現実に戻った先は
皆さん、覚えていますか?
ダリアはラーファンと言う民族衣装を着てメイクをしたところです。
失恋したなら旅行をすると良い、とはよく言ったもので。知らない土地で知らない人に出会い、新しい礼儀を学び、見慣れぬ料理に舌鼓を打つ、そんな目まぐるしい日々にダリアは時が過ぎるのを早く感じていた。
見知った顔に再び出会えたのは、全ての支度が終わってから。
この国ではお祝い事には赤が好まれる。豪華絢爛な衣装と、紅のひかれた唇に目がいく。シン国では婚約者がいる場合、扇子で顔を隠しながら夜会に行くらしい。皇帝の后となるダリアはそんなことをしなくて良いと言われた時はホッとした。いくら文化とは言え、慣れないことをするのはやはり疲れる。
「馬子にも衣装とはこのことだな。」
「あら、どんな豪華な衣装でも着る人が綺麗でないと無意味でしょ?」
素直じゃない二人、それが日常。
お互い、一瞬目を見開いたことには、あえて触れない。
「スザクは洋服?なのね。」
「軍服みたいなものだ。皇帝親族の正装になる。」
黒を基調とした軍服はところどころ金が使われ、悔しいことに、切れ目の彼にはスゴく似合っていた。口には出さないが。
「さて、そろそろ時間だな。歩きにくいだろうから、腕に捕まると良い」
前世でも着物を来たことがあるので大丈夫だと思ったが、偉い人達の前で転ぶ訳にもいかないので素直に従う。きっと見た目も気にしての発言だろう。
シン国はファントム王国の四倍近い国土を持つ。大きいだけにすみずみまで統治するのは難しいが、それを皇帝崇拝により叶えている。独裁政権だが、それぞれの領地に中間管理職を置き、国中を支配しているのだ。そして、礼儀を重んじる風習は、目上の人を敬うことで反逆者を生まれにくくしている。
「さぁ、行こうか」
次期皇帝は微笑みながら、歩き出す。
珍しい表情に、ダリアも自然と笑顔になっていた。
シン国の次期皇帝と次期后のお披露目パーティーである、失敗は許されないなと思いながらもどこか浮き立つ足、組んだ腕から伝わる体温が現実だと知れた。
「ありがとう、スザク」
ガイとあの子がいるとき、必ず一緒にいてくれて。
こっそり害意から守ってくれて。
そのくせ何も言ってくれなくて。
「ん?何か言ったか?」
「…いいえ、何でもないわ」
ぴくり、と動いた肩。絶対聞こえたはずなのに、わざとらしく聞き返すスザクに苦笑した。
恩着せがましくしないところも、本当はとても優しい人ということも、全部知っているの。
そう伝えたらどんな顔をするのかしら?
いつか言う日が楽しみだわ。
次で本編ラストになります。
2015/2/26
指摘により表現を一部変更。
ご報告ありがとうございます(*´ω`*)