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忘れたい記憶

10分以下


女「唐突に聞いてもいいかな」


男「…え?」


女「暇そうにしてるから、ちょっと声かけてみたんだけど忙しいの?」


男「どういう意味かな…」


女「だって、さっきから携帯見てるか時計見てるかどっちかなんだもの」


男「待ち合わせしてるんでね」


女「じゃあ、その人が来るまででいいわ。彼女なら私から説明してあげるから付き合ってくれないかな」


男「…まあ、いいですけど」


女「そう、良かった。貴方って、お人好しそうね」


男「それって質問と関係ありますか」


女「ないわよ。なんとなく思ったから言っただけ。気にしないで。それで、聞きたいことなんだけど…貴方って忘れたい記憶とかってある?」


男「忘れたい記憶…ですか」


女「どんなことでもいいんだけど、例えば小さい頃に好きな子をいじめてたとか、テストで赤点取ったとか何でもいいわ。ある?」


男「ありますよ、生きてれば少なからずあるでしょう?」


女「それって本気で忘れたいって思わない?」


男「…まあ、消せるなら…」


女「そうよね、うんうん。普通よね」


男「なんなんですか…?」


女「私も忘れたい記憶があるんだけど、なかなか消えないのよ。ふとした時、例えばそうね…音楽、そう!音楽とか聞いてると会話を思い出しちゃったり、辛かったなあとか悲しいなあとか文句言いたいなあとか思うのよ」


男「確かに…マグカップ見つめてあの時は仲良かったんだけどなとか、このカップは出会って一週間後に二人で買ったなあとか、お揃いなのを無邪気に笑い合ったりとかありますね…」


女「そこから私は一歩も動けなくて、どうしようもないことってあるの」


男「どうしようもなく寂しくて会いたいなとか話したいなとか声が聞きたいなとかありますね」


女「辛かったり楽しかったり記憶にあるとどうしても思い出しちゃうから忘れたい、消したいって思うけど消えたり忘れたり出来ないじゃない。出来ないから苦しいんだけど」


男「そうですよね」


女「貴方は消えたら楽だと思う?」


男「…いいえ、少なからず楽しかったり辛かった時期に学んだことがありますから」


女「学んだこと…」


男「まあ、簡単に言っちゃえば、似た女とは付き合わないとかね」


女「なるほどねえ、そういう考え方もあるわね」


男「だから、忘れたいし消したいけどいいかなって思います。貴方は消したいんですか?忘れたいんですか?」


女「…消したいわね」


男「ざっくりモノを言う性格って言われません?」


女「ちょっと!!それって関係ある?」


男「ちょっとした仕返しです」


女「もう。…でも、本気で消えちゃったら…それはそれで寂しいかもしれない」


男「その人に出会ったから学んだこと、やっぱりありますよね」


女「ざっくりモノを言うとかもそうだし、彼じゃなきゃ知らなかった世界観もあったわ」


男「忘れたい記憶って今が辛いから忘れたいだけで、きっと役に立つような気がするんです」


女「今が…辛いからか」


男「ええ。最近別れたんですか?」


女「いいえ、結構前ね。一か月前かしら。いや、二か月前かもしれないけど今は彼氏がいるから」


男「羨ましいです。俺は、昨日別れたんです」


女「…ごめんなさい、こんなことに付き合わせて」


男「いいえ、いいんです。なんだか、誰かに聞いて欲しかったのかもしれないと今になって思います」


女「待ち合わせは嘘なの?」


男「待ち合わせてますよ。昨日より前に約束したデートの待ち合わせです」


女「別れたなら来ないんじゃないの?」


男「そうですけど、やり直せないかなって…。でも、貴方と話していたら無理だなって思いました」


女「忘れたい記憶の話でどうしてそうなるの?」


男「昨日のこと忘れたいって思って彼女に連絡して待ってると伝えました。でも、それは俺のエゴでしかなくて彼女はもうその気はない。忘れたいって逃げてるだけで彼女から学んだことや俺の誤りから逃げてるだけで、もう彼女は戻らない」


女「…そうね」


男「だから、忘れないで次に行こうかなって」


女「次に…?」


男「もしかしたら次の彼女はもっといい女かもしれないじゃないですか!」


女「そうかしら?わからないわよ?」


男「少しくらい希望持って歩かないとつまずいちゃいます」


女「…忘れたいことを、忘れないまま歩いていく…かあ。私は彼氏の後ろでまだ前の彼のことを引きずってて、思い出すたびに後悔してばかりで…。忘れたいって思うけど」


男「悪いとこばかり見てるからじゃないですか?」


女「悪いとこばかりよ」


男「なんで好きになったんですか?」


女「それは…」


男「悪いとこばかりだったら好きにならないじゃないですか」


女「…そうね。確かに、そうかもしれないわ。かもじゃないわね、そうだわ」


男「だから、前に進んでもいいんですよ。今の彼を大事にして今の彼からも学んでしまえばいいんです」


女「…なんだか、長いこと付き合わせたわね。待ち合わせじゃなくなったなら、もう行ったほうがいいんじゃないかしら?」


男「あぁ、そうですね」


女「話せて良かったわ」


男「俺もです」


女「また出会えたら話しましょうね」


男「ええ。貴方も頑張ってください!」


女「ありがとう」


男「それじゃ、もう行きますね!さようなら!」


女「ありがとう…、私がもっと早く貴方に出会えてたら…こんなことにはならなかったんだけどね」


男「え…?」


男「…あれ、俺…誰と話してたんだろう」


女「さあ、次の獲物が来るまで何年かしら…ここから動けないんじゃ、地縛霊じゃどうしようもないんだよなあ…うふふ」






終わり

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