あの子、と呼ばれる私の話。
三題噺もどき―きゅうひゃく。
ガヤガヤと騒がしい教室。
昼休みを迎えた教室はいつも騒がしい。
廊下をよく走る男子はいるし、キャラキャラと笑う女子はいる。
「……」
外は今日も重い雲が立ち込める。
毎日毎日降ったり止んだりと繰り返している。
今にも降り出しそうな空はどこか不安を覚える。
「……」
普段は何ともない小さな不安を。
徐々にふくらまそうとしてくる。
明日の事なんて考えてもどうしようもないのに。
それを忘れるように視線を戻す。
「……」
目の前では俯きながらスマホをいじっている――がいる。
椅子に横向きに座っているから、私には横顔を向けている状態だ。
短い髪は程よい長さで揃えられ、カーテンのように視界を遮る。
おかげで顔が見えず、どんな表情をしているのか分からない。
「……」
さらりと流れる髪は、真黒で艶やかで、つい撫でたくなる。
手入れなんかはしていないと言うが、本当だろうかと疑ってしまう。
――は家族みんなこうだと言う。
「……」
私はこう……髪がかなり長いから、それなりに手入れはしている。
――にはしていないって言っているけれど、それなりにしないとこうはならない。
最近は暑くて結んでばかりいるから跡がついていけないのだ。
「……」
手入れと言うのもまぁ、面倒で。
しなくていいならしたくもないし、――ぐらいに短く切ってもいい。
けれどそうしないのは。
「……」
綺麗だと言ってくれた――がいて。
さらさらとなでる――がいて。
愛おしそうに笑う――がいるから。
「……」
机に伏せて、スマホの背面を――側に向け、頭は机に預けながら。
スマホをいじっているように見せつつ、――を眺める。
微動だにしないんだから、何を見ているんだろうと不思議に思う。
ゲームしてても無表情だから面白い。
「……」
中学で初めて――に会った時。
――は転校生として中学校にやってきた。
元々ここに住んでいたらしくて、すでに知り合いが数人居たが、私は知らなかった。
「……」
黒板の前に立って、少し緊張しながらも、自己紹介をしていた。
最初俯いていた顔を、上げて、声を発した時。
初めて――の顔を見た時。
「……」
私は、眩暈を覚えた。
「……」
こんな子がこの世に存在するのかと。
こんなかわいい子が同級生に居るのかと。
こんな、こんな完成品みたいな子が同じクラスになるのかと。
中学生の語彙力じゃ、どう言っていいか分からなかったが、とにかく衝撃を覚えた。
「……」
それから、意外と趣味が合うことに気づいて。
話すようになって、学年が上がった頃には毎日のように一緒に居るようになった。
高校生になってから、クラスが離れてしまったけど、毎日――は私の教室にやってくる。
「……」
スマホと、弁当の入ったバッグと、財布を持って。
教室の入り口でほんの少しだけ不安を滲ませながら覗き込んで。
「……」
ぱち、と目が合えば。
分かりやすすぎるくらいに、表情は明るくなって。
教室に居る誰にも目もくれず、こちらにやってくる。
「……」
机の間や人の間を縫いながらちょこちょことやってくる。
これがまた可愛くて、ついつい席替えの時に一番前の一番廊下から遠いところに座ってしまう。
「……、」
「……」
「……、」
「………」
「……、」
「…………なに?」
「……なんでもなぁい」
「……っふ、なんなんw」
小さく微笑む――。
あー、かわい。
お題:不安・明日・眩暈




