幕間
ある時人間たちは気づいてしまった。
この世界には自分たち以外の人間が居ない――と言う事実に。
人間たちが住んでいる大地の外には黒き星の海が広がっていて、そこに浮かんでいる星のいくつかには自分達が住んでいる星と同じ環境の星があるのは分かっていた。
人間たちは科学で得られた技術の粋を集めて、自分達が住んでいる星と同じ環境の星に行ってみたりした。
転移門を用いれば、物理的には黒き星の海の果てまで行くことも、人間たちにはできた。そこまで行かないまでにしても、その途中には幾つか人間たちが住む星と同じような環境の星は発見されていて、黒き星の海に飛び出した人間たちはそこに降りて、自分たちのまだ見ぬ友人を探してみたりした。
しかしそれは、環境が同じであるというだけで、生まれてから動く生き物の一つも誕生しないで何億年も放置されている星だってあるはずだ。そして事実は――それが全てだった。
知的生命体が他社と交流できる生活環境――それを文明と言うが、一つの文明が発生してそれが終焉を迎えるまで百万年の時間が流れるとしよう。
百万年。
人間という生き物からすれば途方も無く永い時間だが、黒き星の海という無限に等しい時間軸からすれば、それは一瞬と大差が無い。
つまり、一つの星で生まれた百万年と、他の一つの星で生まれた百万年が、この黒き星の海と言う無限の時間軸の中で邂逅できる可能性は――零なのだ。
確かに探し続ければ、文明を備えた生命に出逢える可能性は全く無ではない。だが、この百万年と百万年が誤差を持って接した場合、それは我々人間が、自分たちの血液の中に存在する病原菌、もしくは我々を産み落としたこの星そのものと仲良くする――それに匹敵するくらいの莫迦げた行いでしかない。それは体内を遊弋する細菌であり、畏怖すべき母地であり、友人にはなり得ない。
だからこの百万年と百万年は、ずれてはいけない。許容できる誤差は――多分百年程度。
無限の時間軸の中での百年とは、計算するのも泣きたくなるくらいの非情なる結果しか出ない。
いくら無限に立ち向かったとしても、その結果は限界を抜いた無でしか帰ってこないのは、曲げられない事実。
だから人間たちは気づいてしまったのだ。この世界には自分たちしか人間が居ないと言う事実に。
この世界には自分たち以外には友人が居ない。その事実に絶望してしまった時――一人の人間がこんな事を言った。
「世界は一つだけじゃ無いのかもしれない」
それは、絶望という海に投げ出された人間にとっては、目の前に流れて来た細い流木に等しかった。この華奢な木のカケラにすがったとしても、助からないかも知れない。
しかしそれは、他に選択肢の無い、自分自身を助けられる唯一の方法。
人間は、小さなカケラにすがった。
自分たちが住んでいる世界には、自分たち以外の友人が居ないと言う、確定された事実を受け止めた人間たちにとっては、すがるものは他に無かった。
だから、自分たち以外の人間がいるかもしれない世界――異世界への扉はこじ開けられた。無限の広がりを持つ黒き星の海の果てまで行ける力を持っていたのだ。それぐらい容易い事だったのだろう。
そこは自分たちが住む世界と同じようで、少し違う時間が平行して流れていく世界。そこへ渡ることができた人間は、悠久の夢を成就させ、泣いた。
そして、自分たちが住む世界とは似て非なる世界の創造――擬似的平行世界を作る技術も、同じくして完成した。異世界へ渡る力を持たざる者を満足させる為に。
一柱一柱が一つの異なる世界と言われる機械神が、我々の住む世界に存在していられるのも、そうした理由がある。
あの人の形をした世界は、人間たちが自分たち以外の友人との出逢いを渇望した果てに生まれた、擬似的平行世界創造の技術を持って、動いている。
確かにそれは危険な存在だ。
あの人の形をした世界が、ほんの少し調子を悪くしただけで、それは他世界にも影響を及ぼすだろう。
他の世界――他の機械神だけじゃない。我々が住む世界だって世界の一つなのだから、機械神の一柱が調子を悪くしたら、我々の住む世界のどこかが調子を悪くするのも仕方ない。
機械神が風邪をひいたらそれは我々の世界では森羅を吹き飛ばす颱風なのかも知れないし、機械神が足を挫いたらそれは天地を引き裂く地異なのかも知れない。
しかし、仕方なかったのだ。
それぐらいの強い存在力を有するものでなければ、この星を守る力を持てなかったから。対決すべき存在と同じ力が持てなかったから。
ヒトは世界を壊してでも前に進まなくてはならない時がある。
そして――