コイツ、直接脳内に……!
あ……ありのまま今起こったことを話すぜ? 急にでかい地震が起きたと思ったら、目の前にダンジョンらしき建造物が突然出現したんだ! 意味がわからないことを言うなって? 大丈夫だ、問題ない。(混乱)。
僕も軽いオタク要素が入っている以上、現実世界にファンタジーが来るタイプのラノベは読んだことがある。でもあれは創作だから楽しめるのであって、現実になったら笑えない。
そんなことを考えながらダンジョンらしき建造物を見ていると、入口らしきところから、子どもくらいの背丈の緑色の肌を持ち、ボロボロの布切れを腰に巻いただけの生き物が出てきた。校舎の方にゆっくり歩いてくる様子を眺めながら、『うわぁ……あれ絶対ゴブリンじゃん……』と呑気なことを考えていると、嫌な予感がよぎった。
『魔物の一種であろうゴブリン(仮称)が外に出てきているのは……ヤバくね……?』
その予感が当たっていたことを、ゴブリン(仮称)に声をかけようと近づいて行った一人の社会人の男性がゴブリンに襲われ、身の毛がよだつような悲鳴をあげ、少しづつ小さくなっていく光景を目にしたことで理解した。
凄惨な光景に言葉を失うクラスメイトたちや周囲の人々。その静寂を切り裂くようにゴブリンが叫び声をあげた。すると、ゾロゾロとダンジョンの入り口からゴブリンの集団が出てきた。やっと状況を理解したクラスメイトは騒ぎ始め、ゴブリンに襲われた男性を僕達よりも近い位置で見ていた人々は悲鳴を上げながら逃げ惑っていた。
「た……助けて!」 「やめろ! こっちにくるn……ぎゃああぁぁ……」
ダンジョンや魔物の出現で、いつも通りだったはずの日常は崩れ去った。そんな光景を動けないままでいると、突然頭の中に声が聞こえてきた。
『聞こえますか? 御手洗奏真さん』
コイツ直接脳内に……!
こんなネタが頭に浮かんでしまうのは、現実逃避のためなのだろうか。
『だ……誰ですか?』
『よかった……聞こえているみたいですね。時間があまりないので、あなたの精神をこちらに呼び寄せますね』
『え……? それってどういう……』
言い切る前に僕の目の前には真っ白な謎の空間が広がっていた。
「成功したようですね。意識ははっきりしていますか?」
そんな声が聞こえて後ろを見てみると、そこには絶世の美女がいた。輝く金糸のような髪に青い目をもつ西洋系の美人だ。その美貌に目を奪われていると、あちらから鈴を転がしたような声をかけられた。
「初めまして、私はアテナ。あなたに理解しやすいように言うと、この世界の神の一柱です。普通は干渉することは神界規定により禁じられているのですが、世界の理を揺るがすほどの緊急事態が起きたため、特別に許可されました」
「あ……初めまして。すでに知っているようですが、御手洗奏真です。緊急事態というのは、あのダンジョンや魔物の出現のことですよね?」
「その通りです。今回あなたを呼んだのは、この緊急事態に対応していただくための力をあなたに授けるためです。もちろん、この世界規模の緊急事態にあなた一人で対応させようとするほど私たちは鬼ではありません。あなたを含めた適合率が80%以上の者たちも、意識をこの世界に呼び寄せ、力を授けています。それが終了し、意識が現実に戻り次第、他の適合率が低い人々にも力が授けられます。」
「力を授ける……ですか……?」
「はい。高い適合率をもつ十人の中でも、あなたの適合率は97%と特に高い数値を示しています。なぜかは分かりませんが……」
「力を受け取った後には何か変わったりしますか?」
「いえ、特には。強いて言うなら髪や目の色が変わったり、血生臭い光景にも耐性がついたり、魔物を倒すという行為への忌避感が薄まったりするぐらいでしょう。あとは性格が少し好戦的になったりするとかですかね? まあ、大したことではありません!」
「???」
僕がおかしいのだろうか。性格に髪や目の色、魔物とはいえ命あるものを倒すことへの忌避感が薄くなるなんて、結構変わっているのではないだろうか。
「? ……どうしましたか? 他に質問がないなら力を与えてしまおうと思うのですが……」
「ちょっと待ってください! メチャクチャ変わるじゃないですか! なに『大したことない』とか言っちゃってるんですか!」
「あと、魔物とは絶対に戦ってもらいますからね♪」
悪魔だ……最初は女神に見えていたのに今は彼女が悪魔に見える。心なしか、彼女が持つ純白の翼も漆黒に見える……
是非ともお断りしたい。でも陰キャとはお願い事を断ることが、『お断りします』と言うたった一言を言うことが苦手だ。もうすっごい苦手なのだ。だけどこれは断らなければ……。あんな化け物と戦うなんて絶対に嫌だ! 勇気を出せ僕!
「お……お断りしm『まさか断るなんて言いませんよね?』……はい(諦観)」
「ありがとうございます! もちろん、我々もあなたがたを全力でサポートしますので! では最後に、何か質問はありますか? 答えれる範囲でお答えいたします」
「あ……じゃあ、一つだけ。なんでいきなり僕達の世界にダンジョンなんてものが出現したんですか?」
「そのことについては私はあまり詳しくは把握していませんが、どうやら異世界人が自分たちの世界に存在するダンジョンをこちらの世界に転移させたみたいですよ? もっと詳しく知りたいなら、管理神に聞いてみるといいですよ」
「その管理神ってどこに行けば会えるのですか?」
「それは分かりませんが……。あ、管理神からのメッセージが届きました」
へー。今の神様ってメッセージアプリみたいな能力も備えてるんだなぁ……
「管理神曰く『ダンジョンを制覇した暁には質問に答えよう。期待しているぞ《《特異点》》よ』とのことです!」
僕ってば、神様に特異点なんて呼ばれてるんだ……
「他に質問はありませんか?」
「あ……はい、もう大丈夫です。」
「それでは、力を授けちゃいますね。」
その瞬間、僕は激しい頭痛に襲われた。
「な……何……これ。」
頭の中に膨大な情報が流れ込んできているようだ。
[スキル][職業][ステータス]etc...
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実際には数分なのだろうが、体感的には何時間もの間頭痛に襲われていた気がした。やっとのことで頭痛もおさまると自分の中に今まで感じたことのないほどの全能感が満ち溢れている気がした。
「こ……これで終わりですか?」
「はい! 力の授与が完了しました! いやー随分変わられましたね! 鏡でも見てみますか?」
女神がそう言うと、鏡を持ってきた。そこに映る者を見て、僕は言葉を失った。そこに映っていたのは、夜空のような藍色の髪に、月のような金色の目を持つ謎の男だった。
「これ、誰ですか?」
「あなたです。」
「ああ、僕か……。え、これ僕なの!?」
いくらなんでも変わりすぎだろお! 元の面影がないんだけど!
「あなたの職業は星空の支配者。固有スキルは《《極星魔法》》です。かなり強力な能力なので、使い方には気をつけてくださいね♪ 使い方を間違えたら、国の一つや二つは滅んでしまうでしょうから。これらの能力の詳細は現実世界に戻ってから確認してみてくださいね」
何やらすごく怖いことを言われた気がするが、気にしないことにした。
「そ、そういえば現実世界はどうなったんですか!? 僕のクラスメイトたち、魔物に襲われたりしてませんよね!?」
「ご安心ください。この世界とあなたたちの世界では時間の進み方が違うので。あなたがこちらに呼ばれた時間からほんの数秒しかたっていませんよ」
「そうですか……。なら、よかったです。」
「では、あなたをあちらの世界に送り返しますね。どうか、この世界を救ってください」
そんな声が聞こえると同時に、僕の視界は真っ白に染まったのだった。




