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Ryoko Co, Ltd.

作者: 水樹悠

二〇四九年四月、サオトメリョーコが誕生する。

三四六八グラムの男の子であった。


二〇六八年二月、リョーコは高校を卒業した。

非常に優れた頭脳を持ち、特に天文学に強い関心を示したが、教師は「妄想ばかり口にし、大人になれない人物」と酷評した。授業態度が悪かったことが響き、成績は中の上であった。


二〇七二年三月、リョーコは私立大学を卒業した。専攻は機械工学であった。


二〇七二年六月、リョーコはクッキー専門店を開業した。

店は「おばあちゃんのやさしい味」と評判であった。

リョーコは「クッキーを焼くことは世界征服の第一歩である」と語った。


二〇七五年一月、リョーコは世界初の反重力自動車「フェザー」を開発した。

静止状態で地面から40から95センチメートルほど浮遊し、3トンを越える車体でありながら最大時速は750キロメートル毎時を越えると発表した。

リョーコはフェザーを自動車として登記しようとしたが、自動車ではないという理由で拒まれた。

三月、リョーコはフェザーで公道を走行し、逮捕された。


二〇七七年九月、リョーコはフェザーを市販した。しかし、最終的な販売台数は二台にすぎなかった。

その要因は、一般的なガレージに入り切らないサイズ、八千万ドルという価格、公道走行不能であること、機関部が原子力湯沸かし器であること、アクセルを踏んだ瞬間に500キロメートル毎時を越える速度が出ることなどであったと言われている。

リョーコはさらにフェザーを用いてフォーミュラ・ワンへの参入を目論んだが、規則に合致しないという理由で実現しなかった。


リョウコは倒産した。

倒産の原因は、リョーコが彼女が好きすぎるあまり、ろくに働きもしないで金を浪費したためである。


リョウコは従業員に厳しい企業として知られ、社会的な批判を集めた。

社長室からは「働け!」「勉強しろ!」「向上心が足りん!」「咳が止まらない?帰って寝ろ!」「家族?立派な成果を上げてから言え!」「アイドルのライブに行きたい?有給を使え!」「スクールに通いたい?お前が講師になってからにしろ!」といった叱責の声を聞いたという証言が多数上がった。

一方、休暇には非常に積極的であった。リョーコは「休暇なので、命じられた以上の仕事をしても構わない」「休暇なので、休息時間を取ることなく24時間連続で労働しても構わない」「休暇なのでノーベル賞を受賞しても構わない」「休暇中はタイムカードのことなど気にしなくていいから思う存分働いてこい」と発言し、従業員思いの社長であることをアピールした。

また、社長室の机には2Bのドイツ製の鉛筆で「人生にタイムカードはない」と書かれていた。


-*-*-*-*-*-*-*-*-* 就業規則 *-*-*-*-*-*-*-*-*-*

22条

体調不良の場合、社長の要求する労働に耐える体を回復するまで有給を追加付与し、社員は絶対安静にしなければならない


31条

精神に異常をきたしたとき、気合いで乗り切れるようになるまで有給を追加付与し、出社停止とする。なお復帰時は8d42>332のSAN値チェックを突破しなければならず、突破しない場合、有給をさらに付与する


1条

勤務時間は1日6時間とし、これを超えないものとする


2条

社員は1条の定めによらず、息をする限り働かなくてはならない

-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


再建されたリョウコは人類とまるで区別のつかないAIを製品として展開し、さらにありとあらゆるデバイスに展開した。

また、数多くのサイバネティックス製品を製造し、多くの人類がその体に採用した。

これにより、人類の時代はデバイスを使う時代から自らがデバイスとなる時代へと変化した。特に、人体を用いて電波の送受信ができるようになったことは非常に大きく、家電業界からはテレビが売れなくなると非常に強い批判があった。

翌年、リョーコはテレビを用いて演説を行い、「GAFAはもう古い。これからの時代はRYOKO」と言い切った。さらに「ブラックホールひとつまともに扱えないGAFAにこの宇宙は任せられない」「我が社はAIのリーディングカンパニーとして、今後五十年で人類の八〇パーセントをAIで置き換えることを目指す」と高らかに述べた。


リョウコはビル・ゲイツの製造に成功した。

リョーコは詰めかけた報道陣に対して「ビル・ゲイツを生産したということは、私こそがビル・ゲイツの父であるということである」と述べた。

なお、本ビル・ゲイツは特に資産を持つことはなかったという。


リョウコは宇宙に進出し、宇宙上でスペースステーションの建造を行った。

本スペースステーションの長所として、一般の人間が長期に渡り居住可能で、星間移動に用いることもでき、いざとなれば地球に落下させることができると説明した。

移住希望者が続出したが、この最初のスペースステーションに住むことができたのはリョウコの社員のみであった。

「希望者全員を移住させるには百年の時間がかかる」という報道陣からの質問に対し、「スペースステーションに住むことができる人間が限られるのは、人間が空間を占有するためである。しかしリョウコは人間の空間の大部分を圧縮する画期的なアルゴリズムを開発済みであり、ひとつのスペースステーションで非常に多くの人数を賄うことができる」と答えた。


リョウコはふたつめのスペースステーショナルスーパー「ヤァマート」に対星砲を四門搭載した。

これは武器輸出の規制に抵触するものであるとして、リョーコは逮捕された。

裁判でリョーコは「スペースステーションに日本の法律が適用できると考えるのは誤りである」と主張した。

本事件は無罪判決が言い渡された。理由は、対星砲が兵器であることが明らかな証拠がないというものであった。


リョーコは公聴会に呼び出された。

宇宙に武器を輸出したことについて問い詰められ、「ロマンのわからない奴らめ」と吐き捨てた。


株主総会を前にムーのテレビメディアが「社長が高齢化しており、今後の企業運営、ひいては宇宙の維持に不安があるのではないか」という質問をぶつけた。これに対してリョウコの広報担当者は「社長のデータ化は既に完了しておりこれには当たらない」とコメントした。


しかし株主総会にリョーコの姿はなかった。議長は「社長は本日、お気に入りの声優の新作音声作品の発売日であるため、本株主総会は欠席である」と告げ、総会は紛糾した。これについてリョーコよりビデオメッセージが届けられており、「素晴らしい音声データを聴くときには、データを磨き、素晴らしいデータ状態で臨むのが礼儀である」とコメントした。

後にお気に入りの声優について尋ねられたリョーコは「AI版○波○ずの開発に成功したとき、人類は神に勝利したと言える」と力強く述べた。

その後リョーコはその作品に☆5をつけ、その素晴らしい作品を称えるべく電子空間上のkamidanaフォルダにファイルを配置した。


リョウコは二度目の倒産となった。

原因は離婚に伴う慰謝料の支払いであった。なお、離婚原因はポテトチップスを食べながらコントローラーでゲームを遊んでいたせいだと言われており、世間からは同情の余地がないと激しく指弾された。


リョウコが再び表舞台で名を轟かせるようになったのは、リョーコが宇宙人の友人を世界に紹介したときであった。

いかにして仲良くなったのか、というSNSでの質問に対し、リョーコは「蒟蒻芋を見せた。そして、このわたくしが今からこれを食べ物に変えてご覧に入れると言った。全宇宙のオンナがこれでイチコロよ」とウィンクをした。

しかし、特に蒟蒻の精製が流行することはなかったし、蒟蒻の消費量が増えることもなかった。


リョウコの再生に一役買ったのが新たな「手の汚れないポテトチップス」を開発したことである。

一躍大人気商品となり、リョウコが新たな宇宙を製造する資金源となったが、わずか二年ほどで販売終了となった。理由は「手が汚れないポテトチップスはポテトチップスとして怪しい」として不買運動が起こったためである。また、ポテトチップス評論家は「味はかつてないほど素晴らしく、食感は軽い。薄揚げ薄味で連食性が高くやみつきになる素晴らしさである。しかし、手が汚れないためにポテトチップスを食べながらゲームをする背徳感が味わえないのは、ポテトチップスから塩味がしないのと同じようなものであり、これはもはやポテトチップスとは呼べない」と酷評した。


ある日、リョーコは「それほどまでにお気に入りの声優ならば、自社で起用してはどうか」と尋ねられた。

これに対し、リョーコは「金の力で好きな声優に好きなセリフを言わせることはできるだろう。しかし、それでは化学反応が起きない。塩素系漂白剤に中性ノニオン界面活性剤を混ぜるような安全策では世界を震わせる作品にはならないのだ」と語った。


リョーコは公聴会に呼び出された。

人形機動兵器を開発したことについて問い詰められ、「ロマンのわからない奴らめ」と吐き捨てた。


リョウコのクッキーは世界で一番売れているクッキーとなったが、「宇宙の秩序を維持するため、これ以上クッキーを増産することはしない」と発表した。


リョーコは日本籍を削除した。

削除の理由について、リョーコは「実際地球にいる時間ってほとんどないんで。あ、地球時間ではね?」と述べた。


リョウコが展開する、データ化された人々が暮らす電脳ワールドが公開された。電脳世界は十六キロメートル四方に区切られたセルから成り立っており、徒歩圏内で生活が成り立つ利便性を備えている。一方、電脳世界に展開可能なセルの総数は四〇九六ビットであり、「宇宙より広い地上」と表現した。

プロモーションビデオでは果てしなく広がる道路を疾走するバイクとクルマが描かれ、かと思えばその二台をプラズマミサイルで爆破し疾走する反重力シップが登場。そして空中に四次元立体造形で「フェイザー、登場」と映し出された。

リョウコとして三代目となる反重力シップはテール部分にメーカー名、車名、グレード名、機能名、技術名と五つの筆記体で書かれたエンブレムを装着する斬新なデザインであった。

技術名として書かれた「クッキードーナツ」とは、フェイザー動力部に用いられた技術であり、燃料としてクッキーを使用し、クッキーの質量を圧縮することで核反応を起こす「ブラックホール式核融合エンジン」のことであり、クッキーとブラックホールを組み合わせて「クッキードーナツ」となった。


リョーコは公聴会に呼び出された。

公園で炊き込みご飯の炊き出しを行ったことを問い詰められ、「マロンのわからない奴らめ」と吐き捨てた。


リョウコによる人間に対し電子的圧縮を行う技術が、土地や食料の不足、資源の枯渇、地球温暖化などを解決する素晴らしいものであると称賛する記事がウクライナの経済新聞に掲載された。


リョーコはモデルチェンジし、リォーョコとなった。リォーョコは従来モデルと比べ三〇パーセントの省エネ化を果たしつつ、性能面では一二パーセントほど向上しているとアピールした。

エクアドルの新聞は「リォーョコが誰にでも手の届く価格で広く販売されないことは人類の損失である」と報道した。


リォーョコは再度モデルチェンジし、名称をリョーコに改めた。これにより、発音しやすさを四〇パーセント改善したと発表した。

コモロのテレビ局はリョーコに対し、短期間で再度モデルチェンジを行ったことは失敗を意味するのではないか、顧客に対してどう説明するのか、と問い詰めたが、「性能面を考えれば初代より二代目が優れていることは明らか」と答えた。

それっぽいことを言うことで有名なネット文化人はこれについて「二代目はtypoだったのは明らか」とコメントした。


三年目にしてフェイザーのエンブレムにhが抜けていることが発覚した。そのため、後にフェイザーはペイザーと呼ばれることになるが、リョウコはこれをリコール対象とし、油性ペンでhを書くサービスを行った。


リョウコの初代スペースステーションがデータの老朽化を理由に宇宙墓場送りとなった。これは再生されない。


リョウコが宇宙増産を計画していることが問題とされ、「神を越えたつもりか」と炎上した。

これに対し、「今後は宇宙と共に神の増産に取り組む」と発表した。


封印したはずのクッキーがふたたび増殖をはじめ、リョーコも増殖した。これについて人類は「最後はおばあちゃんに戻る」という見解で一致した。


-*-*-*-*-*-*-*-*-* Ryoko Co, ytd. 社歌 *-*-*-*-*-*-*-*-*-*

Yesクッキー! Ohクッキー!

労働は無限 生産は無限 宇宙は有限 有給は半減


Wo−o−o−o−


R y o k o リョウコ

-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

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