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宇宙ステーション

転移された場所は誰もいず、極めて静かで、まるで廃墟のようだった。機械的なその部屋はケイの地下の家に似ていた。

「これも、ケイさんのものかもしれないな。」

フィルが言った。

「知恵は、借りたと思う。でも、これは私達の世代が作ったものだ。」

ラルドが周りを警戒しながら言った。

「私達は、ケイさんの生まれた国の技術と同じレベルの技術を持ちはじめているんだ。」

アシアはラルドを見た。

「でもね、ラルド。本当は、ケイさんは機械の技術を嫌っていたわ。最後には自分の星を壊した技術だもの。」

ラルドはアシアを見た。

「姫様。使い方を間違えなければ、技術は悪くないです。技術の発展には、多くの犠牲がつきものだというのも一つの真実ですけどね。」

ラルドが神妙な顔で言う。

「ラルド、君のお父さんはどこにいるの?」

ティクがあちこち見ながら聞いた。

「ここは、僕も来たことがないから分からないんだ。とにかく探そう。」

皆は研究室本部を動き回った。奥から人の声が聞こえる。声の方に進むと牢屋があった。中にグリーンモンスター達が何人もいて助けを求めていた。そして、その一番奥の牢屋にラルドの父ラゴンもいた。

「父上!」

ラルドは駆け寄った。

「ラルド、何故ここにいる。」

「父上を助けにきました。」

「馬鹿モン。そんな危険な・・・」

ウィイイン

と、その時、ティク達の頭上に大型テレビが降りてきた。中に欲の深そうな中年男が映っていた。ここのボス、ダジンだ。

ダジンはテレビの中で馬鹿にしたように拍手をしていた。

「やあ、ラルド君。そしてはじめまして皆さん。研究所長のダジンです。よく、ここまで来ましたね。」

「くそっ、ダジン!よくも父上を。」

ラルドが拳を握りしめた。

「私は、もういい。お前達は早く脱出しろ。これは罠だ。」

ラゴンがラルドに必死に言った。その姿を見て、ダジンはいかにも面白そうに笑った。

「もうすぐ、ここに世界中のグリーンモンスターが届く予定なんだ。楽しみだろう?」

「キールの連れてきた人達なら解放したぜ。」

フィルが挑発的にいった。

「・・・フン、いまいましいな。だが、牢屋にはまだグリーンモンスターがいる。」

「実験はもうさせないわよ」

オバーンが睨んだ。

「実験はもうしない。この実験は失敗だったからな。グリーンモンスターは失敗作だ。失敗は、全て吹き飛ばして、ジ・エンドだ。私はここを離れるとするか。諸君、ご苦労だったな。」

テレビが消えた。

「なんだと!俺達がここへ来たのも、仕向けられたものだったのか。」

ティクは悔しそうに言った。ラルドは牢屋の鍵穴をいじくりだした。

「僕は、父上を牢屋から出す。君たちは、ダジンを追ってくれ」

フィルが軽く息をついて、ラルドの傍まできた。

「どけ、おい、おじさん、ちょっと下がってろよ。」

フィルは爆弾をしかけ牢屋を壊した。

「他の牢屋も壊すから、みんな、どいてろ。」

グリーンモンスターの牢屋を壊すフィルの横で、ラゴンはお礼を言いった。ティクはラゴンに駆け寄った。

「ダジンはどこにいったんだ!」

「おそらく、小型宇宙機で逃げるはずです。格納庫はあちらです。でも、ちょっと待ってください。」

ラゴンは、側の機械をいじりシステムダウンさせた。

「これで、ダジンは自分の部屋のエレベーターが使えなくなりました。彼は階段で行くしかなくなるでしょう。我々も充分追いつきます。」

ティク達はグリーンモンスターに転移装置で惑星ドグスに逃げるように伝えダジンを追いかけた。追いかけながらラルドは父ラゴンに話しかけた。

「なぜ、こんなことを?父上」

ラゴンは憂いながら言った。

「誤解しないでほしい。私の目的は違ったのだ。私は、ドグスの植物を増やしたかった。石や砂に栄養や水を蓄える微生物を作り、砂漠でも緑が育つようにしたかったんだ。」

ルカが横から聞く。

「その実験をウィッチ島でしたのね。」

「君達にはすまないと思っている。言い訳するようだがマジルの町の人は了解済みだと聞いていた。それに動物には害がないウィルスだったのだ。それを、誰かが変化させていた。」

「それが、ダジンなのか?」

ティクが噛みつくように言った。今度はアシアが聞いた。

「でも、失敗だったと言っていたわ。どうしたかったのかしら」

「姫様、おそらく、グリーンモンスターの兵士を作りたかったのだと思います。それが、思うように自我が取れず、操れなかった。だから失敗と。」

皆は一様に押し黙った。その沈黙を破ったのはオバーンだった。

「ダジンはここを吹き飛ばすと言っていましたよね。ここに爆弾でも?」

「いえ、世界政府が、グリーンモンスターがついた時点で、攻撃を仕掛けてくるはずです。しかし、そんなことをすれば、せっかくのワクチンも・・・」

「植物化した人間を全て殺せば、ワクチンも必要ないってことか・・・」

フィルがいまいましそうに言った。

「それなら、世界政府の攻撃をやめさせる方がダジンを追うよりいいんじゃない?」

アシアがとても素敵なことを思いついたというように言った。

「世界政府はダジンに騙されているだけです。ダジンが、攻撃開始の合図スイッチをもっています。それを何とかして奪えば、説得できるでしょう」

小型宇宙船の格納庫が見えた。ダジンが乗り込むのが見える。そのダジンをティクが間一髪でルディの蔓で引き止めた。

「そこまでだ。攻撃開始のスイッチを渡せ!」

ダジンはギロとティクを睨んだ。

「生意気にも、刃向かうつもりか?若造が」

ダジンを引き止めた蔓がブチッと切れた。

「なぜ、蔓が切れた?」

ダジンの体から刃物のような植物が出ていた。ラゴンはマジマジとダジンを見た。

「まさか・・・実験は・・・」

「そう、失敗した実験からは、思わぬ発見もあるものだ。植物の武器を体に入れるのだ。これで、私は最強だ。お前の実験は失敗したが、私はこれで目的を達成させられる。最強の力を手に入れるという目的をな。皮肉なものだろう。フフフハハハハハ。私は自由に植物を出し入れできる。しかも、刃物のような茎、蔓のような茎、とげも、殻も出し入れ自由だ。ハハハハハハ。」

「絶対、お前を倒す!」

ティクは怒り、銃を片手に躍り出た。ティクは銃を打ちながらダジンに走り寄った。ダジンは背中から天使の羽の様に植物の種の殻を出しティクの攻撃を防いだ。そして弾切れになった瞬間、殻の割れ目から蔓を出し、ティクに攻撃してきた。

「だめだ。奴が殻から出る瞬間を狙わないと倒せない。」

ティクはダジンの攻撃を避けながら一時、後退した。

「殻なら、水でふやかしてみるわ。」

ルカがダジンの方へ手を向けた。ダジンの下に魔法陣ができる。

「水神よ。龍の如く、荒れ狂え。」

水が魔法陣から吹きあがりダジンを殻ごと持ちあげ、勢いよく天井にたたきつけたが、いまいち効果がない。

「俺が行くぜ」

フィルが剣を出しだ。

「まて、フィル」

オバーンが止めた。

「切っても刃こぼれするだけだ。頭を使え。」

「ああ、そうか。」

ラルドが殻となり転がっているダジンを見てポンと手を叩いた。

「殻が閉じている間は向こうから攻撃してこないんだから、このまま、宇宙空間にすててしまえばいい。」

ラゴンはダジンに走っていき、殻にこもったダジンを持ちあげようとした。ダジンは焦って殻をうっすらあけ、剣のような茎を出した瞬間、

ドン

オバーンが素早く銃を打った。銃弾は隙間からダジンの胸に当たった。そして、殻はより広く開いた。

バンバンバン

ティクが続けて打った。殻の割れ目から血が噴き出した。殻は閉じなくなり、ダジンはその場でよろめいた。だが、血みどろながらもダジンは皆を指さし酔ったように言った。

「これで、終わると思うか?植物は何か残れば、再生するのだ。」

ダジンは、みるみるうちに傷を治した。そして、今までのだんまりが嘘のように今度は攻撃をしてきた。長い植物の蔓が大きな刺をつけて右に左に動き出す。ダジンが腕を大きく振ると鋭い葉がティク達みんなに飛びかかってきた。

「攻撃は最大の防御ってわけか?それならお互い様だ。こっちには、傷つくのを恐れる臆病者なんかいない!」

ティクが先陣を切った。目の前を刃物のような葉が向かってくる。

「ティク、しゃがみなさい!」

アシアの声にティクが姿勢を低くすると、ティクの後ろから、火の波が空中を伝い、ダジンの方に襲っていった。ダジンが口から大きな水泡を出し火を防ぐと今度は上からフィルがその水泡に剣を突き立てた。水が割れ、辺りが水浸しになる。すると地面を這うようにダジンが足から根を伸ばし、皆の足を絡め動けないようにした。しかし、ただ一人ティクはすでに近くにいた為、ダジンは逆に見失ってしまった。

「これで最後だ!」

ティクはダジンの後方から何発も銃を撃った。ダジンの体は木の幹が壊れるようにカサカサと飛び散った。そこに、アシアが火の呪文を唱える。

「火の魂よ。我が力となって、燃やしつくせ。」

火がダジンを燃やした。皆を縛る根の鎖が外れる。ダジンが倒れた所にルカが駆け寄った。

「ククククク。トドメをさせ。ささないと、後悔するぞ。」

「無線機をだしてください。攻撃をやめるように命令してくれれば、命を助けます。」

ルカの言葉にダジンは高らかに笑い始めた。

「それは、ラゴンに頼んだ方がいい。正常でいられたならばな。」

ダジンは最後の気力で種をラゴンにとばした。

「さあ、これは最後の実験だ。おまえら親子の血で、ここに美しい結果を出してくれ。」

ダジンが息を引き取るのと同時にラゴンの体に変化が起きた。

「うあああああ」

ラゴンが叫んだ。ラゴンの体がみるみるうちにグリーンモンスター化した。

「父上。」

すでにラルドの声は届かなかった。ラゴンはまず近くにいるラルドから突き飛ばした。オバーンはラルドに走り寄った。

「父上。」

ラルドの目は涙で潤んでいる。

フィルは容赦なく振り回される刺付きの蔓を片っ端から切り、そのまま、蔓の出ている腕も切った。血が噴き出した。フィルの手が止まる。だが、意識の混濁しているラゴンは攻撃の手を緩めない。フィルは髪の毛からでる刀のような葉に傷を負った。

「すまない。ラゴンさん。」

ティクが銃を構えた。

「待てティク。私が撃つ。」

オバーンがティクより先に銃を撃った。弾はラゴンの心臓に命中した。

「父上!」

ラゴンはうずくまり心臓を抑えた。体がじょじょに人間に戻っていく。ラルドは駆け寄った。

「ラルド。今撃ったのは、ワクチンか?」

ラゴンは手の傷で血を流したまま、ラルドを見つめた。

「父上の作ったワクチンです。グリーンモンスターになったばかりの人間には効くのですよ。」

ラルドはラゴンを抱き起した。ルカは側に来て切れた手を元に戻そうと回復の魔法を唱えている。

「お嬢さん、魔力が減っているようだ。私は自分を犠牲にしてまで助ける男ではない。当然の報いだ。さあ、無線機をくれ。攻撃をやめさせるんだ。」

ルカは何も言わずに治療を続けている。だが、疲れの為か、いつもの回復力はない。ティクはダジンの懐から無線機を取り出し、ラルドに渡した。ラルドは震えながら父親に無線機を渡した。ラゴンは頷き、貧血で血の気のない手で無線機をとる。

「こち・・・ら、極秘研究員、ラルゴ応答・・・願う。」

無線機の向こうで声がした。

「こちら、国際政府、いつでも攻撃できます」

「攻撃は・・・中止。中・・・ゴボッゴボッ。」

ラゴンが口から花弁を吐いた。どうやら、ダジンが最後に飛ばした種が体の中で花を咲かせたようだった。ルカの回復魔法がダジンの種まで育ててしまったのだろうか、それともダジンの最後の呪いだろうか。ラゴンの体が淡く緑になっていく。悪いことは続くものだ。世界政府は勘違いをした。

「攻撃ですね。攻撃開始!」

「ちっちがう・・・中止だ」

ラゴンの必死の言葉もすでに時遅しであった。

「えっ・・・もう、ミサイルは発射されました。すぐ、逃げてください。」

無線機の向こうで焦る声が聞こえる。アシアが外を見た。

「見て、ミサイルがこちらに来るわ。」

「クソッ。」

ティクは小型宇宙船に乗った。

「何をする気?」

ルカが叫んだ。

「ここに着くまでに体当たりで爆発させる!」

ティクがエンジンをかける。

「やめろ、死ぬ気か!」

フィルがティクに叫んだ。しかし、ティクの乗った小型宇宙船はゆっくりと動き出す。

それは、一瞬のことだった。皆の横を小型宇宙船に向かって蔓が延びていく。ラゴンは、最後の力を振り絞り、くっついたばかりの手から蔓を伸ばしたのだ。蔓は小型宇宙船の操縦席にからみつき、ラゴンの体を引っ張った。そして、動き出した宇宙船に乗りこんだラゴンは、突然のことで驚いているティクを突き落とした。

「父上!」

ラルドが追いかけた。

「来るな!」

ラゴンが怒鳴った。ラルドの足が止まる。ラゴンはラルドに向かって笑った。

「ラルド、ありがとう。お前がいてくれて幸せだった。情けない父親だったが最後の勤めをはたさせておくれ。」

「父上!」

小型宇宙船が宇宙へ出発した。

「ラゴンさーん。」

「父上ー。」

宇宙船の中でラゴンは幸せそうに目を閉じた。

「いい仲間を持ったな。ラルド。父さんは、安心だ。」

小型宇宙船がミサイルと衝突した。同時に起こった爆発が光って見える。

「父上―。くそっくそおー!」

ラルドが床を叩いた。

「ラゴンさん。」

皆はチリと消えていく宇宙船を悲しく見ていた。




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