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15話

 普段冷静な先輩が混乱してわけのわからない事を言ったり、急に叫んだかと思えば自分を責めだしたり……

 でも、八つ当たりは勘弁してもらいたい。

 

 ヒィちゃんがいなくなったのは僕のせいじゃないし!


 実のところ先輩が狼狽してるのを楽しむ余裕はない。

なんせ、ヒィちゃんが行方不明になってしまったのだ。


 一週間の出張という事でヒィちゃんの安全を考えて雇ったのは一流企業のヘルパーだったのだが、まさかそのヘルパーが誘拐をするなんて。

 この業界では随一の安全性を誇る会社から派遣されたヘルパーが、ですよ。


 一日目の定期連絡が入らず怒り心頭の先輩はまず真っ先にヘルパーと連絡を取ろうとした。

何度かけても携帯は通じず。

 そして、次に自宅に電話をかけるも何度かけても誰も出ない。


 怒りは心配に変わり、先輩から「何かあったのんじゃないか!?」「どうすればいいんだ!」なんて電話がかかってきたのは帰宅してヘロヘロになった僕が風呂も入らずベッドに倒れ込んだ深夜。

 

 知らんよ……とりあえず一眠りしてお風呂入ってそれから。


 なんて考えていると先輩の罵声が耳元から鳴り響く。

「おい! 寝んな!」

「くそっ! お前はヒィが心配じゃないのか!」

「ヒィに何かあったらどうするんだ!」


 ―― ヒィに何かあったらとりあえずお前をまず殺す。


 恨みの籠った声が耳元から聞こえてきた時、僕は咄嗟に飛び起きた。



  それ程心配する事でもないだろうと思っていた。

 ヘルパーさんは定期連絡を忘れ、ヒィちゃんはぐっすりと眠ってしまって電話に気づかない、そう考えるのが妥当じゃないか?

 が、僕はその後先輩の家に様子を見にいく。

合鍵で部屋のドアを開けた後、ベル押せばよかったなーと思う。

 ついいつもの癖で勝手に入ってしまった。


 ……が、その心配は無用だ。

誰もいなかったのだから。昼間ならともかく深夜だぞ!?

 部屋は荒らされた気配もないだけに不気味だった。


 とりあえず、ヘルパーを派遣してくれた協会に連絡をとるもなんともおかしな事になっていた。

まず、先輩からのご依頼は受けていないと。そして蟻人でハルヴァーなる人も存在しないと。

 そうなってくると話がだいぶ違ってくる。

次は警察に連絡をし、事の詳細を伝える。


 僕が解放されたのが早朝。

寝不足だ、太陽がまぶしい。

とりあえず帰宅してひと眠りしたいところだけど無理だろう。


 先輩からひっきりなしに電話がはいるのだから。


 

 ――その後操作に進展のないまま、先輩が三日間の出張から戻ってきた。

一週間の出張を執念で三日間に短縮できる先輩の手腕は凄い。


 「どうなんだ! ヒィは見つかったのか!」


 僕の顔を見るなり先輩が駆け寄ってくる。


 「プロの犯行らしくて足取りを追うのが難しい、と」


 「向こうがプロなら警察も捜査のプロだろうが! さっさと探せ!」


 何て事を警察の皆さんの前で大声で怒鳴るので僕の背筋がひんやりとしましたよ。

現在、捜査本部と化した先輩の部屋には大勢の警察がいるんだから。

 彼らも手を尽くしてくれているのだがこう手がかりがなくてはどうにもならない。


 唯一の証言として、マンションの住人が連れ去られるヒィちゃんを見たという事だけども。

容疑者の存在も居場所も依然として謎のままだし。


 「やばいよなあ……」


 会社と先輩の自宅を行ったり来たりの僕の疲労も相当ヤバイが、先輩の憔悴っぷりときたら。

あの力強く傲慢な先輩が弱々しくただひたすらヒィちゃんの帰りを待っている。

 警察はもはや捜索を諦めているし、僕としてももうヒィちゃんの事は諦めている。


 「ホントやばいですよ~。いい加減社長が来てくれないと、うち潰れちゃいますよ~?」


 僕の独り言を聞いたニニギ君が愛らしい顔を向けて話かけてくる。

 ニニギ君は可愛らしいハムスターの獣人。

 その愛らしさで我が社一の人気を誇る。

 愛らしさだけではなく、仕事もできる有能な彼女。ただ、何かと……黒い。

 

 「たかが人間がいなくなっただけでしょう?新しいのプレゼントしたらいいんじゃないですか~? 」


 「ちょ、それ先輩の前で言わないでくださいよ!?」


 「ああ、社長はあれですか? ペットは家族ってタイプなんですか。私には理解できませんけどね、ペットはペットじゃないですか~」


 先輩にとってヒィちゃんはペットじゃなくてただ一人の女の子なんだよ、なんて事を言う必要もないので、ただ愛想笑いを浮かべて聞き流す。


 だけど、ニニギ君の言う通りだ。いつまでも先輩に不抜けていられては困る。

 ヒィちゃんの事は……どう考えても無事だとは思えない。

そろそろ諦めてもらわないと……諦め、られるだろうか?

 あれ程ヒィちゃんに執着している先輩が。


 ふぅ、と深いため息をつく。


 「蛇の道は蛇なんですよ?」


 と、ニニギ君。


 「え?」


 「社長もイルクさんもちょっと落ち着いた方がいいんじゃないですか~? いつもなら二人が真っ先に考えそうな事ですよ? 表では販売出来ないルートを当たるのは当然警察も調べたでしょうけども」


 「ああ、『裏』か……。裏というと『ヤマネコカンパニー』、『大アザラシ海運』……あとは……」


 「やっぱり『夜の翼商会』ははずせませんよね! そいえば社長は『夜の翼』と取引があったんじゃないですか~? コネとかないんですかね~?」


 「ああ、あそこはコネってか……そうか。『夜の翼』だ! ニニギ君、俺帰るから後よろしく!」


 「わかりましたけど~、とんだブラック企業ですよ、もう。社長に給料あげるように言っといてくださいよ~?」



 『夜の翼商会』通称『ハゲワシ商会』

ここでは手に入らない物はないと言われている、もちろん非合法的な物すら。

そして警察すら介入できない権力。

 なるほど、あそこならヒィちゃんを販売できるルートもあるな……。


 いや、そもそも販売をするのが目的ではないんじゃないか?


 先輩のマンションに着くなり、僕はやはりいつもの癖で勝手に扉をあけてずかずかと室内に入り込んだ。

別人のように憔悴しきった先輩が一瞬期待に満ちた顔をして僕を見た。


 そして、沈んだ目を軽く伏せる。


 まったくもう!


 「先輩! 不抜けてる暇なんてないんですよ!」



イルク&リューイのターン!

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