表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/20

17話

 「逃げましたよ」


 驚きのあまり声もでない、というのを僕は初めて経験した。


 ポカーンと口を大きく開き、可愛いとよく言われるつぶらな瞳を大きく開き――大きく開いてるようには見えないかもしれないが――なんともマヌケ面した僕をハゲワシ会長が興味深そうに見つめている。


 「……お話を続けても?」

 

 ゾッとするような笑みを浮かべるハゲワシ会長の言葉にハッとし、マヌケ面をいつもの凛々しい顔に戻す。


 「ああ。はい。お願いします」


 「一週間ほど前、になりますかねえ。『偶然』拾った人間があまりにも可愛いかったものですからうちで飼おうと思いましてね」


 ――偶然、ね……。

ヒステリックな笑い声をあげ「偶然なんかであるわけないだろうが!」と怒鳴ってしまえればどれだけスッキリするだろうか。

 勿論、ここは我慢だ。


 「こんなに可愛いのだから産まれてくる子供もさぞや可愛らしいだろうと思いましてね。繁殖用にとオスも用意したのですが……まさかその日の内にオスと一緒に逃げてしまうとは私も思いませんでした……」


 「逃げた? ……オスと!?」


 「ええ。探しましたが残念ながら見つかりません。きっともう……」


 「……そ、うですか……突然お邪魔してすみませんでした。お時間割いて頂き有難うございます」


 「いえ。お力になれずすみませんね。なんなら新しい人間をお安くご用意させて頂きますが?」


 「……いえ、結構。失礼致します」


 

 胡散臭い笑顔を張り付けたハゲワシの屋敷を後に僕は早々に立ち去った。

彼が本当の事を言ってると思ったからだ。


 居るなら「逃げた」なんて言わないよな……ただ居ないと言えばいい。

なにより、彼の顔にほんのりと絶望が見えた気がした。


 そこは百戦錬磨のハゲワシ、演技って可能性もあるだろうが……演技には見えなかった……。


 確証もないまま乗り込んだハゲワシ邸で、簡単に会長が会ってくれるとは思ってもいなかったが。

それどころか。

 ヒィちゃんの特徴を話し「こーいう子を探している」というとアッサリと情報を差し出したのだ。

そりゃ僕もマヌケ面になるってもんだろう?


 汗が流れる。

暑いからではない。

 汗は汗でも冷や汗だ。


 一週間……。


 ヒィちゃんが逃げ出して一週間だって!?


 絶望的じゃないか……。


 運よく……いや、運悪く生きて見つかったとして。


 四肢のないヒィちゃんを想像して眉間に皺を寄せる。


 それを見た先輩はどうなってしまうんだろうか。

それでも「見つかって良かった」と喜ぶのだろうか?

それとも、そんなヒィちゃんを哀れに思いいっそ処分してしまうのだろうか。


 もはや手がかりもない。お手上げ状態だ。

もはや見つけるよりも諦めた方が先輩も幸せになれるだろう。


 「だけど……先輩は諦めないよなあ、きっと……」


 もはやヒィちゃんを探すことは諦め、先輩をどう納得させるかを考え出す。

 しかし何も思い浮かばない。


 せめて死体があればなあ……。


 この世界では外で死んだ場合死体というものがほとんど見つからない。

 新鮮な食料が落ちてれば持って帰るだろ?

 新鮮じゃない物が好きな生き物だって多いしな。


 落ちてる物を拾ったところで誰も気にしたりもしない。


 会社の前で車を止め、足早にオフィスに向かう。

仕事は溜まりっぱなしだし、ヒィちゃんの件は全く進まないし、先輩の事も放ってはおけないし。

 最近の僕、ため息ばかりついてるなあ……と、また大きなため息をつきながらオフィスのドアを開ける。


 「あ! イルクさん! イルクさん! どうしましょう!」


 相も変わらず可愛らしいニニギ君が色紙片手に走り込んできた。


 「あ、ニニギ君、お疲れ様です。何その色紙。僕のサイン欲しいですか?」


 「やだあ、そんな何の役にも立たない物欲しがる人なんていませんよ。プププッ」


 「そ、そう?……ニニギ君、珍しく機嫌がいいね? 何かあったの?」


 「そうなんですよ! ちょっと聞いてくださいよー! さっきまでアルマさんがここにいたんです!」


 「……アルマさん? え? なんで?」


 「そう思うでしょ! でも、いたんです! 社長に用があるからーって! でも社長があんなんだから今会社いないって伝えましたら自宅行くって言ってましたよ~」


 こんな時にまた厄介な事か。

「このサインはアルマさんファンの知人に高く売るんです~。臨時収入ですよ! 前から狙ってたあのバッグ買っちゃおう! ウフフ」

 

 ……ニニギ君の独り言は置いといて。

今更アルマさんが先輩に何の用だっていうんだ。もう嫌な予感しかしない。


 「ニニギ君、ごめん。そのバッグ、この間のお礼も兼ねて僕がプレゼントするからちょっと会社の事お願いします。僕、先輩のとこ行ってくるから」


 目を輝かせて僕を見るニニギ君。


 「そ、そうですよね! 社長、今大変な時ですし! 皆が力を合わせて協力しないとですよね!どうぞどうぞ行ってきてください!」


 悪態をつかないニニギ君に違和感を感じつつもお礼を言ってオフィスをでるわけだが。

 ……後日、そのバッグの価格を知り後悔する事になるのを今の僕はまだ知らないのだった……


 それにしても。

アルマさんかあ~……苦手だなあ。


 美しい蜥蜴人のアルマさん。

珍しくも美しい紫の鱗を持つアルマさんは元モデルという輝かしい経歴を持っている。

 最近かなり年上の大富豪と結婚したとニュースで聞いたような気がする。



 ……先輩の元カノが今更会いにくるとか……ほんっと、嫌な予感しかしないよね。


 

実際、新鮮な食料が落ちてても不審に思って持ち帰らんよね。

そこは世界が違うからという事で。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ