まずは自己紹介から始めましょう
さて、まずは私の名前はダリア・ヴィンセントです。そして転生者です。あ、転生ってわかりますか?そう、16歳で亡くなった前世の記憶を持ちながら、今の世界に生まれました。
前世と一緒の黒髪に。
私が生まれ育ったファントム王国は昔、クーデターがありました。クーデターそのものは無事に国王軍に鎮圧されたのですが、リーダー格の男が黒髪で、その時の混乱に乗じて王子の一人を殺してしまったそうです。その日以来、表だって口には出しませんが、滅多に生まれない色である黒髪の子は犯罪者扱いされてしまいます。
そんな世の中でも、生まれた先の両親は私を愛してくれました。すくすく育つ私はたまに感じる悪意を不思議に思いながらも、子爵の娘として溺愛されたため、閉鎖された世界が日常風景であり、あえて社交場に連れて行かれないことも、両親が必死に害意から守ってくれていたことも、黒髪の子を産んだことで周囲から家族がどんな風に言われていたのかも、何も、知りませんでした。
転機が訪れたのは10歳の時、両親が事故で死にました。領地視察に行く途中のこと。まだ何も力を持たない私は、その時初めて知りました。黒髪を持つ私は嫌われているのだと。血縁者の中に引き取り手が見つからず、後見人も誰も名乗りあげません。むしろ、両親の事故は私のせいだと噂になりました。“不吉な子”そう指をさされてどんなに否定しても、世間からの風評は覆りませんでした。
このままどうしたら良いんだろうか、いくら前世の記憶があってもまだ10歳の自分は何も出来ません。
孤児院とか行ければまだマシ、最悪殺されてしまうんじゃないか?と、色んな意味で途方にくれたとき。
両親の上司でもあるヴィンセント侯爵家からお声がかかりました。なんと、私の面倒を見てくれると言うのです!
それはあり得ないと思っていたことです。義理とは言え娘が増えれば嫁ぎ先との関係性が増す道具に出来ますが、、、私は黒髪で。嫁の貰い手はなかなか見つからないことは、親戚の眼を見てわかっていました。
汚いもの、得体の知れないもの、侮蔑と畏怖を含んだ眼差しで私を見る目。両親を亡くしたばかりの子に、それは堪えました。そんな人達の前で泣くのが悔しくて、絶対に泣くもんかと我慢していると、涙さえ流さないなんて!とより一層責められました。
そんな人たちと違い、侯爵家の人達は暖かく親無しの私を迎えてくれ、無闇に人を恐れていた自分が恥ずかしくなりました。亡くなった父と仲良く仕事をしていた話を聞かされ、お淑やかだった母を褒められ、氷が溶けるように徐々に侯爵家に慣れていきました。さらさらの金髪にアイスブルーの瞳、侯爵家は皆この色彩でした。もちろんご子息も。
「泣いて、良いんだよ」
同い年である、ガイ・ヴィンセントは優しい少年でした。
初めて会った時、大人しく、ただ順応な私を見て、頭を撫でながら何度もここは大丈夫だから、泣いても良いんだよと微笑んでくれて。精神的に追い詰められていた私は恥も外聞も捨てて、泣きました。同じくらいの身長なのに抱き締めてくれ、彼の温かさが胸に広がって。
たぶん、これが初恋のキッカケ。
今となっては、ほろ苦い思い出。