思い出の日々―卒業式の後で―<スザク視点>
学園のそこらかしこで、桜の花びらが舞い落ちる、あっという間に季節は春になっていた。
つまりは卒業シーズン、出会いと別れの季節。
「スザク、」
走ってきた美青年は、息を切らしていたが、進行方向にいる友に声を掛ける。
自分でもわかっていたが、不機嫌にひそめられた眉は元には戻らない。
「ごめん、急いでいるんだ。」
脇を通り抜けようとしたガイの腕を掴む、この先は行き止まりだ。桜の木があるだけ。
アイスブルーの瞳が驚きに縁取られる、思いのほか力を込めていたらしい。
「…お前、ダリアをどうするつもりなんだ?」
重々しく、吐き出した。本当ならこんなことはしたくない、でもそうせずにはいられない。
「ダリア?何で彼女の名前が出てくるんだ?」
心底不思議そうな顔をするガイに苛立ちが募る。
ガイが向かう先にはあの女がいて、残された少女はどんな気持ちで過ごしているのか。
「サクラを望むと言うことは、ダリアを捨てると言うことだぞ?」
「そんなことにはならないよ。ダリアのこともちゃんと大切に思っているし、これからも守っていく」
「守る、か…」
「スザク、どうしたんだい?大丈夫だよ。ダリアはしっかりしているから」
そう、彼女はしっかりしている。生きていくために、大人にならざるを得なかった。
「気づいてなかったのか?」
「何を?」
「サクラはダリアに話しかけたことはない」
「っ…それは、」
「侯爵家の嫡男であるお前が選ぶのは、長きに渡って責任が生じるんだぞ?」
「彼女は、優しくて素晴らしい人だっ」
「では、ダリアは違うのか?」
「いや、そんなことないけど…サクラは守らないといけないんだよ」
「黒髪のダリアより?」
「それは…」
顔に迷いが生じている、あと一押しか?
『敵に塩を送る』と言う考え方は理解できないが、ダリアのためならそれも良かった。自分が彼女を幸せにしたい想いもあるが、それ以上に彼女自身が望む幸せの形で、生きてくれれば其れで満足だ。自分のことは後回しで良い。生まれた時からの責務から逃れる訳にはいかないから。だが、ガイが他の女を選ぶなら話は別だ。
侯爵家の中で、血の繋がらない黒髪の女を、結婚相手はどう思うのか。
今は両親がいるから良いだろう、ではその保護がなくなったら?ダリアより先にガイが死んだら?未来は、簡単に想像がつく。
「ガイ、…スザク様。どうしました?」
「サクラ」
「呼び出したのに遅刻するんですもの。迎えに来ましたわ」
にっこり、と微笑む少女は自信をつけたのか強引にガイの手を引く。どんなに睨みつけても、その表情は変わらなかった。
気まずそうに佇むガイに言葉を投げかけようとした瞬間。
「行きましょ?」
「…あぁ、」
ちらり、とスザクを一瞥したガイが促されるまま歩き出す。もう引き留める気はしなかった。
「それで、良いんだな。」
去っていく背中に呟く、彼は選んだ。彼女にとって最悪の結果を。
異国の地でせいぜい後悔するが良い。自分が進む道も決して平坦とはいかないが、この国で生きるよりはマシなはずだ。
本来なら悲しむべき結末だが、自分の本望でもある。
黒髪の少女を連れていけば、より一層祖国では生きやすくなる。何より、自分の隣に彼女がいることに歓喜した。
ただ、これから見る彼女の泣き顔を見たくない、そんな自分の身勝手さを苦々しく飲み込んだ。
2015/2/26
ご指摘通りとはいきませんが、わかりづらい表現を少し変えてみました。