四
最終話です。
村のただなかを、夏美は必死で走った。
止まることはできなかった。
背後を振り返ることすらできずにいた。追ってくる百合江を目にしてしまったら、自分がどうにかなってしまいそうだった。
中心部からだいぶ離れ、雑木林が目立つ斜面にたどり着いた頃、夏美はようやく背後を振り返った。
荒い呼吸を繰り返しながら、百合江のいた家を探す。
村は闇の中に沈んでいた。ひっそりと、変わらず穏やかな風景が広がっている。夏美が目にしたものはまるで夢だったかのような、そんな錯覚すら覚える。
百合江の姿も、追ってくる様子もない。
少し落ち着いてきて、夏美は首の汗を拭う。
すると、百合江の家の玄関口にぽつりと人影が出てきた。
夏美は慌てて近くの茂みに体を隠し、息をひそめた。呑気に見つめている場合ではないことはよくわかっていたが、確認せずに走るのも怖かった。
人影はあまり急ぐ様子もなく、ふらふらと頼りない風情で通りを歩いてくる。その細いシルエットからはよくわからないが、おそらく百合江だろう。
やがて、近くの民家の明かりが付いた。その玄関口に人影が現れる。そうこうしているうちに、遠くの家までぽつぽつと明かりがつき始めた。まるで呼びかけているかのように、次々と通りに人影が現れる。
けれど夏美の耳に届くのは静寂ばかり。風の音と葉擦れの音。
息を押し殺して夏美が見守る前で、人影はぞろぞろと通りを歩いてくる。こんなに大勢の人間が住んでいたのかと驚くほどの人数だ。彼らは皆、一様に無言だった。ただ黙々と歩いている。
夏美の後を追うように。
背筋に悪感が走った。
震える手足を叱咤して、夏美はそろそろと茂みの中を移動した。
大きな音を立てるのは怖かった。もし見つかったらと思うと、恐怖で発狂しそうだった。
夏美は人々の影を横目に、道なき道を移動する。
月光にうっすらと浮かぶ夏草。かさかさと騒ぐそれにいちいち怯えながら、雑木林を奥へ奥へと進む。
どこをどう進んでいるのか、方向感覚はなくなっていた。ただあの人影から逃れたい。その一心だった。
周囲を見渡すと、上方に薄く白い線が見えた。ガードレールだと思い至る。それならばトンネルがある。そこから町に戻れる。
白いガードレールの線を目指して、夏美は茂みを急いだ。枝葉が顔に当たるのも構わず、茂みを掻きわけて進む。
茂みを抜け、斜面を這うように登って、アスファルトの道路に出た。
人工のその路面に、訳もなく安堵した。
やっとの思いで道路に踏み出し、夏美はぎくりと足をとめた。
闇の中にぽつんと浮かぶ人影。
真っ白なTシャツが、目を引く。
月光に照らされて、足元に長い影が伸びていた。
「どうしたの?」
「……聡さん」
肩で息をしながら、そう呟くのがやっと。
「すごい汗だ。顔色もよくないし……こんな夜中に一体どうしたんだよ。とりあえず戻ろう」
駆け寄ってきた聡は、言って心配そうに覗きこんできた。普段と変わらないその様子に、僅かに夏美は安堵する。
「あ……私」
どこから説明をすべきか迷った。
中庭の血まみれの少女。
百合江の白い顔。赤い唇。
思い出して、恐怖が蘇る。
「いや!」
伸ばされた聡の手を咄嗟に振り払って、夏美は後退った。
聡が驚きに目を瞠る。
「夏美さん?」
「私……私、帰らなきゃ」
目の前の聡は、夏美の目にも普段と変わりなく映った。恐ろしげな様子も、不安を掻きたてられる要素もない。ただ、突然の夏美の反応に驚いている、そんな風に見えた。
「帰る? そうは言ってもなぁ……こんな夜中にバスは通らないし」
「歩いて帰る……そこ、どいて」
聡の背後にはトンネルがある。
夏美がここに来るときに、バスで通過したトンネルだ。そのトンネルを抜けて歩き続ければ、町にたどり着くはずだ。
けれど、夏美には聡を避けてそのトンネルを目指す勇気はなかった。
別段、聡がトンネルの入口に門番のごとく構えているわけではない。聡はただ、夏美の向かい側にいる。それがたまたまトンネル側だったというだけに過ぎない。
「聡さん、お願い、どいて」
手足が無意識に震える。その震えの意味も、胸に渦巻く不安の意味もよくわからない。
夏美の懇願に、聡は困惑気味に首を傾げた。
「どくのはいいけれど……歩いて帰るなんて危険だ。夜中だよ、何があったの?」
心配そうに尋ねるそれに、答えようと口を開きかけて、夏美ははたと気付く。
「聡さんこそ。どうしてここに」
彼の言うような夜中に、一体何をしているのか。
寝静まった家を夏美は飛び出してきた。当然、聡はまだ家の中にいるはずだった。それが夏美よりも先にこの場にいる。
「何をしていたの」
尋ねる声が震えている。
聡は答えない。黙って、夏美の真意を計るように見つめている。
永遠にも感じられる沈黙のあと、聡が溜息とともに呟いた。
「夏美さんを止めにきたんだよ」
じゃり、と小石を踏んで、聡が夏美に近寄る。
夏美は気圧されるように一歩下がった。
「本当に、帰るつもりなの?」
夏美は頷く。
帰りたかった。一刻も早く、ここから逃げたかった。
「戻るの? あそこに、居場所があるの?」
鼓動が跳ねる。
居場所。
耳に電話越しの母の声が蘇る。
『結婚するから』
「もう彼女はしあわせなんだよ、夏美さんなしでも」
その通りかもしれない。
母は、幸せになれる。
夏美のために犠牲にした時間を、これから埋め合わせていく。ならばその人生に、自分が現れることは既に邪魔でしかないのではないだろうか。
電話が来てからずっと、密かに繰り返してきた問答。
母の結婚相手の前に自分が現れることは、母にとってマイナスでしかないのではないか。もう何年と顔をあわせていない娘。今頃、会う理由はどこにあるのか。
お前さえと疎む母の声が耳に蘇り、夏美は体を震わせる。母の夜叉の表情が、網膜に焼き付いて離れない。
「辛いことが待ってる。今までも、そうだっただろう」
小石を踏んで、聡が近づく。
その両目を呆然と見つめて、夏美は立ち尽くす。
「いままで……」
「恋人は親友の元に。何年も会っていない母親と、顔も思い出せない父親。その母親も結婚する」
君は、ひとりだ。
そっと聡が囁いた。
すうっと血の気が引いていく。
誰も自分にはいない。
ただひとり。
ならば自分はどこに帰るのだろう。
ぐらぐらと足元が揺れる。
恐怖と不安で、夏美は余裕をなくしていた。
でなければ、話したことのない夏美の事情をすらすらと口にする聡に、疑念を抱いた筈だ。怪訝に思い、警戒しただろう。けれど、このときの夏美にはそれに気付くだけの余裕がなかった。
突きつけられた現実に、ただひたすらに怯えていたのだ。
「ここにいよう、夏美さん」
間近で聡が言う。優しく、穏やかに。
「俺と一緒に帰ろう。大丈夫だよ、ここなら辛いことも怖いものも、何ひとつない。寂しい思いなんてさせないよ」
差し出された優しい手に、縋りつきたい衝動に駆られる。
このまま聡と帰れば、色々な苦しみから解放される気がした。
そうだ。帰ろう。
夏美はよく回らない思考で繰り返す。
帰ろう。きっと怖いものは何もない。帰るんだ、あの場所に。
聡の吸いこまれそうな双眸を見つめたまま、夏美は無意識に手を伸ばす。
ちりり。
不意に、微かな鈴の音がした。
くぐもった、鈴の音。
冷たい風が夏美の頬を撫で、視界が開けた。
手を伸ばしかけた不自然な体制で、夏美は動きを止める。
違う。
これは、違う。
ここは、おかしい。
「夏美さん……」
我に返って、呼びかける聡を見る。
歪んでいる、と感じた。
見た目が、ではない。その姿は普段どおりの聡であり、どこにもおかしな点は見受けられない。けれど、夏美の感覚が違和感を訴えていた。
感覚で夏美は理解する。
ここにはいられない。
「だめ……」
首を振る。
聡が訝しげに夏美を見た。
「やっぱり駄目、ここにはいられない」
「どうして」
「だって……」
ここは何かがおかしい。
歪んだ、閉じられた世界。
「そこにいるの?」
突然、闇の中に第三者の声が響いた。細く、語尾が僅かに反響している。
夏美は体を強張らせ、声の方向に視線を転じた。斜面の下方から複数の人の気配がする。あの声は、百合江のものだ。
途端に記憶が蘇り、全身に震えが走った。
鮮やかな赤。鮮血に染まる制服。赤い唇。
真紅の、凄惨な光景。
「いや……!」
捕まる、という恐怖で、夏美の思考は埋め尽くされる。
聡の存在など忘れて、トンネルの方向へ駆け出した。
その先が安全な保証などどこにもなかったが、何より百合江が怖くてたまらなかった。
その肩を聡が掴んだ。
はっと振り仰ぐと、真剣な眼差しとぶつかる。
「だめだ」
「放して!」
下から声が上がってくる。百合江が、くる。
聡から視線を外して、斜面を見つめる。木々や草の黒々としたシルエットが揺れる。人の気配がすぐそこに感じられる。
「怖い!お願い放して!」
「駄目だ……」
消え入りそうな弱い声とは対照的に、肩を掴む力は強い。締め付けられる激痛に夏美は一層もがいて、再び聡を見上げ、
息を呑んだ。
闇。
聡の目の中に、光がなかった。
月光を鈍く反射する、闇そのものの眼。
井戸の底を覗きこんでいるような、暗い眼窩。
「行かないで……」
かさかさに乾いた声が唇から漏れる。風の音のような、囁き。
紙のように白い顔からは表情と言う表情がすべて抜け落ちていた。
まるで、離れで見た少女のように。
背筋を冷たいものが這いあがった。
生きていない。
胸に落ちた自分の呟きに、慄然とする。
そうだ、生きていない。
これは、生き物じゃない。
「いや!」
渾身の力で振り払った。
弾みでポケットからストラップが飛び出し、地面に転がる。
ちりん。
潰れたはずの鈴が、涼やかな音を立てた。
聡が数歩、後ろによろめく。
顔を覆い、急な眩暈にでも襲われたようなその頼りない姿に、夏美は冷静さを取り戻した。
「……あ」
胸に罪悪感がこみ上げてきて、夏美は棒立ちになる。
背中を向けて走り出せば、トンネルはすぐそこだ。
姿はまだ見えないが、前方からは百合江や、村人たちが迫っている。
ありありと思い出される、離れでの光景。
怖くてたまらなかった。恐怖で手足の震えがとまらない。
聡もまた、何かがおかしい。
聡の様子にそれを確信した。だがそれでも踏み出せずにいた。
心のどこかで、聡は違うのだと、あれは見間違いだと信じたい気持ちがあった。
「そうか……帰りたいんだね」
聡は片手で顔を覆ったまま、ぽつりと呟いた。
「ご、ごめんなさい、怪我は」
「怪我なんかしないよ」
自嘲気味に笑って、聡は顔を上げた。
その両目には、穏やかな光がある。
内心、再びあの闇の色を見出したら、と戦慄していた夏美はほっと安堵の息を付く。きっとあれは何かの見間違いだったのだ。否、そうであってほしい。
「俺は……俺たちは、怪我なんてしないんだよ……もう」
聡は奇妙な言い回しをして、背後を一瞥する。
「居場所がないまま生きていくことは辛いよ。
戻ったらまた走りださなきゃいけない。辛くても悲しくても、立ち止まることはできない……その覚悟はある?」
「覚悟……」
夏美はぼんやりと繰り返す。聡の言っていることは、夏美には半分も理解できなかった。ただ聡が真剣に話していることだけはわかる。
「そう、覚悟。戻るなら、また同じ……いやそれ以上の辛い現実が待っている。逃げないでいられる覚悟はあるかい?」
辛い現実。
その言葉に幾つかの映像が閃いた。確かに、戻れば辛い現実が待っている。居場所が曖昧なまま、傷口を癒す暇もないだろう。
そう考えると気分が塞いだ。けれど、帰りたいと思う気持ちは変わらない。どれだけ辛くてもきつくても、帰りたかった。母に逢いたいと思った。
夏美が戸惑いながらも頷くと、聡は寂しげに笑った。
「そうか……じゃあ仕方ないね」
背を屈めて、聡は地面に転がったストラップを拾った。潰れた鈴が、ちり、とくぐもった音を立てる。
「俺たちはね、走ることをやめたんだ。ここにいることを決めた。でも、間違いだったのかもしれない。留まっていると苦しくてたまらないんだ。……寂しさに耐えられなくなる」
「聡さん」
「これ、手作りだね」
ストラップを夏美の前に差し出した。
それをそっと受け取って、夏美は頷く。
「そう……母さんの」
「……そうか」
言って、聡は静かに笑った。今まで夏美に向けられた笑顔の、どんな時よりも優しい笑みだった。
「大丈夫、居場所はあるよ」
ストラップを握り締めた夏美の手を指差し、そしてトンネルの向こうを指差した。
居場所。
手の中で、ストラップがほんのり暖かい。
母は、自分を待っていてくれるだろうか。
「君の居場所はちゃんとある……鈴が鳴ったんだから」
「え?」
聡の言葉に思わず夏美は目を瞠る。しかし聡はそれに微笑で応えて、トンネルの先に視線を向けた。
「トンネルを抜けるまで、振り返ったら駄目だ。まっすぐただ前だけを見て」
「聡さん」
何を言おうとしているのかわからないまま、口を開く。
聡は、わかっている、というように頷いて、笑った。
「夏美さんと逢えて楽しかった。でも、もう二度とここに来ないで。……さよなら、夏美さん」
夏美の肩を軽く押して、聡は手を振る。
夏美は首だけでそんな聡を見つめた。
早く帰りたいと逸る心とは裏腹に、後ろ髪をひかれる思いがする。
ゆっくりとトンネルの入口に踏み出した。
トンネルの中は薄暗い。等間隔で、ぼんやりとしたオレンジ色の明かりがあるだけだ。
足を進めると、背中に幾つもの視線を感じた。重く、息苦しい視線。羨むように呪うように、夏美に絡み付いてくる。
後ろを見ろ。振り向け。ここに戻れ。
暴力的なまでに強く訴える視線を、懸命に無視する。気を抜けば、恐怖心ごと囚われてしまいそうだ。 夏美は必死に重い足を動かして進んだ。トンネルを進むにつれ、絡み付く視線の圧力は弱まっていくようだった。
そして、静かな視線に気付いた。何も訴えてはこない、静かで穏やかな視線。
訳もなく、聡だと思った。
目頭が熱くなった。何故だか無性に悲しかった。
優しい視線が、悲しくてたまらなかった。
聡は夏美の背中を見送っている。きっと、穏やかな微笑を浮かべたまま。寂しさに耐えられなくなる、と零した聡の表情が、脳裏に蘇る。諦めたような悲しげな顔。
聡の言葉を思い出すたび、姿を思い出すたび、涙が溢れた。
怖くてたまらなかったはずなのに、気付けばそれ以上の悲しみで胸がいっぱいだった。
前方に白い明かりが見えた。
トンネルの出口だ。
近づくとそれは大きく、明かりは強くなる。眩しくて、眼を開けていられないほどの強烈な光。出口に立つ頃には、前方は白い光で埋め尽くされていた。
外へと足を踏み出したとき、微かに名を呼ぶ声が聞こえた気がした。
耐え切れずに振り返った。その声はきっと、聡だと感じたから。
真っ白に漂白される世界。白く視界が弾ける一瞬、闇の向こうで小さく手を振る姿が見えた。
花束を抱えて、夏美は車を待っていた。
携帯電話を見て時刻を確認する。
そろそろ来るころだ、と思う。
夏美が生まれ育った町の中心。待ち合わせ場所として名高いブロンズ像の前で、夏美は母を待っていた。
季節は秋から冬に移り変わろうとしている。髪を弄る風は冷たく、足元を枯れた葉がひらひらと転がり過ぎていく。上着の前を掻き合わせ、夏美は携帯電話に再び視線を落とす。
揺れるストラップ。鈴が潰れた、ビーズ製のそれを眺め、夏美は記憶をたどる。
トンネルを抜けた後、気付いたら夏美は病院のベッドの上にいた。
母の心配そうな顔を見出し、酷く驚いたことを覚えている。母は警察から連絡があって飛んできたと言った。
夏美は事故にあったのだと聞かされた。実家に向かう途中、乗り合わせたバスが追突事故にあったのだと。夏美はその事故で意識不明となり、三日間生死の境を彷徨っていたらしい。
とてもではないが、俄かには信じられなかった。
トンネルから出た後か、とも思ったがそれでは母の言うこととつじつまが合わない。そして何より、あの家に置いてきたはずの鞄が夏美のベッドの脇に置いてあった。事故の名残か、あちこち破損した状態で。
夢をみたのだろう、と母は言った。
夏美自身、そうとしか思えなかった。意識不明の間に、つかの間見た悪夢。そう考えた方がうまく説明がつく。
けれど退院してから数日後、夏美はふと気付いた。
鞄に付けていたストラップが失われていた。慌てて探したが見つからない。もしやと思い、事故当時着ていたジャケットのポケットを探った。
そこには、破損した状態のストラップがあった。
「夢」と同じように、鈴の潰れたストラップ。
夢じゃない。
あれは、きっと現実だ。
記憶がまざまざとよみがえる。恐怖と悲しみと、せつなさ。
夏美は再び実家に戻ることにした。土日の休みを利用して、寄り道せずにまっすぐ母のいる町に向かった。あらかじめ母に連絡を入れると、車で迎えに来てくれるという。
夏美は迷った末に花束を買った。
言い忘れた言葉を、言うために。
クラクションが鳴った。
夏美ははっと我に返る。顔を上げると、見慣れない白い車があった。一瞬勘違いかと思ったが、助手席に母の姿がある。夏美を見て、微笑んでいる。運転席には見知らぬ男性。おそらく、彼が母の結婚相手だろう。
携帯電話をぎゅっと握る。ストラップの鈴が、くぐもった音を立てた。
「お前さえ」と呟いた母の顔が脳裏をよぎる。母は、今も自分を疎ましく思っているだろうか。真実を尋ねるのは酷く恐ろしく感じられる。それでも、夏美は決めていた。母にとっての自分の存在。それをもう一度、きちんと確かめようと。
自分がもう一度、生まれ直すために。
もう一度、この世界で生きていくために。
『居場所はあるよ』
耳の奥で聡の言葉が蘇る。
そうだね。
声に出さず、呟いた。
例えこの先何が待ち受けていても、夏美にとっての居場所はここにある。
母の笑顔が、目にしみて痛い。
今なら心から言える。
花束を抱え直して、夏美は車へと駆け寄った。
「お母さん、おめでとう」
長々とお付き合いありがとうございました。ちょっぴり涼しくなって頂けたら嬉しいです。まだそんなに暑い時期ではありませんがw