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もう一人

「はあ……はあ……」


 破裂しそうな心臓とあがりきった息を整えるのに必死だった。


「久々に、これはキタな」


 俊足によっていち早く運転席に乗り込んでいた誠は少し興奮しているようだった。


「穴場だって油断してたら、やられちゃったね」


 完全にやられた。こんな事が起きるとは思っていなかった。

 自分が見た縄の揺れと黒い影は気のせいだったかもしれない。しかしあの音は、確実に外的な、私達以外の何かの意志によって発せられたとしか思えない音だった。そして何より、最後に見た光景が頭にこびりついて離れない。


「あー俺、見ちゃったわ」


 誰かいたとしきりに叫んでいた徹も、私と同様らしい。


「マジかよ。何がいたんだよ」


 誠が問いかけると、徹はマジマジと嬉しそうな顔で話し出した。


「音したじゃんか。で、二人が逃げた後俺急いで音の方見てみたんだよ。そしたらさ、顔は見えなかったんだけど、男の人がいたんだよ。多分あの音出したのその人だよ。さすがにそこでやばいってなって逃げ出したんだけどさ、振り返ったら家の外で俺の事まだ見てたんだよ」


 ――……え?


 徹の話は十分に恐ろしいものだった。だがしかし、どうにも引っ掛かる点があった。


「徹ちゃん」

「ん? 薫ちゃん、もう大丈夫なの?」

「うん、大丈夫。それよりさ、私も見たんだ、その男の人」

「ホントかよ。うわ、見てねえの俺だけかよ……」


 悔しがる誠を無視して私は話を続けた。


「もう一人いたでしょ?」

「もう一人?」


 そう。私と徹との違い。確かに振り返ったあの瞬間、私の視界にそれは映った。徹の言う男らしき人物。しかしそれだけではなかった。

 その横に、もう一人いたのだ。


「女の人もいたでしょ。男の人の横に」


 まるで寄り添うように男の横にぴったりと立っていた女。

 自殺した夫婦。二人が私を見ていたのだ。


「いや、男の人だけだったよ」


 徹ははっきりと否定した。


「ほんとに? ほんとに見てないの?」

「うん。自信あるよ。怖かったけど、ちゃんと見たから」


 ――そんな……。


 もう恐怖を抑え込む事は不可能だった。

 縄。音。夫婦。

 全てが完全に怪異だった。ここまではっきりと怪異を経験したのは初めてだった。

 不可解だらけだ。しかも女に関しては私にしか見えていない。


 駄目だ。こんな事をするべきではなかった。

 暇つぶし程度にしていい遊びではなかったのだ。


「あーくそ。ちゃんと見とけばよかった」


 びびって亥の一番に逃げた癖に誠は悔しそうに呟いた。


「でもなんで薫だけ女の人が見えたんだろ」


 徹が私の疑問を口にした。

 触れない方いいように思えた。その扉を開けたとしても、結果そこには恐怖しかないように思える。解く必要のない鍵だ。そんな私の心をよそに二人は会話を続けた。


「さあな。ただひょっとしたら」

「ん? ひょっとしたら?」

「いや。ちょっとおかしくなかったか、あそこ」

「まあ心霊スポットだからね」

「違う。そうじゃない」

「どゆ事?」

「心霊スポットにしちゃいやに綺麗すぎだ。それに何かを燃やしたような匂いも残っていた」

「ああ、確かに」

「後、話では夫婦が自殺したと言っていた。けどあそこには自殺用の縄は一本しかなかった」


 ――やめて、やめて!


 私はそこで耳を塞いだ。これ以上聞いてはいけない。このままでは恐怖に食い潰される。

 

「え、それって……」


 瞼の裏に廃屋の部屋が広がる。

 暗い部屋にぶらさがる縄。そこにぶら下がる影。そして部屋の奥にもう一つの影。

 思っていたものとは別の恐怖が顔を覗かせていた。


「あそこは、どうやら本物らしいな」


 それ以来、私達はこの遊びから手を引いた。






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