別れ。そして・・・。
地上に降りるとジース、そして、宇宙ステーションにいた元グリーンモンスターだった人達が待っていた。
「ジース!」
オバーンはジースを抱きしめた。
「怪我は良くなったの?良かったわ。」
「うん。少し、痛みは残るけど、大丈夫だよ。・・・ところで、母さん、あいつ等は倒せたの?」
「ええ、全て終わったわ。」
オバーンがジースの髪を撫でる。側で聞いていた元グリーンモンスター達は皆喜んだ。
「ルディさんに知らせなきゃ。」
ジースはオバーンの元を離れた。
「ウィッチに行くなら乗せていくぜ。」
フィルが飛行機を指さした。そして、そこにいた全員がウィッチへ向かった。
「ラルドも行くのか?お前の家はここだろ?」
飛行機の乗り込むラルドにフィルは聞いた。
「ああ、けじめをつけたいんだ。」
ラルドは神妙な顔で乗り込んだ。
「ジース。少しいいか?」
飛行機の中で、ティクがジースに話しかけた。ジースは先程、ルカに人間に戻してもらったばかりだ。
「ルディさんのことなんだが・・・」
「ルディさんに何かあったんですか?結局目が覚めなかったとか。」
ジースが驚いてティクを見つめた。元グリーンモンスター達も寄ってくる。
「いや、もちろん、元気になったさ。そうじゃなくて、彼のこれからについてなんだが。」
「これから?ルディさんの?それはルディさんが決めることでしょう?」
「うん、もちろんだよ。だけどな。俺達、ルディさんの心の中を見たんだ。彼の夢は船の船長だった。・・・彼は、今までグリーンモンスターのボスという立場に彼自身も縛られていた。もう、自由にさせてあげえてもいいんじゃないか?」
「・・・分かりました。僕も世界中の苦しんでいるグリーンモンスターを救いたいという夢があります。ルディさんも夢を叶えてほしいし、僕らのことで我慢してほしくありません。」
側で聞いていた、元グリーンモンスターも言った。
「そうだな。戦いは終わったんだ。もう、彼に頼りっぱなしは辞めよう。」
ティクは自分の事のように皆にお礼を言った。
「ティクは、これからどうするの?」
ジースが聞いた。
「僕か?僕はな・・・」
そして、チラとルカを見た。ルカは気がついて、
「私達はね・・・。」
と、言い、にっこり笑った。
小型飛行機は海を越えてウィッチについた。ウィッチでは、ルディが一番に迎えに来てくれた。
「お兄ちゃん!」
ルカがルディに抱きついた。
「良かった。無事だったか。」
ルディがギュッとルカを抱きしめた。ルカはルディの胸の中で呟いた。
「お兄ちゃん、これからは、一緒だね。」
「・・・兄ちゃんは、ここを守っていかなければいけない。」
ルディはルカを離し少し体をかがめて彼女の瞳を見た。
「ルカはどうしたい?昔のウィッチ島じゃないけど、ここに住むか?」
ルカは少し迷って、首を横に振った。
「私は、旅に出て世界中にまだいるはずのグリーンモンスターを人間に戻したいの。」
ルディは寂しそうにルカを見た。
「ジースも一緒に行くって。お兄ちゃんも一緒に行こうよ。お兄ちゃんの船で世界を周りたいわ。」
ルディは、ウィッチの町の人をチラと見た。ルカはルディの肩を揺さぶった。
「お兄ちゃんの夢は船長になって世界を旅することでしょう?ウィッッチはもう、大丈夫だよ。」
ルディはジースを見た。ジースも頷いた。
「もう、夢を追いかけていいと思いますよ。ルディさん。それに、たとえルカさんが、旅先でグリーンモンスターを人間に戻しても、彼らの今までの嫌な思い出が消えるわけじゃない。一緒に旅をすれば、僕達はそんな心を支えられると思います。それは、グリーンモンスターだった僕達しかできないんですよ。」
「ルディさん。夢があるなら、その夢追った方がいい。国際研究所がいないなら、私達も大丈夫だ。」
ウィッチの町人が言った。
「そうそう、町の事も合議で決めていくよ。あんたがしていたようにね。」
「言ったろ、何事も一人で背負うなってな。」
町人の言葉にルディの顔が晴れやかになっていく。
「ありがとう。皆。俺、俺、彼らと共に旅にでるよ。それで、旅先で船のこと勉強して、この町に船を復活させる!もちろん、グリーンモンスターを救いながら!」
皆が歓声をあげて、ルディの肩や背中を叩き励ました。ジースも笑っていた。そこを、オバーンはジースの腕をつかんだ。
「ジース・・・お母さんも一緒に・・」
ジースは頭を横に振った。
「だめだよ。お母さんはアノンで待っている人もいるだろ。僕の為で動くのは、もう辞めてくれ。」
「でも、お母さんがアノンを作ったのは、あなたを探す為で・・。」
「フィルさん、母さんを頼むよ。」
ジースはフィルを見た。オバーンは潤んだ瞳でジースを見つめた。
「ジース・・・そんな」
フィルはオバーンの肩に手を置いてジースから優しく離した。
「おう、こいつは、俺に任せておけ。安心して行ってこい。」
「フィル、私は・・・」
必死にジースの側にいようとするオバーンの耳元でフィルはささやいた。
「オバーン、分からないのか?ジースは親離れしたがっているんだ。こんなときは、笑って見送るもんだぜ。」
「フィル・・・。」
オバーンはもう一度ジースを見た。ジースの顔はルディの方しか向いていない。オバーンは諦めて頷いた。
ラルドは皆の会話が途切れるのを待って叫んだ。
「今回は、父ラゴンと国際研究所の人達が迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした。彼らに変わって心からお詫びしたい。私に出来ることならなんでもしよう。」
皆はラルドを見た。ラルドは深く頭を下げている。
「お前の父親達だったのか?悪の元凶は。」
元グリーンモンスターのクーマが詰め寄った。ラルドはビクッと震え頷いた。クーマはラルドを睨みつける。ルディは心配そうにクーマを見た。クーマは眉間に皺を寄せ続けた。
「フンッ。わざわざ、そんなことを言うとはな。フフ・・フフハハハハ。」
突然、クーマは笑いだした。そして、驚いているラルドの肩を叩いた。
「もう、終わったことだ。青年よ。」
ラルドは深くお辞儀をしてお礼を言った。
一晩ウィッチに泊まった後、ティク、ルカ、ラルド、アシア、オバーン、フィル、そして、ジースとルディは皆に別れを告げ、飛行機に乗り込んだ。彼らはまず、研究都市アカツキのラルド邸に向かった。
「ここで、お別れですね。」
ラルドを飛行機から降ろし、皆はラルドをみた。
「お前は、これから、どうするつもりだ?」
フィルが相変らずの少しふざけた口調で聞いた。
「国際研究所の人達の多くは、今回の事件には、全く関わっていません。トップが変われば、また正しい方向で運営されていくでしょう。私はもう一度、国際研究員を目指すつもりです。」
フィルはニッと笑って頷いた。
「がんばれよ。俺も考古学の研究を続けるつもりだ。」
「ケイの所にいくの?」
アシアが聞いた。
「ケイの所で調べたものは、口外できないからな。俺は自分で調べて、発表するよ。」
ラルドはフィルに握手を求めた。
「お互い研究者の卵として頑張りましょう。必要な本があれば貸します。いつでも来てくださいね。」
そして、皆にお辞儀をした。
「皆さんもお元気で。ありがとうございました。」
ラルドと別れた後、飛行機はアノンへ向かった。アノンのグリーンモンスターを元に戻す為だ。
ルカが彼らを元に戻した後、ルディは、ティク、ジース、ルカと共に、港町クーンへ向かう予定だと言った。船の勉強を兼ねて本を買うのだと言う、フィルは世界を回るためにと、飛行機のコントローラーをルカに渡した。
「フィルは使わないの?」
ルカが心配そうに聞いた。
「この長い足があるから、大丈夫だ。」
フィルはニッと笑う。ルカも笑った。
「皆さんと旅に出れて良かったです。今までありがとうございました。」
ルカはお辞儀をした。フィルは前へ出てルカを抱きしめた。
「お礼は、これでいいよ。」
とニッとしたが、ティクとルディのパンチを食らって、倒れた。
「イッテー。最後くらい、いいだろ?抱きしめてみたかったんだよね。かわいこちゃんを。」
フィルが倒れながらふてくされた。ティクはあきれ顔をしながらも、
「ま、何はともあれ、楽しかったぜ。」
と、フィルに手を差し伸べた。フィルは手を握り起き上がり、そのままグイとティクも抱きしめた。
「頑張れよ、ティク。」
そして、耳元で小声で
「ルディに負けずに、ルカをモノにしろよ。」
と、囁いた。
「わあってるよ。うるさいな。」
ティクは赤くなりながらフィルを突き飛ばす。アシアが横からモジモジと口を出した。
「あたしも付いていっていい?城に帰っても、政略結婚が待ってるだけだし。それに・・」
チラとルディの方を向く。
「ああ、アシア、前にルディさんいい男だって言ってたもんね。もちろんついて来ていいよ。」
ティクが大声で言った。
「あんたデリカシーが無いわねっ。」
アシアが突っかかる。皆笑った。
5人が別れをつげ去っていった後、フィルはオバーンを見た。オバーンは寂しさをこらえたように目を潤ませている。それでも、フィルの方を見て言った。
「彼らを追いかけてもいいわよ。貴方も旅人の方が性に合ってるでしょ。」
フィルもフンと鼻を鳴らした。
「お前こそ。旅に出てもいいんだぞ。俺と二人でな。」
オバーンの目から溜まっていた涙が出て、フィルの胸に飛び込んだ。
「ごめ・・ん。フィル。少し、泣かせて。また、貴方のふざけた態度に救われたわ。」
「あー俺、女の子抱きしめる為ならなんでもしちゃうからなー。」
といいながら、フィルの腕は、紳士的に彼女を包んだ。彼女が落ち着いた後、フィルはもう一度、一緒に旅に出ようと誘った。オバーンはしばらく悩んだ後、フィルの肩にもたれた。
「そう言ってくれて嬉しいわ、フィル。だけど、ごめんなさい。私はルディ君と違う。アノンにも大事にしたい人達がいるの。」
フィルはゆっくり頷いた。
「・・分かった。じゃあ、俺、明日旅にでるよ。一日くらい、一緒にいていいだろ。」
フィルが少し寂しそうに言った。オバーンはありがとう、と呟いた。
一年後。アノンにいるオバーンの元にルカから手紙が届いた。手紙はフィルが届けにきたがアノンの悪ガキ、リズがフィルから奪った。リズは畑仕事をしているオバーンの元に駆けてきて、声もかけずに後ろから軽く蹴りを入れた。
「こら、俺の嫁さん蹴飛ばすなよ。」
後ろではフィルがお土産を持って立っている。オバーンが振り向いた。
「フィル!久しぶり。でも、貴方の嫁になった覚えはないよ。」
「そういうな、ほら、ルカの手紙、リズに取られたけどな。それで、これ、アシアがオバーンにってさ。」
フィルは、オバーンにクッキーを渡した。
「ここに来る前に会ったんだ。皆、ウィッチにいたよ。それから、クッキーな、アシアが作ったんだよ。美味しかったぜ。」
「有り難くいただくわ。」
オバーンは笑って受け取った。
「ルカ達は元気だった?」
「ああ、相変わらずだったよ。ルディも依然より明るくなっていた。」
「それは、よかった。」
オバーンがニッコリ笑った。
「それで、これは俺からの・・・」
フィルが言いかけ、ポケットに手を入れた時、リズがグイと顔を出した。
「アシア姫からのクッキーだって、俺食べるよ!」
オバーンがリズの頭を撫でた。
「皆で分けようね。ときに、リズ。ルカの手紙は?」
「そうそう、これ!」
リズはルカからの手紙を渡した。オバーンは手紙を開き、読み上げた。
(オバーン、元気ですか?私達はグリーンモンスターを人間に戻し続けています。でも、最近はグリーンモンスターにもほとんど会わなくなりました。兄は船造りの職人や、船員を世界中で見つけ、ウィッチ島に戻りました。マジル町に船が行き来するのももうすぐでしょう。ジースは兄を慕い、船の事業を一緒にするそうです。ちなみにアシア姫は兄にベッタリです。兄も悪い気はしてないようなので、ゴールインする日も近いと思います。
オバーンはアノンで皆のまとめ役に戻ったと聞きました。よく、フィルとも会っているみたいですね。そうそう、ラルドは国際研究員として、採用されたそうです。亡きラゴンさんの研究を引き継いで頑張っているみたい。砂漠が緑化する日も近そうですね。
追伸、フィルに伝えておいてください。女の子に声をかけすぎです。噂になっていますよ。注意してくださいね。)
「フィル・・・お前。」
オバーンがフィルを睨んだ。フィルは出そうとしたオバーンへの贈り物を即座にポケットに戻した。
「い、いや、女性を褒めるのは、紳士の役割だと思って。」
オバーンは何か言おうとしてフッと溜息をついた。
「まあ、私には、関係のないことだな。」
すると、リズがまた顔を出した。
「そうだよ。フィルは信用ならないよ。相手にしちゃだめだよ、オバーン」
「コラ。」
フィルがリズを追いかけた。フィルのポケットの中では、オバーンへのプレゼントがカタコトとなっていた。