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俺がお前でお前もお前で

「うわぁっ!?」


 朝起きて鏡を見た瞬間、俺は柄にもなく甲高い叫び声を上げてしまった。目の前に写っていたのが、普段見慣れた橘誠一郎自身…ではなく同じクラスの幼馴染、白咲雪花だったからである。俺は鏡の前で固まった。


 鏡の中では白咲が驚きの表情で、何故か俺が昨日来ていたパジャマを着込んでいる。昨日の俺よりも白い素肌。華奢な細長い手足。昨日までの死んだ魚の目が、今日は潤いたっぷりの小動物の瞳だ。手入れの行き届いた長髪が、俺の肩を撫でる。俺はしばらく鏡の中の彼女に見とれていた。そしてようやく、事態の概要を説明するもっともらしい理由をひねり出す。


「もしかしてこれ、入れ替わりってやつなのか…!?」

 昨日夜更かしして読んだライトノベルのせいで、変な夢を見ているのだろうか。目の前の出来事が信じられないまま、俺は頬をつねってみた。痛い。紛れもない現実だった。それでも夢見心地のまま、とりあえず男物の学生服に着替えると、深く帽子を被り白咲の家へと向かった。自体を把握しなくては。白咲の家は歩いて5分くらいの距離にある。幼馴染だった俺たちは、幼い頃はよくお互いの家を行き来して遊んだものだった。家族ぐるみの付き合いもある。俺は走りながら、スマホをポケットから探り出した。


「はいもしもし…白咲ですけど」

「白咲!悪い朝っぱらから! 橘だけど!」

「誠一郎!? どうしたのこんな時間に…」

「今からお前ん家行くから待っててくれ!」

「はぁ!? どういうことなの!?」


詳しい説明は後でする。そう告げると俺は通話を切った。騒ぎになる前に、早めに手を打っておかなくてはならない。息を切らし、白咲家の玄関を白咲の体でくぐる。チャイムを鳴らし、数秒後に開かれたドアの向こうには、案の定…。


「きゃあっ!?」

「えっ!?」


 案の定…ではなかった。白咲雪花になった俺を出迎えてくれたのは、紛れもない女の子の白咲雪花だったのである。


「誰!? 誰なのアンタ!?」

「おおお落ち着け白咲!俺だ!橘だ!」

「たち…誠一郎ッ!? ちょっとアンタ何やってんの!?何であたしの格好してるのよこの変態ッ!」

「知らねえよ! 朝起きたら体がお前になっちゃってて…」

「馬鹿! 死ねッ! いますぐその体やめて!!」

 

 早朝の玄関先で、白咲がパニックになって喚き散らした。無理もない。玄関を開けたらいきなり男装した自分自身が現れたのだ。俺は必死で状況を説明した。


「俺はてっきりお前と体が入れ替わったのかと…。ホラよくあるじゃん漫画とか小説とかで…」

「よくある訳ないでしょッ!!ここは現実なのよ! いいからその体やめて!」

「や…やめてったって…」

そこで俺ははたと気がついた。


「俺のカラダは…?」

「はあ!?」


 玄関先で、見つめ合う二人の白咲雪花。一人は白咲雪花本人。そしてもう一人の雪花の体には俺自身、つまり橘誠一郎の魂が入り込んでいる。ライトノベルや漫画でよくある、心の入れ替わりだ。


「俺のカラダは……??」

「何?ちょ、あんた何やってんのよ! この変態!!」

 俺は思わず今の自分の体をまさぐっていた。柔らかい。ぷにぷにっとしている。未だかつて、自分の体をこれほど触り続けたいと思ったことはない。まさしく男子高校生の憧れ、正真正銘女の子の体だ。いやそうじゃなくて。


「ない…俺のカラダ…ない…」

「ちょっともう!部屋に来て! 変な目で見られちゃう!」

 呆然と体をまさぐり続ける俺を、白咲が真っ赤な顔で家へと引っ張り込んだ。振り返ると向かいの道路で散歩中のおっさんが、呆けた顔でじぃっと俺たちの騒ぎを眺めていた。白咲と入れ替わったはずの俺の体が、どこにも見当たらなかった。

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