヒラヒラと振る。


 ――なんだこの状況!?


 で。

 肝心の先輩とアルマさんと来たらお互い鬼のような形相で睨みあっている。


 緊張感漂う空気の中、事情を聴こうとヒィちゃんに「おいでおいで」と合図を送ると、ヒィちゃんはそれに気づき、にこやかに頷き小走りで僕の方へと寄ってきた。


 緊張感ないなあ……。


 こっそりとヒィちゃんに話かける。


「ね。ヒィちゃん、君どこにいたの!? 一体何があったの!? これ今どうなってんの? なんで先輩とアルマさん睨みあってんの?」


 頷きながら聞いていたヒィちゃんがピタリと止まり、何かを考えて……大きく頷いた。

「あのね、アルマさん、助けてくれたの!」


 「えっ!?」


 「はぁ!?」


 僕と先輩の驚く声が響く。


 「ヒィ! お前、アルマに誘拐されたんじゃないのか!?」


 「ううん! アルマさんはね、ヒィとエリュを助けてくれたんだよ。すごく良い人なの!」


 「あ、ヒィちゃんが逃げ出した後、アルマさんが見つけてたのか」


 「あれ? イルク、逃げ出したの知ってる?」


 「うん、一週間前に逃げ出したって聞いてさあ。もう肉片になっちゃったと思って……いや、凄く心配してたんだよ! 見つかってよかった!」


 背筋の凍るような視線を感じ、僕は口をつぐむ。

そんな中、パシーンと大きな音がして先輩の方を視線を向けた。僕も、ヒィちゃんも、あの男の子も。


 「私はね、あなたにぶたれる覚えなんてないのよ。むしろ感謝してほしいぐらいなの」

アルマさんが冷ややかな笑みを浮かべ、先輩を叩いた方の手を振りフゥ~と息を吐いた。


 「ヒィちゃんヒィちゃん! 先輩、アルマさんぶったの!?」

 こっそりとヒィちゃんに話かける。


 「うん……なんでだろ。アルマさんもリューイも仲良くしてほしい……」


 いや、何でもなにもないよ。君のせいだよ……。

ってか。うひゃあ。先輩、女性に手をあげない人なのに!

 ここ数日の先輩は僕の知らない人みたいだ。


 「……すまない……」


 静かな部屋に先輩の声が響き渡る。


 「あ~ら、いいのよ。べ・つ・に。今のあなたを見て随分と楽しませてもらったもの。だけど。だからこそ、私にはアナタを殴る権利ぐらいあるわよね?」


 アルマさんが更に先輩の耳元で呟くと先輩は目を伏せまた「すまない」と呟いた。

その言葉を聞き、アルマさんは右手を振り上げるともう一度先輩の頬に平手打ちをかます。


 「さて。私はそろそろ失礼するわ。目的も果たせたし? ヒィ、エリュ、さようなら。また何処かで会えるといいわね。リューイには会いたくないけど。」


 「アルマさん、有難う……私、アルマさん大好きだよ!」


 「俺もアルマさん大好きだ!」


 アルマさんは二人の頭を順番に撫でると、僕を一瞥して玄関を出て行った。

で。

 アルマさんを見送った後、ぐったりと疲れた僕が振り返ると。


 ヒィちゃんをきつく抱きしめて濃厚なキスをしている先輩が目に入ったわけで。

いやいや、何してんの先輩。そーいう事は人目がないところでやって下さいよ。

 つか、先輩。ヒィちゃん、顔真っ赤にして凄く苦しそうですよ。


 ……という言葉を飲み込んで。

大きくため息をつくと、僕はその場にへたり込んだ。

 ああ、疲れた。本当に。


 「ね、ねえ!」


 ん? 服を引っ張られ、顔を向ける。

可愛らしい人間の男のが心配そうな、不安げな顔をして僕をみている。


 あ、そうだ。この子の事を忘れていた。


 「ヒィ、苦しそう! 殺されちゃう!」


 「いや……あれは大丈夫。放っといていいから……」


 「でも!」


 オロオロとしているこの子を見て僕はふわふわの頭を撫でてやる。

ああ……なんか癒されるなあ……。


 ふーっと息を吐き、立ち上がる。

先輩の方を見るといまだ熱烈な抱擁が続いてるわけでね……ヒィちゃんの服はだけて胸丸見えだし。


 「先輩、この子どうするんですか? そのまま続けるんですか? 見られるのが好きなんです……カハァッ!?」


 ……殴られた。

いつもの先輩が戻ってきて少しほっとする。頬は痛いが。


 「てか。それ何?」


 先輩が男の子を指さして憎々し気に言う。ああ、これ、あれだよね。

思いっきり嫉妬してるよね。


 「ヒィちゃんと逃げ出してきた子らしいですよ」


 「話がみえん! どこから逃げ出してきたって?」


 イライラする先輩に軽く事情を説明すると見る見る内に顔が般若のように変化していく。

しかしその間も決してヒィちゃんを手放す事なく、ギュッと抱きしめたままだったりするのでヒィちゃんは少し苦しそうだったりするのだけど……彼女自身もしっかり先輩の体に手を回しギュッとしがみついている。


 バカップル、ってこーいうのかなあ……なんて呑気に考えている場合でもないんだけど。


 「ふざけてんな……あのハゲワシはそのうち潰す!」


 「……そうですネ~」


 「で、ソイツは捨ててこい」


 「……そうですネ~……いやいやいや! まずいっすよ!? すぐ喰われちゃいますよ!?」


 「知るか! おい! オマエ、ヒィに手ぇだしてねーだろうな!」


 ビクリ、と肩を震わせ先輩から目をそらす男の子。


 「……おぃ? まさか、手ぇだしたのか!? だったらオマエは俺が喰ってやる!」


 「ちょ! 先輩! 落ち着いてくださいよ!」


 「ヒィ! 心配すんな! 孕んでても俺が面倒みてやるから! 俺が子供の父親になってやる!」



 なんたるカオス……。

 男の子は俺の後ろに隠れるし、先輩は俺を押しのけてその子を捕まえようとするし。

邪魔すんな! とか言われても、僕、邪魔してるわけじゃなくてこの子が勝手に……ちょっとヒィちゃん、そんなウットリした顔で先輩に抱き着いてないで何とかしてくれないかな?


 この状況をどうにか出来るとしたら君だけなんだけどぉ?


 先輩が男の子の腕を掴むと、彼は死にそうな声で「ギャー!」と喚いた。

僕の耳元で喚くのは辞めてほしいが……その声でヒィちゃんがハッと顔をこちらに向ける。


 「リューイ! エリュ、いじめないで!」


 ギ、ギ、ギ、ギ、ギ。

まるでロボットのような硬い動きでゆっくりとヒィちゃんに笑顔を向ける先輩。

 その先輩のいたるところから血管が浮き出ている。


 「いじめてないよ。でもヒィに手を出したんだから殺されても文句は言えねーよな?」


 「手をだす? ヒィ、暴力振るわれてない」


 「うんうん、暴力は振るわなかったかもな。でも、それ以上の事、されてんじゃねーのかナァ?」


 「それ以上……?」


 考えるヒィちゃん。


 「俺、ヒィとはしてない! ヒィ、大事な友達だ!」


 僕の後ろからエリュと呼ばれる男の子が叫ぶ。

 そしてまたサササっと僕の後ろに隠れた。


 「テメェには聞いてねェ……」


 凄む先輩の声……僕もう帰りたいんだけど。

疲れたし眠いんだけど……ああ、もうなにこれ、めんどくせえ!


 「エリュ君、だっけ。君、僕と一緒にくればいいよ……先輩はヒィちゃんとイチャイチャして少し落ち着いてください。僕もう疲れました……帰ります」


 イチャイチャという言葉を聞いて先輩の顔が緩む。

またヒィちゃんを愛おしそうにぎゅ~~~っと抱きしめて髪や首すじほっぺたなどにチュッチュッ口づけし始める。

 ……見てられんよ。


 エリュ君の手を引こうとして、ふと手を止めた。

あ、しまった。

 人間って蟲人、一番苦手なんじゃないっけ? 

何かで聞いた気がするぞ……。


 が。

 躊躇した手をエリュ君はためらいもなく握ってきた。

表情には嫌悪感……など微塵も見せず、むしろキラキラした目で僕を見つめている。


 あれえ?


 それどころか。

「緑色だあ……かっこいいね!」なんて言ってくれちゃって。


 「そ、そう? 有難う」

 僕は彼の手をギュッと握りしめた。


 うわあ。何だこの子。凄い良い子!


 めっちゃ可愛い!


 疲れていた体に少し気力がわくのを感じる。


 これは……思ったより良い方向にいってるんじゃないの?

先輩がこの子いらないっていうんなら、僕がもらっちゃってもいいよね?


 


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