そうして私はドナドナされました。
窓に触れる手先がどんどん冷たくなっていくのがわかる。
それでも、動けずにいた。
「君の笑顔に癒されていて、いつの間にか、好きだったんだ…」
「っ、…私も、です。私もずっと、好きでした!」
声が聞こえなくても、そう言っているのがわかった。
金髪碧眼の絵に描いたような王子さま、そんな風貌の彼に、ピンク色の髪に可愛らしい笑みを浮かべて少女は抱きつく。
ぽたっ…と床に落ちたのは自分の涙。
窓一枚の隔たり、眼下にいる二人の姿、その雰囲気はこちらまで幸せが伝わってくるのに、素直に祝福できない自分がいた。こんな日が来ると、わかっていたのに。
「珍しいことがあるものだな。お前が泣くところなんて、一生見ることないと思っていたのに」
誰もいなくなった教室だから涙を拭き取ることもしなかったのに。急いで頬を拭い、勝手な侵入者を睨み付ける。
「涙目でそんな表情をしたところで、男を煽るだけだぞ」
「…っ!」
扉に寄りかかるのは黒髪に黒の瞳、この国で不吉とされているその色は鋭く私を見据えている。威圧感を含んだ眼差しは、絶対者のものだ。生まれつき人の上に立つ者の。
「行こうじゃないか。黒髪のお前に、この国は生きにくい」
どこに?と聞くのは愚問だ。差し出された手は、微動だにしないダリアの手を無理矢理握る、大きく鍛えられた手は思ったよりゴツゴツしていた。
そう、私の髪の色は漆黒で、闇と混沌を表す其れは。この国では迫害の目印。
「留学など無意味だと思っていたが、これほど面白い結果になるとはな」
思わず笑い始めるんじゃないか、たった今失恋したばかりの少女を目の前に。そう思うほど彼は上機嫌だった。
「安心しろ。悪いようにはしない」
にやり、と不遜に笑う美青年。文句の一つでも言ってやりたいが、涙を飲み込むので精一杯の私には生憎と声を出す術がない。
そうして、私はドナドナされました。