ラルゴ邸の秘密
一方、フィル達4人は地下通路のもっとも奥の扉を開けた。そこは、ラルドの家の地下研究室になっていた。その地下研究室の存在を知らなかったラルドは周りを見回して言った。
「ここは?僕がまだ、見たこと無い部屋だ。」
ジースも部屋に入り辺りを見回した。
「君の家の地下室だよ。自分の家なのに知らないのかい?・・・それにしても、おかしいな、仲間がいない。」
フィルは念のため手を剣にかけた。その横でラルドは傍らにある資料を手にとる。
「この字、確かに父上のだ。」
「何が書いてあるの?」
オバーンがラルドの側に近寄った。ラルドは読みながら顔色を変えていった。
「なんてことだ・・・これは、まさか」
「どうしたの?」
オバーンは心配そうにのぞき込む。ジースはラルドを一瞥した。
「そこにあるのは、真実だよ。僕も、驚いた。」
オバーンはラルドから資料を手渡しされ、ざっと読みフィルに渡した。
「これが、真実なら、大変なことになるわ。」
フィルも目を通し、ラルドを見つめた。
「おいおい、こりゃ、グリーンモンスター化ウィルスの作り方じゃないか・・・お前の親父何していたんだ。」
「わからない。どうなってるのか。」
ジースはキッとラルドを睨み、襟首を掴んだ。
「国際研究所宇宙ステーションでの研究結果と書いてあったぞ。研究所全体で、こんなことを?」
オバーンは他の資料も読みあさった
「ひどい、ウィッチで、グリーンモンスター化の実験をしたのね。あそこは、離れ島だし。」
フィルも目を大きくした。
「あそこだけ、グリーンモンスター化がひどかったのは、そのためか。」
「そんな・・・ウィルスが風で世界中に飛散した・・・なんて。」
「おいおい、やつらは、宇宙ステーションから高見の見物かあ?」
ラルドは皆の話を遮った。
「うそだ!こんなの・・・うそだ。父はワクチンを送ってくれた!これは、ワクチンの研究に決まってる。」
「いいえ、残念ならがら、本当よ。ワクチンを送ったせいで、あなたのお父さんは、反逆罪に問われているんだから。」
突然、色っぽい女の声が聞こえた。フィルは再び剣を手にかけた。扉の前で女が一人立っている。リースだ。手にはムチを持っていた。ラルドは女性に声をかけた。
「貴方はリースさん!極秘研究員のリースさんですよね。父が、反逆罪ってどういうことですか?」
リースは軽く髪をかき上げた。
「久しぶりねラルド君。大きくなったこと。成績も優秀なんですって。真実をしらなければ、最年少で研究員になれたでしょうにね。」
「どういうことですかって聞いているのです!この資料は真実なんですか?」
リースはフッと息を吐いた。
「今さら隠しだても必要ないわね。そうよ。その通り。貴方のお父さんはね、ウィルス作りに協力したの。そして、我々に黙ってワクチンも作った。それで、実験動物にされることになったのよ。」
「・・ひどい、なんてことを。僕は貴方がたを・・・信じていたのに。」
リースは手に持ったムチを軽くしならせた。
「グリーンモンスターの方達は、こちらで研究材料に捕獲させていただいたわ。」
「なんだって!貴様!仲間をよくも。」
ジースが歯ぎしりした。
「なんてことを、彼らは元人間ですよ。」
ラルドが怒りを噛み殺したように言った。
「科学の発展には、犠牲がつきものよ。何かを変える為にもね。貴方達もモルモットにさせてもらうわ。」
リースの言葉にラルドは拳を握りしめた。
「どうしても戦わなければいけないんですね。」
ラルドは彼女を睨みつけた。彼女はフフと軽く微笑んで呪文を詠唱し始めた。
「耳を塞げ!彼女の睡眠魔法は強力だ!呪文を聞いたら、何をしていようと眠りに落ちてしまう!」
ラルドは皆に叫んだ。
「呪文を聞く前に倒すぜ。」
フィルがすぐに前に出た。リースのムチが唸る。フィルは足を止めた。と、同時にフィルの頭がふらつく。睡眠魔法にかかり始めているのだ。突然、フィルの横を蔓が伸びてきてリースの口を塞いだ。
「耳を塞ぐより、口を塞ぐ方が効率がいいでしょ。」
ジースがニヤッとした。
「いいぞ、ジース。」
ラルドがリースを殴りに行った。ヒュン。リースのムチが今度はジースを叩く。ジースは苦しそうに唸った。その瞬間、リースを縛る蔓が弱まった。そこへ、ラルドがリースの顔を力任せに殴った。リースが吹っ飛び、蔓から外れる。
フィルがすぐさまリースの懐に入り彼女の肺目がけて剣の束を叩きつけた。リースは倒れた。ラルドがすぐ追い打ちのように殴りに行くのを、フィルは止めた。
「これ以上はやりすぎだ。」
ラルドは振り上げた拳を深呼吸して、なんとか下に降ろした。ジースは念のため、もう一度リースを縛った。
「仲間を返してください。どこにいるんですか?」
「宇宙ステーション・・・よ。もう送ってしまったわ。」
リースは血が出ている口で語った。
「なんてことを・・・」
ジースが拳を振るわせた。
「私を回復させてちょうだい。宇宙ステーションへの道を教えるわ」
リースの言葉にジースが怒った。
「口で説明しろ!できるだろ。」
「説明・・・しにくいのよ。」
ラルドがリースの側に来た。
「回復させます。」
ラルドが回復薬を出した。
「よせ、裏切るぞ。」
ジースがラルドの腕を握ると、ラルドは静かにジースの手をどけた。
「彼女はそんな人じゃない。さっきは、私も頭に血が上ってやりすぎた。彼女は本当はいい人なんだ。許してやってくれ。」
ラルドは頭をゆっくり下げた。リースは回復薬を塗られている間、気まずそうに横を見ていた。彼女が動けるようになると、ラルドは、彼女に国際研究員をラルド邸から追い出すことを求めた。彼女は同意し、皆に自然な方法で解散の命令をだした。
「国際研究員、全てがこの陰謀に加担しているんですか?」
ラルドは残念そうに聞いた。
「宇宙ステーション勤務の5人だけよ。後の研究員は騙し騙し使っているだけ。安心したかしら?」
そして静かに皆を招いた。
「こっちよ。」
扉を開けるとラルド邸の一階廊下に出た。ラルドは振り向いて、出てきた扉を見た。
「ここは、父の研究室だ。父以外出入り禁止だったが、そうか・・こういうことだったのか・・・。」
ラルド邸の庭に出ると、外には誰もいなかった。
「リースさん。うちの使用人達はどうしたんですか?」
ラルドが聞いた。
「フフ、グリーンモンスター達に感謝するのね。殺そうと思ったけれど、彼らがギリギリで外に逃がしたわ。」
ラルドは安堵で胸をなでおろした。そして、まじまじとリースを見た。
「メアさんといい、リースさんといい、一体どうしたんですか?以前はそんな人ではなかったですよね。」
「貴方は何を基準に私達を決めつけてるのかしら。私は自分の行動が間違っているなんて思っていないわよ。むしろ大義に犠牲はつきものだもの。」
悪びれないリースをラルドは不思議な気持ちで見ていた。
5人は庭の端にある高い建物の前に来た。
「これは、研究所から移したものですよね。宇宙ステーションへの転移装置。」
ラルドが言った。
「ええ、ここを昇っていくの。この頂上に宇宙ステーションへの転移装置がある。扉に暗証番号があるわ。今、打ち込むわね。蔓を外してちょうだい。」
ジースは皆をみた。
「言うことをきいてやってくれ、ジース。」
ラルドの言葉に、ジースは仕方なく頷いた。
蔓を外されたリースは建物の入り口にある機械の前に立った。そして、その瞬間、機械の中にある銃を取り出し振り向いて、ラルドに発砲した。それを見たジースがラルドを庇った。銃弾はジースの脇腹を貫く。フィルは舌打ちをして、リースを剣で攻撃した。リースは歯向かう武器も無く、その場に倒れた。
「ジース!しっかりして」
オバーンが駆け寄った。
「ジース。」
ラルドが必死に手を取った。
「だから、信用ならないっていったんだ」
ジースは苦しそうに息を吐きながら言った。ラルドはリースを睨んだ。
「リース、なぜ?どうして?」
「宇宙ステーションに行かせるつもりがないからよ。あなたがいなければ、暗唱番号がわからないでしょ。」
リースは息の下から、苦しそうに言った。
「私だって知らない!」
ラルドが悔しそうに言う。
「そう?知ってるはず・・よ。」
リースも辛そうだ。オバーンは、必死に回復の薬をジースの口に含ませた。
「だめ、回復の薬が効かないわ。」
リースは薄く笑った。
「そうよ・・・。グリーンモンスターには特別な回復方法がある・・の。」
そう言い残してリースの息は止まった。
「死んだぜ。よかったのか、ラルド。」
フィルが念のため、リースに近付いて、脈を診た。ラルドは俯いて呟いた。
「いいんだ。彼女は私のあこがれの人だった。だが敵になってしまったのだから。」
ジースが皆を見て、息の下から吐くように呟いた。
「みんな・・・宇宙ステーションへ行ってくれ。」
「私の為に撃たれたお前を残していけるものか!」
ラルドは、強く言った。早く先に行きたい思いとジースを助けたい思いに挟まれて、軽く震えている。その時、
「坊ちゃま!」
外から老人の声が聞こえた。
「爺!」
ラルドは声をかけた男の側に行った。
「待て、今バリアを外す。」
ラルドが近くのスイッチを押すと、バリアが外れた。
「私で、何かお役に立てますか?」
執事の老人はジースの側に来た。ジースは苦しそうに言う。
「水、水をくれ、ジョウロで、全身にかけてくれ。そして、日向に寝かせておいてくれ。」
「はいはい。ただいま。」
執事は急いで屋敷の中に入った。ジースはオバーンの袖を引っ張った。
「母さん、僕のことはいいから、早く行って。僕の仲間を救い出して。」
「でも・・・」
「僕は大丈・・・夫。母さんこそ・・・気を付けて。」
フィルはオバーンの手を取った。
「いこう、一人でも戦力がほしい。」
執事が屋敷から水を持ってきて、ジースに優しくかけた。ジースは安堵のため息を吐いた。
「ああ、気持がいい。さあ、みんな、早く行って。」
ラルドは頷いた。
「すまないジース。爺、彼を頼む。行こう!みんな。」
「お気を付けて。ぼっちゃま。」
ラルドは頷いて、機械の前に立った。
「暗証番号、分かるのか?」
フィルがのぞき込んだ。
「私なら、分かるはず、って言っていた。」
そうは言ったものの、ラルドの手は止まったままだ。オバーンが横から口を出した。
「暗唱番号には、家族の名前を使いやすいそうよ。あなたの名前は?」
「私のか、いや、この中で私だけが知る名前・・・もしかすると、死んだ母上の名前かも。」
ラルドは頷いて母親の名前を打った。扉がゆっくり開いた。
「当たった。」
ラルドは嬉しそうに皆を見た。皆は頷く。
「行こう!」
フィルは先頭を切って中に入っていった。オバーンは名残惜しそうに、ジースに振り返って立ち止まった。フィルは軽く息をついて、オバーンを呼んだ。
「どうしてもジースの側にいたいなら・・・残るか?」
オバーンは首を横に振った。
「そんなことしたらジースはきっと怒るわ。」
オバーンは意を決したようにフィルの後を追った。上の階へ行くエレベーターはロックがかかって動かなかった。操作パネルは宇宙ステーションにあるようだ。皆は階段を見上げた。階段は上へ上へ続いている。終わりの見えない階段だ。
「登ろう!」
ティクが物怖じせずに言う。
「しかたないな。」
フィルは頭を掻きながら、それでも、目には進もうという強い意思が見えた。登り始めて一時間。彼らに疲れの色が見えた頃、休憩所のような広間が空に突き出すように出てきた。外はもう真っ暗だ。
「夜になっていたのね。」
オバーンが空を見上げて言った。と、その時、フィルは空に浮かぶ二つの光に気づいた。
「おい、あれなんだ?」
よく見ると大きなモンスターが鎖につながれたまま、行く手を阻んでいる。姿はまるでオオカミの様。光は二つの目だったのだ。ラルドは舌打ちした。
「見張り用モンスターだな。こいつは、骨がおれるぞ」
「こっちも疲れている。あまり時間をかけたくないな。」
フィルは剣を抜いて、切りかかった。モンスターはサッと避けるとフィルの肩を牙でかすめた。オバーンも銃で狙おうとしたが、動きが早くて狙いが定まらない。ラルドも自ら、殴りに行くのだが、敵の動きに翻弄され、フィルとぶつかってしまう始末だ。フィルは接近戦が不利なのをいち早く察知し、距離を取ろうとしたが、モンスターは逃げれば追いかけてくる。
「フィル、銃の標準が定まらないの。こっちへ逃げてきて。」
オバーンが叫んだ。フィルは頷くと、一直線にオバーンの方へ走った。フィルがオバーンのすぐ側まで来たとき、オバーンはフィルの頭を狙うように銃を合わせていた。
「避けて、フィル。」
フィルが横に避けると、オバーンの銃の標準はモンスターの頭を狙っていた。
ドン。
オバーンの銃が重い音を立てて火を噴く。フィルが死角になっていたので、モンスターは避けるのが遅れた。それでも、弾は頭を逸らしたが、代わりに頭をかばった前足に当たった。そして、ようやく、皆はモンスターと距離を置けた。
「めちゃめちゃ、はえーな。絶対的な持久力は向こうの方がありそうだから、早めに決着つけたいけど、できねえ。」
傷だらけのフィルが肩で息しながら言った。
「見ろ、前足を撃ちぬいたのに、痛がってすらいない。地獄の番犬、ケルベロスみたいだ。」
ラルドが感心して言った。その時、空の向こうからティクの声がした。
「僕たちも加勢するぜ。」
見ると、見慣れた小型飛行機がこちらに飛んできて、ゆっくり着陸した。中からティクとルカとアシアが元気に下りてきた。フィルはニッと笑った。
「六対一か。これゃ楽勝だぜ。ガツンと一発俺らの力みせてやろうぜ!」
勢いづいたフィルはもう一度、モンスターの方へ走っていった。すぐ後ろから、ティクが加勢する。モンスターはフィルを手で弾き飛ばすも、その後ろから不意に飛び出したティクの銃弾には対応できない。モンスターは銃弾をまともに受けて倒れた。
「やったか?」
フィルは体制を立て直しモンスターを見た。しかし倒れたモンスターの目が異様に光り始めた。奇妙な機械音が聞こえる。モンスターは再び立ち上がり、口を開けたかと思うと、中から金属の筒が出てきた。モンスターはロボットだったのだ!
「反則だぜ、こんなの!」
ティクが叫んだ。筒から火が勢いよく出てきた。ミョンが叫ぶ。
「危ない!皆、避けろ!」
「避けろといっても、ここじゃ、避ける場所がねえ!」
ティクが叫んだ。
「風の魂よ。我を背にして吹き荒れろ!」
アシアが呪文を唱える。強い風が、ロボットの方へ急に流れていった。火がここまで届かない。
「助かったぜ、アシア。」
フィルが肩を撫でおろした。
「でも、いつまでもつか分からないわよ。」
アシアが汗をかきながら言った。ルカはミョンを媒介にして、手をロボットに向けた。
「雷神よ。大いなる怒りを持って、死を誘う獣を滅せよ!」
黒い雲が急に辺りを覆い尽くし、中で電気が走った。そして、大きな雷がロボットに直撃した。ロボットはその勢いで粉々にくだけた。その力のすごさに皆は茫然とルカを見た。
「はっ、大したものだぜ。精霊の力は、やっぱ違うな。頼もしい限りだよ。」
フィルが渇いた笑いと共に言う。ルカはハッとして、皆を見た。少し引かれているのが分かる。ティクがバンとルカの背中を叩いた。
「やったな!すげえじゃねえか!ま、疲れたら、またおぶってやるから言えよ!」
ルカはティクを見た。ティクは朗らかに笑っている。彼女は頷き微笑んで見せた。
「さあ、先を進もう!」
ラルドが焦って言い、ティクが元気よく続くのをフィルが止めた。
「まあ、まて、ここで、朝まで、休憩しよう。疲れもたまっていることだろう。」
「えっ」
「子供は、疲れ知らずだからな。このオバサンの身になってやれよ。」
フィルがオバーンを軽く指さした。
「なんか言った?フィル。」
瞬間、オバーンが銃口をフィルに突き立てたが、フィルの怪我を見て銃を降ろした。
「そうね。オバサン疲れちゃったわ。」
ラルドは仕方ないというように腰を下ろした。皆が腰をおろし休みだしたとき、オバーンはフィルの側に来てそっと傷薬を渡した。
「貸し一つよ。」
フィルがオバーンを見ると、顔がいつもより曇っていた。息子が心配なのだろうか、フィルは隙を見てオバーンの腕をとった。
「お前にはずっと借りていたいからお礼は言わないぜ。」
「相変わらずの女ったらしね。」
オバーンはフィルの手を払い少し笑ったがすぐ顔は曇る。フィルは心配そうにオバーンを見送った。
夜、皆が寝静まった頃、オバーンの物音にフィルが起きた。彼女は、広場の端で、下を見てた。フィルが近付くと、オバーンは振り向いた。
「あんまり、身を乗り出すと、落ちるぜ。」
フィルの言葉にオバーンは肩をすくめた。
「子供じゃないもの、大丈夫よ。」
「ジースが心配なのか?」
オバーンは黙って頷いた。フィルはオバーンの隣に座った。オバーンの目に涙が光る。フィルは彼女の肩を抱いた。いつもは嫌がるオバーンも今日ばかりはフィルに寄りかかった。
「ごめんなさい。ほんのちょっと、肩借りるだけだから」
そして、溜めていたものが出るようにすすりないた。
「強がるなよ、肩でも、胸でも、背中でも、なんでも貸してやるからさ。」
オバーンはフィルの胸で頷いた。
翌日、オバーンも元気を取り戻し、恥ずかしそうにフィルを見た。フィルは気にするなというように、そっとウィンクして見せた。そして皆はさらに頂上を目指した。階段はまだ続いた。それでも、昼前には頂上に着いた。
頂上には、敵が一人いた。グリーンモンスターを何人か引きを連れて宇宙ステーションへの転送装置に入るところだった。
「待て!」
ティクが大声をあげた。敵はまだ子供だ。年はジースと同じくらいだろう。まだあどけなさが残る。
「やあ、これはこれは、初めまして皆さん。」
男の子は丁寧にお辞儀をした。ラルドはティクを抑えて前へ出た。
「あなたは、初めて見ます。研究員ですか?まだ、子供ですよね?」
相手はギロとラルドを睨んで豹変した。
「小うるさいジジイどもだな。俺様は、子供扱いが一番嫌いなんだ。俺様は世界政府から派遣されたキール。死にたくなければ、さっさと消えろ。」
ラルドが噛みつくように聞いた。
「世界政府ってどういうことだ。これは、世界政府も関わっていることなのか?」
「どうでもいいだろ、そんなことは。俺様は強い。だからここに派遣されたんだ。」
キールが近くのグリーンモンスターをけり上げた。ティクは銃を構えた。
「いいから、その人たちを離せ。手加減しないぞ。」
キールは冷酷にティクを上から見てわざと馬鹿丁寧に言った。
「だめですよ。この子達は、私達のかわいいモルモット。これから、飼育してあげるんですから。」
その言葉にオバーンがカッとして一人飛び出し、キールに突っかかった。
「あなた達のせいで、何人の人が苦しんだと思っているの!」
キールはオバーンの顔を殴った。衝撃でオバーンが吹っ飛ぶ。
「さあな。そこは、重要じゃない。大事なのはあいつ等の苦痛に歪む顔。ウフフフフ。お前らに分かるか?暴力を許された、俺様の快感が。」
「こいつ、今までの奴らより、ずっとイカレテやがる。」
フィルが冷や汗を垂らした。ティクが素早くキールの懐に飛び込んだ。
「お前は許せない。」
キールの腹にティクの拳が入る。キールは動かない。それどころか、ティクの拳の方が血を流していた。
「ヒャヒャヒャ、俺様の腹には、鉄の刺が仕込んであるんだ。」
キールは服をめくって見せた。
「これはいいぜ、偽善者ぶって俺様を抱きしめた奴が血を流す様、俺様を子供扱いする奴らの苦痛に歪む顔。」
そして、ティクに抱きついた。
「ギャアアアア。」
ティクから血が噴き出す。その血はキールに振りかかった。
「痛いだろう?お兄ちゃん。俺様は、この血まみれが好きなんだ。」
「その辺でやめとけよ、坊や。」
フィルがキールに攻撃を仕掛けた。キールはティクを投げ捨て、横に飛びのき酒を含んでフィルに向かって火を噴いた。
「この酔っ払いのガキが!」
フィルがそれを横に避けると、避けた場所にキールが小刀を投げた。
「俺様より弱い奴がガキ扱いするな!」
当たりそうになった小刀をアシアが風の魔法で吹き飛ばす。
「風の魂よ。鋭利な花びらを吹き飛ばせ。」
フィルは冷や汗をかいて、アシアにお礼を言った。キールは感心するように口笛を吹いて手袋をはめた。キールのはめている手袋がバチバチといいだした。電気を含んでいるようだ。
「魔法使いのお姉さん。さあ、これはどうする?」
キールは電気の塊をアシアに投げつけた。しかし、アシアの前にルカが立った。
「雷神よ、大いなる怒りを持って邪悪な獣を狙い撃て!」
我がルカはミョンを介してキールの方に電気の精譲りの強力な電気の球を投げつけた。ルカの放った電気の球はキールの電気の球を取り込み、より巨大な電気となってキールを襲う。キールがバチバチと感電し、その場に倒れた。が、なんとか立ちあがる。
「くそおっ。お前らも道連れだ!」
キールはよれよれになりながら酒を口に含み、火をつけようとした瞬間、電気が先に火花を起こしてしまい、口の中で酒が燃え、キールは自ら爆発した。
爆風が収まった後、フィルが冷たく言い放った。
「飲んだくれには、ぴったりの最後だ。」
ルカはグリーンモンスター達を解放し、精霊の力で人間に戻し、地上へ戻るように言った。グリーンモンスター達はお礼を言い去っていった。
部屋の真ん中には転移装置がある。爆発にも耐え装置も無事そうだ。
「宇宙ステーションへの転移装置だね。」
ティクの言葉にラルドは頷いた。そして、皆に振り向いた。
「今までありがとうございました。ここからは、私の問題だ。この先は危険すぎる。皆は地上にもどってください。」
「水臭いこというなよ。」
フィルが驚いた顔をした。
「でも、君達は、私の父とはなんの関係もない。」
「この先には、グリーンモンスターの敵がいるわ。」
オバーンが言った。
「私の故郷を壊した人達がいるのよ。」
ルカが言った。
「この先に謎の答えがあるのよ。今さら引き返せないわ。」
アシアが言った。
「とにかく、全員行きたがっているんだから、いろいろいうなよ。」
ティクが言って、転移装置に一番にのった。フィルもオバーンもアシアもルカもみんな乗った。ラルドは皆を見つめた。皆は頷く。彼は頭を下げて最後に乗り込み転移装置のボタンを押した。