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16話

 ま。火のないところに煙は立たない、ってね。


 ハゲワシ商会の噂なんてもう黒も黒、真っ黒いのばっかりさ。

 そもそも『ハゲワシ商会』なんて呼ばれる所以も会長がハゲワシだからと言う理由ではなく、「金になるなら死肉さえ貪る」というところから来ている。


 「ヒィちゃんは随分と高い買い物だったんですよね?」


 ジロリと先輩が僕を睨む。


 「ヒィに値段なんかつけれるか!」


 いや、そういう事じゃなくてね……。

あれ、先輩ってこんな役立たずだったっけかなあ? 凄く有能な人だったはずだったんだけど。


 ヒィちゃんがいなくなってからやる事といえばウロウロしたりため息ついたりイライラして怒鳴り散らしたり。

 そりゃ気持ちはわかるけどさあ。

もっと他にやる事があるんじゃないの? 出来る事があるんじゃないの?


 先輩の深いため息を聞いて、僕も深くため息をつく。


 僕の携帯電話が鳴り、先輩が顔を上げる。


 「あ、ニニギ君? おつかれさまです~」


 ニニギ君の名前を聞き、またガックリと頭を下げる先輩。


 「イルクさん、社長どうですか~? もうさっさと死体でもなんでも見つけて納得させてくれないと困りますよ~……って事でですね」


 「う、うん?」


 「『夜の翼』調べてみました。最近、裏で人間の取引がなかったかどうか。ま、当然かなりあったわけですけども」


 死体ってヒドイ事を言うな、このお嬢さんは……と思ったものの、それでも彼女が動いてくれている事に感激せずにはいられない。


 「でも大体、鮮肉店に卸されてるのばっかりで愛玩っぽい子いないんですよねえ。もしかして肉にされちゃったんじゃないんですかね。」


 ちょ、ニニギ君、こわいこわい!

 「い、いや、ヒィちゃんはかなり美形だから食肉にされたりはしないと思うなあ。もったいないよ」


 「めんどくさいなァ……もう『肉』って事でよくないですかァ?」


 「ニニギ君、頼むからそれ……」


 「はいはい。社長の前では言いませんけどね……イルクさん、ちょっと社長に甘いですよ!」


 逆に何でニニギ君は先輩にそんなに辛辣なの……?

しかし。ハゲワシで取引されてないとすると……他の?

 いや、違うな。ヒィちゃん程の子が売買されて噂にならないわけがない。もしそれを隠し通せるとしたらそれは……『夜の翼』しかない。

 それに、先輩の話しだとハゲワシはヒィちゃんに執着しているように思えるし。


 「あ、ニニギ君。そう言えばその情報ってどうやって手にいれてるんです?」


 「……」


 「……ニニギ君?」


 「あ。もうこんな時間。残業ばっかりですよ~、私。じゃあそういう事なんで~。お疲れ様で~す」


 ガチャリ。

挨拶をする暇もなく電話を切られてしまった……ニニギ君、君は一体……。



 う~ん。

 

 何となく、一つ思いついた事がある。


『夜の翼』の会長は血も涙もない金の亡者らしい。

 ……と。

 まあそーいう先入観をとりあえず置いておくことにする。


 まさか、ねぇ?


 チラリと先輩の方を見る。

青ざめ、やつれた顔。

 いや、顔色はわかりづらいけど僕と先輩は長い付き合いなのでわかるわけで。


 あの頼りがいのある、しっかりした先輩が!

 僕の尊敬するあの先輩が!


 たかが人間一匹いなくなっただけであの体たらく。

 

 先輩のヒィちゃんを見る目……あれ、恋する目だし! 

どんだけ優しい顔してヒィちゃん見つめてるの? あんな優し気な先輩見たことないよ!


 しかもペットの名前なんて犬には「イヌ」猫には「ネコ」魚には「サカナ」的な名前しか思いつかないような先輩が「太陽」だって!?


 『君は僕の太陽だ』


 ――つまり、そーいう事なんだと僕は理解した。


 太陽がなければ生き物は生きていけないんだ。


 ヒィちゃんは確かに可愛い。凄く。

あんな美しい人間を僕は見たことがない。

 だけど。

 僕には先輩程の人が惚れこむ理由がわからない。理解できない。


 さて。

話を元に戻そうか。


 僕には理解できない事だけど、ハゲワシには理解できたとしたなら。

彼もまたヒィちゃんに惹かれているのだとしたら。


 彼がヒィちゃんを販売目的ではなく自分のペットとして望んでいるのだとしたら。


 「……ああ、嫌だなあ。凄く、嫌だ……」


 思わず呟いてしまった声。

呆けてる先輩には聞こえてないだろうけど。


 ああ、本当に嫌だ。

先輩があんな風では僕が行くしかないから仕方がない。


 ハゲワシ会長に会うしかないよなあ……。


 きっとヒィちゃんはハゲワシ会長のところにいるような気がするんだよねえ。

ってもさ。それを彼が素直に吐いてくれるとは思わないけど。


 百戦錬磨の狸ジジィを相手に


 ああ、この場合は百戦錬磨のハゲワシジジィを相手に、か。


 ああ、嫌だ嫌だ。


 思わずついた僕の大きなため息はさすがにも先輩にも聞こえたらしく。

不安げに僕の方へと顔を向けた。


 ああ、もう……先輩がそんなんだから!


 


 ……僕が行くしかないんだなあ……


 

 


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