ブラック大陸
家の裏の小型飛行機で7人はブラック大陸へ向かった。惑星ドグズの北にある大陸だ。
「北にあるトゥール湖のリゾート、トマの町に着陸させるけどいいかい?」
イルベスが聞いた。
「もちろんだよ。ありがとう!」
ティクが元気よくお礼を言った。大きな湖の横に町が見えた。そこがトマだろう。だが、皆は湖の真ん中を見ていた。そこに、異変があることは遠くからでも一目瞭然だったからだ。
「ねえ、湖の真ん中の小島。あの周りの水が渦巻いているのが見えるんだけど。」
アシアが言った。
「あれが、星の遺跡だよ。大陸ブラックでは有名なんだ。あの島の周りは強い風が渦を巻いている。どうしても近寄れないところなんだよ。」
ラルドが説明した。
「空から直接島に降りられない?」
「空の上にも風が渦巻いていて、近づけないんだ。」
イルベスは申し訳なさそうに言った。
「絶対、僕らは行こうな!」
ティクは遺跡を見ながら語尾を強めた。
トマの飛行場に着陸すると、イルベスは皆に握手を求めた。
「それじゃあ、ここでお別れだな。頑張ってくれ。」
アシアはニッコリ笑った。
「奥さんによろしく。私のことも忘れないでね。」
「もちろんさ、またイベルに来たときは、寄ってくれ。」
イルベスは手を振りながらトマの商店街へ去っていった。
「綺麗なところだね。」
辺りを見回してティクは言った。
「トマは、ブラック大陸で一番のリゾート地なんです。」
ラルドは少し得意げに言った。
「っていうかさ、ブラック大陸自体が、金持ちの多いところだよな」
フィルは少しやっかんでいるように言った。
「文化や学問が発展してるところだからね。金持ちが集まっているんですよ。」
ラルドの答えにフィルは顔をしかめてヘッと、息を吐いた。
「さ、星の遺跡に行こうぜ。」
ティクが元気よく叫んだ。
「でも、どうやって行くの?風強いよ?」
ルカが不安そうに聞いた。
「風の精でもいるのかな?力になってもらえるんじゃない?」
ティクがミョンを見つめた。
「風の精か・・・聞いたことないな。僕が知っているのは火と水と雷と土、それに光だけだ。」
ミョンが言った。
「じゃあ、あれは・・」
「おそらく、なんらかの装置だろう。要は頭を使えってことなんだろ?」
フィルが言った。
「船で近づくのは無理だ。遺跡からの風で、船では近づけない。」
ラルドが言った。
「かと言って飛行機も駄目。・・・この辺りに地下通路とかないのかしら。」
オバーンが思いついたように言って、ラルドに聞いた。
「星の遺跡の周りは観光地として開発されてるから、地下通路があれば、すぐ分かると思うんだが。」
ラルドの言葉に、ルカは湖をジッと見つめた。
「ルカ、水を操って遺跡に近づくのは無理だ。遠すぎて、途中で力がとぎれるぞ。」
ミョンが忠告した。
「ううん、水の中に地下通路の入り口がないかなって思ったの。」
ルカの言葉にラルドが馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「水の中?もしあったとしても、どうやって探すんだ?それに、湖の下にあれば、通路に水も入り込んでいるだろ?」
そんなラルドの肩をティクがつつく。
「でもさ、湖の右側の崖。ほら、あそこの出っ張り、他の所より、高い位置までないか?」
彼が指を差しながらいった。ラルドは手を顎に添えて頷いた。
「なるほど、あそこなら、崖の下の水の中に洞窟があっても、洞窟の奥が一旦湖の水より高くなっていれば・・・、そして、どこからか空気が入っていれば、水は上がってこないはず。」
「調べる価値はありそうだね。」
ティクは、わくわくした。その崖の上に行くと、なるほど、確かに水の流れに怪しいところがある。
「調べられそうか?ルカ」
ティクが水をのぞき込んでいるルカに聞いた。
「やってみる。」
ルカはミョンを肩に乗せ、湖に飛び降りて水の上に立った。そして、中に空気を閉じこめるように水で球状のバリアを作り水中に沈んで行った。暫くして戻ってきたルカは皆に水中に洞窟があり、奥は再び水上に上がっている。そこは、奥まで続いている地下通路があることを告げた。皆は喜んで顔を見合わせた。
「地下通路まで全員一度に運べると思う。みんな降りてきて。」
ルカの言葉に、皆が湖の上に飛び降りた。ルカは先程と同じように皆を球体で包み、洞窟の奥の地下通路に運んだ。しかしその後、少し無理をした為か疲れてその場に倒れた。
「ルカはいつも、がんばりすぎるんだよな。」
ティクが彼女をおぶった。体つきのいいラルドが変わろうかと声をかけたが、ティクは断った。ルカはほんのり頬を染めて嬉しそうにお礼を言った。
「行こうぜ。ここまで来たらもうすぐだ。」
ティクが少し照れながら声をかけた。皆は歩き出す。
「なあ、今度は誰の背中に刻印を刻むんだ?」
ティクがフィルに聞いた。
「困ってるんだ。」
フィルも声の調子を下げた。
「あたし、いいわよ。」
アシアが言う。
「そんな、姫様がするくらいなら、自分がします。」
ラルドが慌てて言った。フィルは二人の気持ちにお礼を言った。
「ただな、最後の敵は強いぞ。俺らも、もちろん戦うけど、戦闘能力に不安があるなら辞めた方がいいかもしれない。」
「じゃあ、私が行きます。私の精霊の力が役に立つかもしれません。」
ルカがティクの背中の上で言った。ティクがルカを持ち直してたしなめた。
「だから、無理するなよ。ルカ。」
「大丈夫ですよ。もう治りました。降ろしていいです。」
ルカが暴れて仕方なくティクは彼女を下に降ろした。ルカはピョンピョンと元気に跳ねて見せた。
「そうだなぁ、ルカの治癒能力は使えるかもしれん。頼む。」
フィルの言葉にルカは元気に頷いた。ティクはやれやれと頭を掻いた。
奥に転移装置が見えた。やはりここが星の遺跡に繋がる道だった。4人は転移装置にのり、今までの刻印を見せた。景色は歪み、気がつくと暗闇の中にいた。
「ここ、真っ暗ですね。」
ルカが言った。
「俺、松明、持っている。ルカ、火の精の力で付けてくれないか?」
フィルが頼んだ。松明に火がついて、周りが明るくなる。辺りを見渡すと、どうやら土でできたトンネルの中にいるようだ。
「とにかく、先に進もう。」
ティクがルカの手を取った。迷路のような道を暫くいくと、大きな広間に出た。床が、山の様に盛り上がっている。
「おかしな作りになっているんだな。」
ティクが言った。床を踏むと、急にグラリと動いた。ティクは飛び跳ねて戻った。
「敵か?」
フィルは剣を抜いた。土でできているはずの床は波の様に動き出した。
「待って、この感じ・・・もしかしたら・・。」
ルカがミョンを見た。ミョンは頷いて前へ出た。
「なぜ、ここにいるかは分からないが・・・。土の精なんだろ?姿を見せてくれ。」
床は、プウと真ん中一カ所が膨らみ人の形になった。ミョンは前に進みでて人形に話しかけた。
「土の精か?」
すると、急に土が盛り上がり、ミョンを囲って閉じこめた。
「ミョン!」
ルカが出て行こうとするのをティクが止めた。
「精がいきなり攻撃するとは考えにくい。中で話しているんだろう。」
しかし、土の精はミョンを閉じ込めたままルカに話しかけた。
「星の遺跡にきたということは、水の力があるということだな。」
ルカはコクンと頷いた。
「他の精の力も持っているのか?」
「ええ、水と火と雷と持っています。」
「ふん。水の力は癒しの力、火の力は変化の力、雷の力は戦いの力、光の力は生の力。」
そこまで言って、土の人形はルカの前にスーッと進み出て目の前で止まった。
「塵よりい出し者、塵に帰る。土は死の力だ。俺の力もほしいか?」
ルカは意志の籠もった目で土の人形を見つめた。
「私が本当にほしいのは、光の力。貴方の力は無くていいです。」
突然、土人形の腕がルカを殴って吹き飛ばした。
「ルカ!」
ティクは走ってルカの飛んで行った場所へ行き、倒れたルカを抱き起し土人形を睨みつけた。。
「邪魔立てするな。制裁は済んでいない。」
土人形がルカとティクの方へ動き出した。
バーン。
オバーンの銃が土人形の頭を弾いた。土人形はすぐに修復された。テックはルカの前に立ち、銃を構える。土人形がもう一つ、オバーンの前に作られた。フィルが庇う様にオバーンの前に立ち剣を構えた。
「おいおい。少し乱暴すぎやしないか。土の精さんよ。」
冷や汗をかきながらフィルが言った。明らかに自分達の敵う相手ではない。
「みんなやめて。」
ルカが起き上がり、ティクより前に出て叫んだ。
「これは、巫女と精の問題だよ。戦いになんかしたくない!」
二つの土人形がルカの方を見た。
「ほう。なかなか言うでないか、巫女よ。」
土人形が二つともルカの方へスーッと近寄ってきた。ティクが前に出るのをルカが制した。二つの土人形は一つに融合し、ジロジロとルカを見た。ルカはめげずに土人形を見つめ返した。
「土の精さん。ミョンを返して。私、[最古の科学者]に会いたいんです。光の精の力を得てグリーンモンスターを元に戻したいんです。」
人形がフッと笑った。
「・・・お前は生と死とどちらが大事だと思う?」
突然の土の精の問いにルカは少し考え込んだ。
「・・どちらもです。生が大事だという人は多いと思います。ただ、私の考えでは、死は生を支えています。だから、死も大事だと思います。」
「なるほど・・・」
「けれど、生の為では無い死は良くないと思います。死は天の決めること、だから私は死の力はいりません。」
「ほう。隙のない理屈を考えるではないか。だが、生の力が欲しいと言うのか?生は死を抑制する力、ある意味死の力にも繋がる。」
「勘違いしないでください。私がしたいのは、グリーンモンスターを本来の姿に戻したいだけ。」
「なるほど・・・だが、生の力を持ちたいなら、死の力も持て。これは命令だ。二つの力は表裏一体なのだから。」
土の精は閉じ込めていたミョンを表に出し、皆に見えるように上に高く持ち上げ無理矢理力を注ぎ込んだ。
「やめろっ。僕は、主人が望まない力はいらない。」
ミョンは嫌がってバタバタと暴れた。皆は助けに行こうとするが、土の精につかまって中々動けない。力を注がれたミョンはポンと放り出されルカの腕に戻った。
「ミョン。・・・大丈夫?」
ミョンはブルルと首を振った。
「ごめん。ルカ。僕は力を拒否することはできない。」
「いいのよ。ミョンが無事なら。」
ルカはミョンを抱きしめた。そして、観念したように短く息を吐いた。
「・・でも、土の精さん。私、怖いんです。力はあると、使うかもしれません。何があっても使わない自信などありませんから。」
「フン。自信など、なくて当たり前だ。人は状況によって驚くほど感情が変化する。情や欲に弱いものだ。それが、生命の証なのだからな。ただ、何かを成し遂げるには力が必要だ。できれば、理性的な者に使ってほしい。」
「土の精さん・・・。」
「ついでに教えてやろう。俺は、あまのじゃくでな。死の力が欲しいと言ったものにはこの力はやらん。むしろ、いらないと言ったものにあげるのだ。」
軽く笑いながら、土の精は消えて言った。ティクがルカの顔をのぞき込んだ。
「ルカは大丈夫?」
「うん、私は大丈夫。ミョンが・・・」
ミョンはルカの首の回りをクルッと回った。
「大丈夫だよ。ルカ。君が大丈夫なら、僕はいつでも平気だ。」
ルカはミョンの頭を撫でた。フィルがオバーンと一緒に近くに来た。
「・・・行けるか?」
「うん。大丈夫。」
ルカは努めて明るくして見せた。フィルはルカの頭を撫でて先に立って歩き出した。ティクも、暫くはルカに並んで歩いていたが、そのうちフィルを追い越し先頭に立って歩き出した。
「この奥に星の遺跡の主がいる。噂では、とても強いらしい。俺は、軽く震えているぜ。」
フィルはオバーンにコソッと言った。目は子供のようにキラキラと輝いている。
「私もドキドキしているわ。もうすぐね。[最古の科学者]に会える。」
下に階段が続いている。前の景色より、少し豪華に見えた。ティクが走り出し、荘厳な扉の前で止まった。
「フィル、この扉はお前が開けろよ。」
フィルは皆を見回した。
「最後の扉だね。準備はいいよ、フィル。」
オバーンがニッコリ笑った。ルカがコクンと頷いた。
「分かってます。フィルさん。ここでの戦いは、力を試されること、私も本気で戦います。」
ティクはフィルの手に軽くパンチした。
「フィルの夢、一緒に手伝えて、僕、良かったよ。」
そして銃を手に取った。フィルは皆に頷いて見せた。
「じゃ、行くぜ。みんな!」
フィルが大きく扉を開けた。
「待っていたぞ。戦士達よ。」
目の前には、大きな黒い亀がいた。大亀は地から響く声を出した。
「さあ、試させてくれ。お前達の力を。」
ティクとフィルが脇目もふらず突っ込んでいった。オバーンは後ろに回って大亀のスキをうかがった。ルカは雷の力を使い、皆が離れた瞬間に大亀に攻撃した。周りがドドドと揺れ出した。地震が起こっている。だが、皆の集中力は地震ぐらいでは崩れ無かった。周りの壁が崩れだした。動きが遅いルカの上に岩の固まりが落ちてくる。ティクがハッとして、スキを見せた瞬間、大亀の腕がティクをブッとばした。ティクは何とか持ち直してルカの方へいこうとするが間に合わない。
バン。
すかさず、オバーンがルカの前に出て岩を散弾銃で吹っ飛ばした。
「ティク、こちらは気にするな。私がルカを守る。お前は攻撃に回れ!」
ティクは頷いて大亀の方へ銃を向けた。オバーンはルカを守りながら話しかけた。
「ルカ、あなたの電撃は相当ダメージになる。防御は引き受けるから、がんがんやって。」
「分かったわ。オバーン。」
ルカは再び、電撃を浴びせた。同時にティクの銃撃が行く。フィルは仲間の攻撃に当たらない様に横に飛んだ。
「ヒュー。ティクの奴、きちんと急所を狙うようになったな。甘ちゃんの所は治ってきたようだ。」
ガアア
大亀は、大きく揺れて倒れた。そして、ゆっくりと地面に沈んで言った。地中から、大きな声がした。
「フフフ。やるなあ。完敗じゃ。約束の刻印をやろう。」
再び大亀が土の中から姿を出した。大亀の傷が完全に治っている。
「さあ、刻印をうける者よ。前へ。」
ルカがスッと前に出た。
「お前か。巫女よ。」
ルカの立った土の下に紋章が浮き出た。ルカを黒い光が包み、ゆっくりと消えていった。
「さあ、4つの鍵が揃った。あとは、遺跡の上の転移装置で望郷の森へ行き、ケイという男に会え。」
「ケイ?」
4人は驚いて顔を見合わせた。大亀は四人を転移する。気が付くと、転移装置の前にいた。
「ケイ・・・彼か。」
ティクが呟いた。入り口で待っていたアシアとラルドが寄ってきた。
「どうだった?」
「うん、刻印は取れたよ。」
ルカが頷いた。
「これから、さらに先にある遺跡の上の転移装置で望郷の森に行く。アシア、君がお世話になったケイに会いに行くんだ。」
ティクが言った。
「ケイさんに?」
アシアが不思議そうな顔をした。
「ああ、彼が最古の科学者とどういうつながりがあるか分からないけど、とにかく行こう。」
フィルが頷いた。6人は遺跡の上に登って祭壇を見つけた。近寄ると、中央に転移装置があった。6人が乗ると装置が動き出し、4つの刻印が光った。気が付くと誰かの家の中にいた。