異界に帰る人、異界に行く僕
その方に初めてお会いしたのは僕が10歳の時だった。
父上の兄、異世界の人間。
「やあ初めまして甥っ子殿」
王子であるこの僕に格式張った挨拶をしなかった方は初めてだった。
少し戸惑ったけど、好感の持てるお辞儀の角度と表情。
それに服装も異形だが、洗練され見目もよかったのが印象に残る。
そのせいで異界のマナー…文化に興味が惹かれた。
威風堂々とした叔父。
王の腹違いの兄という立場、初めて来るこの世界、しかも王城謁見の間だというのに怖くないのだろうか?それとも強さに自信があるのだろうか?
叔父の出現は混乱と陰謀を水面下で誘発させる可能性があった、だから彼自身への危険性もかなり高いはず。
父上も接し方がわからないようで無言だ。
近しい血縁者に対し、王という血の問題がある僕達には普通の家族のように簡単には喜べない、国絡みの利権がどうしてもあるからだ。
「私は次の満月の夜に元の世界に帰るよ。それに『異界渡り』も今後できないようにするつもりだから安心して下さい」
叔父は飄々とこの距離感の測りづらい緊迫した空間を取り除こうと喋る。
なんでも異界との行き来ができるのは王家の血を引く者の巨大な魔力と各世界の物質を媒介にして行うしか手段がないそうだ。
叔父は祖父が異界に残したペンダントを使い、叔父の母と二人で『異界渡り』をしてきたそうだ。
それに異界に帰る時、この世界の物質を持ち帰らないから『異界渡り』はもうできないと言う。
確認してみますか?と叔父は述べ、王と賢者、宰相の4人で『異界渡り』のやり方を検証した。
そしてその手法でしか『異界渡り』はできないと確認され、契約魔法により違えないことを誓った。
そうして自らが火種になるのをかわすと叔父はその母と祖父に会いに行った。
なんでも今回『異界渡り』をしたのは叔父の母が病気でもう長くないから、一目祖父に会わせたかったからだという。
さらに驚くことに『異界渡り』は叔父自らが作り上げた魔法だという。
そんな魔法を作る才能に多くの者が賞賛したが、叔父はアッサリと、祖父の魔力の暴走が偶然異界の壁を乗り越えたのがヒントだったから意外に作りやすかったとサラッと述べた。
それでも驚嘆だ。
なにしろ世界を分ける壁は長く争いの続く魔族と人間を住み分けるために、当時の魔王と勇者が結託し自らを犠牲に神に願い、世界を分ける契約をしたものだからだ。
神の壁を越えた叔父、きっとものすごい力を持つのだろう。
ひょっとしたら魔王である父上よりも遥かに?
そのせいで憶測される事柄があった。
叔父の母は勇者の血を引く者ではないかと。
なんだかスゴイと思った。
異界で結ばれた魔王と勇者、そして愛する魔王に会うためにやってきた勇者とその息子。
当初祖父の隠し子が現れたと聞き複雑な気分だったが、彼らのロマンスにちょっと感動した。
叔父に僕は異界の話を聞きに行く。
だけど叔父は異文化交流なんてすると大火傷しちゃうからねと、話したがらなかった。
そのせいか祖父のいる離宮から出ようともしなかった。
もっとも監視役が大勢いたから自由なんてなかったからかもしれないが。
僕はどうしても異界の話が聞きたくて叔父にベッタリと張り付いた。
おかげで叔父は当たり障りのない話位は段々するようになる。
叔父の世界では魔法は廃れ、一部の者のみしか使えないという話。
生活の中心は電気で(詳細は誤魔化された)この世界で言うところの魔道具を動かすとか、そこから作られたというコンピューターが良い意味でも悪い意味でも世界を発展させているとか。
それに叔父の服からもわかるようにそちらの世界はハイカラで、魔力の強さや身分で住み分けられるこの世界とは違う自由な面も魅力的だった。
「君と同じ位の娘がいるよ。本当は向こうの物質をあまり持ってきたくなかったんだけど…もしものために娘の写真位はって思ってね」
写真を見せてもらう。
原理は違うがコチラの世界でも写真位あるよ、でも素材の違いにちょっと驚いた。
カワイイ女の子、黒くて真っ直ぐ伸びた長い髪が印象的だった。
ただカワイイだけなら普通なんだけど、なんだか目が離せなかった。
こうして叔父との日々は過ぎていった。
それから5年。
日々の執務や政争に嫌気が差した僕は、ふと懐かしい写真を見つけた。
この子も大きくなったかな?
あの時叔父の写真を、この世界の写真に(見た物を念で額縁にコピー)写したものだ。
実験ですよと誤魔化したけど、娘さんの写真が欲しかったのはバレバレだよなぁ。
思い出しても恥ずかしかった。
向こうもいい年齢になったし婚約者できただろうなぁ。
かくいう僕も明日婚約者を定めなくてはならない。
正直迷うというか憂鬱だ。
叔父の世界はここより自由かな?
魔法のない世界とはどんなところだろう?
僕は異界を夢想する。
もし僕がそちらに行ったら叔父さん達に会えるかなぁ?
「異界に渡ってみたいな。」
自然と口から出た。
その瞬間体内の魔力が急激に抜け気が遠くなる。
何が起こった?
クラクラする頭、ヨロける体。
そして悲鳴と共に激しい痛みを感じる。
「痴漢!ヘンタイ」
いきなりのことに痛い痛いと慌てていると、目の前にどこかで見たような金髪の女の子がいた。
よくわからないが、僕はベッドから蹴り落とされ攻撃を受けているらしい。
見覚えのない場所?
「死にさらせ!」
「ゲフゥ!」
女の子の掌底が顎を突き上げ抜けた。
意識が遠のく。
ここはどこ?君は誰?
お目汚し失礼いたしました。
文の練習中な短編。
だけどネタだけで何も考えずに書くとダメだなぁとシミジミ反省。
異世界で離れ離れになる恋愛モノってどうかなぁと作ってみました。
本編化するとしたら王子は祖父と同じ運命をたどるかどうかは未定。
魔法使いの子孫が現代社会でどう生きその力を使うのか、あと魔王と勇者は守護聖獣で戦うといった世界観ではあります。