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日記。
すなわち、日々の記録。日常生活で行ったこと、感じたことをしたため、形にして残しておくもの。
東南の村『ダンダリニ』では、村で成人と認められる十三の歳の子らに、成人の証として日記を与える風習があった。
この地にしか生息しないダンダ牛の革から表紙を作り、丈夫で破れにくい、ミナヤシの木を削いだ紙を束ねて本にする。
日記は、代々家族間で受け継がれていくもので、男子なら父親から、女子なら母親から、親の綴り続けてきた日記を受け取る。
親の手で、本の紐を解いて一度バラしたものに、新たに紙を重ねて再び綴じたものを子に渡すのだ。
親はそれ以後、日記をつけることはなく、また、つけることも許されない。子が成人を迎えた時、親は日記ではなく、今度は自身の心に日々を刻むようになるのだ。
親から子へ、そしてまたその子へ。
そうして受け継がれていくその本は、時を重ねるごと、太く厚くなっていく。そして、それこそ、一族の歴史の重みとされている。
しかし本は、ある一定の厚みからそれ以上増すことは無い。
日記を綴ってきた者が死した時、その者の残したぶんの日記だけを共に棺に入れ、葬るからである。
その行為には、歩み生きてきた日々を、その者へと還す意味合いがある。
日記を手にした頃からを振り返り、幸せを誇り、苦しみや悲しみの経験を受け入れて、心安らかに眠れるようにと、葬儀の際には必ず行われた。
生まれ、文字を学び、日記を手にし、日々を綴るようになり、子を産み、見守り、死して一生と向かい合う。
それが一族の古くからの習わしであった。
そんなこの村で、今年は四人の子らが十三を迎える。
長老家の一人娘のリスティ。薬屋の長女パパラ。牛飼いの長男、ノドック。
そして、村一番の腕と評される医者夫婦の末娘ーージェシカ。
これは、成人となり、それぞれの日記を手に入れた彼女らの、日々を追う物語である。