最古の科学者と最初の巫女
「ここ、ケイさんの家だわ。」
アシアが言った。
「ここが?」
木でできたロッジ風の家の中だ。それでも、ところどころに、近代的な機械がはみ出している。
「みんなは家の中に入れなかったけど、私は王族だったし、家の外で夜明かしするわけにも行かなかったから入れてくれたのよ。」
アシアが少し自慢げに言った。
「そこ!ボタンとかいじらないでよね。ケイさん嫌がるから。」
アシアが勝手にいろいろ触ろうとするラルドに言った。その時、玄関の扉がギィと空いた。ケイが帰って来たのだ。
「来たか。とうとう。」
ケイは皆を見回して言った。外から飛んできたサポという鳥型の精霊が肩にとまった。
「刻印を全て刻みつけてきたか?」
ケイは低い声で聞いた。
「ええ。でも、まさか貴方が・・・」
ティクが言った。ケイはティクを制して、順番に刻印を見せるように求めた。まず、フィルが服を脱いで背中の刻印を見せた。花畑の模様が綺麗に刻まれていた。ケイは無い腕の服を捲りゆっくり力を入れた。見る見るうちに、そこに光る腕が現れた。ケイはその光る腕で、花畑をそっとなぞった。花畑から、花の匂いがプンとして、部屋中に花びらが散った。
「うん。本物だね。次は空だ。」
ティクも服を脱いだ。翼と雲が刻まれていた。ケイは同じように光る腕で刻印をなぞった。風がフワッと辺りにそよぎ、どこからともなく部屋に羽が舞った。
「間違いない。さあ、水の刻印は?」
オバーンは少しモジモジしながら周りを見回した。ケイは気付いて、笑った。
「ハハ。申し訳ない。女性の方なんだね。服は脱がなくてけっこうだよ。服の上からなぞらしておくれ。」
オバーンは顔を赤くしながらケイの前に進み出て後ろを向いた。ケイは服をなぞると大海を泳ぐ無数の魚の絵が浮き出た。浮き出た魚達は部屋のそこらじゅうを泳ぎまわり、皆の顔に水しぶきがかかった。ケイが頷くと、最後に星の遺跡の刻印を持つルカが歩み出て、背中を向けた。ルカの背中からは噴火している火山の絵が浮き出て、辺りが暑くなり、地面の底から唸るような音が聞こえた。
「全て本物だ。よく集めたね。」
ケイは光る腕を消した。
「不思議な腕ですね。」
アシアが腕のあったところを触った。
「この腕は特別でね。四つの刻印を確かめるときだけ出てくるんだ。そして、部屋はゆっくり動きだす。」
ケイの言葉通り、辺りに機械音が響き、床が大きく動きゆっくり下がっていった。皆、うろたえて、手を握りあったり、床に手を置いたりした。底に着くと皆、一様に驚いた。
地面の下の世界はまるで地面の上と同じ様な美しい自然が広がっていたからだ。
周りの木々は熟れた実を付け、奥の池は綺麗な水をたたえて魚が泳いでいた。池の中央には、噴水が水を吹きだしている。そこら中に見たことのない動物や美しい鳥達が遊び回っている。天国はきっとこんな所だろう。
「ここにはあまり入りたくなかった。ここは、忘れさせていた昔を思い出すときにしか来ない。私は昔を思い出すのが嫌いでね。」
ケイはポツリと言うと先頭にたって奥に続く石畳の道を歩き出した。
「こんな美しい場所なのに、入りたくなかったの?」
ティクが聞いた。
「どんなに場所を美しくしたって嫌な思いは消えない。ここにはね。私の過去のメモリーがあるんだ。」
ケイは道の先にある大きな洋館の前に立った。古い大きな洋館だ。蔓が周りを覆っている。一歩、中に入ると様々な機械でいっぱいだった。ケイは機械のスィツチ一つ一つに電源を入れていった。
「人は、嫌な記憶は消したりねじ曲げたりするようにできている。だが、私は消せない。はっきり克明に覚えている。記憶を美化したり改ざんしたりする機能が私の脳にはない。思い出す時は思い出したくない記憶まで出てきてしまうんだ。それがどんなにつらいことか分かるかね。私はそれが嫌でここを作った。ここで、過去の記憶を封印したのだ。」
「最古の科学者は・・・全ての過去を思い出した貴方なんですね。」
フィルは静かに言った。ケイは黙って頷いた。
部屋の一番奥には機械仕掛けの椅子と、頭に取り付ける装置があった。ケイは神妙な顔でその椅子に座った。そして頭に機械を取り付けた。
「この機械は私の脳に作用して失った記憶への線をつなげる。そして私は最古の科学者に戻る・・・さて、スイッチを入れよう。」
ケイがスィツチに手をかけると、ルカがスッとケイの手を握った。
「ケイさん。私達が知りたいのは光の精霊の居場所とフィルの故郷、アリリアにある飛行機の動かし方です。思い出すのがつらいならば、やめてください。」
ケイはルカを見てニッコリ笑った。
「有り難う巫女さん。貴方は優しいね。そして、何故か、懐かしい。けれども、あなたの知りたい事も思い出さないと分からないんです。」
ルカは申し訳なさそうにケイを見た。
「もしよければ、私が思いだしている間、私の手を取って心を守っていてくれませんか?私が強くいられるように。悲しみ、つらさ、悔しさにも耐えられるように。そして、誰も恨まないでいられるように。」
ケイは気恥ずかしそうにルカを見て手を差し出した。
「私の心で貴方を守れるのなら。」
ルカはしっかりケイの手を取った。他の5人もケイの周りにやってきて、ケイに手を重ねた。
「君達・・・」
ケイは周りを見た。
「あなたの苦しみを共に味わうことはできません。けれども、あなたがつらさに怯えないように、私達はこうしています。」
オバーンの言葉にケイは深くお辞儀をした。
「長生きするものだね。私は今、味わった癒しが心地よい。永遠に続くように願ってしまうよ。・・・しかし、現実では常に時は流れる。待っていてはくれないのだ。」
ケイは覚悟を決めたように頷いてスィツチを入れた。
ガタガタガタ。
ケイの手が震える。目が大きく開かれた。
「うわああああああ。」
記憶がケイの頭にあふれ出た。ルカを握る手に力がこもる。体が激しく痙攣し、顔を歪め、目を固く閉じた。感情を表に出さないように苦しんでいるのだ。二つの瞳からは涙が止めどなく流れ、見ているだけで哀れだった。
「ああ、皆さん。」
荒い呼吸が静かになり、痙攣が治まった後、ケイがゆっくり目を開けた。
「貴方達が手をつないでいてくれたおかげで、私は自分を保てました。ルカ、貴方を懐かしく感じたのは、やはり思い出のせいだった。ああ、やはりあの人に似ている。」
ルカはケイの手をぎゅっと握り返した。
「ケイさん・・・無理しないで。辛い思いをさせてごめんなさい。私達の知りたいことを教えてくれたら、すぐ記憶を封印して早くつらい思いを忘れてください。」
ケイはルカを潤んだ瞳で見た。
「ああ、ルカ。私の懺悔を聞いてくれるかい?貴方の母親の事、いや、先祖の事を話したい。」
「最初の巫女のことか?」
フィルがグイと身を乗り出した。
「ああ。」
ケイはフィルを見て頷いた。
「何から話そう・・・そう・・・一番初めからだ。私が産まれたのは、惑星ドクズでは無い。違う星で産まれた。地球と言う名の星だ。その星が壊れてしまい、ここに来たのだ。この星で自分たちが繁栄する為にね。私は当時片思いの女性がいた。その女性、サオリという名だったんだが、彼女も私も、その時この星に来た7人のメンバーの一人だった。そして彼女は、私ではない、他のメンバーを夫に選んだのだ。」
「待ってください。その時のメンバーはもう死んでしまったんですか?」
ラルドが聞いた。
「ああ、死んでしまった。それぞれに子を作ってね。妻のいなかった私は、自らこの星を見守り、私達の持つ知識を守る役目を申し出た。子孫がいない為、他の子供達に公平でいられると思ってね。私は自分自身の遺伝子を操作して死なない体にしたんだ。そして、この星を見守ってきた。」
ケイは皆を見回した。
「他のメンバーの子孫。それが君達なんだ。」
「ええっ。じゃあ、僕らの祖先は、この星の生物ではないの?」
ティクが聞いた。ケイは静かに頷いた。
「ところが、長いこと一人でいた私は孤独に耐えられなくなった。そして、サオリの遺体から最初の巫女であり、私の妻、サポを作ったんだ。」
「あれ?サポは、ケイさんの精霊の名よね?」
アシアが聞いた。
「それは、妻がいなくなった寂しさから精霊に同じ名前をつけたんだ。サポの名は、サオリの愛称、サオからできたんだ。」
暫くの沈黙の後、再び震えだしたケイの手は震えだした。皆は必死に握った。
「そして、さらに言おう。アイド家は、私とサポの子孫の家系。そして巫女は、サポと・・・」
ケイは悲しみに顔を歪めた。
「サポとサポを連れ去った男の家系だ。」
ケイは再びルカの手を強く握った。
「ケイさん・・・」
ルカは憂いを帯びた目でケイを見た。ケイは辛そうに続けた。
「なんの因果だろうね。その男はサオの子孫なんだよ。サオは私をそんなに・・・嫌っていたのか・・・。」
ケイの目から涙が流れ落ちた。
「そんなの関係ありません。自分を責めないでください。」
ルカがケイを抱きしめた。ミョンが尻尾でケイの頭を優しく撫でた。ケイはミョンを抱き上げ、膝に乗せた。
「精霊動物・・・これも私が作ったものだ。元々の精霊動物は全ての精霊の力を持っていて強かった。去っていく彼女を少しでも守りたくてね。彼女はそれを受け取ってくれた。ミョン、君は、その精霊動物の子孫だ。彼女は、生まれてくる子一人一人に精霊動物の子孫を渡した。だが、不思議なことに、男の子には精霊動物は懐かなかった。その分、女の子は精霊動物と心を通わせることができた。女の子はいつしか巫女と呼ばれるようになった。精霊動物は巫女と共に生き、巫女と共に死ぬ。」
「そこまでしてあげるなんんて。彼女を憎んではいないんですか?」
「・・・君達に言っても分からないかもしれない。私は彼女も不老不死にしたから、彼女はいずれ私の元に戻るだろうと思っていたのだよ。」
「・・・戻らなかったのですね?」
「戻らなかった。たまに私の所へ来ても、すぐに出て行ってしまう。」
「引き止めは・・・」
フィルの問いをオバーンが止めた。あまり深く聞くものでもないだろう。フィルは咳払いして、質問を変えた。
「・・・では、もしかして火の精や水の精とかも。」
「いや、それは、彼女が作った。彼女の精霊動物の力が、心ない者に悪用されぬように、その力をそれぞれの精霊に分け、分散させたのだ。」
「じゃ、光の精霊の場所もサポさんが知っているのですね。」
ルカが聞いた。
「私も知っている。この星の守り人の責任としてサポに聞いておいた。今、地図をだそう。待っていたまえ。」
ケイは頭に被っていた機械を外し、椅子から立ち上がった。
「ケイさん、俺は飛行機を・・・」
フィルの言葉にケイは頷いた。
「そうそう、飛行機の動かし方だったね。あれは、コントローラーが無いと動かせないんだよ。それも持ってこよう。」
ケイはさらに奥に行き、機械の扉の前で立ち止まり、扉を開ける暗証番号を言った。
「さあ、こちらだ。君たちも来るといい、この星の真実が全てある。」
ケイの招きにより、ルカ達は扉の奥に入った。中には沢山の本があった。全て古代語だ。
「見てもいいですか?」
「好きにするといい。だが、ここで知った情報は他に流さないでほしい。悪用される恐れがある。」
ラルドはその場で本を取りページを捲った。フィルはケイの後に付いて続けざまに質問した。
「俺達の起源は、あなた達宇宙人だと分りました。精霊や精霊動物を作ったのもあなた達だ。では、モンスターの起源はなんですか。まさかモンスターもあなた達がつくったのですか?」
「フフいいところに気がついたな。モンスターか。私達もあれをそう呼んでいたが、あれは、元々のこの星の住民だ。」
一瞬静まりかえった。ラルドも本から顔を上げてケイを見た。皆がショックを受けたのがケイにも手にとるように分かった。ラルドは震えながら言った。
「つまり、・・・この星にとって我々は侵略者だというわけか。どうりで、モンスターは我々を見ると襲ってきた筈だ。モンスターが元々の住民で、宇宙から来た我々を排除したかったのか。」
「港町のクーンでジムさんが魚とモンスターの違いを研究していたじゃない?魚とモンスターが交配できなかったのは、そういう理由だったのね。」
オバーンが言った。
「そういうことだ。だが、仕方あるまい。我々の住んでいた星は爆発してしまったんだからな。」
ケイが少し傲慢に言った。ルカが頭を横に振った。
「ケイさん。違うよ、私達はもっとモンスターに遠慮して生きなければいけなかったのよ。」
「言うのは簡単だ。だが、モンスター達は、我々の生命を否定している。生きている我々にとって、自分を否定して生きる事ほど難しいものはあるまい?」
ルカは何も言えず、下を向いた。フィルがルカを元気づける。
「ルカ、真実が分かっても今が変わる訳じゃない。今はグリーンモンスターをなんとかしなければいけないんだろ?」
「そうだ!グリーンモンスターについても何か知っているんだろ?」
ティクがケイに聞いた。
「5年程前に・・・同じように俺の記憶を呼び覚ました男がいた。彼は4つの鍵を得た訳ではなく、サポが連れてきた男だ。彼は植物が少ない砂漠を憂いて荒れ地に生える新しい植物をつくる技術を求めてきた。関係あるとすれば、それだろう。」
「それは、どんな技術なんですか?」
ラルドの問いにケイは振り向いた。
「教えてもいいが、彼らが、その技術に何を足してグリーンモンスターを作ったかは、分からない。それよりも光の精霊の力で生命力を強化し、土の精霊の力でウィルスを死滅させたほうが元に戻せるだろう。」
ケイは机の引き出しを開けて地図をルカに渡した。そこには精霊の居場所が書いてあった。ケイは光の精霊の居場所を指さした。
「ここが、光の精霊のいる場所だ。だが、ここは、アリリアの飛行機でしか行けない場所だ。フィルとかいったな。お前にコントローラーを渡そう。」
フィルがコントローラーを受け取ると、ケイは皆を集めた。
「君達をアリリアに送ろう。私は長い間、記憶を全て思い出していることはできないんだ。全ての記憶が私を狂わせるのでね。今でも、半狂乱になるのを抑えるので精いっぱいだ。君達を送ったら、すぐに記憶を忘れたいと思う。さ、部屋の中央に集まりたまえ、そこが転移装置だ。」
「ケイさん。」
ルカとアシアがケイを抱きしめた。ケイも彼らを抱きしめ返した。
「かわいいサポの娘達。さあ、行きなさい。私が狂人になって貴方達を殺してしまわぬうちに。」
「行こう。」
ティクが叫んで、部屋の中央に呼んだ。6人が揃うとケイはスイッチを押した。同時に部屋は歪み気が付くと東の端にある小さな島、アリリア島にいた。草原と森の島だ。
「ここが、フィルの故郷なの?」
オバーンがフィルに聞いた。
「そうだよ。ここだ。」
フィルが一歩踏み出して深呼吸した。
「懐かしい。アリリアの匂いがする。」
「フィル、お前の家どこだよ。行ってみようぜ。」
ティクがフィルの手を取った。
「えっ。俺の家?」
「ああ、フィルの家だよ。あるんだろ?」
「まあ・・・な。アリリア島の中心に俺の育った村がある。島と同じ名前の村なんだが、いい村だぜ。だが、家には母ちゃんもいるんだ。なんか、恥ずかしいな。」
フィルが顔を赤くした。
「恥ずかしいことないだろ!」
ティクはフィルの手を握ったままかけ出した。皆、顔を見合わせてついて行った。だが、町が見える所までくると、町が荒れているのが遠くからでも良く分かったかり、急に歩みを止めた。
「どうしたんだ?何があったんだろう」
6人が町に入ると、後ろから男がフィルに声をかけた。
「いよう、新米考古学者!」
振り向くと、後ろには口髭を生やした野性的な男が立っていた。フィルは男と手を叩きあった。
「ダン。久しぶりだな。」
「なんだよ。大考古学者になるまでここには帰らないって言ってたよな。もう、廃業か?」「馬鹿いえ、こっちで用があるんだ。だけど、この荒れた様子、どうしたんだ?」
「・・・」
ダンは言いにくそうに押し黙った。
「まあ、それより、お袋さんところに行ってやれよ。お前のこと心配してたぞ。」
「ああ、今から行くよ。」
「後ろの人達はなんだよ。お前の連れか?」
「ああ、一緒に旅をしているんだ。」
「ガハハハ、上品そうな人達じゃねえか。お前に合わないな。」
ダンは笑いながら、フィルの背をバシバシ叩いた。フィルは痛そうに背中を逸らした。ダンと別れてフィルの家へ行くと、庭に出ていたフィルの母親は目を丸くしてフィルを見た。
「フィル!本当にフィルかい?元気にしていたかい?」
そして、フィルを優しく抱きしめた。フィルは母親には弱いのか、チラと皆の方を見た後、顔を赤くしたまま、彼女にされるままにしていた。彼女は暫く抱きしめた後、顔を上げてフィルの仲間を見てにっこりした。
「まあ、沢山お友達連れてきて・・・だけどね、今大変なことが起こって、もてなせないのよ。」
ティクはフィルの母親の前に出た。
「もてなしなんていらないよ、一体何があったの?」
フィルの母親は深くため息を吐いた。
「元をただせば、私たちの罪なんだよ。村の恥にもなるから、言いにくいんだけどね。」
「話してくれよ。母ちゃん。ここには、恥を言いふらす奴なんていないから。力になりたいんだ。」
フィルは言った。母親はもう一度溜息をつくと、ゆっくり話しだした。
「・・・お前の知っている通り、半年前に何人かのグリーンモンスター化が起こってね。それでも一緒に暮らしていたんだけど、国際研究所が、それがウィルスによるもので、人にうつるというのだから・・・」
「グリーンモンスターを追い出したんですね」
オバーンが瞳に深い憂いをたたえていった。
「ええ、村の人もパニックになって。」
「ウィルス・・・でも本当かな?私、長い間一緒にくらしていたけど、うつりませんでしたよ。」
オバーンが言うとラルドは反論した。
「ウィルスは本当だよ。ただ、今人間でいる人はすでに抗体を持っているはずだから、今更うつることは無いとおもうけど。」
「なんだよ。お前ワクチンとか打っていただろ。」
フィルが肘でつついた。
「それは、グリーンモンスター化した人が出てない地域だよ。俺だって、むやみに薬は使わないよ。」
「ねえ、半年前ってどういうことかな、他は一年前にグリーンモンスター化したのに」
アシアが不思議そうに言った。ルカも付け足した。
「まだあるわよ、私の町ウィッチは、私や兄を抜かして、全員が木になるか意識までモンスター化したの、なぜ、他の町では、被害が少ないの?」
「そうだな。ウィッチに近い僕の町ラティスでは木になったり、意識までグリーンモンスター化した人と心はそのままでグリーンモンスター化した人が半々だった。でも・・・」
ティクがオバーンの顔を見た。
「私の町クーンでは、その日に木になる人はいなかったし、心は人のままグリーンモンスター化した人の方が多かったわ。」
フィルはラルドを睨んだ。
「おい、ラルド、何か隠してねえか?」
「何もないよ・・・無いはずだけど・・・。」
ラルドは狼狽えてこたえた。フィルは不満そうに鼻を鳴らし、周りを見た。
「それよりも、この村の荒れようは・・・まさかグリーンモンスターがやったのか?」
「・・・ええ、先日突然、襲ってきたの、こっちも迎え撃ったんだけど、向こうはダメージ無しだったわ。入念に計画してたのね。」
「これは、話に聞いてた、グリーンモンスター化した人の反乱だよ。優秀な指導者がいるらしい。」
ラルドが知識をひけらかすように話した。
「そういえば、オバーンさんの息子さんも、爆弾作っていたよね。」
アシアも付け足した。
「アシア!」
フィルが横で一喝した。
「あっ、ごめんなさい。」
アシアは口を塞いだ。
「いいのよ。でも確かに何かありそうね。」
オバーンはゆっくり頷いた。
「とにかく、古代の飛行機を動かそう、光の精に会えたら・・・モンスター化した人が元に戻ったら、何かが変わるかもしれない。」
フィルが皆をせかした。
「急ごう!飛行機はどこにある?」
ティクが町の外の方へフィルの手を引っ張った。
「島の東の山だよ。もっとも、早く日が昇るところ」
「よし、そこへ行こう!」
ティクはすぐに駆けだした。
「もう行ってしまうの?」
母親の言葉にフィルは軽く謝ってティクの後に続いた。フィルの言うアリリアの東の山の頂へ来た。東の海が広く見渡せる場所だ。
「俺は子供の頃、この場所から朝日を見るのが好きでね。」
フィルはしばらく海を見た後、大木の根元で皆を呼んだ。
「ある日、ここから、下に落ちたんだ。」
皆が集まると、木の大きな根の間に穴が見えた。子供の入れる隙間はあるが、大人が入るのは到底無理だ。
フィルは皆を制して木の根に爆弾を仕掛けた。爆弾は木の根を飛ばし、皆の入れる入り口を作った。中は近代的な建物だった。
「ここ、ケイと行った、望郷の森の地下にあった家の中に似ていない?」
アシアが言った。
「うん、やはり、ここもケイさん達が作った施設なんだろうね。」
フィルが頷く。
「でも、ここ、正しい入り口じゃないんでしょ。」
「ああ、ここ右に行くと飛行機がある。その先に飛行機の飛び出せる横穴が海の断崖に向かって横に空いていたから、多分そこが正しい入口だ。ちなみに左に行くと人の住めるスペースがある。なかなか綺麗なところだったよ。」
「ケイの別荘だったのかな。」
「さあね。でも、10年前は、俺の別荘だったよ。」
フィルはウィンクしてニッと笑った。飛行機のある所までいくと、飛行機の側に何人かのグリーンモンスターがいた。飛行機を調べているようだ。ティクがすぐに前に出て叫んだ。
「おい、お前ら、何やってんだよ!」
グリーンモンスター達がギロと睨んで叫んだ。
「お前らこそなんだ!この兵器を奪いにきたのか?」
ティクは物おじせずにグイグイと前に出た。
「兵器?何を言っているんだ。これは飛行機だろ?」
少しけんか腰だ。グリーンモンスターの中の一人が銃を向けてフィルに向かって叫んだ。
「フィル、お前が、悪の組織のメンバーにいるとは思わなかったぞ。 」
フィルはアタフタした。
「おま・・・え・・ザクなのか?悪の組織ってなんだ?俺達のことか?そんな人はここにはいないぞ。」
ザクと言われた男はフィル達に銃を向けたまま動かずに叫んだ。
「フィル、騙されるな。そいつらは、全てを壊そうとしているんだぞ。」
「何か誤解してるわ。私達は壊そうとしているわけじゃないわ。飛行機だって兵器としてなんて・・・」
オバーンが必死に彼らに言ったが、グリーンモンスター達は耳をかさなかった。
「問答無用。」
グリーンモンスター達は飛びかかってきた。
「皆、下がって!僕がやるよ。大丈夫、殺さないから。」
ティクが好戦的に前へでた。
「ティク、銃は、飛行機に当てるなよ!」
「分かってる!銃は使わない。短剣で接近戦だ!」
ティクは小脇に短剣をかかえ、野生の猿のように敵の中を飛びまわった。さすがにすばやい。元々動きが機敏だったが、多くの戦いでさらに磨きがかかったようだ。10人弱の敵が次々と倒れていった。フィルも感嘆の声をあげた。
「国際研究機関め!」
倒れ際にグリーンモンスターが叫んだ。フィルは首をかしげて倒れている一人に近寄った。
「国際研究機関ってなんのことだ?俺たちは関係ないぜ。」
グリーンモンスターはギロリとフィルを睨みつけた。フィルの後ろにはオバーンやルカ達も皆集まっている。
「何だと!この飛行兵器を取りにくるのは、国際研究員だと言われていた。お前らは違うのか?」
「ああ、俺達はただ、光の精を見つけるのに飛行機を使いたいだけだ。もちろん最古の科学者の了解も得ている。」
フィルはコントローラーを見せた。
「最古の科学者に会えたのか・・・科学者に会うには心も試されると言う。それなら、お前らは信用できそうだ。だが、国際研究所。あいつらに気をつけろ、やつらは、悪魔だ。」
ラルドが激情して大きく目を見開いた。
「誰に言われたんだ!国際研究機関は、君たちを助けるためにワクチンをつくってるんだぞ。」
「うそつけ!証拠を見た。国際研究所で。」
グリーンモンスターは苦しみながら叫んだ。
「何の証拠だ?何を見たというのだ。」
ラルドはグリーンモンスターを強く揺さぶった。その揺さぶりで彼は気を失った。
「よせ!」
ティクは急いでラルドを止めた。
「っち」
ラルドが舌打ちした。フィルはなだめるようにラルドの肩を叩いた。
「飛行機で、村まで運ぼう。村の人達も、もう追い出したりしないだろう。」
アリリアの村までティク達はグリーンモンスターを運んだ。
「ああっザク。」
ザクの姉が運ばれたザクの手を取った。他の村人も彼らを介抱した。ティク達は安堵の息をもらした。彼らは村人に遠慮して、飛行機のあった場所に戻り、そこの居住スペースで一夜を明かすことにした。
居住スペースは、少しの間グリーンモンスターが使っていたのか、掃除もしてあり、家具も使いやすかった。ただ、いろいろな機械はすでに壊れていた。
「一晩過ごすには十分だな。」
居間でくつろぎながら、ラルドが言った。
「国際研究所で証拠を見た・・・ってどういうことなんだろう?」
ティクが首をかしげた。アシアが首をかしげた。
「地球にある国際研究所の分園はいったことあるけど、最新の設備で、素敵なとこだったわよ。研究所の人もいい人で悪いことするような人には見えなかったけど。」
ラルドは鼻息を荒くした。
「当たり前ですよ姫。あいつらの被害妄想なんですよ。私の父上達が悪いことするはずないじゃありませんか。」
フィルは咳払いした。
「いや、俺達が知らないことがまだあると思う。国際研究所分園に行ってみよう。」
ラルドはムッとしてフィルを見つめた。
「いいよ、疑いを晴らしてやる。」
「ちょっとまって、まず国際研究所分園へ行く前に光の精を見つけに行かない?」
ルカが急いで止めた。
「これからもグリーンモンスターに会うかもしれない。光の精にあって力をもらっておかないと、いざというとき困るわ。」
ラルドは軽くため息を吐いた。
「分かった。はやる気持ちはあるけど、ここは光の精を優先するよ。」
フィルはケイに貰った精霊の地図を広げた。
「光の精のいる所は・・・あった。大陸ホワイト、巫女の村近くの山、チョコレット山だ。」
「世界で最も高い山か・・・登るのに三カ月はかかると言われている山。挑戦する者はいるが、帰ってきた者はいないと言われているあの山。」
ラルドが呟いた。
「飛行船でも行けないって言われてるけど。この飛行機行けるの?」
アシアが聞いた。
「最古の科学者の飛行機だぜ?行けないとこなんてないだろ。」
フィルが確信がこもった目で言った。ティクが目を輝かせた。
「朝一番で行こうぜ!」
翌日、アリリア村に別れを告げた一向はケイの飛行機に乗りチョコレット山に向かった。さすが古代の飛行機、チョコレット山の麓まではアッという間だった。
「さて、これから高度をあげる。俺が不安なのは、急激な気圧の変化だ。皆、気持ち悪くなったらすぐに言ってくれ。」
フィルは皆を見た。皆は頷き返した。
「行くぞお。」
フィルがコントローラーを握って念じると飛行機はチョコレット山の頂上をめざしてグングン高度を上げていった。外の景色はどんどん変わっていく。緑の多かった山が岩肌になり、雪や氷が目につくようになった。だが、不思議な事に飛行機の中の気温はあまり変わらなかった。それだけではない、気圧の差も感じない。そうとう性能がいいのだろう。
頂上が見えた。山頂は人工的に見えるほど平べったくなっており、雪が積もっていたが飛行機が降りられるスペースはあった。端に小さい家が建っている。飛行機が降りると、その小さい家から若い女の人が出てきた。
「おい、誰だ、あの美人。まさか光の精か?」
フィルが窓越しに彼女を見つけてルカに話しかけた。
「分からない。彼女から確かに不思議な感じを受けるの。でも、他の精にあった時に感じた感じじゃなくて、なんか、懐かしいような・・・。」
「ルカ、フィル。降りようぜ。」
ティクが上着を羽織ってせかした。
飛行機の扉を開けると、冷たい風が吹きこんできた。上着を着ていても寒い。小屋から出てきた女性は、ティク達6人をザッと見渡した。
「ケイは・・・いるの?」
彼女は子犬のような目で皆を見た。年のころは、二十歳に今一つ届かないくらい。若さと輝きを兼ね備えた年だ。毛糸の帽子から艶やかな黒髪がこぼれ落ちていた。
「うわっ。近くで見るともっと美人じゃねえか。」
フィルが思わず口走った。
「ケイは・・いないのね。」
彼女はホッとしたように言った。
「ケイって、最古の科学者のことだよね。この飛行機の持ち主の。」
ティクが聞いた。
「そう。そうよ。私の名はサポ。彼もこの飛行機に乗っているの?」。
「いいえ、乗っていないわ。それよりも貴方、最初の巫女のサポなの?ケイの妻だった?」
アシアが尋ねた。
「ええ。」
彼女は頷いた。そして、彼らを見て手招きした。
「ここは、寒いわ。どう?私の家に来ない?」
彼らは頷いて、彼女の小さな家の中に入っていった。中は広く暖かかった。
「外から見たより広いんですね。」
ラルドが言った。
「ええ。ここは、空間をいじれるのよ。広さも自由に変えられるわ。さ、そこに座って。今お茶を出すわ。」
6人にお茶が出されると、ルカが聞いた。
「サポさんが光の精なのですか?」
サポはルカを見た。
「ええ、そうよ。」
フィルが出されたお茶を持ったまま身を乗り出した。
「貴方の様な美しい方が、精霊なんて。でも、ほとんど人間なんでしょう?こんな誰もいない、こんな所にいるなんて美しさが勿体ないですね。俺と一緒に下に降りませんか?」
サポはフッと笑った。アシアは、フィルを睨みつけた。
「貴方と一緒に行くなら、ケイさんの元に戻った方がましってもんでしょうよ。本当に見境ないね、フィルは。」
その言葉にサポは暗い顔で俯いた。
「やっぱり知っているのね、ケイと私の秘密を。」
アシアはハッとした。
「あっ、ごめんなさい。触れられたくないことですよね。」
サポは椅子に腰をおろしたまま、そっと天井を見上げた。
「いいのよ。隠すものでもないし。」
「じゃあ、すみません。ケイと今でも離れてる理由ってなんだったんですか?」
アシアがオズオズと聞いた。
「私がケイから離れたのは、彼の心を壊さない為。彼は私を忘れることで心のバランスを保っていたから、・・・まあ、他にもいろいろあるんだけど。でも一番の理由は、ケイは私の夫である前に父だった。親子は離れるものでしょう?」
「もう一つ、ここでの暮らしに満足しているってことですよね。」
オバーンが付け加えた。
「ええ、巫女の出産にも立ち会えるしね。そうそう、出産に使う泉、水の精の泉はこの小屋のずっと下にあるの。精霊動物を通して、巫女の出産の知らせを受けたら、巫女を連れてそこへ行く。巫女の家系は難産になりやすいから、見守っているのよ。水の精の癒しの力もあるしね。」
そして、6人を改めて見て続けた。
「あなた達、記憶を取り戻したケイに会ったのよね?彼どうだった?やっぱり辛そうだった?」
6人は顔を見合わせた。フィルがサポに向かって言った。
「ええ。けれど、サポさん。彼は貴方が戻るものだと思っていたと言っていました。」
そして、咳払いをしてまた続けた。
「これは、俺の想像の範囲ですがね。彼が記憶をなくしているのは、貴方を見るのがつらいのではなくて、貴方が戻らないからつらいのではないかと思うのですが。」
「それは、分からないわ。でもね。私も戻りたくないの。」
フィルはハッとした。
「すみません。余計なことでした。」
サポは溜息をついて、ルカを見た。
「光の力をもらいにきたのね。」
「はい。地上で起きている人のグリーンモンスター化を治したいのです。」
「それなら、断る理由はないわ。グリーンモンスター化を起こした人物。彼をケイに紹介したのは、私だもの。おいでなさいミョン。」
ミョンはサポの膝に乗り深くお辞儀をした。サポはニッコリ笑ってミョンを抱きしめた。サポから出た光りがミョンに移っていき、静かに消えていった。サポがミョンを下に降ろすと、ミョンはルカの方を見てニッコリした。ラルドはサポに話しかけた。
「グリーンモンスターウィルスを作った人物。そのことを聞いてもいいですか?」
サポはラルドを見て頷いた。
「ええ。何を聞きたいの?」
「全てです。貴方の知る全てを。」
ラルドは挑発的な目をして言った。サポは黒い髪を揺らして話始めた。
「彼をケイの元に連れて行ったのは、失敗だったわ。彼は信用できる人物だと思っていたのよ。」
サポは静かに紅茶を飲んだ。
「彼にあったのは、巫女の村よ。彼は、植物専門の学者で、ウィッチの砂漠化の謎を追っていた。そして、私にこう言ったの。(人類の発祥の地はウィッチ。しかし、緑豊かなウィッチを砂漠に変えて、初めの人類は他の大陸に移動した。)と。」
「当たっていたのですか?」
フィルが聞いた。
「当たっていたわ。ケイ達が地球から来て初めに暮らしていたのはウィッチ。植物を全て駄目にして、砂漠にしたのもそうだもの。・・・けれど、その反省から、他の土地では、文明のレベルを下げて植物を優先したわ。ウィッチは戒めの場所。」
「魔法使いの一族が今でも住んでますよね。」
ルカが聞いた。
「ええ、資源を守りつつ豊かに生きる。これに挑戦しているのよ。」
「それから?。」
ラルドが身を乗り出して促した。
「彼は、ウィッチに緑を戻したいと、その技術が欲しいと言っていたわ。断れなかった。ケイを紹介したわ。ウィッチはケイ達、初めの人類にとって、負の遺産だと知っていたから。」
「貴方がケイに合わせた彼の名は?会わせたのは彼一人ですよね?」
「ええ、一人よ。5年前のことだったわ。名前は確か・・・ああ、忘れてしまったわ。ケイと違って。私は覚えていられないの。」
ラルドは首を横に振った。
「いえ、分からなければいいです。その技術がグリーンモンスター化に使われてしまったんですね。」
ラルドは食い入るようにサポを見つめた。
「そうよ。ごめんなさい。」
サポは、申し訳なさそうに言った。
「いえ、貴方のせいじゃありません。」
そう言いながらラルドは震えている自分に気がついた。(植物の学者で、5年前に・・・。確か父上もそうだ。植物学者で5年前は家を出て、調査旅行へ言っている。)
「もう、行くのでしょう?」
サポは皆を見回した。
「ええ。」
オバーンはサポにお辞儀をした。。サポは皆に上着を渡す。アシアは別れ際にサポに聞く。
「ケイに何か伝えることは?」
「無いわ。」
「サポさんとケイは私のおじい様とおばあ様。本当は、仲良くしてほしいです。」
サポはアシアをそっと抱きしめた。
「ごめんなさいね。」
アシアはサポを抱きしめ返してそっと離れた。サポはルカを見た。
「貴方も・・・頑張って。」
ルカは頷く。
「行こうぜ!皆。」
ティクが小屋の扉を開けて呼びかけた。ルカ達はお辞儀をして、飛行機に向かう。
「ありがとう。サポさん。たまには下に降りてきてくださいね。」
ルカの声にサポは手を大きく振った。飛行機が動き出した。サポの小屋を一回りして、飛行機はチョコレット山を急下降した。次の行き先は決まっている。大陸レッドにある国際研究所分園だ。
飛行機で、分園の庭近くに降りると、その庭は誰かに荒らされていた。しかし、分園自体は、外からは変わりなく見える。皆は不振に思いながらも、中に入って行った。正面玄関のすぐ奥は見学自由になっている。子供だましの資料の山を通り抜け、奥の職員用の扉に入ろうとすると、警備員に止められた。
「ここは、一般の人は立ち入り禁止だよ。」
ラルドが前に出た。
「ラゴン・ケントの息子ラルドです。私の友人ですが、中に入ってはいけませんか?」
「ああ、ラゴンさんから話しは聞いているよ。ラルド君だね。君なら特別だよ。」
彼は、仕方ないというように笑った。ラルドは軽くお辞儀をして少し自慢げに中に入った。
「僕の父さんが、宇宙ステーションの国際研究所本部の一員だろ。いわば、ここにいる人の上司みたいなものだからね。」
扉の奥の部屋に入ると、皆の足は止まった。外の庭以上に荒らされていたからだ。研究員が片付けに追われていた。研究員の一人がラルドに気付いた。
「ラルド君、久しぶりだねえ。すごいだろう。グリーンモンスターに荒らされてね。重要書類も盗まれた。あれがないと、グリーンモンスターに対抗するワクチンができない。」
ラルドは驚いて言った。
「えっ、ワクチンなら、もうありますよ。父上から自宅に送られてきた物を大量生産したのです。こちたには、連絡がなかったのですか?」
「そうなの?連絡ないなあ。宇宙ステーションの研究所では、もうできているのか?こちらには、そんな情報はないのに。」
驚く研究員を見て、皆は顔を見合わせた。
「同じ国際研究所なのに、情報が共有できてないって・・・どうなっているの?」
「あえて隠しているとか?」
フィルは研究員の人に聞いた。
「分園の研究資料、全て見せてもらってもかまわないですか?」
「ここの情報は、一般人でも見られる物なんだ。本当に重要なのは、宇宙ステーションに送っちゃうからね。好きに見てもらってかまわないよ。ただ、盗まれた書類は見られないけどね。」
フィルはお礼を言い、皆は研究資料を調べた。研究所内を一通り探索した後、彼らはロビーに集まった。オバーンは研究所内で出された珈琲を飲みながら言った。
「特に、めぼしい物はなさそうね。でも、その盗まれた書類というのが、怪しいわね。」
フィルは頷いてラルドを見た。
「あと、ラルド、悪いがお前の家も調べさせてもらっていいか?」
ラルドはフンと鼻を鳴らした。
「父上を疑っているわけか?もちろん来てもかまわないよ。隠すものなど無い筈だから。そういうことなら、こっちから招待するよ。」
ラルドは嫌みをこめてそう言ったものの、少し不安を覚えていた。
大陸ブラック、アカツキ研究都市にあるラルド邸。飛行機でそこへ行くと、大きなモダンな邸宅が見えた。父親と二人暮らしには贅沢すぎる代物だ。庭も手入れが行き届いており、ティクは興奮して門へ向かって走り出した。
「中に入っていいよな、ラルド!」
ティクは門を開け中に入ろうとして、何かにぶつかった。
「バリアが張ってあるよ。ラルド、解除してくれ。」
ティクが不満そうに言った。
「おかしいな。客人を連れて行くから、解除するよう、連絡しておいたのだけど。」
ラルドが呼び鈴を鳴らすとラルド邸の召使いが数名、庭の使用人用の家から出てきた。
「坊ちゃま、屋敷が大変なことに。」
「申し訳ありません。グリーンモンスター達に乗っ取られてしまいました。」
召使い達が口々にラルドに訴えた。
「なんだって、まさか、僕がバリアを外せと言ったから?」
「いいえ、バリアは関係ありません。彼らは地下の旦那様のお部屋から、襲って来たのです。」
召使いが言った。
「父上の地下研究所?あそこは私も入ったことがない。とにかく、私は屋敷には入れないのか?」
「とても駄目です。私達も屋敷から出られないのです。一体どうすればいいんでしょう?」
「分かった。とにかく国際研究所の分園に戻って一度父と連絡を取る。」
ラルド達は急いで国際研究所分園に戻った。
「そうか、恐れていたことが・・・」
テレビ電話の奥でラルドの父、ラゴンは俯いた。
「グリーンモンスター化した人間は、父上の部屋から、来たとのこと、抜け道があるのですか?」
ラゴンは暫く俯いた後、ラルドをまっすぐ見た。
「・・・ウィッチに行ってくれ。そこに、グリーンモンスター化した人間の本拠地があるはずだ。彼らを閉じこめるために、ウィッチ上空にバリアを張ってあるが、それを解こう。」
「彼らを倒すのですね。」
ラルドが興奮気味に言う。オバーン、ルカの顔色が青く変わった。
「判断はお前達に任せる。」
ラゴンはジッと彼らを見つめた。
「分かりました。私達の判断で動きます。信頼してくれてありがとうございます。」
一礼して出て行くラルド達をラゴンは止めた。
「ラルド、待て。」
ラルドは振り向いた。
「・・・すまなかったな」
「いえ、お役に立てて、嬉しいです」
ラルドはニコリと笑った。
「すまない・・・こちらも一生懸命やってみよう。」