ダリア・ヴィンセントと言う人物について
さよなら・・・愛しい人。
もう、振り返らない、彼のことは過去にしよう。
運命と言うものがあるのなら、元々彼と結ばれる未来はなかった。
だって、私は。
ダリア・ヴィンセントだから。
前世の私が高校生の時、プレイした乙女ゲーム『マジック・スクール~初恋☆物語~』の登場人物で、配役は悪役令嬢。社交場ですでに人気だったガイ・ヴァインセントが初恋の彼女は、魔法学園で出会った主人公に彼を取られるのが嫌でいじめてしまう。それをガイにバレてしまい、失望され、逆に疎まれるようになる。順調に主人公とガイの恋が進むにつれ、ダリアの出番は嘘のようになくなっていく。
まぁ、それはゲームの中の話で、でもこの現実に似ているのも確かだ。私の両親が亡くなったこと、ガイに想いを寄せたこと、そしてガイの前からダリアが消えたことも一緒なのは末恐ろしい。
ただ、私が黒髪で生まれたことや養子になったこと、私が主人公をいじめなかったこと、ガイルートの悪役令嬢である私と攻略対象者であるスザクが仲良くしていたことなど、ところどころゲームとの差違が生まれている。それはひとえに私がゲーム通りでなかったため。
ガイとスザクは俗に言う親友と言うものだったが、ゲームでは顔見知り程度だったような気がする。それに、ダリアとスザクが結ばれることなんてなかった。10歳で隣国に留学したスザクは学園卒業後に帰国するが、主人公と結ばれなかったら一人で戻ったはず。
転生者の私がいるせいで、未来が変わっていたのだろうか?
「綺麗ですわ、ダリア様」
ぐるぐると考え事をしていたら、いつの間にか、着替え終わっていた。長いストレートの黒髪がハーフアップされ、美しい細工をされた珊瑚のかんざしが映える。そして、着物を着崩したような衣装、ダリアは見たことが無い其れは前世の記憶を掘り出すと花魁に似ていた。淫靡な雰囲気と言うよりは、気品があるように見えるのは素材が良いのと、過度の露出は抑えられているのと、自分に色気がないせいかな。鏡に写る自分を良く見たいが、赤を基調にした豪華絢爛の装飾に、目がチカチカする。
「面白いドレス?なのね」
「シン国伝統の衣装“ラーファン”になります。ダリア様の黒髪とグレーの瞳に合うように作られました。皆、スザク様とダリア様のお披露目を楽しみにしていますわ」
ダリア付きのメイド、アイスが微笑む。隣の国とは言え、文化の違いは顕著だ。
「黒髪の皇帝がいたことはありますが、后までなんて。きっと、スザク様が統べるシン国は後世に名を残しますね」
そう、この国での黒は何よりも尊い高貴の色として扱われる。
何にも染まらないその色は絶対的な存在である皇帝の証。他の者が小道具にその色を使ったとしても、服を着ることは許されない。無論、髪を染めることも。歴代の皇帝は全て公の場では、黒で身を包んだと言う。
「本当に綺麗な黒髪ですね。私が生きている間に、黒髪の后に仕えることが出来てとても幸せてすわ」
「そんなに珍しいの?」
うっとりする、その眼差しが少し居心地悪い。生まれてから、こんな純粋な敬意を払われたことはなかった。
髪を引っ張られたり、切られたりしたことはあったけど。その度に彼に助けてもらったなと、思い出して心の中だけで苦笑した。
「皇帝の直系で、数百年一度の割合でお生まれになりますが、全て男児だったそうです。女性では建国してからいないんじゃないでしょうか」
「建国してから…。二千年は経っているわよね?」
「はい。今はシン歴2015年になります。黒髪持ちのスザク様がお生まれになったとき、それはそれは国中をあげて祝福をしましたわ」
「…そう」
「スザク様は側妃であるユア様のからお生まれになったので、帝位継承者第三位になりました。しかし、シン国では皇族の中で黒髪の子が生まれたらその子が皇帝になります。国の混乱が収まるまで、スザク様は隣国の留学が決まったのですわ」
国の混乱?こんなに平和な国なのに。
自然豊かで、礼儀を重んじるこの国は異国民を受け入れるおおらかさがある、異分子を排除しようとする祖国とは違っていた。その国民性は好ましい、自分の立場を考えれば尚更。
違和感を覚え、不思議そうな顔をしていたのだろう、メイドはあからさまに会話のトーンを落とした。
「現皇帝はスザク様を次期皇帝に指名しました。お恥ずかしながら、他の帝位継承者が反対したのですわ」
「色々、あったのね」
骨肉の争いと言うことか、どこの世界でも大なり小なりあるもの。
どうりで一筋縄でいかない性格になってしまったのか、少し憐みにも似た感情を抱く。
「えぇ。ですが、もう昔の話ですわ」
にっこりと笑みを浮かべたアイスはこれ以上の追求は許してくれない。
この話は終わりだとばかりに、支度を再開する。着付けが終わったので、今度はメイクだ。
促され目を閉じていると、思い出すのは初めて会ったときのスザクだ。彼とは学園で出会った。
忌み嫌われる黒髪、シン国では祝福されていたのなら、正反対の対応にさぞかし戸惑ったことだろう。
今の私と同じに。
過去編にいきまーす☆
書きたかったシーンがようやく出てきます(笑)