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ケイド城のアシア姫

次の日、4人はアノン村の南に位置するケイド城へ行った。

お城の門には、頭が混乱して、目線が定まらない門番達がうろついていた。害は無いようだ。

「とにかく、彼らはお香で混乱を直しましょう。」

オバーンが彼らにお香を嗅がせた。正気に戻った門番達はお礼を言ったが、城の中には入れてくれるように頼むと首を横に振った。

「城の中に入る?だめだよ。中に入るには、王族の許しが必要なんだ。でも、王様は、中で混乱してるだろうし・・・そうだ、城の外にでたアシア姫を捜してきなよ。城の隣の森、望郷の森の方へ行かれたのを覚えているんだ。きっと泣いていると思う。」

「可哀想!」

オバーンとルカが叫んだ。

「姫様か・・楽しみだぜ。」

フィルはにやつく。4人は急いで森へ向かった。

ホワイト大陸の南西、ケイド城の西に「望郷の森」と呼ばれている森がある。神様の住む森だと言われている。多くの生き物が住んでいて、他よりも植物が良く育つことで知られていた。

森の入り口にきたフィルはウキウキしていた。

「やっほー!お姫様だぜ。」

「お気楽ね、フィルは。」

オバーンがあきれ顔で言った。

「女には、分からねえよ。お姫様という言葉には、男にしか分からないロマンがあるんだ。なあ、ティク。」

フィルはティクの肩を組んだ。

「ノーコメントで。」

ティクが苦笑いしながら答えた。

「お姫様へのあこがれは女の子にもありますよ。もっともフィルさんとは、別の意味ですが。」

ルカがにっこり笑った。

「そうだろうね。でも、とにかく俺は、お姫様のハートをゲットして、逆、玉の輿にのるんだ。」

「はいはい。」

ティク達は肩をすくめた。早足で森の奥へ入っていくと、二十歳くらいの女の子が畑仕事をしている後ろ姿を見つけた。年の頃は10代後半だろう。服装はズボンに長袖。髪は一つに縛って後ろに束ねている。

「アシア姫かな?」

ティクが言った。フィルがグィッと前へ出た。

「おい、あれがお姫様か?後ろ姿、すんげえ、ストライクなんだけど。」

フィルは進み出て、彼女の肩を叩くと彼女は振り向きざまに棒で殴りかかってきた。

「えーい!」

フィルは片手で止めて彼女をジッと見た。

「美人さんだなー。でも、混乱してるんじゃないだろうな。」

彼女は、ぴょんと体制を整えると、生意気な顔で軽く笑った。

「なーんだ、モンスターじゃ無かったの。」

フィルは頭を掻いた。

「見た目より、じゃじゃ馬姫だな。」

ティクは彼女に手を差し伸べて紳士的に言った。

「アシア姫だよね。助けにきたんだよ。お城に帰ろう。」

アシアは少し俯いて、プウっと膨れた。

「今、城の人達は混乱しているのよ。大変なの!」

オバーンはゆっくりうなずいた。

「ええ、城の外も大変なことになっているのよ。お城、開けてくれる?お城に閉じこめられていたモンスターが原因だから、お城に行けば、お香が足りなくてもなんとかできる方法が分かるかもしれないわ。」

オバーンは、諭すように言った。アシアは後ろをチラリと見た。後ろにある畑には、お香の材料の葉が青々と育っていた。

「あの畑、アシア姫が作ったの?」

アシアはコクンと頷いた。

「すごいわ。沢山のお香ができるわね。それに、この草を城に持っていって直接燃やせば、皆な正気に戻ると思うわ。」

「本当?じゃあ、すぐにお城に帰らなきゃ。」

アシアは嬉しそうに叫んだ。フィルがアシアに聞く。

「今までは、どう暮らしてきたんだ?まさか、一人ってことはないよな」

フィルが聞くと、アシアは少しぶっきらぼうに答えた。

「ケイっていう人にお世話になっていたの。」

フィルとルカは目を大きくした。オバーンはその様子には気付かず、

「じゃあ、その人に挨拶してから帰りましょう。」

と、アシアに言った。ケイの家はもう少し森の奥に行ったところにあった。山小屋のような家だ。アシアは、皆に待っていてほしいと言い残し、家に入ってケイを呼んだが、返事が無く、暫くして、また戻ってきた。

「今いないみたい。でも、家に入っちゃだめよ。ケイさんは知らない人が入るとすごく怒るの。」

4人は顔を見合わせて、玄関に続く階段に座った。

「望郷の森かあ、豊かな森だけど、神聖だから誰も住んではいけないって聞いたんだけど、ケイは住んでいるんだな。まあ、そんな話知らないで住んでいる奴もいるよな。」

フィルは空を見上げながら言った。

「初代の巫女は、そこから来たという言い伝えもあります。」

ルカが付け加えた。

「アシア姫。ケイさんはずっとここに住んでいるの?」

ティクが聞いた。

「知らないわ。ただ、城には、困った時は望郷の森へ行けという言い伝えがあってね。それで、望郷の森へ行ったら、ケイがいたというわけ。」

その時、ガサガサと音がした。木々の間から、精霊動物が飛び出した。こちらは立派な羽が付いている。同じ精霊動物でもイタチのようなミョンとは違い鳥のようだ。

「サポ!」

アシアが駆けだした。鳥のような精霊はアシアの肩に止まり頬にキスした。その後、草むらから、男が出てきた。片腕の無い若い男だ。

「ケイ!」

男はにっこり笑ってアシアを抱きしめた。そしてティク達をジロリと見た。それは、明らかに警戒している目だった。アシアはケイの袖を引っ張った。

「ケイ、今までありがとう。お香の草も沢山できたし、お城に帰るわね。」

警戒中のケイとは対照的なアシアの元気のいい言葉に、ケイは少し微笑んだ。ケイはティク達を見ながらアシアの頭に手を置いて、黙ってティクの前へ来た。そんなケイのすごみに何も言われてないうちからティクは慌てて誤解を解こうと懸命になった。

「怪しい者じゃないよ。僕の名はティク。大陸レッドのラティスから来たんだ。ここから東にあるアノンって町に混乱の魔物がきたから、なんとかできないかと思って、ここに来ただけだよ。」

彼は、ティクの目をジッと見つめてゆっくり頷いた。

「目は口ほどに物を言う。いい目だ。信用して良さそうだな。」

そして、アシアの方を向き、抱きしめた。

「アシア、気をつけて城へ帰りなさい。」

アシアは元気良く頷いた。五人がアイド城に戻ると、門番の男が走って来て、アシアの手を取った。

「よくぞご無事で。」

「ごめんなさい。」

アシアは頭を下げた。

「そんな・・もったいない。さあ、お入りください」

一同は城の中へ通された。


所変わって、ここは惑星ドグスの北、ブラック大陸にあるアカツキ研究都市。この町でも一番高名な研究者をラゴンと言った。彼は同時に国際研究所の一員でもあった。ラゴンの一人息子ラルドは、今年十九歳になる。ラゴンが仕事で家を出でからは、召使い達とこの大きな屋敷に住んでいた。ラルドは黒髪の頭の体つきの良い青年だ。しかし、小さい頃から気が弱く、反抗期というものもなかった。留守しがちな父親を崇拝しており、夢は父親と同じ、研究者になることだった。

毎週日曜日、ラルドは居間のテレビ電話で、研究所の父親と話をする。研究のことを話すこともあれば、学校のこと、家でこと、話す事はいろいろだった。ただ、最近話す事はもっぱら、グリーンモンスターのことだった。ウィルスでモンスター化した人を治すワクチンを、ラゴンは極秘に開発し、ラルドに大量生産を頼んでいた。

「父上。ワクチンが大量生産できました。これから、配りにいきます。」

ラルドは、テレビ電話の前で父親に話した。

「そうか、よくやった。だが、おおっぴらに動かないでくれ。説明しづらいが、これは、秘密のことなんだ」

ラルゴは静かな声で話した。

「?・・・分かりました。父上のことは信用しております。では、大げさにではなく、世界を回りながら、ワクチンを配ります。」

ラルドは頷いた。


一方、ティク達はケイド城の中に入った。ケイド城の城下町はモンスターに壊されて荒れていた。中の人達は皆混乱していたが、アシア姫の育てたお香の原料の草、気つけ草を燃やすと、その煙で皆元に戻った。

王様は、皆を大広間に呼んで話しかけた。

「本当に姫が迷惑をかけた。好きなだけ、ゆっくりしていってくれたまえ。」

「のんびりとしていられないんです。実は・・・。」

オバーンは、事情を説明した。

「なんと、モンスターが貴方の村で・・・。分かった。家来に命令して、すぐそなたの村へ気つけ草を届けよう。だから、安心して今夜はこの城にいてくれたまえ。祝いの宴を催したいのでな。」

「でしたら、喜んで。」

オバーンは丁寧に頭を下げた。

「王様、混乱のモンスターはこの城にいたって聞いたけど?」

ティクが前に出て友達に話しかけるように話しが、王様は機嫌よさそうに笑った。

「ハハハ、元気がいい子だ。魔物はこの城の図書館の本の中に封印されていたのだ。巫女が、封印の本の中に牢屋をつくり、閉じこめたのだよ。」

「巫女?」

ルカが驚いたような顔で王様を見た。

「あの、私、巫女の母を持ち、みんなから、巫女って言われているんですが、あまり巫女のことを知りません。王様は何かご存じなのですか?」

王様は長い髭を撫でた。

「残念ながら、ワシもほとんど知らない。巫女の村もどこにあるか謎であるしな。手がかりは、封印の本じゃな。」

「封印の本を見せてもらえますか?」

ルカの問いに王様は少し答えを詰まらせた。

「封印の本は中へ入れる。だが、入るには、王家のものと共にいかなくてはならん。昔からの決まりじゃ。」

王様の心配そうな声をアシアが明るくかき消した

「私が行くわよ。モンスターを出したの私だし、中は二回目になるから、心配しなくていいわ。」

王様は小さくため息を吐いた。

「姫のことじゃ、そう言うと思っておった。だがアシア。貴方に何かあれば、私だけでなく、この城の皆に迷惑かけることを覚えておきなさい。」

アシアぷーっと膨れて王様の前を駆け足で去っていった。ティク達は驚いて、王様に一礼した後、アシアについていった。

「どうしたの?」

ルカが心配そうに聞いた。廊下には、夕焼けの赤い空の光が差し込んでいる。

「あたし、結婚されそうなのよ。20歳以上も年上の40歳の年取ったいやらしい目つきのおじさんと!あんまりいやなもので、混乱の魔物を解放して、お父様を混乱させようとしたの。」

「結婚、勝手に決められちゃうの?」

ルカが驚いた。フィルはルカの肩に手を置いた。

「王族じゃ珍しくないだろ。しかし、40歳で19歳と結婚かあ、夢のような話だな。地位も手に入るし。」

フィルがニヤケ顔でいうのを、女三人が睨んだ。それに気付いて、フィルは慌てて付け加えた。

「でも、金で女を得るなんて、ろくなもんじゃねえな。で、アシア姫は混乱のモンスターが思ったよりも手に負えなかった訳か。」

アシアは、フンと鼻を鳴らした。

「ええ、城もめちゃくちゃにしちゃうし、私もどうしていいか分からなくて、望郷の森に逃げ込んだの。」

「まあ、なんとかしてやるから、結婚、俺とはどう?」

フィルがニヤニヤしながらアシアの顔を覗き込んだ。

「残念ながら、さっきも言ったとおり、いやらしそうなおじさんには興味ないの。」

フィルは、ガッカリ肩を落とした。

「ところで、女王様は?」

オバーンが聞いた。アシアは少し俯いた。

「・・・一年前の人が木に変わる事件でお母様はバラの花になってしまったわ。お母様がいなくなったとたん、お父様は、浮気三昧で、城のお金はスッカラカン。城下町も税金が上がって人が少なくなっちゃうし。だから、私は、金持ちの商人の嫁にされるって訳!」

「城下町が荒れていたのは、モンスターのせいだけじゃなかったんだな。王様は、前から混乱気味だったってわけか。」

フィルが少し皮肉っぽく言った。

アシアはクルリと振り向いて、皆を見た。

「ね、このまま、封印の本のところに行ってもいいいけど、今日は疲れちゃったし、宴もあるし、明日にしない?」

「もちろんよ。アシアが元気な時に行きたいしね。」

ルカが言った。アシアは頷くと城の一室を開け、そこにみんなを招き入れた。中はだだっ広い衣装室だった。男物、女物いろいろある。アシアはみんなの顔を見て、明るく言った。

「さあ、礼服に着替えて!」

「今から?僕たちも?」

「あたりまえでしょ、もう夕方だもの。宴では、ダンスも踊るんだからね。貴族も来るのよ。恥ずかしくないようにしなきゃ。あたしが、似合う服見繕ってあげる。」

アシアは衣装室の奥にどんどん入っていく。

「社交界ねえ、経験ない訳じゃないけど、そう得意でもないんだよな。」

フィルは文句をいいつつ、服を選び始めた。一方ティクはブスッと膨れて扉の外の壁に寄り掛かった。

「ティク・・」

ルカが心配そうにティクを覗きこんだ。

「礼服にダンス?バカバカしい。僕は欠席するよ。」

「あら、ご馳走も沢山でるわよ。」

アシアが衣装を選びながら言う。ティクがゴクリと唾を飲み込んだ。

「ティク・・、私も初めてなの。ティクがいないと不安だわ。」

ルカが上目づかいでティクを見上げた。フィルが自分の着る服を片手に持ち、ルカの肩に手を置いた。

「大丈夫だろ、ルカちゃんくらい可愛ければ、他の男達が黙っていないとおもうよ。みんなリードしたがるんじゃない?」

ティクはフィルを睨んだ。フィルはニヤニヤしている。

「わあったよ。僕も出るよ。」

ティクがふてくされてルカに言った。ルカがホッとしたようにフィルと目配せした。

「おい、フィル、僕の服も選んでくれ。」

ティクはルカの肩に置いてあるフィルの手を掴み、フィルを衣装室まで引っ張っていって、ルカから離した。

「そんなに心配しなくても、ルカちゃんには手出さないぜ、ティクの為に。」

フィルがコソッとティクに言った。

「フィルの言葉はいつも薄っぺらいんだよ!」

ティクはプイと、そっぽを向いた。

「女性の着替えは、こっちの部屋よ」

アシアが声をかけ、奥の部屋に入った。

「男性はこの場で着換えろってことか?」

フィルがテイクと顔を見合わせた。

「男の裸に価値はないでしょ。誰も見ないわよ。」

アシアが扉の向こうから声をかける。

「姫様は横暴だな。誰も見なくても、そんな露出狂みたいな真似、できるか!」

フィルが反論した。

「あのっ、私とルカも、もう隣の部屋行くから。」

オバーンが恥ずかしそうに声をかけた。

「あっ、ごめ・・ん」

フィルも恥ずかしそうに頭を下げた。ティクはそれを見てプッと笑った。

女性三人は着替えた後、元の衣装室に出てきた。フィルは自信満々にティクは少し恥ずかしそうに立っている。アシアは礼服に着替えたティクとフィルを見てニコッとした。

「あら、二人ともいいじゃない。」

フィルは、紳士らしく深々とお辞儀して

「ありがとうございます。お姫様。」

と丁寧に言った。ルカはティクの側で

「かっこいいわよ。」

と言うと、ティクは

「ルカこそ・・綺麗だ。」

と照れながら言った。アシアは満足そうにみんなを見回したが、オバーンを見て、首を傾げた。

「オバーン。地味なんじゃない?そんなに肌を隠さなくても。」

「でも、もう年だから・・・。」

オバーンは恥ずかしそうに言った。

「あら、そんなことないわ。美人なんだから、派手にいきましょ。」

アシアは服を選び初めた。

「姫様相手じゃオバーンもかたなしだな。」

オバーンは意固地にアシアを止めようとするが、アシアの暴走は止まらない。

「この、ピンクがいいわよ。」

アシアの選んだ服にフィルが苦笑した。

「それは似合う年齢があるんだよ。俺が決める。」

フィルはすっと、衣装掛けの中に入ると、セクシーな大人な服を選んできた。

「これは・・・ちょっと・・」

オバーンのちょっと引き気味な言葉に、フィルは自信を持って勧めた。

「いいから着てみろ、似合うから、俺の目に狂いはない。」

渋るオバーンをフィルは無理矢理着替え室に連れて行った。入ったはいいものを、着替え終えても、オバーンは扉にかくれて出てこない。

「恥ずかしがらずにでてこいよ。」

フィルの声にオバーンはオズオズと出てきた。彼女を見た一同はため息をついた。

「すてきね。」

と、ルカが言えば、アシアは、少し悔しそうに

「フィル、やるわね。似合ってるじゃない。背が高いから映えるわ。」

と言った。フィルはすっと前へでて、

「ほら、手かして。」

とエスコートすると、オバーンも

「ありがとう、フィル。」

と、顔を赤くした。

「女性の魅力を引き出すのも男の役目だからな。いい男だろ?」

フィルの得意げな態度に、オバーンはクスリと笑った。

宴が始まった。沢山の人が大広間に集まった。アシアは王様の近くで、皆に挨拶している。近づける雰囲気じゃない。フィルはお酒を片手に。ティクとルカに話しかけた。

「おこちゃまは、お酒はだめだぞ。」

フィルのからみにティクはうるさそうに言った。

「わかってるよ。ところでオバーンは?」

「紳士方に囲まれてるよ。」

軽く指で指した先に数人の男達に囲まれたオバーンがいた。

「側にいなくていいの?」

ルカが言うと、フィルは少しお酒を含んだ。

「オバーンにも、楽しませてあげなくちゃね。」

「余裕ね。」

「俺の女でもないしな。それに俺、若い子の方が好きだもん。」

ルカとティクは顔を見合わせて苦笑した。

「じゃ、アシアの方はどうなの?狙っているんでしょ。逆玉の輿。」

ルカが茶化したように聞いた。

「振られたばっかりだしな。時間をおいて近づくんだよ。」

フィルは、フフンと上を向いた。

「全然懲りないのね。」

ルカはクスッと笑った。

「ところで、フィルはどうして、(最古の科学者)を探そうと思ったの?」

テックが聞くと、フィルは顎の無精ひげを少し撫でて話し始めた。

「子供の頃、迷子になった洞窟で偶然小型の飛行機を見つけてさ。いつか、それを動かしたいとずっと思っていたんだ。ひょんなことから、それが(最古の科学者)の物だって分かって、それで探しているんだ。」

「ふーん。すごいね、夢を持ち続けられて。」

「ま、しがみついてるだけだけどな。でも、仲間ができて、俺は嬉しい!」

フィルがティクの肩を抱きながら寄り掛かった。背の差があるので、体重がかかってくる。

「重いよ、フィル。お酒臭いし。」

ティクが少し迷惑そうに肩を動かした。オバーンが向こうから走ってきた。眉間に軽く皺を寄せて顔を赤くしている。

「フィル、どうして離れちゃうの?」

「いや、楽しそうだったから。」

フィルは戸惑って言葉を濁した。

「困ってたのよ。沢山の男の人に囲まれて何しゃべればいいか分からなくて。お酒も苦手なのに勧められるし。」

フィルはフッと笑った。

「オバーンって意外とウブなんだな。」

ティクはフィルの背中を叩いた。

「フィル、いてやれよ。エスコートするんだろ?」

フィルはティクをこづいた。

「生意気いうんじゃねえよ。まったく、しょうがねえなあ、来いよ。オバーン。一曲、踊るか?」

絶妙なタイミングで曲が変わった。オバーンは少し戸惑いながらもダンスを踊り始めた。

「お似合いね、あの二人。」

ルカが溜息交じりに言った。

「ま、僕としちゃ、酔っ払いのフィルが向こうに言って助かったけどね。」

ティクは肩ごしにルカを見た。そして、本当に小声で、

「一緒に踊ろ。」

と言ったが、小声の上、声がくぐもっていたからルカは全く気がつかなかった。結局、ティクはそれ以上ルカを誘えなかった。

朝になり、ティクが起きると、すでにテーブルには朝食のサンドイッチとジュースが置いてあった。昨晩はアシアは一人一部屋寝床を用意してくれたので、皆はバラバラに眠ったのだ。

「アシアの家は朝、自分の部屋で一人で食事するのかな。寂しくないのか・・な。」

ティクは独り言を言い、朝食を食べると、隣のフィルの部屋の扉を叩いた。

「フィル、もう朝だよ。用意できた?今日は封印の本を見に行くって言っていただろ。」

フィルは、モゾモゾと顔だけ布団から出し扉に向かって言った。

「あー二日酔いだー。起きられない。」

ティクは溜息をついた。

「しょうがないなあ。じゃあ、みんなを起こして封印の本のある図書室の前に行っているよ。」

「ごめん。もう少し寝た後、行くから。」

ティクはルカ、オバーン、アシアの部屋へ順に行き、図書室の前へ来た。

「フィル、来ないわね。」

オバーンが心配そうに時計を見た。

「来るって言ってたんだけど、二日酔いみたいだから、先行く?」

ティクは皆の顔を見た。オバーンは少し恥ずかしそうにフィルをかばった。

「フィルは、昨晩、お酒を勧められて困っていた私の代わりに沢山飲んでくれたのよ。なるたけ休ませてあげたいわ。」

「やだ、フィルったら素敵じゃない!」

女性達の評価が一気に高まった。

「じゃあ、もう行こうぜ!」

ティクがウズウズしながら言った。アシアが頷く。そして、図書室の扉を開き、一番奥の分厚い本を手に取った。これが、封印の本だ。本の扉はしっかり鍵がかかっている。

「鍵はどこ?」

ティクがアシアに聞いた。

「鍵はこれよ。これが、封印の本の中へ行く鍵。」

アシアは中指にはめている小さな指輪を皆に見せ、カギ穴にかざした。その瞬間本が光り出し、気が付くと皆、周りに文字が飛ぶ異世界の中にいた。

「ここは、本の中よ。混乱のモンスターは、この一番奥に封印されていたの。そこに、古代文字もあったわ。もしかすると、それが巫女の一族の手がかりになるかも知れないわね。」

アシアの言葉に皆、顔を見合わせた。そして4人は一丸となって奥に進んでいった。

「ここの図書室には、他にもモンスターが封印されてる本があるの?」

ティクがアシアに聞いた。

「いくつかね。でも、たいていは、それ程強いモンスターじゃないわ。城の為に有効に使えるかもしれないモンスターが閉じこめられているだけ。本当に怖いモンスターは、城のどこかの隠し扉の中に閉じこめられてるって聞くけど、本当かどうかも分からないわ。」

「怖いわね。」

ルカがブルッと震えた。アシアは今度はオバーンの方を向いた。

「オバーンはなんで、グリーンモンスター化した人達と暮らしてるの?」

「・・・主人と下の子供がね、木になったの。そして、上の子がジースって名前なんだけど、グリーンモンスター化して・・・私、ジースを見て悲鳴あげちゃったのよ。そしたら、あの子、すぐ町から去っていったわ。私も、しばらく何もする気になれなかったんだけど、ジースを見つけようと、グリーンモンスター化した人を集めて町を作ったの。」

「オバーンって、既婚者だったの?」

ルカは目を丸くして驚いた。オバーンは少し顔を赤くして俯いた。

「妙に落ち着いてる雰囲気はそれだったのね。どうだった?結婚生活は?」

アシアが興味津津で聞いてきた。

「うーん。なんともいえないけど・・・大きな期待はしない方がいいわよ。いい所もあれば、悪いところもある。」

アシアはうんうんと、頷いた。

「そっかあ。でも、相手が素敵な人だったら、幸せばかりかもね!」

アシアの言葉に、皆は苦笑いした。

道の一番奥につくと、アシアが奥の鎖をさして言った。

「ここが、混乱のモンスターのいた所よ」

ティクは鎖の前に埋め込まれている石版を見つけて言った。

「ねえ、見てよ、これ。」

「これが古代文字なのよ。誰か読める?」

「これは巫女の文字だよ。僕、読めるよ。」

アシアの後ろからミョンが出てきた。

「(ここに混乱のモンスター封印する。封印解けしとき、太陽の沈む赤い海へ来たれ。巫女長。)」

「太陽の沈む赤い海。ずっと西ってことかな?赤い海ってなんのことだろう?まさか血の海じゃないよね。」

ティクが首をひねった。

「世界の一番西はこの大陸の北西にある半島だよね。年中寒くて氷で覆われている半島。ミョン、あなた何か知ってるんじゃないの?」

アシアがミョンに尋ねると、ミョンはキョトンとしてアシアの顔を見た。

「僕だって分からないよ。確かに元々、巫女の村にいたけど、あまりに昔だから忘れちゃったよ。」

「悩んでもしょうがない。とにかく行ってみよう。」

ティクが元気よく言い、皆頷いた。

封印の本から出ると、城の外から悲鳴が聞こえた。ルカは不安そうに、ティクの袖を引っ張った。

「どうしたのかしら?」

「行ってみよう。」

ティクが駆けだした。城は大騒ぎだった。

「何があった?」

ティクが、傍を走り去る女性を捕まえて言った。

「お城の門で、グリーンモンスター達が・・・。今、フィルさんが戦ってますが、いつまでもつか。」

ティクは舌打ちして、門に急いだ。皆も後に続く。

城門では、フィルが3人の半グリーンモンスターと戦っていた。ティクは戦いの中に飛び込んだ。

「遅くなってごめん、フィル。」

「いや、ちょうどいい、酔いざましになってたところさ。」

フィルは自分の怪我した頬を撫でた。グリーンモンスターが体から出た蔓で攻撃してきた。ティクが銃でそれを撃つと、今度は種を飛ばしてくる。

「どういうことだ?彼ら、混乱してるのか?」

種を避けながらティクがフィルに聞いた。

「そう思いたいけど、違いそうだ。攻撃もきちんとしてくる。」

オバーンも銃を構えたが、彼らが息子と重なって撃てない。

「どうしてなの?攻撃してくるなんて。」

ルカが叫んだ。

「私達をのけものにする人間達へ復讐だ!」

グリーンモンスター達が叫び、より大きな攻撃をする。オバーンがつらそうな顔をした。構える銃が震える。

「オバーンは、前にこないで。」

アシアが前に出た。ルカはオバーンをかばうように立つ。

「ルカちゃん。魔法で、彼らの動きを一瞬でいいから止められない?」

フィルが頼んだ。真面目な場面でも、フィルの口調は少しふざけたように聞こえる。

「あたしができるわ。」

アシアはフィルの前に出た。

「火の魂よ。素早い玉になり、我が魂に従え。」

アシアの口から出た三つの火の玉が彼らの周りを囲むように早いスピードで回った。火の苦手なグリーンモンスターは、玉に触れないようにと動きを止めた。

「おみそれしました、アシア姫。」

フィルは、フッと腰をかがめ剣を抜いた。そして、動けないでいる三人のところへ走り次々と切っていった。血しぶきが舞い、三人が倒れる。オバーンは悲しそうに目を閉じた。  

フィルは剣をしまうと、皆を得意げに見た。その横をルカがグリーンモンスターに向かって駆けてきた。回復させようと試みるが、もう死んでいる。

「なんで殺したの?フィル。」

ルカが下を向いたまま呟いた。

「なんでって、そりゃ、奴らが攻撃してきたからさ。」

フィルが不思議そうな顔をした。

「加減しろってことなんだよ。」

ティクがフィルを小突いた。見ると、皆フィルを非難の顔で見ている。特にオバーンとルカは顔をあげられないくらい落ち込んでいた。

「・・・言っておくけどなあ。」

フィルが皆に言った。

「戦いで傷つくのは、当たり前だろ!相手だって、俺達を殺すつもりできてるんだ。加減なんかしてたら俺がやられちまう。俺は、戦うときは、死ぬ覚悟と、殺す覚悟で戦っている。それに死ななければいいってもんでもないだろ。一生残す怪我もあるんだし。」

フィルの啖呵に辺りが静まり返った

「・・・ごめんなさい、フィル。」

ルカが呟いた。

「確かに、この人達の攻撃は殺気があったわ。フィルもギリギリで戦っていたんだもの。加減できないわよ・・・ね。」

フィルはフンと鼻を鳴らした。

「しかし、人間に復讐とはね、俺達は、どうなるんだろうな。」

フィルが言った。

「どうすれば・・・いいのかしら。」

オバーンは悲しそうに言った。アシアはオバーンの背中を慰めるように叩く。

「全部含めて、巫女に相談しにいきましょう。なんでもよく知ってる人達だから。」

「巫女の国か・・・何か分かったのか?」

フィルが聞いた。

「北西の氷の世界・・・そこに行けば何か分かるかもしれない。」

ルカが言った。

「北西なら、空の遺跡も近いじゃねえか。科学者の鍵を取ってからにしようぜ。」

フィルが目を輝かせた。

「アシア、お前も行きなさい。」

不意に王様の声がした。いつのまにか、王様が後ろに立っている。アシアは驚いたように王様を見た。

「いいの?でも、私がここにいて、あの商人と結婚しないと・・町は・・・。」

「商人との結婚がいやなんだろう?ここにいると、させざる終えなくなる。世界に羽ばたいて、お前の運命の人を見つけてきなさい。」

「お父様。」

アシアが目を潤ませた。王様は近寄って一人娘を優しく抱きしめた。そして、皆に深くお辞儀をした。

「皆さん、娘を頼みます。」


5人は王様に別れを告げ城門を出た。そこで、オバーンは言いにくそうに切り出した。

「私、アノンの村に帰らないと、皆心配しているでしょうし。」

「そうだな、心配はかけちゃいけねーな。」

フィルが少し名残惜しそうに言った。オバーンは軽くお辞儀をすると、アノンの方向へ足を踏み出した。

「待って、オバーンさん。今はグリーンモンスターになってしまったジースさんを探しているって言ったでしょう?なら私達と旅を続けた方が、いいのではないでしょうか?」

ルカが彼女を止めた。

「グリーンモンスターのジース?なんか聞いたことある名だな・・・」

フィルの言葉にオバーンは飛びついた。

「どこで?どこで聞いたの?フィル。」

「まてよ。確かあれは・・・・そうだ!ルディ!ルカの兄さんのルディと一緒にいた奴の名だ!」

「本当!?」

ルカとオバーンはフィルに詰め寄った。

「本当だって。確かに、ルディはジースって呼んでた。」

「じゃあ、オバーンは僕たちと旅を続ける理由ができたってことだね。」

ティクが言った。

「ええ、あなた達について行けば、あの子に会える気がする。でも、待って、やはり一度アノンに戻って皆に別れを告げてくるわ。」

オバーンは頭を下げ、皆と別れた。



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