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ウィッチ島のグリーンモンスター

次の日、6人はウィッチ島へ飛んだ。砂漠の島、ウィッチ島は、今や緑があふれている。六人は飛行機から降りた。緑のさわやかな風が頬を撫でた。

「まるで違う島みたい。」

ルカが不安そうに言った。

「とにかく、ルカのいた町に行ってみましょう」

オバーンの提案でルカ達が歩き出したその時、

「待ちなさい。」

空の上から男の声が聞こえた。上を見ると、ヘリコプターが飛んでいる。

そこから梯子が降りて若い男がつたってきた。

「私も共に行かせてくれ。」

「メアさん。」

「やあ、ラルド。宇宙研究所から、見ていたよ。ここは、危険が多いからね。私も付き添わせてくれ。」

メアは皆に握手を求めた。皆はメアを訝しがって、ラルドを見た。

「ラルド、紹介しなさいよ」

はしゃぎ気味のラルドにアシアがイライラして言った。

「あっはい、姫様。彼は、国際研究所の研究員のメアさんです。父と同じ国際宇宙研究所で働いているんです。信用できる男ですよ。」

「エリートなんですね。」

オバーンがメアの握手に応じた。

「いや、私なんか、まだ若輩もので。」

「父上からの命令なんですか?」

ラルドの問いにメアは頷いた。

「とにかく、マジル町に行きましょう。」

メアは先頭に立って歩き出した。

「場所、知っているんですか?」

ルカがメアに追いついて言った。メアはハッとしたような顔をして、

「えっええ。空から見えましたから。」

と、言う。皆がしばらく歩くと、マジルの町が見えた。マジルの門には、グリーンモンスターが数人いる。そして、そのうちの一人が近づいてきた。皆は条件反射で武器に手を駆けたが、争う気配が無いので、武器をしまった。

「精霊動物を連れているということは、ルカさんですね。」

近付いてきた男の問いにルカは少し怯えながら頷いた。

「ええ、なぜ、私のことを?」

彼は、軽く頷いて、質問には答えずに言った。

「町に入るのを許可します。」

「どういうことだよ。」

ティクがルカの前に出て荒っぽく聞いた。

「隊長の命令なのです。みなさんもどうぞ。ついて来て下さい」

彼は先に立って歩き出した。

「どうするの?」

オバーンが小声でルカ聞いた。

「行きます。私を知っているってことは、多分、兄が関係していると思います。」

フィルがニヤッとした、

「なるほど、ルディ君ね。これは、話せば理解しあえるかな。」

(ルディさんが?本当かな。ルディさんがラルドの家を占領なんかするかな。)

ティクは疑問に思いながらも口には出さずついていった。フィルがオバーンの肩をつついた。

「オバーン、息子の事、考えてるだろ。」

オバーンはフィルを見て、不安そうに顔を上げた。

「ええ。会えるかもって期待してるわ。でも不思議なものね。私を許してくれるか、とか。元気でいてくれるかとか。不安も大きいのよ。」

 フィルは肩を抱きながらトントンと優しく叩いた。

「心配は不安が事実になってからしろよ。今はいいことだけ考えな。女は笑顔が一番なんだからよ。」

オバーンはフィルを見て頷いた。

彼らは町の中心の学校へ連れて行かれた。

「私が通っていた魔法学校よ」

ルカが言った。

「お兄ちゃんはここで主席だったの。」

「さすが・・・強い筈だね。」

ティクは尊敬の念を込めて言った。

彼らは体育館に連れて行かれた。中に入ると、案の定、ルディが部下に囲まれながら待っていた。

「よく来たなルカ・・・それにティク君だったよな。妹をありがとう。」

「お兄ちゃん!無事だったのね。良かった。」

ルカは心からそう言った。

「心配かけたな。ルカも無事でよかった。・・・何から話そうか。僕たちは、病気なんだよ。グリーンモンスターというね。」

「知ってるわ。」

ルカは静かに言った。

「では、これは知っているかな?・・・このウィルスは人工的に作られたものなんだ」

ルディの言葉に一同がざわめいた。

「知っている。でも、一体だれがそんなことを。」

ティクが怒り気味に語尾を強めた。

「それは・・・。」

バーン

大きな鉄砲の音がした。体育館の天井に穴が開いた。メアが空に向けて打った銃を静かに降ろして軽く笑った。

「おしゃべりはそこまでだ。」

「どうしたんです、メアさん?なぜ?」

ラルドがメアを見て腕を取った。メアは腕を振り払い冷たく言い放った。

「彼らは、知りすぎたのさ。」

グリーンモンスターが周りを囲み、攻撃態勢に入った。メアはポケットから、静かに箱を取り出した。

「この箱には、植物に猛毒なカビが入ってる。お前らの命もここまでだ。」

「どういうことです?メアさん!」

ラルドはメアにしがみついた。メアはラルドを振り払う。ルディはスッと前へ出た。

「ここは任せて、みんな逃げろ。」

グリーンモンスター達は戸惑った。

「隊長!」

「大丈夫だ。早く行け!」

グリーンモンスター達が次々にその場所から逃げ出した。メアは箱に手をかける。ルディの蔓と、ティクの銃が同時にメアの手を攻撃した。箱が床に落ちる。落ちた衝撃でカビが散らばりそうになった。ルディは急いで箱に覆い被さり、カビの拡散を防いだ。が、同時にルディは苦痛で顔を歪めた。カビがルディの体を黒く変色させる。ルディは最後の力を振り絞り、自ら火の魔法をかけ、カビごと、体を焼いた。

「アハハハハ。」

メアは面白いものでも見るように笑い出した。ティクが飛びかかろうとするのを、ラルドは止めた。そして、信じられないというように震える声で言った。

「こんな人じゃ・・・ないんだ。」

ルカは急いで土の死の力を使いカビを殺し、光の生の力でルディの体を助けた。メアは笑いながらルカに向かって銃を撃った。すかさず、フィルが銃弾を剣で弾いた。

「メア、覚悟はできてんだろうな。」

ティクが銃を構え低い声ですごんた。

「いやいや、お嬢さんが無駄なことしているから、馬鹿馬鹿しくてね。」

メアは笑いながら話し続けた。

「いやはや、グリーンモンスター全滅とはいかなかったか。だが、ここのボスを倒せただけでもよしとするか。カビの威力も分かったしな。上空から撒けば、この島は元通り、砂漠の島になる。」

メアの言葉で、ティクの怒りに歯止めがかからなくなった。

「メア!貴様ぁ・・」

ティクが銃を撃った。メアも同時に銃を撃ち、ティクの球を弾いた。

「何っ。」

「驚いたかい?私の銃は百発百中なんだよ。」

フィルもメアに斬りつけに出た。メアは、敢えてフィルを狙わずに治療に当たっているルカを狙って撃った。オバーンがルカを庇うように自ら銃をうけた。彼女の左肩から血が噴き出す。

「うっ」

フィルがオバーンを見た。その瞬間再びメアの銃が火を噴いた。

「おやおや、よそ見はいけない。守りに入っている者が攻撃に転ずるときはそれくらいのリスクは覚悟しておくものだろう?」

フィルは右手を打たれ、剣を落とした。

「さて、フィル君。後回しにするようで悪いけれど、グリーンモンスターのボスは倒しておかないと、仲間にしめしがつかないんでね。」

銃が再び、ルカを狙った。スッとアシアがルカとルディの側に来た。

「風よ。我が側で回れ。全てを寄せ付けるな。力を見せよ。」

強い風がアシア、ルカ、ルディを守るように渦を巻き始めた。

「あなたの攻撃は、もうきかないわ。」

アシアの強い言葉にメアは再び笑った。

「では、そうだな。ここにいるフィル君やオバーン君に犠牲になってもらおうか」

バンバンバン。銃の音はティクのものだった。メアは同じ様に自らの銃で銃弾を弾いた。

「さて、攻撃側で負傷してないのは、ティク君だけだ。君の銃と僕の銃。どちらの銃弾の数が多いか知っているか?」

メアは不敵に笑った。

「答えは私だ。」

「そんなの知るかぁ!」

ティクは銃の引き金を何度か弾き、銃弾がないのを悟ると、メアに向かって短剣で飛びかかっていった。メアがティクに向けて銃を撃ったその瞬間、ラルドはメアに横から飛びかかった。

「うわぁぁぁ」

 ラルドはメアに馬乗りになり、両手でメアの手を抑えた。後ろでは、ラルドのおかげでぶれた銃弾が、ティクの急所を外し足を撃ちぬいた。ラルドは驚いているメアの銃を手で弾いた。メアはラルドの悲しみに満ちた目を見るとゆっくり息を吐き、落ち着きを取り戻した。

「おや、ぼっちゃんにこんな勇気があるなんてね。」

「これがあなたの本性か!」

ラルドはなんとか理性を保ちながら言った。

「さあね。私は昔から、こうだよ。任務は遂行する。科学者は感情をもってはいけない。成功には、犠牲がつきものだからね。」

フィルが、撃たれた右手をかばいながら近くまできてメアの銃を拾い、メアの額に左手で銃を向けた。

「悪いなラルド。俺はこいつが許せない。」

ラルドは制止するように手をフィルに向けた。

「理由があるなら話してください。メアさん。」

「理由が知りたいか?知りたいのなら、お前も宇宙ステーションへ・・・急がないと、父親が処刑されるぞ。」

「えっ?」

メアはラルドが動揺で力を緩めた隙を見て、ニッと笑ってもう一つの銃を懐から出そうとした。

バン。

フィルはためらわず、メアの額を打ち抜いた。そして、冷たい目で何も言わず、ルカの所へ走っていった。ルカは治療をおえていたが、ルディは死んだように眠るだけで目覚めなかった。ティクも足を引きづりながらルカの所へ行った。

「ルディさんは大丈夫なのか?ルカ」

「だめ、火傷は治して、カビも殺したのに、意識が戻らない。」

ルカはすがるようにティクを見た。

「それにね。ティク。カビと同時にモンスター化のウィルスを殺しているのに人間に戻らないの。」

「どうすれば・・・」

ティクは悔しそうに呟いた。体育館の外から、一人の子供のグリーンモンスターが顔を出した。

「母さん?母さんだろ?ひどい傷じゃないか。大丈夫?」

オバーンはその子を見てハッとした。

「ジース・・・貴方ね。会えて・・・良かった。」

オバーンはその場に座り込んだ。子供の顔で急に気が抜けてしまったのか、うまく足に力が入らない。

「ルディさんが一人で敵と戦っているって聞いたんだけど母さんもいるなんて。母さんは敵じゃなかったんだろ?」

「ええ、敵じゃないわ。そして、本当の敵は死んだわ。だけど・・・」

ジースは倒れているルディの側に寄った。

「ルディさん、泣いている。」

見ると、ルディの目から涙が流れ落ちている。ジースはルディの涙をぬぐった。オバーンはジースを後ろから抱きしめて言った。

「辛いのかしら・・・ね。彼の心を救えたら、目覚めるのかしら?」

ジースはオバーンの手を握った。

「ルディさんは目が覚めないんだね。僕、どうすればいいんだろう。」

アシアがフィルの手を手当しながら言った。

「王家に伝わる魔法で、人の心に入れる魔法があるけど。」

「ティク、ルカ。申し訳ないんだが。」

急にラルドが後ろにから言った。

「私は、急いで宇宙ステーションに行きたい。父上が危ない。私の家に、宇宙ステーションに向かう転送装置がある。ここマジルに僕の家に向かう通路があるはずなんだ。」

フィルはラルドの顔を見て頷いた。

「分かった。二手に分かれよう。ジース、ラルドの家へ向かう道、教えてくれないか?」

フィルの言葉に、ジースは恥ずかしそうに、オバーンから離れた。

「ルディさんを助けてくれた貴方達を信用しましょう。地下道を通って、ラルドさんの家へ行けます。僕が案内します。」

「私も、ラルドの家へ行くわ。ジース、側にいさせて。」

オバーンが言った。ルカはルディの手をとって珍しくはっきり言った。

「私はお兄ちゃんの意識へ、心が傷を負っているなら、手当しなきゃ。」

「僕も意識の方へ。ルカを守らなくちゃ。」

ティクがナイト気取りで言った。横からアシアが、

「私は魔法使用者だから、必然的にルディさんの意識へいくわ。」

と言うと、フィルは、

「じゃ、俺も意識の方へ行こうかな。女の子多いし。」

と言った。アシアはフィルの足を小突いて、

「あなたは、ラルドの家へ向かいなさい。」

と、言うと、フィルは、

「なんで。」

と口をとがらせた。アシアはフィルの耳を引っ張って、小声で囁いた。

「ラルドは父親のことで、オバーンは、息子に会えて浮き足だっているわ。こういう時は、戦闘力に波がでるものよ。ここは、気持ちに安定感のあるフィルがサポートしなくちゃ。それから、飛行機のコントローラーは借りるわよ。こっちが終わったら追いかけるから。」

「はいはい。分かったよ。」

フィルは肩をすくめた。

ジース達がラルド邸へ向かうのを見送った後、アシアとルカとティクは手をつなぎ、ルディを囲って輪になった。アシアが魔法を唱えると、地面に魔法陣が現れ、景色が揺れ動いて、ルディの意識の中に吸い込まれて行くのが分かった。気が付くと、3人は海の見える丘の上に立っていた。

「ここが、ルディさんの意識の中?」

ティクが聞いた。

「思い出の一つでしょうね。」

アシアが手を放して、周りを見た。

「あそこに見えるの、港町のクーンじゃない?オバーンと会った。」

ルカが町を指さした。

「そうね。でも反対側見て。ジースとルディさんがいるわ。」

見ると、ジースが町の人に石を投げられていた。それをルディが必死に庇っている。

「やめろ!」

ティクが叫んで走り出すのをアシアが止めた。

「思い出は過ぎた出来事よ。私達は何もできないわ。」

景色はルディとジースの側にドンドン近づき、3人はいつの間にかルディのすぐ側に来ていた。

「こんなに近くで見せるなんて。ルディさんにとって、これは良くも悪くも忘れられない出来事なのね。」

アシアが言った。ルカはあまりのつらさに目を伏せた。

「近寄るな、モンスターめ!俺達にもモンスター化がうつる!誰か銃を持ってこい、うつされる前に殺そう。」

町人の怒声が聞こえた。ジースが大きな声で泣き出した。

「うわああああん、かあさーん。」

「母親がいるのか?誰だそいつは?そいつも殺そう。病気をうつされる。」

町人の声にジースが怯えた。

「ヒッ。いないよう。かあさんなんかいないよう。」

ジースは涙目でルディにしがみついた。ルディは蔓で町人達をはじき飛ばし、ジースを連れて逃げ出した。

「坊や、俺と一緒に行こう。あいつらは姿が人でも心が人ではない。」

再び景色が歪んだ。新しい景色が見えてきた。森だ。3人は森の中にいた。

「ここは、アイド城の前の森だわ。」

アシアが言った。何人かのグリーンモンスター化した騎士がたき火を囲んでいる。鎧の模様からして、アイド城の騎士のようだ。草むらからルディとジースが出てきた。

「あなた達も、元いた場所から、出て行った人ですか?」

騎士の一人がルディを見つけて問いかけた。

「ええ、人間達に疎外されましてね。あなた方もお城の人たちに追い出されたのですか?」

「いいえ、自分たちで出て行ったのです。ウィルスによるものだというし、王様にうつすと大変ですから。」

ルディは小さくため息をついた。

「モンスター化しすると、大変ですよね。僕らが安心して住める町があるといいんだけど・・・。」

横でその姿を見ていたルカはパチンと手を叩いた。

「そうか。だから壊れてしまったマジル町をもう一度作ろうとしたんだわ。ここにはもう人間がいないこと、ルディは知っていたんだもの。」


再び景色が歪んだ。今度は辺りがジメジメして暗い。どこかの地下室のようだ。

「どこなんだろう。ここは。」

ティクが辺りを見回すと。松明を掲げたルディとジースと何人かのグリーンモンスターが近づいてくるのが見えた。ルカはビクッとした。

「安心してルカ。これは思い出なんだから。あの人達は私達に気付かないわよ。」

アシアが落ち着いて言った。

ジースがこちらに駆けてきて、ルカ達をすり抜け、奥の壁を照らした。

「ここです。僕らが発見したのは。」

その壁の端には人の通れる穴があった。

「中はもっと広いです。ある程度整備されています。」

ジースは中を松明でてらした。ルディは中を覗き、不思議そうな顔をした。

「せっかく、グリーンモンスター化した人の町を、ウイッチ島に作ろうとしたのに。地下におかしな道があるなんて・・・これは、俺も知らなかった。どこに続いているんだ?」


再び、場面が変わった。今度はひどく明るい場所だ。ガヤガヤとグリーンモンスターの声がする。

「どうも、この思い出も強い印象があるみたい。とても明るいもの。」

アシアが目をまぶしそうにしばたきながら言った。

「どこかの研究室みたい。どこだろう?」

ルカがぐるりと見渡した。ルディが何か資料を読んでいる。

「馬鹿な!これは、全て仕組まれたことだというのか!」

ルディの叫びにジースが寄ってきた。

「ルディさん、どうしたんですか?」

「この資料を見てくれジース。これなら、ウィッチ島の被害が大きかったのもうなずける。」

資料を手渡されたジースは震えだした。

「ひどい。」

そのとたん、ルカ達の周りが急に暗くなっていった。研究室が遠のく。なんだか何かに吸い込まれる感じだった。どんどん、どんどん暗くなっていく。闇より深い黒。それでも奥に誰かが見えた。ルディだ。頭を抱えて苦しんでいる。

「憎い憎いニクイ・・・僕をこんな目に会わせた人たち。僕らは実験台だった。」

ルディが叫んでいると言うより、周りから声が聞こえる。それは、ルディの心の声だ。

「おにいちゃん!」

ルカが叫んだ。ルディは顔を上げた。しかし、ルカに反応したと言うより、音に反応した程度なのだろう。目は焦点をあってなかった。

「あいつらを、宇宙ステーションから引きずりおろしてやる、この体で、この力で。」

ルディの体から蔓が伸びてルカ達に攻撃してきた。ルカ達は端に避けた。

「こちらも攻撃しましょう。少し彼の心のエネルギーを発散させないと暴走してしまうわ。」

アシアが言った。

ルディとの戦いは、あっけなかった。ルディの攻撃が幼稚だったからだ。まるで、本当に力を出す為だけのように攻撃してきた。ティクは銃を使うまでもないと、ルディを2、3発殴るとルディはあっけなく倒れた。ルカはルディの側に行って、優しく撫でた。

「力が全てじゃないよ。お兄ちゃん。お兄ちゃんはみんなに慕われてリーダーになった。・・・それは、力があったからだけじゃないよ。それに・・・みんなとのいい思い出もあったでしょ。」

「そうだ。・・・そう。あいつらには、力をもらった。」

周りが明るくなった。いつの間にか、ルディの姿が消えて、ルカ達はオーゼの近くの池の畔にいた。釣りをしているグリーンモンスター達が見えた。

「隊長!見てこんなに大きな魚。」

何人かのグリーンモンスター達がそれぞれに魚を持って岩陰から駆けてきた。その中にジースもいる。

「ルディさん、岩に追い詰めて爆破させたら、こんなに多くとれたよ。」

「おいおい、ジース。やりすぎるなよ。爆破なんかさせたら、他の魚が逃げちまうじゃないか。」

皆が笑ってる。皆幸せそうだ。辺りが急に暗くなった。また、場所が移動するようだ。ティクがルカの側に寄って来た。

「ルカ、僕少し安心したよ。ルディさん達は、ずっと不幸だった訳じゃないんだな。」

ルカは微笑んで頷いた。周りの景色は夜、オーゼの町の見える崖の上だ。皆、魚を焼いて夕食にしている。ジースがルディに話しかけているのが見えた。

「僕、ルディさんにあえてよかった。本当の兄貴みたいで・・・うれしいです。」

「俺も、ジースにあえてよかった。旅が楽しくなったよ。」

「ルディさん、僕、夢があるんです。世界には、まだ、グリーンモンスターになって迫害されてる人もいる。その人たちを救いたいんです。」

「うん。俺もそう思うよ。」

ルディは強く頷いていた。そして、周りから心の声が聞こえた。

「俺にも夢があった。船の船長として世界を飛び回る。今となっては、はかない夢だがな。」

ルカはティクの顔を見た。

「そうだ、お兄ちゃんは、ずっとその夢の為に勉強してきたんだった。今はその夢を我慢して皆の為にここにいるんだね。」

ティクも頷いた。

「ルディさんは、いつも自分を犠牲にして・・・つらくないのかな。」

再び景色が歪む。ティクはルカを見た。

「ルディさん。心の中でも、がんばっていたんだね。」

「うん。お兄ちゃんは、マジルでもいつもみんなの羨望の的だったの。だから、迫害される側に回ったとき、みんなよりつらかったんじゃないかな。」

ゆっくり景色が見えてきた。見たことのある景色だ。

「ここ、イベルね。イルベスさん元気かしら。」

アシアがうっとりしながら言った。グリーンモンスター達がイベルの町の前でウロウロしているのが見えた。反対側にはルディとジース。それに仲間達が見える。ルディは彼らに駆けていって声をかけた。

「どうした?」

彼らは顔を見合わせてそのうちの一人が答えた。

「私たち、アリリアから、船で逃げだしたんです。でも、ここも、人間達に嫌われて・・・。仕方なく戦って人間を追い出して、ここを私達の村にしようかとおもったんです。でも、人間を・・殺せなくて。最後の最後でできなくて。」

もう一人のグリーンモンスターが出てきた。

「人間は容赦なく、襲ってくる。あいつら、私達をモンスター扱いする。」

ルディは静かに口を開いた。

「村を奪うのは、いけない。ウィッチ島に行けば・・・ウィッチ島にはもう人はいないはずだから・・・。」

「私達の町ができるんですね。」

グリーンモンスター達が言った。

「あそこなら島だから、人間に出会うこともない。私たちは迫害されなくてすむぞ。」

景色が歪みマジル町に変わった。沢山のグリーンモンスターに囲まれてルディが前に出てきた。

「壊れてしまったマジル町、ここに、もう一度町を立てよう。」

ルディが言った。

「俺たちの町だ」

他のグリーンモンスター達も喜んだ。一方でルディの心の声も聞こえた。

「・・・これでいいのだろうか。こうやって逃げることは、人間と分かり合うチャンスをつぶしているのではないだろうか。」


再び景色が変わった。マジル町が新しい町になっている。

「この町も機能し始めましたね。世界の至る所から、グリーンモンスターになった人達がきているんですよ。」

ジースが男を連れてルディに挨拶しているのが見えた。

「お初にお目にかかります、ルディさん。僕、西から来たグループのリーダーをしています。クーマって言います。仲間していただき光栄です。」

クーマは、ルディに跪いた。ルディはクーマを立ちあがらせて握手した。

「俺達は仲間だ。跪くのはやめてくれ。ところで、新しく来た何人かは、大けがしているようじゃないか。」

「ええ、人間に会うたび攻撃されてきました。多少、やり返しても構わないと思います。でないと、あいつら、分からないですよ。」

「そうですよ。ルディさん。」

ジースも同意した。ルディは困ったように頷いた。クーマは続けざまにルディに言う。

「知っていますか。最古の科学者に会う鍵を集めている人間がいることを、あいつらきっと、研究所の人間ですよ。」

ティクはハッとして叫んだ。

「僕らのことだ。そんな風に誤解していたのか。」

ティクの声が聞こえないルディは

「我々をこんな姿にした人間が、さらなる力を得ようとしているのか。」

と悔しげに呟いた。

「会った時は倒しても構わないですよね。」

クーマはルディの顔を見た。

「僕、僕も戦います。僕の爆弾は役に立ちますよ。」

ジースがしゃしゃり出て言った。ルディはゆっくり頷いた。


再び周りが変わっていく。変わっていく景色の中、ルカが言った。

「そっか、だから私達のこと、勘違いしてたんだ。」

景色は再びウィッチになった。少し時間が経っているようだ。町が前より少し出来ている。

「見て、ジースが落ち込みながら歩いてくるわ。」

アシアが指さした。

「ルディさん」

ジースは下を向いたまま、ルディの側に来た。ルディはクーマ達と共に町の工事手伝っている。

「どうした?」

ルディは手を止めてジースに向かい合った。

「母さんが・・・いたんです。遺跡のところに・・最古の科学者に会う鍵を集めているメンバーの一人でした。」

「君の?まさか。」

「僕はどうすればいいんでしょう。」

クーマが横から口をだした。

「吹っ切ればいいさ。敵なんだから。」

「ルディさんの妹もいたんですよ。」

ルディが目を大きく見開いた。

「ルカが?確かか。」

「ルディさんの持っている、写真の子でした。」

クーマはルディの肩ごしに言う。

「大将としては、けじめが大事ですぜ。」

それでもルディはジースに言った。

「・・・ルカも、おそらくジースのお母さんも、研究所のメンバーである筈がない。ルカは、俺と一緒に研究所に捕まった事もある。もしルカが、ここへ来たら、話しがしたい。連れてくるように言ってくれ。」

クーマは軽く舌打ちした。それを見ていたルカがホッと息を吐いた。

「お兄ちゃん。やっぱり、私のこと信頼してくれていたんだ。」

再び場面が変わった。町がすっかり出来ている。時間が経ったらしい。

「ウィツチにバリアが張られました。外に出ることができません。僕たちを警戒しているのでしょうか。」

ジースがルディに報告する。ルディは腕を組んで考えた。

「ここを爆破する準備かもしれないな。ラゴンの家に続く地下通路を確保してラゴンの家を占領しておこう。これからそこが我々の出入り口となる。しかし、ラゴンの家の者には、危害を加えないようにしてくれ。」

「甘いですね、ルディさん。向こうが手を出したら、戦いますよ?」

クーマが横から言った。

「正当防衛の範囲内なら仕方ないだろう。だが、こちらからは、絶対手を出してはいけない。向こうに攻撃の理由を与えてはいけない。」

ルディは毅然として言った。ジースはモジモジしながら追加した。

「それから、言いにくいのですが、もう一つ報告です。世界にちらばる同胞の何人かは、人間を憎み戦っている者がいるそうです。」

ルディが黙ったままなので、クーマが横から口を出した。

「ルディさん。ここに町を作っても、他の世界と繋がりがないのなら、僕達は結局追い出された者です。ここを攻撃されたら、ひとたまりもありません。ある程度世界で戦って、私達の存在を認めさせたらいかがでしょう?そうすることで、人間との交流もできるかと・・。」

「戦えば、俺達を認めてもらえるのか?」

ルディはクーマに聞いた。

「力があることを見せれば、同じテーブルに付くことはできます。その辺り、私に任せてもらえませんか?血の気の多い者があちらこちらで動いてテロと呼ばれるよりは、統率して、秩序を持たせた上で動かした方がいいでしょう。」

ルディは仕方ないように頷いた。

「戦い無く共存できるのが理想だが、人間がこちらに偏見を持っているのであれば、仕方ないか。・・・・何事も理想道理に行かないものだ。クーマ、外のことは、お前に任せる。ただ、人間には紳士的に接してほしい。俺達が人間的に話し合うことができると分かってもらう為に。」

クーマは頭を下げた。その後、また場面が変わる。ジースがルディに報告する。

「ルディさんここへ運ばれてくるけが人も増えました。」

外側からルカ達にルディの心の声が聞こえた。

「結局、僕の命令で、争いが・・・。こんな僕を誰も許してはくれない。突き進むしかないのか。」


「ルディさんは、悩み過ぎだよ!みんなの支えになってきたのに。」

ティクが呟いた。ルカが、ルディに向かって叫んだ。

「争いをやめるのは、今でも遅くないよ。」

「僕は、許されない・・・」

他のグリーンモンスターは消え、ルディが一人頭を抱え座り込んだ。ルディの体から黒いつきものみたいなものが出てきた。それが飛び出し、ルカに襲ってきた。ティクがルカの前に庇うように立ち、その黒い物に銃をぶっ放した。それは大きく飛ばされ中心に大きな穴が開いたが、穴はゆっくり閉じ、再びルカを狙ってきた。

「なぜ、ルカばかりをねらうんだ。」

ティクは再び銃を撃ってからアシアに聞いた。

「分からないわ。ルディはルカを大事に思っている筈なのに、おかしいわね。」

アシアは、ルディに直接攻撃しようと、魔法の標準を合わせた。

「待ってアシア。」

ルカは止めた。

「もしかしたらお兄ちゃん、助けてもらいたいのかも。」

ルカは、黒い物体を避け、ルディの側に行った。そして、ゆっくり頭を撫でた。

「おにいちゃんは、いつも、側にいる誰かのことを考えている優しい人。大丈夫、みんな分かっているわ。」

ルディから出ている黒い物体がルカに襲いかかる。銃を撃とうとするティクをルカが止めた。

「ティク、動かないで。私は大丈夫だから。」

黒い物体はルカにくっつき覆っていく。しかし、ルカはルディを優しく抱きしめた。黒いものがだんだん消えていく。

「大事なのは、これからだよルディ。側にいるから。支えになるから。大丈夫よ。」

ルディは小さく、しかし、確かに頷いた。

「どうすれば、今まで、戦ってきた人間と仲良くできるだろう。・・・僕が橋渡しにならないと。僕がリーダーなのだから。」

「ルディ、私達もいるわ。一人で背負わないで。」

ルディはルカを見て立ち上がった。ルカは優しく手をつないだ。

「ルカ、現実世界にもどろう。俺はもう大丈夫だ。」

ルディがルカに向き合って頷いた。ティクとアシアは喜んで、ハイタッチした。ティクは、喜びながら、アシアを急かす。

「魔法を解除してくれよ、アシア。」

「大丈夫よ、ティク、彼が目覚めれば、自然に私達も外に出るわ。」

アシアの言った通りだった。気が付くと、目覚めたルディの側に皆立っていた。ルディは人の姿に戻っている。

「精霊の力が効いたんだわ。」

ルカが喜んでルディに抱きついた。ルディはルカを抱きしめ返した。

「ルディさんもいい男じゃない?」

アシアはティクに耳打ちした。ティクも素直に頷いた。

「僕が尊敬する人だもの。ラティスでも、自分を犠牲にして僕らを救ってくれた。すごい人だよ。」

ルディはルカ達に深くお辞儀をしてお礼を言った。そして、ルカに頼んだ。

「ルカ、みんなを人間に戻してくれ。」

ルカは頷いた。

「ええ、みんなを集めて。」

沢山のグリーンモンスター達が体育館に集まった。ルカはステージに立ち、両手を皆に向けた。ミョンがルカの肩に立ち体を光らせた。上から生の白き光が下から死の黒き光が皆を包んだ。ゆっくりと光が消えると、グリーンモンスター達は皆人間に戻っていた。歓声が体育館にこだまする。ルディがステージへ出た。歓声が最高潮になる。ルディが声を出すと、歓声は静寂に変わった。皆はルディの言葉に聞き入った。

「これで、皆、故郷へ帰っても受け入れられるだろう。もちろん、故郷へ帰っても、つらい思いをするかも知れない。帰りたくないものは、ここにいてくれて構わない。ただ、どっちにいても約束してくれ。つらい思いをさせてきた人間達を許してやってほしい。そして、人間達と仲良くしてくれ。それでも君らがつらくなった時、そして、何かを恨みたくなった時、俺を恨んでくれていい。つらい時は俺につらい気持ちをぶつけてくれて構わない。拳も受け止めよう。・・・酷なことは分かっている。どうか、これからのつらいことも、出来る範囲でいい、我慢してほしい。」

辺りが静まりかえった。しばらくして、一人が叫んだ。

「ルディさんもつらい思いをしているの知っているよ。一人じゃないんだから、抱え込まないでくれ!」

「そうだそうだ。」

「俺達だって、争いは嫌いだ。」

「心配しなくて大丈夫だよ。ルディさん。」

「あんたに免じで、恨みは忘れてやるからさ。」

「ルディ、万歳。」

歓声が上がった。側でティクはルカをつついた。

「さあ、ラルド達を追おう!」

ルディは涙を流し皆に一礼すると、振り向いてティクに言った。

「待ってくれティク。君らの仲間はラルゴの家にいったのか?胸騒ぎがするんだ。一緒に行かせてくれ。」

「待ってくれ、ルディさん。」

町の人がルディを止めた。

「私達はどうなる。今、攻め込まれたら、誰が指揮をとるんだ。」

ルディは町の人々のすがるような目に困惑した。

「私達は大丈夫よ、お兄ちゃん。必ず無事に戻ってくる。」

ルカが明るく笑った。

「そうとも、昔より、ルカは強くなった。それに僕もいる。言ったろ、もう一人で抱え込むなって。」

ミョンは胸を叩いた。

「ルディさん。ルカは僕が命に代えても守ります。」

ティクが言う。アシアがルディを見上げた。

「ここの指揮をとれるのは、ルディさんしかいないわ。」

「すまない・・みんな。」

ルディは皆の手を握った。

「無事を祈っている。」

町の人々も声をかけた。

「ありがとう、ルカさん!皆さん!」

「ご武運を祈ってます。」

三人はマジル町を飛び出し、飛行機に乗った。



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