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思い出の日々―ゲームスタート―<スザク視点>

サクサク時間が進み、卒業年度になりました(笑)







学園にいる間、ほとんどの時間をダリアとガイと共に過ごす。どうせ卒業の後は国を去る身だ、わざわざ新しい友達を作る必要はなかった。王族がいればまた話は変わるが、この国の若い王子は既に成人しているはず。

気が付けば学年も上がり、後一年で卒業と言うところまできていた。何事もなくこのまま過ぎていくのも良しと思っていたが、この日常が続ければと自分らしくない感傷に浸ることもある。


「あのっ…サクラ・リーントです」


ピンク色の鮮やかな髪が風でなびく、長い睫毛が緊張からか震えながらもそっと覗かせるチョコレート色の瞳が好奇心を自分に向けた。頬を赤くする姿は老若男女に好まれるだろう、一生懸命さが愛らしい。

制服のネクタイの色で同学年なのはわかった。だが、何故自分に紹介されているのか。


「スザク、ダリア。転校生なんだって。さっき校舎を迷っているところに出会ったんだけど、同じクラスだったから連れてきたんだ」

「…スザクだ」


どこぞの子爵の娘に呼び出しをされていたばすのガイは、帰りに拾い物をしてきた。今度は勝手に案内役を申し出たらしい、嬉しそうに紹介したガイに一瞥をおくと顔を見ずに名を告げる。リーントなんて家名は知らない、と言うことは庶子である。差別する訳ではないが、身元不明者に愛想を良くするほど楽な人生は歩んでいない。








「…ダリアよ」


蚊の鳴くような小さな声、高潔なダリアの珍しい態度にちらりと顔を見ると、まるで親の不幸を知ったように、蒼白になっていた。


「スザク様ですね。よろしくお願いしますわ」


とっさにダリアの名を呟く瞬間、上乗せされた言葉と信愛を込められた笑顔に眉をひそめる。何故、自分の名だけ紡ぐのか。


「同じクラスだから仲良くしようよ。サクラって特待生なんだって、優秀なんだね」

「そんなことないです。たまたま光属性だったからで」

「光属性?治癒魔法とか使えるんだ」

「えぇ、まだ少ししか出来ませんが」

「そうなんだ。でも十分スゴいよ」


目の前で繰り広げられる二人の空間に精神が疲弊する。優しい性格だと思っていたが、何でも受け入れるところはどうにかしてほしい。まぁ、おかげで自分もダリアも一緒にいられるので一概に責められないが。


「………した」

「ダリア?」


ぽつり、と落とされた独り言は聞き取れず、ずっと息をひそめる彼女の言動が気になってマジマジと顔を見詰める。


「何でもないの。気にしないで」


嫌味を言う元気もないのか、殊勝にも笑顔を浮かべた彼女の瞳には涙が浮かんでいた。

泣き笑い、そんな表情を見せるなんて彼女らしくない。それだけ、サクラの存在がショックだったのだろうか。


改めて、二人を眺めると。


あぁ、なるほど。


金髪碧眼の彼は王子さま、ピンク色の髪の美少女はお姫様、物語の一ページから抜け出てきたような二人は誰の目から見てもお似合いだ。

サクラの属性は光、ならばこの国では重宝がられる。魔法に重きを置くこの国で、滅多に生まれない光属性は神の加護を持った人と言われるほどだ。

逆に闇属性で生まれると、悪魔の使者扱い、ただ黒髪を持って生まれた自分たちよりももっと残虐な迫害を受けるだろう。闇という単語と得意とするのが精神魔法、それがイメージを悪くする一因。

同じ希少性を持つ存在なのに、こんなにも違う。

勝手な世界だ、決めつけられた常識のせいでこんなに生きづらい。

だが、自分はまだ良い、愛される祖国があるから。


でもダリアは…。


このまま一生独りなのだろうか。ガイに目を向けられなければ結婚することもできず、肩身の狭い思いをしながら、ただ彼の隣で彼の幸せを見続ける。そんな人生を歩むしかないのだろうか。





「賭けをしようか」


無意識に出た、ダリアにしか聞こえない、提案。


「賭け?」


濃い灰色の瞳が、スザクを写す。そのことに、にやりと口角を上げる。


「 ガイを振り向かせることができなかったときは、お前は俺のものになれ」


驚愕に目が丸くなったかと思うと、すぐにキッと睨まれる。強い眼差し、注がれる其れは残念ながら心地好い。身分も黒髪も何も関係なく、ダリアはただのスザクを見てくれる。


「何よそれ」

「俺の祖国は、黒髪持ちは優遇される。今とは正反対の生活ができるぞ」

「だから?それだけのメリットじゃ私は買えないわよ」

「そうだな。じゃあ、ガイがちゃんと侯爵家を継げるようにしてやる」

「…どういう意味?」

「そのままの意味だ」


わからないダリアではないだろう。半分脅しているようなものだが仕方がない。交渉は権力がある者に有利なのが常。

どうする、と視線に含めれば。


「…わかったわ」


震える声で頷かれる。俯いた彼女の表情はわからない。


これは保険、彼女の人生が狂わないための。

そのはずだった。




ついにヒロインちゃんの登場です。

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