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→A「もちろん、喜んで」<ガイ視点>



「そうでしたの。でしたら、私と一曲いかがですか?」

「もちろん、喜んで」



手を取り合い、他の人と同じように踊り出す。

まだダンスをしたことのないダリアに手取り足取り教えたのはガイだった。慣れるまでは足を踏まれたり、ぶつかったり。何度もごめんねと、顔を真っ赤にしながら謝ってきたダリアは可愛かったな、とその様子を思い出す。

舞踏会に呼ばれることはなかったが、踊れておいて損はないと誘ったのだ。この国では機会がなかったが、今はどうなのだろうか。今度、手紙で聞いてみよう。変哲もない日常の中、何を書こうか悩んでいただけに、返事を考えつき頬が緩んだ。


「それにしても良かったですわ」

「ん?何がだい?」


上機嫌なガイにつられたのか、ミリィが意気揚々と語りだす。

少女は踊り慣れているせいか、エスコートしやすかった。


「あの黒髪はガイ様にふさわしくありませんでしたから。私、何度か注意差し上げましたの。ガイ様の迷惑になるから、家を出た方が良いですわよって」

「え?」

「そうしたら、何て言ったと思います?『言われなくてもわかっている』ですって。わかっているなら、さっさとすれば良かったのに、未練がましく学園まで通うなんて信じられませんわ。黒髪がいるだけで、学園の品性が疑われてしまいますもの」


己の主張に何の疑いもなく、憤慨してみせる少女に言葉を失う。

自分でも顔色が悪くなるのがわかった。


「サクラは庶子でも、光属性ですから、きっとガイ様の未来に役に立ちますわ。ヴィンセント侯爵の賢明なご判断について、皆さんでお話していましたの」


少女の笑みが気持ち悪く思える。利益を追及した訳ではない、ダリアを追い出したかった、訳でもない。ただ、結果的にそうなっただけで。ガイは父と母の寂しげな顔を誰よりも見ていた。そして自分も、彼女がいないことを肌で感じていた。今生の別れではない、と言い聞かせてきたが、あんなにも遠いところへ行ってしまった。自分を置いて。その意味をようやく理解したところだ。


「ガイ様?」

「エレコム嬢。申し訳ありませんが、気分が優れませんのでこれにて失礼します」


足を止めたガイの言い訳に眉尻を下げて、心配する声をあげるミリィ。


「まぁ、大変ですわ。お大事になさって」

「大丈夫です。原因はわかっていますから」

「そうですの、無理なさらないでくださいね。私にできることがありましたら、何でもおっしゃってください」

「では、お言葉に甘えまして…もう二度と、我がヴィンセント家と関わりを持たぬようお願いします」

「ガイ様?」


驚愕に開かれた瞳へ、笑顔を張り付けた顔を向ける。


「ダリアは私の家族ですから。ヴィンセント家の者への侮辱は誰であろうと許しません。エレコム家との関係は見直させて頂きます」


一礼は忘れずに。

沸き上がる激怒を、どうにか抑え、歩き始める。

呼び止めようと紡がれる名を、無視し、帰途に着いた。

家に帰ってから、あぁ、やってしまったな、とようやく残してきたサクラのことを思い出して。

投げやりな気分で、自室のベッドに疲労した身を投げ出す。


まぶたを下せば、幼い日のダリアが微笑んでいた。人は目を合わせれば不幸になると囁くが、そんなこと言っていたらヴィンセント家はとっくに没落しているだろう。何故、もっと声を大にして反論しなかったのか、自らを省みて失望した。

ダリアを見下したあの少女と、自分は、大して変わらないのだ。

可哀想なダリア、彼女に皆辛く当たるのは何故だろう、そう思っていた自分に反吐が出る、同情をして感謝されて満足して、其れ以上をしなかった。ダリアはいつだって笑っていた、ガイの前で。家族の前で。周りにどんなことを言われたって挫けない態度に“強い人間”なのだと勝手に解釈をして。

初めて会った時、あんなに泣いていた子は、いつからガイの前で泣かなくなってしまったんだろう。

あの時は確かに、自分の気持ちをさらけ出してくれていたのに。

大丈夫だよ、気にしないで、心配すればそうやって安心させるように言ってくれたのは誰のため?何のため?

彼女のその言葉を素直に信じてしまった。

あぁ、自分はなんて愚かなのだろう。


『過去は変えられない』

その通りだ。だからこそ、振り返りたかった、何がいけなくて何が間違っていたのか。

一つずつ、拾って、確かめて、後悔して。


そうすればこの胸のむなしさや日常が色褪せた理由がわかる気がした。


『ガイの初恋はダリアなんでしょう?』 

「…っ!」


きつく、口元を結ぶ。

ダリアがいないことがこんなに寂しい、今さら気づくなんて。

あぁ、だからあの時スザクは…。

最後のチャンスを与えてくれた彼の優しさもわからなかった自分。

滑稽だな、と嘲笑した。











今更気づいて、待っているのは絶望。


それが断罪にすらならないとは。




どんなに後悔したところで

もう、君はいない


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