新聞の一
焼き直しについての事情は活動報告にのせました。
5月という季節は、
入学式から一ヶ月、
新一年生は、新しい学校生活もようやく落ち着いてきた時期である。
我々上級生も、だんだんクラスに馴染んできて、
この新しいクラスが机が自分のものになったという気分になれる。
しかし、教師いわく
この季節は、貴様らにとって一番中弛みしやすい時期である。
定期テストも近いことだし、しっかりしたまえ
とうるさく言われる時期でもある
ただ、最初の定期テストとはいっても
一年生の時の復習と多少学んだことしかでない。
まぁ、予習復習しているものにとって、最高学年でもないかぎり、
そこまで本気にならなくとも大丈夫であると皆が思ってしまうのだ
かくいう俺もそうで、
中間テストよりもむしろ
自分の部活の――俺は新聞部である―――新聞作りの仕上げにどうしても頭が行くのである。
「よし、おしまいっと」
原稿用紙に乗ってる消ゴムのカスを椅子のしたの屑入れにぱっぱと払った。
多少屑入れの外にカスが落ちてしまったが気にしない。どうせ中間テスト終了位には掃除をしてくれるのだからときれい好きなあいつの姿を思い浮かべた。
....彼の机は一見整理整頓、さっぱりしているようだが、机の下はごみだらけである。
彼の名は、石橋直守
....ご覧の通り第一印象は、さっぱりしている男だがしばらくいると適当な男であるとよくわかる人物である。
スクールバックを手にとって肩にかけた。
....今日の業務はおしまい。明日...明日で終わらせられるはずだ....
と机の上の原稿用紙を傍観している。
幾度も遂行しなおした痕があり、紙が弱っている。
そして、数時間では終わりそうにもない白い砂漠が原稿用紙の大半埋めていた。....本当に明日で終わるのだろうか?
少しだけ心配になった彼は、家に持ち帰ろうと思い、水玉模様のクリアファイルにいれて、バックに詰めた。...いや、このままでは、バックに入れたまま忘れてしまうのではないかと机の上の隅にポツンと転がっている付箋の束から一枚剥がし、シャーペンで文字を書いた。
[新聞。]
....どうも味気がないな。もう少し書き足してみよう...
[新聞忘れない]
「なんか違うな....」
もう一枚付箋を剥がし、
[新聞、僕を忘れないで]
「うむむ。」
[新聞あと10枚のこってるぜよ。]
....
彼は、またなんか違うねぇと首をひねりまた一枚付箋を剥がそうとすると
首筋から冷たいものが当てられた。
「あぽろっ」
「13号?」
俺は、冷たいものを押しつけてきた奴の顔を見ようと後ろに振り返った。
「後ろには、一瞬女子と見間違えるぐらいの顔立ちの整った男子がいた!」
「それはなんだか過剰表現ぽいし実際女子だし、それに見間違える(ぐらい)よりも(ほど)の方が僕的にはいいかなぁ。」
そう言ったのは同級生の茅野葉実である。
茅野は、なるほど確かに男子っぽい、ボーイッシュ?な雰囲気を出しており、
男子便所に紛れ込んでいてもばれないような顔立ちである。
しかも髪が短めなのがますます女子ぽさが消えていっていてこいつ前世は男だったのかなぁと本人の前でそんなことを思い浮かべていた。
その本人、茅野は首を傾げた。
何をじろじろ見てるんだろ?と考え、ぴんときた。
彼の目が自分の体をじろじろ物色してたからである。彼女は、呆れたような表情をして、
先程の冷たいものの正体..冷たい水で濡れたタオルをパイプ椅子の背もたれからとって
タオルをグッグと大きく伸ばし、
シワひとつたたないように丁寧に半分に折り、
そのタオルを切り揉み上に絞って、そのタオルを大きく上に振り上げ....あれ?ひょっとしてこれ....
ズガァンと部屋中に痛々しい音が鳴り響いた。
どのくらい響いたというと今、校庭で走り回っている野球部諸君が、思わず足を止めて音の出所を探してしまった程らしい。
「いたぁい!」
石橋は激痛で顔を歪めた。
ただの布だと言うのにまるで拳でぶん殴られたような痛みが頬を襲う。
こんなことならビンタの方がまだ、ましである。
とはいえ殴られたまま何もしないと言うのは、男としてどうかと思うので精一杯の反撃をすることにしよう。
「な、何をするだぁー。」と某英国紳士みたいな事を言った。
彼女は、言った「何、じろじろ視てるの!ヘンタイ!」
ヘンタイ発言された。
俺も反論をする。
「だからって殴ることないだろ!」過剰防衛だ過剰防衛だと抗議する。
彼女は、「それは、やりすぎたかなぁ?」
と首を捻る
俺はここぞとばかりに反撃をした。「うんめっちゃんこ痛い。」と頬をさわさわ撫でる。
激痛は、まだ残っていた。俺は彼女の次の言葉を待ったしかし返ってこない。
どうやら、この勝負俺の勝ちだな!
閑話休題
さて、彼女に慰謝料としていつもの店のチョコレートパフェ求めた所で(しかし今日は持ち合わせがないからできないと言うことで明日辺りにさせてもらうことにした。)
場所は、学校の玄関に移る。せめて自分が言う言葉だけは覚えておいてほしい。まぁ元々物覚えが悪いやつだし、いざというときの判断にもあまり得意ではない...あれ?こいつもしかして何もできn
「はっ」
彼女の頭上にエジソンの電球が浮かび上がった。
「重要なのはニッポンの竹です。」
玄関のドア窓から
野球部がシュシュぼっぽと声を会わせながら、駆け足で、校庭を駆け回っているのが見えた。
走っていて苦しそうな顔をするやつもいれば悦に入った顔をしたやつもいる。
うちの学校の野球部顧問がかなりスパルタなので、校庭十周でもしてるのだろう。
一年生の中には、その厳しさで、やめるやつも多いようだ。
しかし、そのきびしさを耐えきったやつらは言う。
「うちの部活が強豪である理由はしごかれたなかで励まし合うことで、お互いの心もまた固まっているのだ。」と言ったのは野球部の部長である。
俺は、前に野球部に取材をしにいったことがあってその時に言われた事だ。
そしてその中で彼にドヤ顔で言われた。誇っていた。そして何よりも後ろにいた野球部連中もドヤっていた。あの時は暑苦しかったなぁ....
まだ夏ではないが、皆、ユニフォームが、まるで雨の中にいたのではないかという位汗だくであった。
野球部は、青春の汗をかいていた。
春の選抜に向けて、栄光の...「ところで、新聞終わった?」茅野のその一言で野球部の興味を失った。
しばしの沈黙のあと、俺は言った。
「....終わらん。」茅野は唖然とした。そして
「...マジ?大真面目?」
彼女は俺に対していった。
俺は上履きを脱ぎ下駄箱の靴を手に取った。
そして言った言いたくないが。
「....あと原稿用紙10枚ほど」
「マジすか。」
茅野はショックを受けていた。
顔には驚きを隠せない表情をしていた。
「どうして終わってないの!あんなにじかんあったのに!」
俺は歯を食い縛った。
だが、食い縛ったんじゃあ喋れないので口を開いた。「ネタが....無かったんだ......」「だからって、だからってやっていいことと悪いことがあるでしょ...」
「..ううううわぁ!」
俺が嘘泣きを始めた所で茅野は、ぱんと手を叩いた
「はい、遊びは、ここまで!ネタとかについては後日話しましょう。まだ締め切りまで3日あるからね。」3日ねぇ。
俺は、ため息をつく。
終わりますかねぇ。
中間テストまでに....
うちの学校は、運動部だとテスト二週間前、文化部だとテスト3日前まで活動を行う。
うちの学校の運動部は、野球部程ではないがスパルタである。
そのスパルタに耐えきれないもの達が集まったのが文化部といわれる。
オレ?
オレは、ほんとは空手部とかそこら辺にでも入ろうかと思ったけど、
ないらしくて....仕方ないからかつて姉がいた新聞部に入?ふぅやれやれと汗を手の甲で拭うと後ろから呻き声が聞こえた。
何かなと振り向くと自転車を取り出せなくて困っている茅野だった。
「た、たしけてー」
と彼女は、泣きそうな目をしていたので
手伝ってやった。
「やっぱり力あるねー運動部には入ってないくせに。」と俺の腕を撫で撫でと触る。
なんだかむずかゆい。
周りの生徒の視線に気づいて慌て静止させた。
自転車に跨がりペダルを回す。茅野の「じゃあ行こうか」を合図に自転車を走らせた。
ジャリジャリとアスファルトの上を猛スピードで走る「茅野ォォスピードをアゲロォォ!」
俺は、ギアを最大の5から4に落とした。
そうすることで5での中間スピードから4の最高スピードにするためである。
また自転車を軽くするためでもある。
さてなぜ、こんな猛スピードで走っているかというと
目の前に急な坂道があるからスピードがないと登れないのである。
「息酔風帰困坂」(いきよいふーきこんざか)
と言われるくらい急な坂である。(というかセンスがないネーミングである。)
登校時は、風を斬って一気に滑れて、夏の時には、爽快感マックスだが、帰りは、逆に急な坂道を登らなくてはならず、帰路につく生徒たちの顔が、ふぅふぅ息を切らす。
今の俺達がそうだ。
「がんばれ....まだだ....まだ終わってなぁい....」
自転車が息を切らせてぎっぎっと軋んでいる。
立ち漕ぎで、一気に昇る。足の倦怠感が凄く、気を抜いたら倒れてしまいそうだ。この坂の傾斜はそれほど凄い。
雨の時には川のように水が流れて行くのである。
その光景はなかなか迫力がある。
茅野が、ついて来ているか後ろに振り返ると彼女は、俺より二三メートル離れた場所で、
苦悶に満ちた表情ながらも足を動かしていた。
「もう少しだ!がんばれ!」なんて言ってると
運動部の連中からひゅーひゅー熱いね。ぴー!
などと聞こえてくる
やはりこの坂はスパルタ練習にはもってこいの場所なのである。こういうことも運動部に入らなかった理由の一つである。
まぁ、小中学生の時にさんざん合気道で、しごかれつづけた自分にとって、空手すらない運動部は、全く興味を示さなかったというのもあるが。
さて、ようやくこのいきよい坂にも終点が見えてきた。
俺は、ラスト一気に自転車に筋肉をフル作動させて登りきった。
茅野は、大丈夫だろうか?と見ると
彼女途中力尽きたらしく自転車から降りて歩いてた。
数分後ようやく彼女も頂上についた。
「全く相変わらず無駄に傾斜があるねーこの坂」
エレベーターでもつければ良いものをと愚痴る。
しかしこれ、あまり体力を使わない文化部だから愚痴を言えるのである。
もしも運動部だったら頂上で愚痴る体力などもはやないだろうただ無表情に坂道をのぼり誰も口を開かない。先ほどせせら笑ってた奴等も一時間後家にかえる時には燃え尽きていることだろう。
茅野は、太陽を指差して言った。
「わぁー凄いねー」
夕陽は、既に沈みかけている寸前の強い朱色の光線を出していた。
俺は眩しくて目を細める。「綺麗だ....」
と呟いた。
「ギラギラギラギラ」
「まんまかよ」
くすりと笑うと
彼女も冗談言える程度の体力が戻ったと解釈し
さてもう一漕ぎと自転車に跨がった。
何もおかしいところがない、平和な日常。
きっと今日も明日もこうやって終わるのだろうと思っていたのだが。
太陽のそばに
暗雲が辺りを立ちこめて、先程までの輝く太陽は、そこに隠れてしまい
しばらく太陽光は見られそうになかった。