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巫女の村

オバーンと別れ、一向は大陸ホワイト北西にある空の遺跡に着いた。ただ、囲いのような神殿があり、その真ん中に石版があった。

「ここに最古の科学者に会う鍵があるの?」

「ああ、ここは、花の遺跡の鍵を見せないと本当の遺跡にはいけない。その奥に巨大なモンスターがいて、そいつを倒すと鍵が刻印されるんだ」

フィルは剣を手に取ってゾクゾクしながら言った。

「花の遺跡でも鍵を取ったよね。」

ティクの言葉にフィルは頷いた。

「ああ、何とか勝ててな・・背中に鍵を刻印された。だから、今回も負けられない・・・で、頼みがあるんだが。」

フィルは3人の方を向いて両手を合わせた。

「誰か俺と共に空のモンスターと戦って背中に鍵を刻印されてくれないか?」

「ええっ?」

「花の遺跡のモンスターは一人で戦わなければ行けなかった。次は二人で戦えと言われた。もう一人に鍵を刻印すると・・・。」

「そういう大事なことは早く・・・」

アシアが説教を始めるより早く

「いいよ!」

とティクが叫んだ。

「フィルの夢も叶えたいし、女の子に危険なまねさせられない。二人は待っていてよ。」

「もう!」

アシアはプンと膨れた。

「ティク、気をつけてね。」

ルカはティクの手を取った。

「恩にきるよ。ティク。」

フィルは頭を下げた。2人は空の遺跡の囲いの中に入り、石版に集まった。石版が怪しく光り出した。

「二人揃っているな。花の鍵を見せろ」

地面の下から声がした。フィルは服を脱ぎ、背中を見せた。繊細で美しい花畑が刻印されていた。囲いが光だした。外の景色がゆがむ、気が付くと、空の雲の上に立っていた。

「スゲー雲に乗れるのかよ!世界が空の上から見えるぜ!」

ティクが叫んだ。

「ああ、綺麗だな。」

二人は暫く地上を見つめてから意を決したように先に進んでいった。

「花の遺跡には、どんなモンスターがいたんだ?」

ティクがフィルに聞いた。

「花の遺跡には、大きな火の鳥のモンスターがいたよ。刀で火をはね飛ばしながら切りつけたんだけど、きつかった。」

フィルが雲から雲へ飛び移りながら言った。

「この空の遺跡はどんな奴がいるんだ?」

「すぐに分かるよ。ほら、あの雲の間から目が見えるだろ」

上を見ると、白い虎がこちらを睨んでいる。

「どうやってあそこまで行くんだよ。」

ティクが立ち止まった。

「そりゃ、工夫しだいさ。ここにあるもので行けるようにはなっていると思うぜ。」

フィルは、辺りを見渡した。大小の雲が浮かんでいる。試しに側にある小さな雲を手にとると、うまい具合に手を離したところに移動できることが分かった。二人は顔を見合わせて、次々と雲を手に取り、上へ上へ登っていった。

「知恵を見せたというわけか。」

大きな白い虎が低い声で語りかけ、大きな息を吹きかけた。強い風が襲ってきて、乗っている雲は飛ばされた。驚いた二人は、急いで横に避け別の雲に乗った。

「別々の方向から攻撃しよう。」

ティクが虎の後ろに回る。フィルは巧みに雲を選びながら、白い虎に正面から近付いた。

「小さき者よ。お前は足場がなければ、何もできまい。」

虎が大きく生きを吸いこむ。

「それは、お前も同じだ!」

いつのまにか、ティクが虎の足場の雲に乗って、短剣を足に突き立てた。虎は悲鳴をあげて、足場から足を外す。ティクは虎の足の上に飛び乗り、そのまま上へ登っていった。

「こしゃくな!」

虎は足を振り回し、ティクを落とそうとする。フィルはその間に虎のいた足場の雲に乗った。そして、その雲を切り取り、足場を小さくした。これでは、虎は足を置けない。それに気がついた虎は驚いたようにフィルを見た後、大笑いした。

「フハハハハ。面白い男よ。だが、それだけでは、私の致命傷にはならんよ。」

そして、ティクをつけたまま、フィルに足をぶつけ雲の下に落とした。しかしティクは、まだ足につかまっている。

「フィル!」

ティクはルディの縄を出し、フィルを捕まえた。フィルはその縄を利用し、近くの雲に飛び移ると、縄を持ったまま、

「ティク!俺を引っ張ってくれ!」

と叫んだ。虎はガオオと叫んで、そうはさせないとばかりに、ティクを上下に振り回した。その反動で、フィルはもう一度雲から落ちた。フィルをつけた縄は、虎の頭より高い位置まで大きく揺れる。フィルはその縄を利用して、今度は虎の鼻先に下りた。

「運は、俺達の味方だな。」

フィルは虎の鼻先に刀を突き立てた。虎が悲痛な叫び声をあげると、雲が虎を覆うように集まってきて、いつのまにか、虎は消えていった。虎が消えるということは、フィルとティクの足場が消えるということだ。二人は下にある雲の上に落ちた。だが、雲は柔らかく少しも痛くない。

「お前達の勝ちだな。」

虎の声が大きく聞こえた。その瞬間、二人を受け止めた雲は、まるで解けだしたアイスクリームのように柔らかくなり、二人を包んだ。

「刻印を授けよう。」

声が聞こえるか聞こえないかのうちに、いつの間には二人は空の遺跡の転移装置の前に寝ていた。

「ティク、大丈夫か?」

フィルが起き上がって声をかけた。

「もちろんだよ。ところで、どう?僕の背中。刻印はある?」

ティクが背中をフィルに見せた。フィルは満足そうに頷いた。

ルカとアシアが木陰で待っていると、しばらくして二人が帰って来た。

「お帰り、ティク、フィル。」

ルカとアシアが駆け寄ると、二人は戦いで傷だらけの顔を掻いた。

「空の刻印は刻めたの?」

アシアが少し偉そうに聞いた。ティクとフィルは目でニヤリと笑い合った。

「もちろんだぜ。」

ティクはボロボロのTシャツを脱ぐと二人の前に背中を見せた。そこには、綺麗な羽と空の模様が入っていた。

さらに西へ移動すると、少しづつ肌寒くなり雪が見えて来た。北西の半島の入り口にさしかかると辺りは全くの雪と氷の世界だった。寒さをこらえて半島の端まで行くと海に行く道は崖になっている。

「これじゃあ、海に行けないね。」

「(太陽の沈む赤い海へ来たれ)」

ルカがもう一度、石碑に書いたあった文字を繰り返した。おりしも日は海に沈みゆくところで、辺りの氷がキラキラと輝き美しかった。

「ねえ、見て」

アシアがティクの袖を引っ張った後ろを振り返ると、夕焼けの太陽の光が氷に照り返され、まるで赤い光の海の様だった。そして、中に一際光る物、近づくと、氷ではなく石だった。石に触ると更に光り出した。

「これ、空の遺跡の時と同じだ。転移装置だよ!雪と氷に紛れて分からなかった。」

ティクが叫んだ。

「みんな、早くこの石を触って!」

皆が触ると、辺りが歪み気がつくと知らない村へ来ていた。


村の建物は、藁や木でできていて、少し古めかし感じがする。しかし、植物がうまく建物に融合して、家が自然と一体になっている。太陽は沈んだ筈なのに、ここはまだ明るい。どうやらここは、転移装置のある半島より、西にあるようだ。

「よそ者だね。」

老女が寄ってきた。ミョンと同じような精霊動物を連れている。布を被せただけのような服を着て、杖をついていた。胸辺りの模様はルカの服にあるのとそっくりだ。

「ここは、巫女の村だろ?僕の仲間が巫女のことを知りたがっているんだ。」

ティクの言葉にルカがフィルの後ろから顔を出して、ぺこりと挨拶した。彼女の首の横からミョンが顔を出した。年配の女はルカの側に来てミョンに手を差し伸べた。

「ミョン、ミョンだね。すると・・・その子は・・・ル・・・ル・・」

「ルカです。私を知っているんですか?」

「もちろんだよ。ああ、あの時の女の子か。お父さんや、お兄ちゃんは元気かね?」

ルカは顔を俯かせた。

「どうした?何か悪いことでもあったのかね」

「巫女の村まではグリーンモンスターの波は来てないようですね。実は・・・」

ルカがゆっくり説明を始めた。

「そうか、そんなことが・・。ルカ、巫女長に会いに行きなさい。もしかしたらグリーンモンスターを元に戻す方法が分かるかもしれないよ。」

女の言葉に皆は、目を輝かせ巫女長の家に向かった。巫女長は快く皆を迎えてくれた。

「グリーンモンスター化した人間を、元に戻す方法か・・・光の精霊の力を使えば、治るかもしれん。あれは、全ての闇を、病気を治すからな。」

「光の精霊はどこにいるんですか」

「全ての精霊は、悪用されるとよくないから世界の至る所に、散らばっている。最古の科学者なら、それを知っているだろう。彼はこの世の全てを知っているのでな。」

「最古の科学者・・・」

フィルは繰り返した。

「うむ、彼に会うには・・・」

「知っています。世界の4つの遺跡を巡り、鍵を集める。」

「うむ。その通りじゃ。(花を咲かせ空を曇らせ、水を汚し星を壊す。同じ道にきた時、世を見据え、なお勇気をもつ者よ。手にした鍵で扉を開けよ。我を呼び覚ませ。)」

「ええ、俺たち、既に花と空の鍵は持っているんです。後は水と星の遺跡・・・」

巫女長はウムと頷いた。

「気負わぬことじゃ、良く世界を見て進め。」

「はいっ。」

巫女長の言葉を4人は真摯に受け止めた。

「巫女長、よろしければ私の事を教えてくれますか?」

ルカが一番聞きたかったことを聞いた。巫女長は立ちあがり、ルカの側に来て手を取った。

「ルカ、お主の母さんはここの村人、巫女だった。しかし、この地へ来た商人と一緒になったのだよ。それが、お主のお父さんじゃ。しかし、お主を産んだ後、彼女は病気で亡くなった。それで、お父さんは生まれ故郷のウィッチへ子供二人連れて帰っていったのだ。お主は女の子だからこの村で育てようと思ったのだが、父親が強く連れて行きたがってな。」

「そうですか。」

ルカは頷いた。

「ミョンは不老不死だと言われている「初めの巫女様」にもらった精霊動物じゃよ。巫女は子を産むとき、水の精霊住むの聖なる泉へ行く。そして、生まれた子が女の子なら「初めの巫女様」は精霊動物の子をつけて、水の精霊の加護をもらうのじゃ。」

「そうか、僕覚えてない。聖なる泉に行けば思い出すかな。」

「いいや、そこは子を産む巫女しか入っては行けない場所なんじゃ。いつ、いかなる時でも場所は教えられない。」

巫女長はきっぱり言った。ミョンは残念そうに俯いた。巫女長はゆっくり立ち上がった。

「さあ、今日は私の家でゆっくり休んで明日また出発するといい。」

巫女長は4人に寝床を用意してくれた。


翌日、4人は、巫女の村を出て、オバーンを迎えにアノンに寄った。

「オバーンも、息子のジースのグリーンモンスター化をなおせるかも知れないって言ったら嬉しいでしょうね。」

アシアが何気なく言うと、フィルが驚いたように聞いた。

「えっ息子のジース?ジースってオバーンの息子だったの?まさか結婚してるとか。」

「あ、知らなかったっけ。」

「まずいこと言ったかしら。でも、教えておいた方が親切よね。アハハ。」

「それは、どうもご親切に。」

フィルは少し嫌みっぽく言った。

「でも、今は未亡人みたいですから。」

ルカがフォローすると、フィルは焦ってみんなの顔を見た。

「ちょっと待って、俺、オバーンが好きなんて言ってないよな」

「私も言ってませんよ。」

ルカの言葉にフィルが閉口していると、ティクはクスリと笑った。

「女相手に下手なことは言えないな。フィル。」


アノンに4人が着いたのは昼だった。オバーンは庭の木陰で自分の銃を磨いていた。

「待っていたわよ。みんな。」

オバーンは皆に気づいて、手を振った。

「準備はできているみたいですね。」

ルカがにこやかに笑った。

「ええ、できてるわ。」

オバーンは銃をしまって懐に入れた。奥から村の人達が集まってきた。

「オバーンさん。旅が終わったら、またいつでも戻ってきてください。僕達は家族ですから。」

オバーンは深くお辞儀をして、村をでた。

村を出て一番にフィルは皆の顔を見渡した。

「これから、ドグスの東にあるブルー大陸。そこにある水の遺跡に行きたい。港町クーンから船で行くのが一番だと思う。」

皆は頷いて、フィルに従った。港町クーンに着くと、夜になっていた。宿に泊まった後、5人は船を出してくれる人を探した。

「皆商売にいそがしいからねぇ。でも、待って。一人いるけど、たいそう変わり者だよ。」

宿屋の女主人が大きいお腹をさすりながら言った。

「その男はマシューと言ってね。いつも、海からなんか持ってきて実験してるんだよ。船もあるし、暇そうだから、声かけてみるといいよ。」

5人は喜んでマシューを訪ねた。場所は港町の中でもさらに海に面しており、家は見るからにボロだった。

「これって、大波の時、壊れないのかしら。」

ルカが言った。

「今、ここに建っているんだから大丈夫なんだろ。」

フィルの横をティクが駆けだした。

ドンドンドン。

扉を叩くと猫背の老人が扉を開けた。

「なんだね。あんた」

老人はやぶ睨みでこちらを見た。

「ここ、マシューさんの家だよね。あんたマシューさん?」

ティクが元気に言った。

「この家の主はワシじゃよ。研究者ジム・アレクサンダーじゃ。同居人は船乗りマシューじゃが・・・あんたマシューに用かね。マシューは自分の気にいった人間しか会わないよ。」

「えっ」

フィルとオバーンは顔を見合わせた。

「自分の気にいった人間って・・何様?」

アシアが高飛車に文句を言うのをティクが遮った。

「気にいった人間ってどうすればなれるのかな?」

「アッハッハ。」

奥から体の大きな男が出てきた。

「多少の困難には挫けないかい?前向きな男は嫌いじゃないね。気にいったよ。入んな。」

「皆もいいかい?」

「いや、あんただけだ。」

「なら入んないよ。」

ティクはそっぽを向いた。

「そうかい、なら入るな。実験で忙しいんだからな。」

扉がバタンと閉められた。

「バカ、ティク。お前だけでも入って、船頼めばよかったじゃないか。」

フィルが言った。

「まあまあ、ティクだけ乗ってもしょうがないわ。ここは、皆で気に入られるようにしようじゃない。」

オバーンがたしなめた。もう一度、ティクはドアをノックした。再びジムと呼ばれる老人が扉を開けた。

「また、あんたらかい?」

ジムは嫌な顔をした。

「俺達、ブルー大陸まで行きたいんだよ。船で連れて行ってくれよ。」

ティクが悪びれずに言った。

「船はマシューのもんだよ。マシューに頼みな。会ってくれたらだがな。」

「そこいるんだよな。じゃまするよ。」

ティクが入ろうとするのを、オバーンが止めた。

「ティク、人の家だよ。礼儀をわきまえよう。」

はがゆそうにしていたフィルが脇から大声をだした。

「マシューさん、船乗せてくれよ。その代り、できることあれば何でもするからさ。」

「何ができる?」

マシューの代わりに、側にいたジムが聞いた。

「腕には自信があるからな。モンスター退治とか。」

「フン。」

ジムは鼻を鳴らした。

「どのくらい強いのかね。」

「かなりのもんだよ。」

ティクが言うのを、オバーンとルカはオロオロして聞いていた。

「なら、あれ、頼んで見るか、ジム。」

再びマシューが奥から来た。

「そうだな。あれ、倒してもらえれば、研究も進むな。」

「なんだかしらないけど、なんでも倒すぜ。」

ティクが胸をドンと叩いた。

「ちょっ・・ティク。」

オバーンが何かいうのをフィルが止めた。

「先に進むためだ。とりあえず、なにがなんでもやろうぜ。」

フィルは片目をつぶった。


5人が奥に通されると、部屋の中には沢山の水槽があり、中は異形のモンスターが沢山放たれていた。

「新種の水モンスターか?」

フィルが聞いた。

「いや、交雑させて作ったものだ。これに繁殖能力はない。」

ジムの言葉にオバーンやルカは眉をひそめた。

「なぜ、こんなことを?」

「魚とモンスターの違いを確立する為だ。」

ジムは振り向いた。

「知っての通り、モンスターの特徴は我々を理由なく襲う。モンスターは食べられない。」

「それで?」

フィルは腕組みをした。

「実は、モンスター同士は交雑できるんじゃ。交雑種には繁殖能力はないがな。ところが、魚とモンスターは交雑できない。この違いを使って、今まであいまいだった境界線をきちんとつけたいんじゃ。」

「なるほど・・で、俺達に頼みたいこととは?」

「クーンの海岸沿いにドグスの中心まで続くような深い穴のあいている場所がある。バース湾の真ん中なんじゃが・・そこに深海モンスターの巣があるんじゃ。」

「深海モンスターの卵を取ってこいっていうんだな。任せろ!」

ティクが胸を張った。マシューは首を振った。

「いや、深海モンスターは小さく比較的おとなしい。問題はそこに迷いこんだ古代モンスターだ。」

「古代モンスター?」

「うむ。普段もっと北の海にいるんだが、何をまちがえたんだか、ハース湾に迷いこんでな。研究のじゃまになるから、倒してくれ。」

「古代モンスター?・・・それって水モンスター最強最悪の・・・。」

アシアが言った。

「倒せるのじゃろう?」

ジムがにやついた。

「もちろんさ。」

ティクは自信満々に答えた。

5人がマシューの船に乗りこむと、ジムは船着き場で手を振って見送った。

「よろしく頼むぞ。倒せたらブルー大陸まで送ってやろう。」

「威張っているなー。」

 フィルが顔をしかめるのを見て皆、苦笑した。

船がパーク湾に入ると、急に潮の流れが強くなった。

「あいつが来るときはいつもこうだ。」

マシューは舵を握りしめた。船の下には大きな影が見える。その影が動く度に波が大きくうねった。

「海の中か、さて、どう倒そうか」

フィルが呟いた。ミョンがルカの肩に登って来た。

「ルカ、水の力を使って、モンスターを水上に引き上げよう。かなり大きいけど、君ならできる。」

ルカは頷いた。

「分かったわ。やってみる。」

ルカは船のへりに立ち海に手を翳すと、手の下から、波が丸く広がった。

「うっ・・大きいわ。引き上げられるけど、すぐ沈んじゃうと思う。」

「大丈夫だ。引き上げた瞬間、攻撃するから。一瞬でいい。」

ティクが言った。波がざわめき始めた。ルカの体が光始める。水がグングン盛り上がっていった。船が大きく揺れる。

「立っていられないわ」

アシアが叫んだ。

「チッ揺れで銃がうまく使えない!」

ティクが叫んだ。

「ここは俺に任せろ。」

フィルは波の中心を見つめた。大きな水飛沫と共に古代の首長竜のような巨体が浮かび上がる。それを確認すると、フィルはしなる帆柱をバネにして跳ね上がり、海上へ飛んだ。そして、モンスターの首目がけて剣を振り下ろした。モンスターは回転して急所を外し、フィルを水面に叩きつけた。と、同時にモンスターは海の中へ落ちていった。

「フィル、大丈夫か?」

ティクが、甲板に捕まりながら叫んだ。

「奴が水中から襲ってくる。」

マシューが、呟いた。

「ルカ、早くフィルを水上へ上げて!」

ティクが言うが早いか、ルカはフィルの体を水に包まれたまま空中へ上げた。ルカも疲れて険しい顔をしている。その時だった!モンスターが水中から顔を出し、まるでパン食い競争のパンみたいにフィルを食べようとした。

「フィル!」

ティクはフィルと同じ様に、帆柱をバネにして飛び上がり、モンスターに銃を浴びせた。

バンバンバン。

大きな鉄砲の音と共に、モンスターの顔から血しぶきが飛び散り、水中に沈んでいく。と、空中に上がったティクも水中にドボンと落ちた。ホッとしたのもつかの間、モンスターが最後の力を振り絞って首を伸ばしてきた。ティクは、銃が濡れて使えない。モンスターの長い首につかまってしまった。モンスターの赤い目がティクを食べようと睨みつけ、鼻筋から垂れた血がティクの頬を伝った。それを見たオバーンはティクを助けに海に飛び込んだ。

「フィル、剣をくれ。」

ルカの作った空中の水玉の中でフィルは剣をオバーンに投げた。彼女はそれを受け取り、ティクに巻き付いた首の根元に剣を差し込んだ。モンスターは最後の断末魔をあげ、ティクを離した。オバーンが剣を抜くと、血が噴き出し、海を染めていった。モンスターは揺れながら、底に沈んでいく。そして、それを最後に出てくることは無かった。

「大丈夫か?ティク。」

オバーンはティクを水の上に引き上げた。ティクはあばら骨を痛めたらしく、胸を抑え苦しそうにしている。

「有り難う、オバーン。」

ティクが息の下から言った。

「こらー!」

水上に顔を上げたティクとオバーンにフィルは空中の水玉の中ですごい剣幕で怒った。

「危ないことするんじゃない!もし、モンスターが死ななかったら、海に落ちたお前達まで食われていたかもしれないんだぞ。」

沈んでいったモンスターを見てルカは安心して緊張が緩んだ。フィルを囲う水玉が少し揺れて壊れていく。

「ごめんなさい、フィル。」

「うわぁぁぁぁ。」

フィルは滑稽に海に落ちた。オバーンは思わず大笑いした。船上ではルカが甲板で座り込んだ。肩で荒く息をしている。疲れが顔にでていて、アシアは心配そうに寄り添った。マシューはフィルとオバーンとティクに浮き輪を投げた。

「早く上がってこい。まさか、あのモンスターを倒すとはな。恐れ入ったぜ。約束通り、ブルー大陸へ連れて行ってやるよ。」

マシューが浮き輪に付いた紐を体全体でひっぱり上げた。びしょぬれの戦士達は、互いを見合って再び笑った。

その後、ジムへの報告を終えた一行は翌日再び海を渡りブルー大陸の西の海岸に到着した。そこは、辺り一面砂漠だった。


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