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はじまり

序章部分になります


「結婚するから」


 久々に鳴った携帯電話の向こうから、戸惑いがちな声がそう言った。

 数年ぶりにかかってきた、母からの電話。

「そう」

 それだけを返した。他に言葉はみつからなかった。

「今、どこにいるの」

「同じよ。前言ったでしょ、あの住所と同じ」

「……そう」

 沈黙が落ちる。静かな息遣いだけが電話越しに聞こえる。

「……帰ってこない?」

 躊躇いながら、母はそう投げかけてきた。散々迷ったような、そんな気配が感じられた。

「たまにはご飯でも食べに帰ってこない? お盆も近いし……」

「無理よ、休めない」

 勢い込んで話す言葉を、突っぱねる。

「あ、ええ、そうね……なら、休みが取れたら」

 母の声が落胆の響きを帯びる。

 罪悪感に、ちくりと胸が痛んだ。

「いつでも帰ってきて。連絡くれたら近くまで迎えにいくから」

 ふと目を上げると、少し開いた窓が目に入った。夏のぬるい風に翻る、薄手のカーテン。その先に広がる青空を透かし見て、

「……とれたらね」

 言って、電話を切った。

「言い忘れたな」

 おめでとう。

 その言葉が、出てこなかった。




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