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アニマ・フェイカー  作者: 柳瀬 真人
2/13

 僕は夢をみた。


 だけど、どんな夢なのか思い出せない。


 記憶に残っていないのだから、たいした内容じゃないんだろう。


 寝ぼけ眼でベッド脇のサイドテーブルに置いてある腕時計を手に取る。


 就寝前にアラーム設定した時刻より15分前を針がさしていた。


 すこし損した気分でベッドから降りてブラインドカーテンの隙間から窓の外をながめる。


 緩やかに波打った草原に舗装された1本道が地平線まで続いていた。  道に沿って等間隔に、うねる様な糸杉が立ち並んでいる。


 地平線の彼方まで鉛色の雲が空を覆っていた。  いまにも雨が降ってきそうだ。


 そういえば、この基地に配属されてからまだ一度も太陽を見ていない。


 でも、晴れた日よりも曇りの方が僕は好きだ。  なぜだか不思議と心がおちつく。


 黒い鳥が2羽、弧を画きながら飛んでいる。  昨日も飛んでいた気がする、基地内に巣があるのだろうか。


 サイドテーブルの引き出しからタオルを取り出すと、首にかけて部屋を出た。


 共同の洗面所で顔を洗っていると「おはよぉ~す」と同僚に声をかけられた。


 僕も「おはよう」と返事をする。 


 部屋に戻ってから着替えを済ませると食堂へと向かった。


 すでに数人が席について朝食をたべている。


 僕も数種類のメニューから好みの朝食を選んで調理スタッフから受け取ると席についた。


 湯気が立ちのぼるホットコーヒーにスプーン一杯分の砂糖を放り込む、ミルクは入れない。  半熟のスクランブルエッグにはケチャップを少しだけかける。  カリカリに焼きあがったベーコンとサクサクのクロワッサン。  いつものワンプレートだ。


 食堂内にはラジオが流れている。  女性DJが抑揚のない声で戦況情報を語っていた。 


 しばらくすると、聞いた事があるようなカントリーミュージックが流れ出した。


 「いつも少食だなぁ」と、さきほど洗面所で挨拶をした同僚が向かいの席に座った。 


 大柄の体格に髭をたくわえた彼の名はクマガイといった。  彼の目の前にはカレーが置かれている、見ているだけで胃もたれしそうだ。


 「そうかなぁ、普通だろ」


 「おいおい、これから何が起こるかわからない一日が始まるんだぜ、常に準備はしておかないとな。  昔からいうだろ、腹が減っては何とやらって」


 「此処は最終防衛ラインに一番近い場所だから、そうそう何も起こらないだろ?」


 「まぁ、俺もここに配属されて結構たつけど本当に戦時中なのかって、たまに思っちまうもんなぁ」


 「出撃ってあるの?」


 「う~ん、あるっちゃあるが最近多いのは、わけわからん独自の思想をもった無国籍連中との小競り合い程度だな。  でも俺達のここでの任務っていやぁ、近辺の定期見廻り、支援物資の運搬車の護衛、それに社会見学に来た民間人へのデモンストレーションってくらいかなぁ。  まぁ、ほとんど戦闘に直接関係ない任務ばっかだな」


 「へぇ、そうなんだ」


 「運がいいよな俺達、比較的安全な場所に配属されて」


 「そうかな?」


 「え?  そうだろ普通、誰が好き好んで戦線に行きたがるっつうんだよ。  変な奴だな。  まぁ、いいや、それより今日は何かあんのか?」


 「今日?  今日は午後からデモンストレーションのパイロットを任せられている」


 「へぇ、めずらしいな、新入りに任せるなんて」


 「そうなの?」


 「そりゃ、そうだろ、民間人の目の前で操縦するんだぜ。  いくら安全対策とってるからっていっても絶対ってのはないからなぁ。  操縦をミスってなんかあってみろよ、おさき真っ暗だぜ。  だから普通、慣れたベテランパイロットに任せられるんだけどな、新入りに任せるなんて、あんたよっぽど腕がいいんだな」


 「そうでもないよ」


 「そういえば、あんた確か他の基地から移って来たんだよな?」


 「うん」


 「どこから来たんだ?」


 「僕は――」腕時計のアラームが鳴りだした。  「あっ、ごめん。  もう、いかないと。  大佐に呼ばれているんだ」


 僕は、席を立った。


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