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物語の結末


色とりどりの花が咲き誇る庭園は、歴代の皇帝が愛したと言う。そのサロンでアフタヌーンティーを飲むのが日課になり、既に4年の時が経っていた。希にあるスザクの休日を家族水入らずで過ごす。



「え?じゃあ、お母様とお父様は“せいりゃくけっこん”じゃないの?」


まだ三歳になったばかりの息子は、こてんと首を傾げる。自分と同じ黒髪がサラサラと光を受け輝く様に目を細めた。甘えるように膝に乗った頭を撫で、その感触を楽しみながら苦笑した。最近、質問攻めをされるが一体どこでそんな言葉を覚えてくるのか。


「そうよ。お父様が政略結婚で満足する訳ないでしょう?」

「そっかぁー」


大きな瞳を輝かせて、素直に頷くところを見て愛しさが込み上げてくる。そういうところは父に似なくて良かったなと一人で微笑んだ。


「おい、アスカに変なこと教えるなよ」

「お父様は今日も怒りん坊で困りますね」

「こまりますねー」

「お前らな…」


母子で顔を合わせてニコニコしていると、スザクは片手で呆れたように頭を抱える。

どうしたのでしょう?最近仕事が多くてお疲れなのかしら。


「アスカ、政略結婚の意味わかるの?」

「んーとねー、おたがいのりえきのためのけっこん!」

「あら?そういう意味なら、まぁ、あながち間違ってないわね」


利益とか難しい言葉を知っているのね。さすが、私の息子…じゃなくて、高等教育を受けているだけはあるわね。


「おい、ダリアっ…!」


珍しく慌てて名を呼ぶスザクの制止は間に合わなかった、人差し指で指示されたとおり、目線を下げた先には。


「やっぱりせいりゃくけっこんなの?」


うるうると涙の膜を張った瞳、何度か瞬きをすれば其れは落ちてしまうだろう。

上目遣いで見上げるため、威力が凄まじい。


「アスカ、おいで」


まだ小さい体、脇に手を通し持ち上げた。ぽんぽん、背中を優しく叩く。


「悲しくなっちゃったの?」

「…うん。お父様とお母様はなかよくないといやだもん」

「大丈夫よ、お父様とお母様はちゃんと想いあっているから。だからアスカが生まれてきたんでしょう?何も心配いらないわ」


泣く一歩手前のアスカを、安心させるように笑みを深めた。

それでも近くにある顔は疑う眼差しを向けてくる。


「ほんと?」

「えぇ、もちろん」

「お父様も、ほんと?」

「…あぁ、そうだ」

「よかった!」


嘘をつかない父も肯定したせいか、一気に気分が上昇する息子。顔はそっくりなのに、こんなに真っ直ぐで可愛いなんて。


「今、失礼なこと考えただろ?」

「んー、なんのことかしらねー」

「かしらねー」


子の中で語尾を真似て、ケラケラ笑うのが今流行しているらしい。


「ダリア、お前いい加減に「お父様、お母様をいじめちゃめっ!」


そして天使はなんと、私の為に怒ってくれる。嬉しすぎて体が震えそうになるのを、我慢した。


「アスカ、お父様は意地悪を言ってるんじゃないのよ」

「…そうなの?」

「お父様はお母様が好きだからついつい構いたくなっちゃうの。お父様の愛情表現だから、多目に見てあげましょうね」

「お父様…、そうなの?」


妻と息子の視線に、逃げようと腰を浮かせていたスザクは、ゆっくりと椅子に座り直し、頷いてみせた。

その姿を見てはしゃぐ我が子をなだめながら、口許が緩むのをやめられない。












「スザクは、私を選んでくれたのよね?」


今更ながら一つ、思い出したことがある。

スザクルートのハッピーエンドの攻略方法だ。

隠しキャラだけあって彼の場合、いくら教室などで話しかけても好感度は上がらない。警戒心の強い彼は会話一つでバッドエンドに転ぶ可能性があり、ハイリスクローリターンなのだ。

唯一の方法として、まずは攻略キャラ全員の好感度を一定に保ちつつ、生徒会長と先生の好感度を他の人より上げておく。品性方正と名高い光属性の少女と理事長と話す機会が設けられ、それ以降、校舎から理事長室に繋がる、ある場所に行けるようになる。そこで彼に話しかけるのだ、どこかで会ったことはないかと。最初はわからなかった彼も、思い出す。幼い頃、町外れの桜の木の下で治癒魔法をかけてくれた少女のことを、自分の怪我を見て泣いてしまった優しい少女にいつか嫁にしてやると告げたことを。それが彼の正真正銘の初恋。

そのイベントさえクリアすれば驚くほど彼の態度が軟化し、スザクルートでようやくスタート地点に立てるのだ。


彼女はある時期から、生徒会に行くのをやめた。まだ生徒会長とのイベントもあったはずなのに。それは何故か、考え始めるとある推測が成り立つ。


「なんのことだ?俺は賭けに勝っただけだ」


そうやって優雅にお茶を飲むスザクは、相変わらず何も教えてくれない。少しはアスカを見習って欲しいものだ。


「ふふっ、そうね。そういうことにしておきましょう」

「ましょー」


口調をなぞる元気な声と見ているだけでこちらを幸せな気分にさせてくれる無邪気な笑顔。黒髪、灰色の瞳は自分と同じ配色。その顔は幼き日のスザクときっと同じなのだろうと思わせた。聡明さがにじみ出る受け答えと、コロコロと表情を変える様は相反するようで上手く調和されている。



そんな我が子を眺めていると。

ふと、何故か泣きたくなった。

目頭が熱くなり、誤魔化すように子供の頭に顔をうずめる。太陽の香りが鼻孔をくすぐり、ダリアを慰めた。















こんな、普通の人が味わう平和な日々が来ようとは夢にも思わなかった。



家族を作ることも、子供を産むことも、心のどこかで諦めていて。



悲観的にならないよう、あえて考えなかったことでもあるが、黒髪であるかぎり、誰にも頼らず独りで生きていこうと。





その覚悟もした、はずだった。


 














今なら其れがどんなに寂しく、空しい決断だったのか、分かる。










もしかしたら、ただ逃げただけなのかもしれない。


それでも。


紛れもなく、私は自ら選択したのだ。


彼の手を取ることを。














その結果がこの未来なら、良かったと、心から思えた。




黒髪持ちの皇帝が婚姻をしたのち、建国以来、初である黒髪持ちの后を見た者は幸せになれるという噂がまことしやかに流れ、異国の血が流れていようとも民衆に歓迎された。生まれた子も全て黒髪だったため、たいそう喜ばれ、神の加護を持ったとされる皇帝も側室を取ることなく、二人は晩年まで仲睦ましく暮らしたと言う。これにより長きに渡り黒髪の皇帝が誕生し、黒髪の希少性は失われたが、シン国では愛すべき色として伝わることとなる。

―シン国栄華の歴史書より―











と言う訳で、ダリアとスザクがちゃんと結ばれましたー(*´ω`*)

ダリアは初恋は実らなかったけど、違う幸せを作ることが出来ました。

スザクに至っては初恋をなかったことにしました(笑)

ガイ派の方、いたらすみません(´・ω・`)

そしていきなり子供がいてすみません(´・ω・`)




これにて本編は終了となります。

あっさりし過ぎかもしれませんが、最初から考えていた結末でした。途中の過去編を色々付け足してしまったので、思ったより長くなってしまい(笑)

皆様の暇潰しになれば幸いです(*^^*)

軽いノリで書き始めましたが、たくさんの人に読んで頂けて嬉しかったです。感想もたくさん頂けて光栄でした。特にダリアを幸せにして欲しい&スザクがカッコ良いと言われると、ハートがドキドキド○ンちゃんでした!



※番外編の要望が既に出ているのですが。。。

 軽く構想はしているのですが、いつアップできるかわかりませんので、…気長に待っていただけると(´;ω;`)


2015/02/26

指摘によりアスカの瞳の色、訂正しました。

ありがとうございます!

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