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思い出の日々―イベント発生?―<スザク視点>




澄んだ空を背景に、皇帝ダリアが咲き誇る。短日性植物なだけあって、ようやく大輪の花をつけた頃には冬を迎えていた。







少女は神出鬼没だ、体が一つで足りないと言うように校舎を走る姿を何度か見かけた。生徒会室にも入り浸っているらしい、役員でもないのに。

くすくすと笑う姿は妖精のように無邪気で、誰もが光属性の少女を褒めちぎる。

だからこそ、スザクは無関心だった。


「スザク様っ…あの、」


学園の理事長室で祖国へ定期的な報告をしているのは、ごく一部の人間しか知らない。

理事長室と校舎を結ぶ唯一の廊下で、呼び止められたのは想定外のことだ。

何故、ここに?怪訝な顔をしたのはわかっていた、そしてその表情は他者を怯えさせることも。


「スザク様が10歳の時にファントム王国に留学に来たんですよね?」

「あぁ、そうだが」


スザクの機嫌がわからないのか、少女は話を続ける。ガイがいるときは必要以上に近寄らないというのに、今日はどうしたことだろう。


「覚えていませんか?町外れの、桜の木の下で…」


上目遣いでスザクの顔を見詰めるチョコレート色の瞳、首を傾げると艶やかなピンクの髪が揺れる。


『お前、……してやる。だから、泣くな。』


蘇ったのは、幼い日の記憶。異国の地に逃げてきた自分は、あまりにもがんじがらめの生活に嫌気をさし、保護してくれた公爵家から抜け出した。文化の違いなど知らず、街に行った少年は絶望する。祖国で愛されていた黒は、この国では異端の証だったのだ。

散々迷った末、町外れの桜の木に避難した。そこで出会ったのは…。


改めて、少女を見詰める、春の訪れを告げる髪色は幼い日に会ったあの子と同じ。

期待に満ちた眼差しに、笑みが浮かぶ。


「スザク!思い出したのねっ」


喜色満面にすり寄せてきた身体、スザクの腕に抱きつこうとした少女を躱し、片手で制す。


「えっ…?」


意味がわからない、そんな顔をされても不快感が募るだけ。

眉間の皺が深く刻まれるのがわかった。


「何を言っているのか、わからないな。親しく呼び捨てにされる理由もない。」

「そんな、…嘘。だって、約束、したじゃない。あの時!桜の木の下でっ…!」


悲壮感さえ漂わせて、叫ぶ。美しいと世間に評価される少女は、スザクにとってそこらへんにいる小娘と一緒だ。祖国に帰ればピンク色の髪は珍しくないし、治癒魔法なんて不確かなものよりちゃんとした医療の方が信用できる。怪我を治す治癒魔法は便利だが、万能ではない。病気には意味がないし、戦時中でもなければ大きな怪我をする確率だって少ない。稀に生まれる光属性に頼るより、発達した医療ならば大勢の人が救えるだろう。シン国はこの国よりも遙かに医療レベルが上にある、それは生まれ持った才能に胡座をかく国民性ではないから。


「何のことか、さっぱりだな。ルーベンス家に喧嘩でも売っているのか?」


次期皇帝であり、ファントム王国の国賓でもある、自分と親しくして良いのは許可した者だけ。それを教えるわけにもいかないので、世話になっている公爵家の名前を使う。王族の血筋が混ざっているだけあって、公爵家の中でも位は高い。

呆然とする少女に、今度こそ微笑んで見せた。


「ガイの想い人で有る限りは何もしない。」


去り際に耳元で囁く、つまり俺自身は敵であること。


「…そ、んな。」


信じられない、震える身体を自分で抱き締める様は哀れに思うが同情はしない。

自分だけは特別、そんな勘違いをしている奴は大嫌いだ。









まるで、昔の自分のようで。



フラグ、叩き折りましたっ☆

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