表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/12

旅立ち

1年後、

「ルカの具合はどうだい?ティク。彼女、風邪をひいたんだろ。」

家の門から出てきたティクを隣に住む中年の男が呼び止めた。

「うん、昨日から熱が出て、ひかないんだ。ミョンの回復魔法も病気には効かなくて・・・だから、薬草を取りに花の遺跡に行ってくる。」

「花の遺跡かあ、あそこの薬草ならルカの病気も治るだろうな。あれは、万能薬だから。だが一人で大丈夫か?途中の森にはモンスターもいるだろう?」

「大丈夫だよ。短剣もあるし。ほら、少し長くしたんだ。」

ティクは腰に付けた剣を男に見せた。

「それに森の主も、あのときから姿を見せない。」

「まあ、森の主がいなければ、あの辺りは比較的安全だからな。・・・でもなティク、やはり短剣だけでは危ない。銃をやろうか?」

男がティクの目を見て聞いた。ティクは目を輝かせた。

「本当?貴重なのに・・・いいの?」

「うむ。実はな、お前の父親の銃なんだ、一年前、お前がルカに会ったあの日、俺はラティス村へ行ったろ。お前の家を覗いた時に見つけたんだ。・・・お前が大人になったら渡そうかと思っていたが、実際、お前は親がいなくてもよくやっている。」

男は懐から銃を出すと、ティクに渡した。

「父さんの銃。」

ティクは銃を撫でた。

「ありがとう、おじさん」

「いいから、早く行きな。ルカちゃんが苦しそうなんだろ?」

ティクは頭を下げると、足早に花の遺跡に駆けていった。


花の遺跡から少し東に行ったところに大きな帽子をかぶった背の高い男が一人、長い剣を携え地図を見ていた。

「この近くらしいんだけどなあ。ああ、あれか、森に突き出した、あの塔かあ。」

男は地図をしまい、陽気に笛を吹きながら歩いていった。


薬草は、花の遺跡の一番奥の広間にある。ディクは大人達と何度か行ったことはあったが、一人で行くのは初めてだった。モンスターのいる森を通り抜ける時は、もらったばかりの銃の練習にもなった。銃で何匹もモンスターを倒しながら、ようやく遺跡に出たティクは一人呟いた。

「そもそも、正しい入り口が壊れているんだよな。」

彼は、遺跡の裏に回り、外側の細い階段を上り三階部分から中に入った。淡い光が遺跡の中を照らす。その光に照らされて、花が通路の両端に咲いていた。誰かが世話をしているわけではないが、一年中咲いている。花の遺跡と呼ばれる所以だ。ティクは遺跡の迷路のような廊下を通り抜け、下へ下へと降りていった。

一階までつくと、ティクはやれやれと頭を掻き、周りを見渡した。

「やっと着いたぜ。」

一階の大広間の奥、ティクの正面には、薬草の紫の花が窓からの光に照らされながら、頭を垂れていた。と同時にティクは会いたくないものを見つけて思わず後ずさりした。

森の主、あの大猿が体を休めていたのだ。一年前の火傷がまだ癒されてないらしく、所々に爛れた皮膚が見える。ティクに気づいた大猿は一睨みして、うなり声をあげた。一年前のいやな記憶が頭をよぎるティクはブルッと武者震いをしたが、ルカの病気も治したかった。

「しかたない。虎穴に入らんば虎児を得ず・・・だ。」

恐る恐るティクが近づくと、大猿は襲いかかってきた。大猿の動きを見て、ティクは不思議に思った。昔に比べ、動きが鈍く感じる。そうか、大猿はあの戦いで弱ってしまったのか。だが、襲ってくるものは戦わなければ仕方がない。     

ティクは素早く銃を構えると大猿の足に二発打ち込んだ。大猿はもんどりうって倒れ、手でティクを掴もうとした。が、銃を構えると怯えて手を腹の下に隠した。あの頑丈だった皮膚も火傷で弱っている。

「僕も薬草が欲しいだけなんだ。ごめんよ。」

ティクは哀れみを込めた目で大猿を見つめ、大猿を大きく避けながら薬草を採った。大猿は恨めしそうにティクを見つめていたが、もうそれ以上襲って来なかった。

「さて、また三階まで上がるのか、ここに出口があればいいのに。」

ティクがぼやくと、同時に

ボーン

と、大きな音がして左側の壁が壊れた。

「いよお、先客がいたのかあ。」

見ると剣を携えた男が爆弾を片手に笑っていた。二十代半ばくらいに見える痩せた男だ。ワザとらしく下まで開けた胸元が男の軽さを物語っている。

「なんだよ、あんた。だめじゃないか、遺跡を壊すなんて。誰だか知らないけど、乱暴だな!」

ティクは、初めて会った男に物怖じもせず、食ってかかった。

「はっはっは、威勢のいい坊やだな。堅いこと言うなよ。遺跡調査には少々の犠牲はつきものだ。おっ薬草が生えているのか。これは助かったなあ、これから、モンスターとの戦いで使うかもしれない。」

男は、大猿に近づいた。大猿はうなり声を上げて牽制したが男が気にせず近づくので、大きく手を振り上げた。

「この猿、もうだめだなあ。ここから動くこともできないのか?」

男は剣を一降りして、大猿の頭部をはねた。大猿は短く断末魔を叫び、あとは、周りに血しぶきが舞った。

「なにすんだよ!お前!」

ティクは、驚いて男の腕を掴んだ。

「俺の名はフィルだ。大猿はお前の発砲で元々弱っていた。このまま放っておいても、苦しんで死ぬだけだ。だから、苦しませずに殺した。文句があるか?」

男は腕を振り払い、薬草を摘み始めた。

「だからって、もしかしたら治るかもしれないのに。」

「随分都合のいい話だな。主食の肉もない、水もない、薬草しかないこの場所に放っておいて、お前は生き延びられると思うのか?殺さずに生き延びさせるつもりなら、はじめから銃など撃つな!」

言い返せないティクにフィルは口調を優しくして言った。

「いいのか、のんびりしてて?お前は薬草を採りにきた・・・ということは、誰か、病気の人がいるんだろう?さっさと帰ったらどうだ。」

ティクはハッとして振り向きもせず、遺跡に空いた穴から駆けだしていった。

「やれやれ。」

フィルは薬草をしまい、遺跡の奥を剣で叩きながら調べ始めた。

「なるほど、ここの切れ目か」

フィルは色の違う壁に爆弾を設置した。

ボカン。

爆発でとんだ壁の向こうに道が見えた。

「ビンゴ!」

フィルはその先に一人進んでいった。


 ラティス村についたティクは、ルカに薬草を煎じて飲ませると、再び眠りについた彼女の顔を見て、黙って座った。ティクは疲れのせいか、瞼が重くなるのを感じていた。側で燃える暖炉の火が、ティクの顔をほのかに温める。そのうちティクはゆっくりと意識遠のくのを感じた。

三時間くらい過ぎただろうか、日が静かに傾き、巣に戻る鳥の声が、夕暮れを告げていた。

「ティク、寝ているの?」

目を覚ましたルカは椅子に座りながら目を閉じているティクの顔をのぞき込んだ。

「っ、あ。」

ティクは目を覚ますと、口から出ているヨダレを拭き、恥ずかしそうにルカを見た。

「ルカ、起きた?」

「うん、薬草取りに行ってくれてありがとう。気分がいいよ。遺跡は危険だったでしょ。」

「へへ、楽勝だよ」

ティクは少し自慢げに鼻をかいた。

ザワザワ。

その時、家の外から、人のざわめきが聞こえてきた。

「あれ、なんだろう。僕、外を見てくるよ。」

ティクは駆けだしていった。騒いでいる村人の中心には、一際背の高い男がいた。フィルだ。彼は、周りに群がる村人を制して少し困る様子でこう言った。

「分かった、分かった。他国の物なら、一通り持ってきたぜ。だが、取引なら明日にしてくれ。今日は疲れてしかたがない。」

そして、ティクを見つけて、馴れ馴れしく手を振った。

「おっ少年、俺だよ、俺。フィルだよ。今晩泊めてくれや。」

「はあ?」

複雑な表情でとまどうティクの方へ、フィルは人混みをかき分けやってきた。

「ティク、知り合いか?」

村人の一人が聞いた。

「ああ、こいつ遺跡を壊・・・」

「まあまあ、そいつはいいから、中入れてくれ。」

質問に答えようとしたティクを強引に連れてフィルは家の中へ入っていった。

「で、病人はどこにいる?薬草は効いたのか?」

中に入った瞬間、フィルは先頭にたって廊下を歩き出した。

「図々しいな、この遺跡壊しが。」

ティクは負けじとフィルを追い抜かし、ルカのいる部屋の前を塞いで睨んだ。

「警戒するなよ。俺は遺跡壊しじゃない。考古学者だ。」

「本当か?」

訝しむティクにフィルは平然と言った。

「本当さ。それに俺のことはフィルと呼んでくれ、っと。」

フィルは少し強引にティクを押しのけ、扉を開けた。フィルに気づいたミョンがルカの布団の上からプウと膨れて、警戒音をだした。

「精霊動物がいるのか?ということは、ここにいるかわいこちゃんは、巫女さんかい?」

ルカはコクンと頷いた。

「こんなところに巫女さんと精霊動物がいるなんてな。かわいこちゃん、お名前は?」

「・・・ルカ。」

ルカは警戒しながら言った。フィルはルカの顔を見てニッコリ笑った。ルカもフィルの笑顔につられて、つい笑ってしまう。

「ルカちゃんは、笑うともっと可愛いな。それに病気は回復したみたいだな。俺、ルカちゃんに興味が出てきたよ。」

「おい、下心ありなら泊めてやらないぞ。フィル。」

「やっ、それはないでしょ、ええとお前の名前は?」

「僕の名はティク!女の子から名前きくなよ。」

「まあまあ、ところで、旅用の食糧、分けてくれない?俺、途中で二人のグリーンモンスターに食糧捕られちゃって少ないんだ。」

「持ってるけど、そのグリーンモンスターって。」

「ほら、人が木になった事件が・・・ここでもあったろ?」

「ああ、あった。一年くらい前だな。この村でも何人かの村人が木に変わってしまった。中には、人の心もなく本当のモンスターになった者もいた。でも、モンスターになった人間は皆、翌日には、完全な木になったんだ。」

ティクが説明した。

「ふーん。そうか、やっぱり一年前か。俺の村では、半年前だった。おまけにモンスター化の度合いも違うぜ。木に変わった人間や、正気を失いモンスター化した者はいなかったが、意識は人のままで、姿だけ、モンスターになった奴がいたんだ。おまけに、そいつらは今でもそのままなんだ。それを、誰が呼び始めたかしらないが、グリーンモンスターって呼んでいる。俺が会った二人もそれだ。そのうちの一人はやたら強い魔法使いだった。」

ティクはルカの方を向いた。ルカは震えながら呟いた。

「それってもしかして・・・ルディって名前・・。」

「おう、よく知ってるな、この辺じゃ有名なのか?確かに(ルディさん)ってもう一人に呼ばれてたな。」

「お兄ちゃんだ・・・。」

「お兄ちゃん?ルカちゃんの?あのモンスターが?」

震えるルカの代わりにティクがムッとして言った。

「ルディさんは、モンスターじゃない。謝れよ、遺跡壊し!」

「だから、俺は考古学者だって。」

「いいから、謝れ!」

「・・・悪かったよ、ごめんな。」

フィルはルカに向かってぺこりと頭を下げた。

「いいか、ルディさんはルカのお兄さんで俺にとっても恩人なんだ。二度と侮辱するなよ!・・・」

フィルは申し訳なさそうに頭を掻いた。ルカが下を向いて呟く。

「でも、グリーンモンスターなんて・・人間の意識があるのにモンスターなんて酷いわ。」

フィルはウムと頷いた。

「そうだな。だが、一年前の事件を話すとき、皆、グリーンモンスターって呼んでいる。おそらく、ラジオやテレビのメディアのせいかもしれないな。」

「そっか、僕の村はラジオもテレビも無いから、その言葉に違和感を感じたのか。」

ティクが頷いて再びフィルを見た。

「で、花の遺跡になにがあったんだ?」

「フフ、聞いて驚け。この星の最初の人類の一人と言われている(最古の科学者)に会う鍵があったのさ。実はな、俺、故郷で古い時代の小型飛行機を見つけてな。そいつを動かせるのは、(最古の科学者)って訳で、その鍵をさがしているんだ。ロマンがあるだろ?」

フィルの言葉にルカのそばにいたミョンが反応した。

「最古の科学者?彼の知恵は世界を救うと言われている伝説の・・・」

ルカが静かに伝説を暗唱し始めた。

「(花を咲かせ空を曇らせ、水を汚し星を壊す。同じ道にきた時、世を見据え、なお勇気をもつ者よ。手にした鍵で扉を開けよ。我を呼び覚ませ。)この星の最初の人類、最古の科学者が言い残した言葉よ。」

「なんだそれ?スゲーじゃねえか。」

ティクが食いついてきた。フィルはニッと笑ってティクを見た。

「すげえだろ?お前も一緒くる?いい根性してるし、一人旅もさみしいんだよね、親御さんさえ許してくれれば。」

「本当か?うちは両親とも、木になったから身よりがないんだ。是非・・。」

ティクはハッとしてルカを見た。そして気まずそうに口ごもった。

「あの・・ルカは・・。」

「私も一緒に行くわ。ルディに会えるかもしれないもの。」

「決まりだな。」

「かわいこちゃんが一緒なら、旅は百倍楽しくなるぜ。明日の朝出発だ!ハハハ楽しみだぜ。」

フィルは満足そうに言った。


翌日。太陽が東の空に顔をだした頃、三人は昨日の暖炉のある部屋に集まった。外はまだ薄暗い。

「よっし!準備はいいか?」

ティクは、元気よくフィルとルカに声をかけた。

「早すぎだぜ、ティク。」

フィルは眠い目をこすりながら言った。ルカは苦笑いしながら荷物を持って、ティクに言った。

「出かけるとき、村の人達に会いたくないんでしょ。」

「仰々しく見送りされちゃたまらないよ。」

ティクは肩をすくめた。

「ティクって意外と恥ずかしがり屋なのよね。」

彼女は小さく笑った。フィルも荷物を持ちながら含み笑いをした。

「なるほど、湿っぽくなるのは苦手かい?だけど、避けない方がいい道もあるぜ。本当にいいのかい?」

「うるさいな。」

フィルの言葉にティクが膨れた。荷物を持って外に出ると空はいよいよ明るくなり、三人の門出を祝っていた。ティクはフィルに言われて仕方なく置手紙だけ村の人たちに残し、村を出た。

「で、どっちに行くんだ?フィル。」

ティクが、地図を眺めているフィルに声をかけた。

「ここから北西にあるホワイト大陸、空の遺跡。そこに鍵の一つがあるんだ。途中に港町クーンがある。立ち寄って必要な物揃えていこうぜ。」

フィルが地図を見ながら言った。ルカはフィルの腰にぶら下がっている横笛に気付いた。

「フィルは、音楽家なの?」

「ああ、この笛かい?にわか仕込みさ。一人で旅してると寂しくてな。つい、吹いちまうんだ。」

「何か一曲吹いてよ」

ティクが頼んだ。

「うーん。お子様達歌ってくれるかい?」

「いいよ!」

ティクとミョンが元気よく答えた。

「えっ。」

ルカが顔を赤くした。

「知ってる曲なら。」

「大丈夫。ドグスに住む者なら皆知っている。」

フィルは笛を吹き始めた。


水がわき出ている

土が喜んでいる

ここが僕らが住む土地


鳥が出かけていく

虫が顔を出している

ここで僕は動き出す


心地よい風も

暖かい太陽も

恐れずに生きる勇気をくれる


日が落ちれば不安になるけど

大丈夫。僕らは知っている

また日は昇る。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ