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新米兵士と黄金竜  作者: 春野なお
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竜の集落

 赤竜が見えなくなりカインが緑竜を見ると、相手にも品定めするかのように見られていた。


『改めて竜の住む谷へようこそ』


 全身を観察されてから、緑竜の目が優しく細められ、右前足が差し出される。

 これは握手をするという事なのだろう。カインはそっと鋭い爪を握り、軽く振った。


『ところで今更なんだが、名前聞いてなかったな。俺はここのリーダーの補佐をやっているセシルだ』

「えっと、カインです」


 自己紹介をしてふと思ったのは、あの赤竜達に名前を教えていなかったような気がする。


『それからジンの息子のルー』


 セシルの後ろから興味津々の顔で覗いていた小竜が、カインの前へと歩いてくる。

 竜も嬉しいと尻尾を振るのだと、新たな発見をしながら挨拶は無事に終了した。


 セシルに竜達の住む場所の説明を聞き、攻守共に機能的に作られている事が分かった。

 いくつもある穴は奥で繋がっているらしく、住居以外は共同生活を送っているらしい。

 この場所は自然に陥没して出来た土地で地層も比較的柔らかく、森のど真ん中という好条件にリーダーであるジンが決定を下した。


『上からも見せたけど、森の木々が囲いになっていて敵からも見づらい。ここには俺達のような戦士だけじゃなく、女、子どもも沢山いる』


 人間や過激派の竜から守る為に、セシル達は努力しているのだろう。


『カインには悪いが、俺は人間を信用していない。見た所、何も持っていないようだから中に入れた』


 竜と人間の争いは百年前に終結し、カインは教科書でしか知らない。

 ただ竜は数百歳の単位で生きているのだから、当時を知る竜は多いだろう。


「セシルさんは何歳なんですか?」


 リーダー補佐というくらいなのだから、人間との争いどころか遥か昔から生きているのではないかと思った。


『詳しい数字は忘れたが、人間が王都を作る前から生きている』

「作る前って」


 確か建国されてから五百年近く経っていると、授業で習った記憶がある。

 それよりも前から生きていると言われても、どう態度に表していいか分からない。


『竜は長生きするが精神年齢はゆっくり進む。見た目は人間と同じだ』


 見た目と言われてセシルが何歳くらいに見えるか考えてみる。カインには、竜を人間に換算する事は出来そうになかった。


「失礼ですけど、人間だとどのくらいなんです?」


 セシルとルー、キルとキラを比べてなら風格や態度から年上だと分かる。ただセシルが自分の隊長と同じかどうかは分からない。


『人間でいうと三十半ばくらいだな。竜の中でも一番力が強い時期だ』


 という事は隊長とほぼ同じだ。セシルを基準に考えれば、ここにいる竜の年代も分かる気がした。


『さてこれからどうする? ジンはいつ帰ってくるか分からないし、この辺りなら見学していても構わないが』


 カインは辺りを見回し、広場から一階部分のある穴に続く階段に驚いた。

 いやここに住んでいるのは竜なのだから当たり前の事なのだろうが。


「ここで景色を眺めています」


 さすがに一段がカインの腰辺りまである階段を上りたいとは思わない。


『なら竜の住処を堪能して行ってくれ。俺は仕事に戻る』


 セシルはそう言って空へと飛び立って行った。残されたのはカインとルーだけだ。


「君も戻っていいよ」


 カインが笑顔で言うと、なぜか逃げるように去って行ってしまった。少し淋しく思いながら、近くの段差に座る。

 さっきから薬草を塗られた足首が、暖かくそして痛い。治療が必要なのは足首だけで、体にある打撲は自然治癒に任せるしかない。

 カインはなるべく体を動かさないように、働く竜達を眺めていた。

 流れていく平穏な風景を堪能していると、背中をつつく感触がして振り返る。


『これ』


 そこには小竜のルーがお座りの体勢で待っていて、その前には葉っぱの皿に載せられた木の実があった。


「俺に?」


 こくこくと頷くルーに、カインは木の実を摘んで視線の高さまで上げてみる。

 どこにでも生っている木の実に安心し、皮を割って中身を口に入れると香ばしい味がした。


『人間は剥いて食べるんだね』


 ルーはカインが食べる様子をじっと見ている。時折、木の実に視線を向けている事にカインは気付き、皿を押してやった。


『食べてもいい?』


 今にも涎を垂らしそうなルーに、カインはもう一粒だけ貰い、後はあげる。

 そのまま口をつけてガツガツ皮のまま食べるルーを、カインは唖然として見ていた。


『人間っていい奴だな』


 それからすっかり懐かれてしまったカインは、のし掛かってくるルーを押し返すのに必死になっていた。



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